悪役令嬢は腹が減る!?
放課後。
振り続ける雨を前に傘を持たない空と瑠璃はいた。
ちなみに2人ともニュースを見る習慣はない。
当然天気予報など見るはずもない。
つまり、そういうことだ。
空は友達がおらず、びしょ濡れを覚悟。
瑠璃には凛がいたが、空が傘を持ってきていると思い、帰ってもらった。
2人とも帰れない。
「走って帰るか」
「どっちが先に風呂入るの?」
「・・・・・」
一瞬、先に家に着いた方と言いそうになるけれども、瑠璃が一昨日テニスラケットを持っていたことを思い出す。
相手は運動部。
元万年帰宅部、現在文化部が勝てるはずもない。
さらに、土地勘もあちらの方が上だ。
どんな奇跡が起ころうと負ける自信がある。
「じゃあ、家に先についた方が・・・・・」
空が最も恐れていたことを瑠璃が言いそうになるが、現れたその存在が瑠璃を黙らせる。
「はぁはぁ、傘です」
傘を二本持ったアイだった。
「ありがとーーー!」
「助かった。ありがとう」
空と瑠璃は傘を受け取り、空だけが傘をさす。
瑠璃はわざわざ傘を持ちながらアイの傘に入った。
アイはそれを喜んで受け入れる。
「どうやってここまできたんだ?」
空は歩きながら問うた。
すると、瑠璃の頭を"お疲れ様でした"と言って撫でていたアイは、目線を移す。
「雨が降ってきたので傘を届けようと2時間前から歩き回っていたのですが、瑠璃ちゃんが朝着て行った制服を着ている人に聞きました」
2時間・・・・・?
聞き間違えだろう。空はそう決断した。
「あっ、スーパー行かなきゃじゃねぇか」
空は今日の晩御飯の食材がないことに気が付き、足の方向を変える。
「なんかリクエストあるか?」
「カレー!」
その瑠璃の様は、無邪気な子供のようだった。
まるで、昼間に激辛のエビチリを食わされたことがないような純粋な気持ちでいる。
「甘口でお願いします」
相当辛かったらしく、アイはどこか乾いた笑みでそう言った。
「わかったよ。鷹の爪、家にあるっけ?」
2人は首をブンブンと横に振るのを見て、空は笑ってしまう。
「冗談冗談。じゃ、カレーね」
空は2人と分かれた。
瑠璃とアイは、家に着くと手を洗ってからリビングで寛いでいた。
「瑠璃ちゃん。日本語を教えてくれません・・・・・ない?」
「ん? どゆこと?」
瑠璃は寝っ転がって、マジカル☆ファンタズマの攻略本の代わりに読んでいたファッション雑誌を床に置いて、アイの方を見る。
「ファッション興味ある? 今は10万円くらいしか注ぎ込めないけど」
「十万?の価値はよくわかりませんが、大丈夫です。字がわからないのも少々不便でして」
瑠璃はファンタズマ語と日本語は全くの別の文字なことを思い出す。
そのファンタズマ語を全て理解したことのある瑠璃からしてみれば、お茶の子さいさいなことだった。
「喜んで! あと敬語不便だったら無理して直さなくていいからね?」
「あっ、はい!」
瑠璃はどんどんとひらがなを書いていって、アイに教えていく。
漢字の方は、漢字辞典を使いながら少しずつ覚えることにした。
そうして、アイがひらがなを練習してしばらくしたら、
主夫と言っても差し支えない格好をした空が帰ってくる。
「ただいまー」
「おかえりなさい」
アイと瑠璃は、空の荷物を持って鷹の爪がないかどうか確認しながら共にキッチンへと向かう。
鷹の爪がないことを確認して、ほっとした2人は勉強に戻る。
「あっそうだ。空ー。相川さんがねー、連絡先欲しいってー。渡していい?」
「水没したままなんだが?」
「とりあえず、LIMEのID送っとくね」
何もやらないのは礼儀に反するらしく、意味はないだろうが瑠璃は相川にIDを送る
「あっ、返信きた。・・・・え、空、ボラ部入ったの?」
瑠璃が折れる勢いで首を空の方向へと向ける。
「ああ。入ったというか入らされた」
「アイちゃんに何かを魅入られたんだろうね・・・」
「私ですか!?」
集中していたアイは自分の名前が上がるとは思っていなかったたて、驚いて顔を上げる。
「ああ、ごめん。相川さんのあだ名ね」
「今すぐに変えるべきだと思う」
「気をつけてたんだけどねー」
アイはポケーとした宇宙のことを考えていそうな顔で空と瑠璃を見つめて、首を傾げる。
「ボラ部・・・・・ですか?」
「そう、ボランティア部の略」
「なんか、自発的な意志に基づいて他人や社会に貢献する部活動らしいぞ?」
空がそう教えた瞬間、アイは両手を叩き目を星のように輝かしていた。
「素晴らしい部活動ですね! 私も入りたいです」
アイがそう言った瞬間、瑠璃の指が一瞬消えた。
「OKだって!」
瑠璃はグッジョブのマークを右手で作り、アイに向ける。
空はお世辞を間に受けた瑠璃を内心思いつつフォローに入ろうとしたが、
アイはとても、嬉しそうだった。
「んー。まぁいっか。てか、それより学校外の人間が参加できるのか?」
「あそこ同好会だし、大丈夫じゃない?」
「認知されてないのかよ。素晴らしき活動」
あそこまで自信と誇りに満ち溢れていた相川を思い出し、溜息をつきながら、野菜を切る。
「学校内の活動はなしってところか」
「んー。確かに。変装してどう見ても、日本人に見えない上に、アイちゃんかわいいから滅茶苦茶目立つしね」
「私、変身魔法使えますよ?」
アイは学校内の活動も参加する気満々でそう提案してきた。
「▼▼▼▼▼▼▼▼、▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼」
アイはそう唱えると銀色の髪は黒くなり、紅の瞳も黒へと染まり、どこかアイの面影があるものの日本人にしか見えない格好に変身した。
それを見て空と瑠璃は会議を始める。
魔法を外で使わせるのは抵抗があるけれども、バレなければいいのでは? という結論に至り、学校内の活動はこの格好ですることになった。
「いつ部活動があるかは私が連絡するから、安心して」
「はい!」
そうして、2人は勉強を再開するが、
腹ペコだった2人はすぐに腹を空かせるカレーの匂いで勉強の終了が告げられた。




