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カツアゲ現場を素通りした私は、カツアゲされている生徒になぜか助けを求められてしまった。
「一門君!助けて!僕は知っているんだよ、君が密かにムエタイやってるのを!」とカツアゲされている生徒に言われてしまえば、当然琉生は私に興味を持つわけで.....。
「はあ?こんなナヨっちい男がムエタイだあ?つかなんだよムエタイって。タイ人かお前。」
何でよ、なぜ私を引き留める?おかしいでしょ。心陽君の出番でしょ?!
思えば秋人と出会った頃から漫画とは展開がずれつつあったのだ。秋人の時も琉生の時も、まだ心陽君が入学してくる前の話だったのだから。
「ちょ、ちょっと健康のためにムエタイ習ってて....ほら、長寿の秘訣みたいな...。」
「ジジイかお前。てか一門ってどこのお坊っちゃんだあ?名前だけは金持ちそうだよなあ?」
なんて私が絡まれている間にも、カツアゲされていた彼はスタコラ逃げて行ってしまったわけで。
「まあいい、お前、三万ぐらい持ってんだろ?とっとと出せや。」
「え、ええーと...」
ここで断れば確実にトイレで服を脱がされてしまう。だから私は財布を取り出し、中身を全開にして琉生に見せた。
「ご、ごめん...。僕今、63円しか持ってないや...。」
「.....はああ"あ"あ"?!?」
63円によく分からないキレ方をする琉生。私は一気に青ざめ、その場から動けなくなってしまった。
ヤバい、この展開はヤバすぎるっ、これはもう処女どころか色々なものを失くしてしまう。男子トイレで犯される女子なんて、恐らく男性向けエロ漫画にしかない展開だ。
そう腹を括ったのに......
なんと琉生は、力任せに私の頬を殴ってきたのだ!!
バキィィぃぃぃッッッ
うっそーーーーーーー
なんでーーーっ?私、男子トイレに連れ込まれるんじゃないの??!心陽君は男子トイレに連れ込まれるのに、何で私は殴られるの?!?ちょっとばかし理不尽じゃない~??
私はその理不尽さにぶちギレて、力任せに琉生の顔面に膝蹴り、からの頭にかかと落としをきめた。
それから琉生は私にのされた復讐のため、私に何度も奇襲をかけてきたのだ。時には不良仲間5人と一斉にかかってきたりして。勿論その度に私は琉生と不良たちをコテンパンにしてやった。
でも急にここで現実的な話になるのだが、女には月に一度生理というものがきてしまう。高梨先生に生理用品を買ってきて貰うのは何か嫌だし、私は学校から少し離れた薬局に買いに行っていた。
その日は頭痛やダルさもあったから、今にもなくなりそうなナプキンと生理痛薬、そしてペットボトルの水を手にしてレジに向かった。
レジで精算が終わり、外に出て私はすぐに生理痛薬を水で飲んだ。
ふうと息をつき寮に帰ろうとすると、後ろから「おい」と声を掛けられたのだ。
「お、お前.....うそだろ....」
後ろを振り返ると、そこには赤い短髪の琉生が立っていて、いつもの威勢を放つ彼ではなく、私を見て立ちすくむ彼がいた。
どこから見られていたのか.....琉生の青ざめた顔を見る限り、きっと生理用品を買っていたとこも全部見られたのだろう。
もう言い逃れなんて出来ない、絶対絶命の状況だ。生理痛薬飲んでる男なんていないだろうから。
「し、知らなかった!男でも生理があるのか!!」
「ないーーーー!!」
あほな琉生に思わずツッコミを入れてしまった私。墓穴を掘っただけだった。
でも私が女だと知った琉生は、殴って悪かっただの奇襲をかけて悪かっただの、何度も頭を下げにきた。
確かに琉生は漫画でめちゃくちゃ心陽君を犯すけれど、根は優しいキャラだから女の私に手を出したことを凄く反省していたみたいだった。
「あ、そろそろ夕飯の時間だね。」
「焼きそばパン、食う?」
「食う食う!」
殴り合ったお陰で、4人の中では一番気兼ねなく接することができる相手だと思う。
ただ、ただね、琉生はいつも私のどこを見ているか分からない。
目を合わせて喋るのが苦手なのは分かる。それなら首元とか、肩とか、顔から少し外れた箇所に目線を置くはず。
でも琉生は、いつも私の頭だったり、身体だったり、足元だったり.....その時によって目線が変わるのだ。
かといって気持ち悪い感じもしないから、気にするほどのもんじゃないんだろうけど。
20時になり、「おやすみ」と言った別れ際も、妙に腰のあたりに視線を感じた。
次の日、授業が終わり、昨日の約束通り蓮見先輩にテラスで生徒会の試算表についての相談を受けていた。
施設費が足りない....のではなくて、逆に余りまくってるからなんとかして使い切りたいとのことだった。使い切ってしまった方が来年度も同額の施設費が申請出来る。.....なんて贅沢な悩み。
「余った施設費で更衣室や自習室の拡大とか修繕をすればいいのでは?ああ、あとはシャワー室増やすとか??これ以上消耗品買っても置き場所に困りそうですし。」
「そうだな、シャワー室はもう少しあってもいいかもしれんな。」
「....本音を言うと女子専用のシャワー室がほしいとこですけど...。」
「そうだよな。朱南だけ寮の自室でしかシャワーが浴びれないんだもんな。当然寮の大浴場も行けないし、俺としては朱南専用をつけてやりたいとこなんだが。」
「あはは、冗談ですよ先輩!本気でとらないで下さいよ~。」
蓮見先輩はいつも真面目で、ちゃんと生徒の意見を聞いたり取り入れたりと、生徒会長にふさわしい人材、だと思う。
「朱南の意見なんだから本気でとるさ。
もしどうしても校内のシャワー室や寮の大浴場に入りたい時は俺に言ってくれ。その時は清掃中の看板でも立て掛けて、俺が見張っててやるから。」
「あ、あはは、だから、冗談ですって...」
「授業中でも俺に連絡してきてくれても構わない。いつでもシャワー室ぐらいお前のために空けておいてやるからな。」
「い、いや、だから、」
「但し、あいつらには絶対頼るなよ?必ずシャワー室使う際は俺だけに連絡してくれ。」
「.........」
真面目にとりすぎて、たまに面倒になることもしばしば。
私と秋人、琉生は2年生で、心陽君が1年生、そして蓮見先輩は3年生だ。
蓮見先輩と、心陽との出会いは、心陽がクラス内で生徒会の雑用係を押し付けられるところから始まる。
生徒会雑用係ってのは、会長や副会長、書記、会計の執行役員とは別に、毎年1年生から2人選出される。
誰もそんな面倒な係なんてやりたがらないから、クラスでもいじられキャラの心陽が無理矢理推薦され選出されるのだ。
その頃、私は2年生に上がったばかりで、秋人と風紀委員に選出されていた。そして私は、蓮見先輩と委員会で初めて顔を合わせることとなる。
「君が、一門朱良か。不良の生徒を更正させたと話題になっているぞ。」
委員会が終わり、秋人と寮に帰ろうとしていた時だった。廊下で蓮見先輩に後ろから話し掛けられたのは。
「....あ、ありがとうございます。」
「華奢な身体でも筋肉のつき方がしっかりしているな。大臀筋がほどよく引き締まっている。」
「は、はあ。。」
筋肉の名前を出されても、どこの筋肉のことだかよく分からなかったけど、隣にいた秋人が蓮見先輩を物凄い目で威嚇していたのを覚えている。
この頃にはすでに秋人や琉生には女だとバレていたのだ。