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そこから心陽君が私に悪態をつく度に、私はその10倍くらいのウザさで心陽君を応援した。
でもたまに心陽君の悪態のお陰で、私の定評があかん方向になることもしばしば。
「先輩っていつもトイレ、個室入ってますよね?一人で何してんですか?もしかしてエロ本持ち込んで処理してんですか?本能の赴くままに生きてるんですか?気持ち悪いですよ??」
そうすれ違い様に嫌味を言った心陽君。
それがたまたま周りにいた同級生たちにも聞かれてしまって、
「なにっっ?!!一門!お前よくムラムラしてんの?!それなら俺が手伝ってやるって!!」
「ちょっっ!!アホなこと言ってると殴るよ?!!///」
「殴ってもいいからさ、今度トイレ行く時は俺も誘えよ~。な??」
あっという間に同級生たちに囲まれ、肩を組まれてからかわれる始末。
あれ?おかしいな。
皆最初全然私に興味なかった癖に、何で絡んでくる??下ネタか?下ネタが出たから絡んできたのか?
その様子を見た心陽君はなぜか怒りMAX。
怒りたいのはこっちだ!
余計な定評つけられたお陰で、私はなかなかトイレに行けなくなってしまったのだ。
しかもそれを聞いた秋人と琉生が、私が他の生徒にトイレ中覗かれることを心配して、休み時間の度に「トイレか?」と聞いてくる始末。
あんたら2人は私が女だって分かってんだから、もっとデリカシーを持ってくれと思った。
そんな感じで、私の定評はなかなか地には落ちず、心陽君はイライラしっぱなしだった頃、
学校に忘れ物をしてしまった私は、夕方、寮から歩いて学校に向かっている途中、夕立に降られてしまった。
その時私は、白Tシャツの上にウィンドブレーカーを羽織ってはいたものの、靴がびちょびちょになってしまい、校舎の手前にある体育館倉庫にとりあえず避難した。
靴と靴下を脱ぎ、体操座りで雨が止むのを待っていると、たまたま心陽君がやって来たのだ。
「は?...何で一門先輩がこんなところに....。」
「あ、心陽君、偶然だね!」
「....いつも馴れ馴れしいんですよ先輩。誰が名前で呼んでいいって言いました?」
「心陽君も学校に忘れ物?」
「あんたと一緒にしないで下さい。」
その時心陽君は、ロンT一枚しか着てなくて、びちょびちょに濡れて乳首が透けていて、ああ、今ここに琉生がいたら確実に2人はいたしているのに...と妄想を膨らませていた私。
心陽君が寒そうに両腕で自分の身体を覆い、くしゃみをしたのを見て、私は自分の着ていたウィンドブレーカーを脱ぎ、そっと心陽君の肩にかけた。
「撥水性のあるウィンドブレーカーだから、中は濡れてないよ?」
「....余計なお世話。いちいちウザいんですよ。」
「ありがとう。」
「褒めてませんけど。」
「なかなか雨止まないね~」
私が腕を上げて軽く伸びをした時だった。
なんかやたら身体がスースーするなと思っていたら、私はいつもつけているはずのサラシがないことに気付いて、
"しまった"と思う頃には、心陽君の目が私のノーブラの胸に釘付けになっていたのだ。
いや、うん、大丈夫大丈夫。
いける気がするよ私。BとCの間だし。筋肉で胸がでかくみえる男とかいるし。
「じゃ、じゃあ僕は先に学校行くねー....」
心陽君の目から反れるように背中を向け、さっさと倉庫から出て行こうとする私。
「....ああ、何で気付かなかったんだろう僕。」
「.......」
「自分でも何でこんなに一門先輩につっかかりたくなるのか、不思議だったんです。」
「...へ?..」
「先輩.....女の子だったんですね?」
身体は向けず、顔半分だけで振り返ると、私は白々しく彼に言った。
「え?お、女の子??ち、違うよ。これは、アレだよ、....女性ホルモン剤飲んでるんだよ!!」
自分でもひくような嘘をついてしまった。
え?女性ホルモン剤飲んでる男ってことは私、おネエでも目指してるの??いや定評が落ちるとか以前の問題じゃん。
それでも女ってバレるよりはギリギリマシかもしんない。
もう何でもいい、さっさと行こう。
そう思って倉庫から駆け出した時だった。
心陽君が突然後ろからタックルしてきたと思ったら、私の腰をまさぐり始めたのだ。
「なッッ!!///」
慌てて振り払うと、倉庫から雨の降る外に尻もちをついてしまい、私は再びずぶ濡れになってしまった。
でもウィンドブレーカーは心陽君に貸したままだから、白いTシャツが透けてもうそれは裸同然、いや、裸よりも恥ずかしい醜態を晒してしまったのだ。
もう言い逃れはできない。というか心陽君ならきっと皆に言いふらす。
なんだか立ち上がる気力もなく、私はそのまま胸を隠すように雨の中で体操座りをした。
でも心陽君は手を伸ばしてくれて、
「先輩.....、可愛い。」
「.....え?」
「風邪ひくから、早くこっち戻って下さい。」
「.......」
手をひかれてまた倉庫に入ると、心陽君が私にウィンドブレーカーを掛けてくれた。
それから心陽君は、違う意味でウザい存在になった─────。
「朱南先輩ってB寄りのCなんですか?C寄りのBなんですか??」
「.....唐突に何の話。」
「朱南先輩の胸のサイズに決まってるじゃないですか!!分からないから質問してるんですよ。」
何だこの無駄な時間。
因みに私はBとCの間だと言ったが、彼ら4人につきまとわれるようになった心労でちょっと痩せてしまい、B寄りのBになってしまったのだ。
「ねー先輩~、ぶっちゃけ僕ら4人の中で誰が一番好きなんですか~?僕年下だから、これでもいつ先輩を奪われるんだろうってハラハラしてんですよ??」
「とてもそうは見えないけどね?...心陽君てさ、ぶっちゃけ男にモテそうなんだから男と付き合ってみなよ。何事も経験だよ?」
「その脈絡のないアドバイスは何なんですか。てか朱南先輩こそ、今まで何人かに告られそうになったの知ってます?」
「........」
「僕らの誰かと付き合っちゃえば、もう狙われることはなくなるんですよ?早く誰か一人に絞って下さい!」
私、4人の中の誰かと付き合うなんて一言も言ってないんだけど。
「朱南先輩が絞らないつもりなら、こっちもどんどんルールを緩くしていきますから!」
「は?」
「今まで先輩の肌には触れるなだの何だの、ガラスのように扱ってきましたが、大学に行ったら手マンまでアリってことにしますから!」
「いきなりルール突き破りすぎじゃない??!馬鹿なの??!!」
「どっちが馬鹿か試してみます?いっとくけど僕、朱南先輩が泣こうが喚こうが、笑顔で襲える自信ありますよ?」
心陽君が机に手をつき、いきなり顔を至近距離まで近づけてきて、私は思わず息が詰まってしまった。
心陽君てほんと可愛い顔してる。
この顔が泣き散らして身悶えている姿が早くみたい。
どうにかこうにか、あの3人の気持ちが心陽君に向くように出来ないものか.....。
心陽君に迫られている状況にも関わらず、私はやっぱり心陽君が男に襲われている姿を想像していた。
....思えば高校生活は、女とバレても余裕だった。
適当な婚約者候補を探そうと思っても、4人に邪魔されるばかりだったから、4人にされるがまま、お姫様扱いされてるしかなかったし。
しかし大学に入ると、4人の男たちは進化することとなる。
ポ◯モンでいうところのメガ進化ってやつだ。
あんなに可愛いかったゼ◯ガメがメガ◯メックスになってしまい、え?なにそのふてぶてしい姿。私は弱くてもずっとゼニ◯メの姿が良かったのに、と思ってしまうような変貌を遂げるのだ。
それもこれも、全部私のせいだ。だって私、前世では生粋のダメンズウォーカーだったし。