洋服
「どうしたんですエル店長? 昨日から、ちょっとソワソワしてません?」
「いやー、何と言うか。今日、来るんだよ」
「来るって何がです?」
「来るんだ」
『カシャ』
「あっ来た」
「えっ? 今、変な音がしませんでしたか?」
『カシャ、カシャ』
「ち、近づいて来ますよ!」
『カシャ、カシャ、カシャ』
「ひっ・・・・」
『カシャ、カシャ、カシャ、カシャ』
『カランカラン』
「店主、来たぞ!」
「きゃーーーーぁあ?!」
「いらっしゃい、シェルカさん・・・・と」
「シェルカ、何で休みの日まで甲冑着てるのよ」
「いらっしゃい、リビィーさん」
シェルカさんの後ろから、リビィーさんが現れる。
「って、店長のお知り合いですか?!」
「あぁ。こちら、役所で働いてるリビィーさん。それとリビィーさんのお友達の」
「シェルカだ。驚かせてすまないな」
「いや、驚きますよ。何で完全装備で来るんですか?」
「・・・・癖だ」
どう言う癖だよ。
「はあーー。エル君、癖とかと違うからね」
リビィーさんが「癖ってどう言ういいわけしてるのよ」と指摘を入れる。
それで、納得する奴は、まあいないだろ。
「でも、何でそんな格好を?」
「えーと、それはだな・・・・」
「エル君、シェルカは何と言うか・・・その、面倒くさがりなのよ」
「はい?」
「甲冑を着れば、身だしなみや服装を気にする必要無いから・・・・」
「んー、気持ちは分からなくもないですが、だからって甲冑じゃなくても・・・・えーと、確か守護騎士でしたよね?」
「あぁ、そうだが。それがどうかしたか?」
「だったら、甲冑じゃなくても。守護騎士の制服で別にいいんじゃ
・・・・」
「はっ、確かに! それならこんな重い物着なくても!」
・・・・・・・・今気づいたんかい!
「はあーー、シェルカ」
リビィーさんは頭を抱え「昔からオツムが弱いのよね」と漏らす。
リビィーさんも大変だな。
「えーと。兎に角、店長の知り合いなんですね」
「あぁ。買い物に来ただけだよ。だから怖がらなくても平気だよ、リィーサ。まあ、好きに見て下さい。あっ後、兜は取って下さいね、それじゃあ見え無いでしょうし」
「うむ。分かった」
シェルカさんは兜を取る。相変わらず、兜の下は美人だ。ちょっと残念な人ではあるけど。リィーサも、シェルカの顔を見て安心したようだ。あのフル装備の甲冑は、威圧感が半端ないからな。
「エル君、ここって服は置いてないの?」
シェルカさんより先に、店内を見て回っていたリビィーさんが聞いて来た。
「ありますよ。ただ、店内に置いてないだけです」
「えっ、そうなんですか?」
一緒に働いているリィーサが、何故か驚く。あれ? 言って無かったか?
「でも、二階の部屋に仕舞ってあるの知ってるだろ?」
「全部、店長の物かと思ってました」
「いやいや。男もの以外にも、女性ものの洋服もあっただろ?」
「店長の趣味かと思って・・・・」
えっ、そんな風に思われてたの?
「リィーサ・・・・そんな風に思ってたのか」
「あの、えと、そのーー・・・・少しだけ。で、でも! 店長が着るにはサイズ合わないなぁーって、ちょっと変だなーとは思ったんですよ」
「・・・・・はあーー。兎に角、あれは売り物なの。分かった、リィーサ?」
「はい」
「それで、その洋服を見せてもらえるかしら?」
「いいですけど・・・・ここに持って来るのもな。・・・・うん、よし。リィーサ、休憩中の看板出しといて」
「えっ、いいんですか?」
「あぁ、大丈夫。今お客さんは、リビィーさんとシェルカさんだけだしね。二人に、二階まで上がってもらった方が早いから」
「確かにそうですね。分かりました」
「リビィーさん、シェルカさん。こちらにどうぞ」
「「おじゃましまーす」」
*****
「ここが、洋服を置いてる部屋です」
二階の部屋に入ると、六畳程の広さの部屋に、びっしりと服か置いてあった。部屋自体がクローゼットとして扱われていた。
「凄ーーい。こんなにあるのね」
「ほう、見た事ない服ばかりだな」
二人は部屋に入るなり、服を手取って物色し始める。
「店長の作る服は、変わったデザインが多いですよ」
「えっ! エル君が作っての?」
「店主自らだと!」
おいこら! 余計な事を!
「あら、これ可愛いわね。シェルカに合いそう」
「なっそんなヒラヒラ嫌だ!」
「あっ、それ可愛いですよね」
「リィーサも、よく体に当てて鏡で見てるよな」
「えっ、店長! どうしてそれを! まさか、覗きですか!」
「違うわ! 鼻歌まじりに、ドア全開でやってれば見たくなくても目にはいるわ!」
「・・・・しゅみません」
「シェルカ、兎に角それ脱いで。エル君、試着してもいい?」
「構いませんよ。・・・・あっ、俺は部屋から出ときます。リィーサ、後お願いね」
「はい」
「別に私は構わんぞ」
「ダメに決まってるでしょ! エル君、ごめんなさい。外してもらえる?」
「はい。買う服が決まったら、言って下さい」
「えぇ、分かったわ」
そんな会話をしてから、かれこれ三時間は経過している。女性の買い物は長いと言うが・・・・長過ぎである。三十分くらい経ったあたりから、長くなりそうので店番に戻った。
「ありがとうございました。またのお越しをお待ちしております」
・・・・長いなぁーー。どんだけ掛かってるんだよ。
天井を見つめ、ちょっと呆れていた。時たま声が聞こえて来るのだが、かなりヒートアップしているようだ。特にリビィーさんが。
「これもいいですね!」
「リビィーさん。これ何てどうです」
「それもいいわ!」
「リビィー、そろそろ・・・・」
「そうね」
その言葉にシェルカはホッとした。かれこれ三時間も着せ替え人形状態だったからだ。しかし、そんなに甘くない。ファッションと言う名の欲望は・・。
「それじゃあシェルカ、これとそれとあれと・・・・後これも」
「リビィー! いい加減にしてぇー!」
「ちょっと、シェルカ! 逃げちゃダメよ!」
その頃下の俺は・・・・。
「いつ終わるのだろうか? それを聞きたいが・・・・触らぬ神に祟りなしって言うしな。気がすむまで、放っておこうっと」
結果、終わったのは二時間後であった。