役所
「さてと・・・・リィーサ、暫く店番頼める?」
「はい、構いませんけど。何処か出かけるのですか?」
「ちょっと役所にね。じゃあ、頼んだよ」
「はい。いってらしゃい、エル店長」
「じゃあ、いってきます」
《カランカラン》
「おや? エル君、何処かにお出掛けかい?」
「あっ、マーサさん。どうも、今から役所に行く所でして」
「あぁ、成る程。定期的にある、アレだね?」
「はい、アレです」
アレとは、街で店を出店する場合、定期的にと言うか、一ヶ月おきに、役所に店の経営状態を、報告する義務がある。まあ、1年目はそんな感じらしい。店を出して、直ぐ潰れても困るからとの事らしい。2年目以降は、三ヶ月おきになるとの事だ。
「それじゃあ、いってきます」
「あぁ、いってらっしゃい。ん? と言う事は・・・・リィーサちゃんが店番かい。ふむ、ちょっと行って様子でも見て来ようかね」
「あんまり揶揄ったりしないで下さいよ」
「大丈夫さね。ほんのちょっとだから」
「マーサさん」
「あはははははっ、冗談さね」
マーサさんと別れだ後、街の中心街へ向かう。役所は、街の中央にある。他にも、冒険者ギルドや、商人ギルド。大手の商店なども中央にある。
賑やかなだな中心街は・・・・。さてと、役所こっちだったな。
中心街にある白い大きな建物、それがこの街の役所だ。今日で来るは、四回目になる。一回目は、この街に住む為の手続きで。二回目は、キサロさんのお店の、権利譲渡と経営手続き。三回目は、お店の経営状態の確認の為だ。
「よし、行くか」
扉を開け、役所の中に。役所なので、別な意味で人が多い。えっとー五番窓口・・・・あった。あれ? 誰も居ない?
「こんにちはー、何でも屋のエルです」
「はーーい、ちょっと待ってくださーーい」
窓口に人がおらず。呼びかけると、奥から声が。
「すいません。お待たせしましたエルさん」
眼鏡をかけた女性職員が、慌てて椅子に座って応対し始める。
「どうも、リビィーさん。これ、今月のお店の売り上げなどの帳簿です」
この人はリビィーさん。初めの頃から、役所の手続き関連でお世話になっている人だ。
「はい、拝見します。・・・・・・・・あの、エルさん?」
「はい、何でしょうか?」
「売り上げが、先月より凄い事になっているのですが?」
「あっ、はい。頑張りました」
「頑張ったらどうにかなる額じゃ無いと思いますが・・・・」
「あっ、それと従業員を雇ったので、こちらの書類を持って来ました」
「はい、では拝見・・・・女性の方なのですね」
「はい、それがどうかしましたか?」
「いえ、なんでも無いです。・・・・ん? あの、この子キサロさんの」
「はい、お孫さんです。訳あって雇う事に・・」
「もしかして、アレですか? 騙し取られた関連」
「えっ、何で分かったんです?!」
「あははは、よくあるんですよ実は・・・・」
よくある事なのか、あー言うのって?!
「こちらの書類も問題なしですね。所でエルさん」
「はい」
「商人ギルドに登録なさらないのですか?」
「うーーん、そこまでの商売をするつもりは・・・・」
「まあ、小さな商店や出店ならそうでしょうけど。エルさんのお店の売り上げなら、商人ギルドに入ったほうが良いのではと」
「何か言って来ますかね?」
「可能性はありますね。お金儲けにうるさい人達ですから」
「うーーん、考えておきます」
「では、書類の確認も終わりましたので一ヶ月後に。何か相談等がおありでしたら、いつでも来て下さい」
「はい、リビィーさん」
書類の提出も終わったので、席を立とうとした時だった。役所に悲鳴が。
「きゃーーー!!」
「何だ?!」
何が起きたのかと、慌てふためいていると。「あぁ、気にしないで下さい。いつもの事なので」とリビィーさんが落ち着いた様子で言う。いや、落ち着いた様子と言うか、呆れた感じ?
ん? 何の音・・・・耳をすますと。カシャカシャと言う音が、近づいてくる。
「何の音だ?」
「はあーーー。もう!」
リビィーさんは、五番窓口から出ると。音の方に向かって、仁王立ちした。
「ちょっとシェルカ!!」
人の名前? この音を出してる人か? 建てつけてある壁から、そーっと覗くと。何故か、役所の中を甲冑を来た騎士がこちらに歩いて来ていた。
「シェルカ! その格好で来ないでって言ったでしょ! 怯える人がいるのよ!」
騎士は、リビィーさんの前で足を止める。
「すまないリビィー。しかし、これは仕事上、仕方ないだろ」
兜を被っているので、声がこもっていた。
「シェルカ、聞き取りにくいから、兜をとって喋ってよ」
「あぁ、すまない」そう言って、騎士は兜をとった。
おぉーー!! スゲェーー美人。
兜をとった騎士の中身は、金髪碧眼の美女だった。
名前からして女性とは思ったけど・・・・こんな美人だなんて・・・・。
ちょっと、見惚れてしまう美しさだ。
「それでシェルカ。今日はどうしたの?」
「あぁ、実はな。最近評判のお店があるらしくてな。そこに一緒に行かないかと思ってな」
「評判のお店? 何て名前なの?」
「何でも屋とか言うらしい」
「「・・・・・・・・」」
俺とリビィーさんは、その場で固まる。何だこの展開・・・・。
「えーと、シェルカ」
「何だリビィー?」
「そのお店の店長さんが、この人です」
リビィーさんが、シェルカさんに俺を紹介する。
「ほう、この者がか」
「えっと、何でも屋のエルと言います」
「シェルカだ。この街の守護騎士をしている」
・・・・で、この後どうすれば?
「シェルカ、私はまだ仕事よ」
「分かっている。確か明日は休みだろ? 昼から私も休みになったのだが・・・・どうだ?」
「うーん、いいわよ。と言う事で、エルさん。明日のお昼に伺います」
「何でも屋の店主よ。そう言う事でよろしくな」
「あっ、はい」
・・・・何でだろ、嫌な予感がするような・・・。
気のせいだよな。