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 それから私は適当に、「体調が悪いから今日は休む」と言い残し、電話を切った。


 しばらく怖くて部屋から出れなくて、ようやく出る気になったのがお昼過ぎ。


 覗き穴を確認して、そっとドアの隙間から覗くと誰もいないことに安心して、思い切りドアを開いた。


 するとドアの横に、大量の薬と栄養剤、胃に優しそうなレトルト食品が入った段ボールが置かれていた。


 ホラーだ。


 何となくそれを食べると秋人に呪われそうな気がして、私は他の友達や知り合いに適当に配った。



─────·······


「高梨先生、身の危険を感じます。助けて下さい。」



 私は高梨先生に相談した。


 彼は高校の保険医だから、外のカフェで待ち合わせをして、開口一番に助けを求めた。



「神影秋人って高校時代は朱南ちゃんの手ぇ握ったりしとらんかったか?」


「....はい、手とか、あとよく肩を触られたりとか。」


「今はどうなん?今でも身体触られたりするん??」


「.....そういえば、最近はないかも...。何だろう。触られてた頃の方が全然気持ち悪くなかった気がします。」


「朱南ちゃん、"引いてダメなら押してみろ"作戦でいってみ!」


「は??」


「つまり、朱南ちゃんから積極的に触ってみるんや!」


「........」



 "押してダメなら引いてみろ"という言葉を裏返しにしたものを、私がストーカーに実行してみろと言ってるのだろうか。


 それって、ただの自爆じゃない??



「もし何かされたらいつものムエタイで蹴り飛ばせばええやろ??ま、頑張って。」



 一応いとこの癖に、凄い他人事だな。


 まあ、そういう私に無関心なところが、相談しやすい理由だったりするんだけど。



 高梨先生に言われた通り、私は無謀にも実行してみることにした。


 誰もいないところで実行する勇気はないから、出来るだけ人数の多い授業を狙って。


 私は朝から気合いをいれた。


 いつもは襟のついたシャツに、大きめのベストやカーディガンを羽織って、下は脚の形が分からないようなカーゴ系パンツを履いていた。


 でも今日は大きめのトレーナーに、スキニーパンツを履いて大学に行くことにした。


 お尻から太ももにかけては、トレーナーが隠してくれているから大丈夫なはず。


 ジェンダーレスという格好だ。


 髪は相変わらず短いが、前髪を横に流し、いつもは真ん中の分け目を今日は右寄りにして。


 パチンッと両手で頬を叩いたところで、私は部屋を出た。



「え?あれ?...い、一門??」

「え?!なんかいつもと雰囲気違くない??」


「おはよー!」



 何人かの生徒に声を掛けられた。



「おいっ、一門、今日もしかして合コンなの??」


「え?!ち、違うよ、たまには気分変えてみようかなって...」



 なんか前世の20代後半を思い出す。合コンのある日は、あまり気合い入れて朝からオシャレしていくと会社で皆にからかわれるから、毛先だけ巻いたりしてたよな。でも結局、それだけで「今日の夜なんかあるの?」って聞かれるんだよな。



 案の定、寮の入り口には秋人が待っていて、私の姿を見て目を丸くする。



「お、おはよー、秋人。」


「あ、ああ...。」



 それだけ言うと秋人はすぐに外に出て行き、足早に学校へと向かい始めた。



 いつもは私の後ろをついてくる秋人が、今日は私が秋人の後ろをついていってる。


 足が早いせいか、ずんずん進んでいく秋人。


 慌ててついていくと、私は高梨先生のいう、"引いてダメなら押してみろ"作戦を実行することにした。



「····ま、待って秋人!」



 秋人のシャツの裾をキュッと掴む。


 秋人が止まった勢いで、背中に軽くタックルしてしまい、自分の身体がぶつかってしまった。


 すると秋人が、また驚いたように私を見て顔を真っ赤に染めて、拳をギュッと握り締める。


 でもまたすぐにスタスタと歩いて行ってしまった。


 ···え?これってもしかして、作戦効いてるんじゃない??



 私はそのまま秋人の後ろをついて行き、教室に着くと、自分の心に「押せ押せ」と言い聞かせ、秋人の隣に座った。



「ねえ秋人、ちょっとあの先生の文字、宇宙語じゃない?何て書いてあるか分かんないんだけど、秋人分かる?」


「あ、は、はい···なんとか。よ、良かったら、ノート写します?」


「ありがとう秋人!」



 秋人に笑顔を見せ、ずいっと秋人の肩に触れるくらい近付いてみる。


 すると秋人は深く深呼吸を繰り返し、授業が進むにつれ、動悸、息切れ、めまいを起こし始めた。



「だ、大丈夫??秋人···」



 私がそっと秋人の額に手を当て、手を離した瞬間、秋人は気絶した。



 え----?!!?

 私ってシ○神様かなんかなの?!?命を与え命を吸い取る尊い存在だったの?!



 とりあえず、周りにいる生徒に手伝って貰い、秋人を保健室に運んだ。



 大学の保健室の先生はおばちゃんで、秋人の汗が酷いということで、秋人の部屋から着替えを持って来て欲しいとのことだった。


 秋人の鞄を勝手にあさり、勝手に鍵を取り出すおばちゃん保健医。



「···え?···か、勝手に僕が秋人の部屋に入っていいんでしょうか。。」


「何で?あなたたち友達なんでしょ??風邪ひく前に取ってきてあげてよ。」



 半ば強引におばちゃんに鍵を渡され、私は仕方無く寮に戻り、秋人の部屋まで取りに行くことにした。



 そういえば秋人の部屋に入るのは初めてだ。


 実は大学に入ってから、4人のルールが少し緩くなり、彼らの部屋に私が入ってもいいということになった。


 ただし私の部屋に入るのは禁止らしい。


 心陽君の思惑通り、本当にルールが緩くなってしまったのだ。このままでは体裁が危ういと思っていたが、実は秋人と心陽君の部屋には未だ行ったことがない。




 本当に勝手に入っていいのかな?と思いつつも、ちょっと怖いものみたさで見てみたい気持ちもある。



 秋人はストーカータイプだと思っているが、実は『狼さんに食べられちゃう♡』の中では、蓮見先輩が心陽のストーカーっぽくなるのだ。


 蓮見先輩の部屋には心陽の写真やポスターがそこらじゅうに貼られていて、ひたすら部屋では「心陽、心陽」と名前を呼び続けるのだ。


 今の秋人の部屋は、私の写真で埋め尽くされているのかもしれない。


 カルガモのように後ろをついてくる秋人だから、きっと私の後ろ姿ばかりが写された写真に違いない。



 鍵を差しこむと、私は心臓をバクバクさせながらドアノブを回した。







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