シチューのルー その1
「あの、マーサさん。買い物しないなら帰って下さいよ」
「つれないねぇ、折角顔を見に来てあげてるってのに」
ここのところ、マーサさんがよく店に来る。まあ、開店当初から来てはいたが。最近は、お茶を飲みに来る始末。はっきり言って、仕事にならない。
「ここは、マーサさんの休憩所じゃないんですよ。まったくもう」
別に来るなとは言わない。マーサさんには、お世話になってるし。でも、ほぼ毎日やって来なくても!
「まあまあ、店長」
リィーサが「ちょっとくらい、良いじゃないですか」と、俺を宥める。甘い! 甘いぞリィーサ! だからいつも揶揄われるんだ!
「あっ、そうだった。実は・・・・今日来たのは、頼みたい事と言うか、相談と言うか。兎に角。聞いて欲しい事があるんだよ」
「マーサさんのですか?」
「いや、私の知り合いの相談事なんだが・・・・いいかい?」、
「話しくらいは聞いてあげます」
「ありがとうエル君。実はね・・・・直ぐそこの、食事処の話しなんだ」
「ん? それって・・・・」
「母娘二人で営んでる所ですよね?」
「リィーサは行った事が?」
「いえ、無いです。店長はどうです?」
「正直、自分で作る方が美味いから、店にいかない」
「私もです。店長の手料理は美味しいので。だから、外食はまったくしないですね。でも、何でそのお店からの相談を?」
「マーサさん、一体どんな・・・・」
「えーとだね・・・・売り上げが落ちて、廃業寸前なのさ」
「まさか、うちの所為とか言わないですよね?」
「いや、さすがにそんな事は。ただ・・・・」
「ただ?」
「この店が開店してから、特にお客が来なくなったとは言ってたけど」
「「・・・・・・・・」」
いや、それ。うちの所為って、言ってるのと同じじゃん。言いがかりじゃんか! そもそも、うちは飲食店じゃないだろうが!
「むーー。マーサさん、言いがかりですよそれ。店長! 抗議しましょう」
「落ち着けリィーサ。正直、腹立たしいは俺も同じだが」
「いや、そのー、悪い人じゃないんだよ。何と言うか、切羽詰まってると言うか」
「んーー、何か訳ありですか?」
「そうなんだよ。実は借金を抱えていてね」
「借金ですか?」
「あぁ。彼女・・・・あー、アンナって言うんだけど。アンナの旦那はろくでもない奴でね。賭け事に酒で、借金こさえた挙句に、女作って出てってねぇ」
あれ? ただの苦情や文句かと思いきや。中々ハードな話しをぶっ込んできましたなぁーー。あの、空気が重いんですがマーサさん。リィーサも、どう言う顔して聞けば? と言った顔をしていた。
「何とか店を、切り盛りしつつ。頑張ってたんだけど・・・・このままだと」
「「このままだと?」」
「借金のカタに、奴隷落ちって事も・・・・」
益々空気が重い。どうしろってんだよ! と言うか、奴隷落ちってあるのか。
「て、店長。どうにかできないでしょうか?」
「どうにかって言われてもなぁー。そもそも、その店に行った事すら無いからなぁー」
「なら、これから行ってみるかい?」
「お店にですか?」
「お店に行かなきゃ、分からない事も多いだろう? 頼むよエル君」
「んーーって、ただ相談を聞くだけが。相談事を解決する事になってるじゃないですか」
「頼むよエル君。エル君なら何とかしてくれる気がするんだよ」
「・・・・はあー。分かりました。兎に角、行って見ましょう。それに、ちょうどお昼ですし。リィーサ、昼休み休憩にしよう」
「は、はい。じゃあ、戸締まりしてきます」
「さすがエル君、男前だねぇー!」
「はいはい。ほら行きますよ」
何故か、近所のお店のテコ入れをする事になった。正直、面倒ではあるが。顔見知りの近所の母娘が、奴隷落ちした何て・・・・正直、寝覚めが悪くなる。それに、実はちょっと楽しみでもある。何故かと言うと。この世界に来てから、まだ一度も外食してないのだ。どんな食事が出るか、楽しみてはある。
「リィーサ! 行くよーー」
「はーーい、店長直ぐ行きまーす!」
「所でエル君・・・・」
「はい」
「奢ってくれるよね?」
「マーサ・さ・ん?」
「冗談だよ。私が奢らせてもらうから」
「はあーー、まったくもう!」