ヒロインちゃんは、気づく!?
アイが風呂に入り、空は自室でゆっくりしようとして廊下を歩いていたら、瑠璃の部屋に引き摺り込まれる。
「ねぇ、アイちゃんになんかあった?」
空は首を傾げる。
「なんでだ?」
「アイちゃん。辛い時の顔してた」
空は目を開き、瑠璃の言葉に集中する。
「検索履歴にこんなのがあったの」
「お前、微表情と検索履歴ってお前・・・・・」
「勘のいいガキは嫌いだよ。ほら」
そこには『マジカル・ファンタズマ』のことが記載されていた。
「どうするんだ?」
「どうするって言われてもなぁ」
「まぁ、選択肢としては1.今から打ち明ける。2.隠したままにして見守る。3.その他ってところだな」
1は、アイの心を傷つけかねない。
かと言って、2はただの放置だ。
「3のもうしばらくしてから、打ち明ける。じゃない?」
半々、妥協案に見えなくもないが
1.2のデメリットが両方降りかかる可能性の一番あるものだ。
「タイミング次第だな」
「一番、相談してくれることがいいんだけどね」
瑠璃は自分の両足を抱えて、検索履歴に残ったそれを見る。
「まぁ、あっちにもタイミングがあるわけだしな。それを待ってみてもいいだろ」
「でも、相談されなかったら?」
「その時はその時だ」
「んーー!」
瑠璃はベッドに顔を押し付けて、足をパタパタと振るが、それをすぐに止めてしまう。
「信用・・・・・されてないのかな」
「お前なぁ」
空は瑠璃の隣に座り、瑠璃のベッドに寄りかかった。
「でも、家族同然の仲なのに相談してくれないのは悲しいよ」
瑠璃の声がベッドの布に吸収され、籠ったような声になっている。
それを空は無言で見つめた。
「まぁ、わからんでもないが・・・・・」
負の感情が空気に混ざり込み、重くなる。
沈黙が流れ、外の車の音だけが空達の耳に入り込む。
信頼、信用、家族。
空の中にはその言葉がよぎっていた。
「父さんの遺言がな、"家族を知れ"だったんだよ」
瑠璃はいつもの覇気の無い空の声ではなく、優しい声色に驚き顔を上げてしまう。
「俺はずっと考えたんだ。考えてるんだ。家族ってなんなのか・・・・・」
空は何もない天井の先を眺めて呟く。
「家族ってさ、本来契約じゃなくて、ただ一緒に居たいからいるんじゃないかって最近思うようになってきたんだ」
空は少し微笑み、瑠璃と顔を合わせる。
「だからさ、支え合ったり、信頼し合ったり、愛し合ったり、本人同士がやりたいからやるのが瑠璃の望む家族なんじゃないか?」
瑠璃はゆっくりと頷いた。
それを見て、空は微笑んだまま再び口を開く。
「じゃあさ、信頼。俺らからもしてみようぜ。俺はやりたい」
呆けている瑠璃を優しい眼で見ながら、決意する。
"俺も頑張ってみるよ"と・・・・・
沈黙が流れるほど、空の頬には熱がたまる。
キザなセリフ、柄じゃないことをした自信はかなりあった。
そのため、沈黙が地獄に匹敵するほど辛い。
「あー。なんか、この部屋暑くないか?」
「え、クーラーつける?」
「いや、自分の部屋帰るからいいわ」
「待って! て、うわぁ」
そう言って、出ていこうとする空を引っ張ると、思った以上に空の力が弱く、引っ張り倒されてしまった。
ベッドの上で、空が瑠璃に覆い被さる状況。
空と瑠璃は、一瞬何が起こったのか分からず互いの顔を合わせる。
顔が近く、少しでも前に顔を寄せればキスをしてしまうような近距離。
空には瑠璃の顔がよく見えた。
前髪の少し上がり、綺麗に整った顔がはっきりと空の目に映る。
二人の耳には、先ほどまで聞こえていた車の音など聞こえず、自分の心臓の鼓動のみが溢れていた。
互いの息が自身の顔に降りかかり、熱を感じる。
呼吸が重なると共に理解し、二人は顔を背けた。
「あはは。ごめんねー」
「・・・・・」
空が顔を赤らめて、自室に戻ってしまった。
瑠璃は自分の胸の高鳴りを必死で抑えながら、再びベッドに顔を蹲る。
「そうだよね。そうだもんね」
足をパタパタと揺らすと少し笑った表情が見えた。
編集作業の為、一時休載とさせていただきます。




