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王子妃の失った記憶の先に  作者: まるねこ
9/15

卒業パーティーで

 翌日、ジュリアに髪を結って貰っている間にまた記憶の扉が開く。ジュリアの呼びかける声が遠くなっていく。





「お嬢様素敵です。私がシエナお嬢様を攫ってしまいたいくらいです。」


ジュリアは暗い雰囲気を一生懸命吹き飛ばそうとしてくれている。


「ジュリア、ありがとう。では行ってくるわ。」


重い足取りで馬車に乗り込んだ私は憂鬱で仕方がない。本来なら卒業パーティーには婚約者であるライか父のエスコートでの入場になるはずなのだが、ライも父からも何の連絡も無かった。


カリブは心配して父に連絡をしたみたいだけれど、仕事が忙しくて抜けられないと出発直前で返事がきたのよね。


本当は行きたく無かった。


クロエ嬢とライの仲睦まじい姿なんて見たくない。


嫌だ。



 パーティー会場に1人静かに入ると既にクロエ嬢とその取り巻き達で会場は騒然としていた。クロエ嬢のドレスはライの色を纏ったドレス。クロエ嬢はライと側近の腕に抱きついて大声を上げて笑い、はしゃいでいた。


私はそっと壁の花になる。


 陛下の挨拶でパーティーは始まる。ファーストダンスを婚約者である私と踊るはずなのにライはクロエ嬢と踊っている。パーティーに出席した学生や貴族達からどよめきが起こっているわ。


私に視線を向け、ヒソヒソと会話している人達。私はその場から消えたかった。


苦しくて、居た堪れなくて、辛くて。


色々な感情が溢れ涙が出そうになるのを必死で我慢する。王子妃になるのだからと自分に言い聞かせパーティー会場まで来たけれど私の居場所はやはり無かった。


もう、帰ろう。


私は陛下に挨拶だけして帰る決意をする。


「陛下、本日はありがとうございました。やはりライリー殿下に私は必要ないようです。私はこれにて下がらせていただきます。」


「シエナ嬢、無理をさせた。下がって良い。」


陛下に下がって良いと言われホッとする。友人や心配してくれるクラスメイトが声を掛けてくれる事に少し嬉しくなった。けれど、早く帰りたい。


ここには居たくない。


足早に会場を去る。


 邸で待つジュリアとカリブは涙で濡れる私を心配して眠りに着くまで一緒に過ごし、慰めてくれた。


 後日、パーティーでの出来事は陛下から父に伝えられたようだわ。私は父と陛下に必死で婚約解消を申し出た。


ライとクロエ嬢の見つめ合い微笑む姿が目に焼き付いて、私の心は今にも音を立て壊れてしまいそうなの。


 けれど、父も陛下も頷く事はなかった。


卒業後に控えていたライとの結婚式。婚約破棄の代わりにと、陛下はライと側近達にクロエ嬢へ接触禁止を命じ、クロエ嬢は王宮への立ち入りは禁止となった。


小さな頃には憧れていた結婚式。


みんなに祝福され、幸せになるはずだと思っていたの。



 ドレスに着替え、式が始まろうとする時間にもライは来ない。流石の父も娘の結婚式に王子が来ない事を訝しんでいる。式が始まる直前に彼はやっと来た。


不服だと言わんばかりに。


式が始まり、披露宴が終わるまでライは私と目を合わす事なく過ぎていった。


人生で一番幸せな日となるはずが、私を容赦なく暗闇の底に突き落とす。



 不安に苛まれながらも侍女達に初夜の準備をされベッドでライを待つ。けれどライは来ない。


もう、無理。


絶望で全てを終わらせてしまいたい。


涙が頬を伝う。


―ガチャリ―


無造作に開いた扉からライが見えた。


「なんだ、寝てなかったのか。泣いているのか?お前を愛する事はないし、お前とは公務以外関わる事はない。俺は仕事に戻る。」


バタンと音を立てライは去って行った。



私の中の何かが壊れた。

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