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ヘレナ先輩と恋の概念と私

 朝食後、ディータ先生はみんなの授業の合間を縫って面談をすると言いだした。


「まずパメラ、お前は卒業する気があるのかどうかからだな」

「あらあら、お手柔らかにお願いしますぅ」


 最初に朝一の講義がないからと呼び出されたパメラ先輩が、ニコニコしながら先生と一緒に研究室に向かっていって、残された面々はそれぞれ講義に出ることになった。


 私は……正直昨日の今日で気が進まなかったけど、いつまでも引きこもっているわけにもいかないので、クライスとニーメアの護衛を受けながら大教室に向かう。

 途中で人とすれ違うたびに微妙に緊張するけど、昨日と比べれば――隣にクライスがいるのが大きいとは思うんだけど――だいぶ落ち着いていられた。



 そうやって教室にたどり着いて中に入った瞬間、一瞬周囲が静まりかえったのを感じる。さすがにあれだけの騒ぎがあったから、噂が広まってしまってるみたいだ。


 昨日の授業で見た覚えのある学生からはなんか熱っぽい視線を感じるけど、誰も近づいてはこないので、それにはほっとするんだけど、遠巻きにされるのもそれはそれでちょっと複雑なものがある。


 なんとなく遠慮がちに端の方に座ると、クライスも当然のように隣に席を取った。


 こうして改めて大勢の中で見ると、クライスってやっぱり存在感があるんだよね。上背があるし、落ち着き払った仕草が妙に威厳があるというか……なんとなく視線が吸い寄せられる感じがあるというか。


 ぼんやりとそんなことを考えながら横顔を見ていたら、視線に気付いたクライスがこちらを見て苦笑した。


「どうかなさいましたか?」

「いや……なんか、ぼーっとしてた」


 不思議そうに小首をかしげるクライスに、それまでぴりぴり感じていた緊張感がちょっと緩む。


「ごめんね。もうとっくに受けてたでしょ? この授業」


 今日の授業は基礎魔術理論だ。本当に基礎の基礎の復習だから、とっくに魔道士科で単位を取っているクライスには退屈だろう。


「良い復習になりますから、どうぞお気になさらず」


 クライスが笑顔で言って、なぜか聖女に仕える護衛らしく胸に手を当てて礼を取る。

 クライスには似合ってるけど、私には分不相応感がすごいからちょっとやめてほしい。


「あ、あの」


 反応に困っていたら、別の方から声がかけられた。


「アリアーナさん、具合はもう大丈夫なんですか?」


 振り向くと、ストロベリーブロンドのショートボブの少女がどこか緊張した表情で立っていた。


「ヘレナ先輩! 昨日はごめんなさい、挨拶もできなくて……お恥ずかしいところを……」


 本当にお恥ずかしいとしか言いようがない醜態を見せてしまった自覚はあるので、思わず赤面してしまう。


「ううん、大丈夫大丈夫! しょうがないですよ、あんなことがあったあとじゃ……あ、隣いいですか?」

「もちろんです。あの、敬語使わなくていいですよ。私、後輩ですし」

「じゃあじゃあアリアーナちゃんもぜひ敬語なしで!」


 なんか微妙にわたわたしながら隣り合った私たちを、クライスは穏やかに見守っていてくれた。

 ヘレナ先輩はどうもそれが原因で緊張しちゃってるみたいだけど、しばらく雑談している間にだんだん慣れてきてくれる。



 そうやって和やかな雰囲気のまま始まった授業のあと、ヘレナ先輩の誘いで学食に行くことになった。


「私のまわりは騒がしくなりますので、少し離れて見ております」


 初めて学食を使う私に、クライスはひととおりの案内と説明を終えて、私が説明されながら選んだ昼食の支払いまでしてくれたところでそう言った。


「……クライスウェルトくんってすごいよね」


 クライスと離れた席に落ち着いたところで、ヘレナ先輩がしみじみとそうつぶやく。

 クライスのところには入れ替わり立ち替わり風紀委員の腕章を付けた学生や何か書類を持った学生がやってきて、何やら相談したり指示を受けたりしていた。


「うん。昔っからあんな感じでしっかりしてるんだよね……」


 おかげでついつい頼りっぱなしになっちゃって、友だちとして助け合いたい私としては自分の無力さに落ち込む日々だ。

 私は昼食に選んだ前菜のパスタに小さくため息をこぼした。


「アリアーナちゃんとは幼馴染みなんだっけ? もしかして……恋人でもあったり、とか?」

「へっ?」


 いきなり思ってもみなかったことを聞かれて、つい変な声を出してしまった。


「いやいやいや、そんなんじゃないよ。私は親友だって思ってるんだけど」


 でも向こうはどうなんだろう、とは、やっぱりどこかで思ってるんだよね。

 クライスはどうしても、私のことを友だちじゃなくて護衛対象としか見てくれてないところが、ちょっとあるような気はしているから。私の希望に合わせようとしてくれてるんだろうなとは思うんだけど。


「恋は……恋に落ちるってどういうことなのかよくわかんないんだ。神殿で聞いてた恋愛物語、どれもピンと来なくて」

「神殿のはそうだよ~。すっごいいろいろ省いて単純にされてるから、一目で恋に落ちましたとか神様の定めた運命に従って恋に落ちましたとかそういうのばっかりでしょ?」


 もっとみんな普通にしてるものだよ~と言われて、私は目をまたたかせる。


「みんな……普通に……?」

「うん。学園内でも恋人同士になる子、結構いるよ。貴族同士だと家格がどうとかでいろいろ難しいみたいだけど、貴族じゃない者同士だったらそういう制限ないし、特に家の仕事を継がないで魔法使いになる子とかはそのまま結婚しちゃったりもするよ」

「ほんとに結婚するんだ……」

「うん、だって一緒にいたかったら、やっぱりそうなるじゃない?」


 普通に、という言葉が引っかかって、私はその単語を口の中でもごもごと転がす。


「まあ確かに物語みたいに激しい恋愛する人もいるけど、気付いたら友だちが一番大事な人になってました、みたいのもあるよ~」


 私もそうだったし、と軽い調子で言うヘレナ先輩はとても恋に狂っているようには見えなくて、私はなんだか衝撃を受けてしまった。

 私の知ってる恋の概念と違う……!

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