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王子妃の失った記憶の先に  作者: まるねこ
8/15

王宮での出来事

 俺は陛下への報告を終え、今は残務処理をしている。全てを終わらせて早くシエナの元へ向かいたい。シエナは記憶が戻ると離縁を望むだろう。


俺はシエナと別れたくない。


もう、なりふり構ってはいられないのだ。焦燥感に駆られながらも書類と向き合い、弟や側近へ引き継ぎを行っている。


 窓から射していた光はいつの間にか闇の帳が下りる時間となっていた。『そろそろ食事の時間です。』従者の声で俺が席を立ち上がった時、


―コンコンコンコン―


ノック音に俺は「入れ」の指示を出す。従者が扉を開けると、グレース・グリフィス公爵令嬢が部屋へ入ってきた。


「ライリー様。新たに私を妃に迎えて頂き有難う御座います。」


ふわりと微笑い彼女は礼を執る。俺はその姿に苛立ち、彼女の前に立つと首を掴む。


「誰が新しい妃を迎えると言ったのか。答えろ。」


グリフィス公爵令嬢は一瞬目を見開いたが、すぐ苦悶の表情に変わり、答える。


「そ、それはっ。さ、宰相様が書類を持って参りました。」


「ほう。宰相か。」


グリフィス公爵令嬢の首を掴んだ手に力が入る。従者に視線を向け、無言のまま小さく頷く。従者はライリーに頭を下げて退室すると、入れ替わるように近衛騎士達が部屋に入ってくる。


「さて、聞こう。ここまでどうやって来たのだ。そしてこの時間に来てどうするつもりだった。」


ライリーの冷たい視線にグリフィス公爵令嬢はガタガタと震えだす。


「メ、メイド長ですわっ。わ、私は父の言う通りにしただけです。殿下と一緒に夕食を摂り、夜を共にして王子妃の座を不動の物とせよ、と。父の指示に従っただけですわっ。」


「ほう。指示に従っただけなのか。この女を牢に入れておけ。」


グリフィス公爵令嬢は近衛騎士に取り押さえられ部屋を出て行く。仕事がまた一つ増えたと思うと食堂へ向かうライリーの足取りは重い。



 食堂では父や母、コニーが先に座って待っていた。王妃である母は元々病弱だったのだが、コニーを産んでから体が更に弱くなり、表舞台には殆ど出て居ない。


父は母を愛しており、側妃を娶る事は無かった。当時も側妃の話は出ていたが、母は男児を2人産んだ事で貴族達は黙っていたのだろう。


今回、シエナに子供が出来なかった事で今まで黙っていた貴族が騒ぎ出している。グリフィス公爵もその内の1人だ。正妃や側妃に娘を送り込み、利益を得たい者達。


「ライリー、先程何かあったようだな。」


席に着き、食事をしながら話をする。


「ええ。グリフィス公爵令嬢が執務室へ入ってきました。現在、宰相とメイド長から事情を聞いています。グリフィス公爵令嬢は私の新たな妃になると世迷言を申していました。あるわけないのに。」


「シエナちゃんは大丈夫なの?シエナちゃんが心配だわ。王宮の男達はライリーを優先するあまりにシエナちゃんを追い詰めてしまったのだから。ライリーも、貴方も陛下としてしっかり責任を取りなさい。」


「うむ。その辺は考えておる。」


「はい。母上。父には既に話しましたが、私はこのまま臣下へ下り、モリス公爵に入ります。王太子はコニーになります。」


俺は手を止めて真っ直ぐ母を見て話した。


「そう。シエナちゃんはそれでいいと言ったの?」


「いえ。まだ王宮での記憶を取り戻してはいないため返事は聞けていません。」


「最悪よ。また勝手に決めちゃって。これだから男は困るのよ。いい、ライリー。もうすぐシエナちゃんは記憶を取り戻すのでしょう?


その時、シエナちゃんの側に付いて支えなさい。それでダメならすっぱり諦めなさい。」


「はい。母上。」


母は俺や父に向けて小言を溢している。耳が痛い。けれど母の言う事は尤もだ。



 母の話す事に耳を傾けながら食事を終え、部屋に戻る。「状況はどうだ。」従者はお茶を用意しながら報告する。


「宰相はグリフィス公爵に弱味を握られていました。今現在確認しているのは王族印を偽造した上で偽文書の作成です。


メイド長についてはシエナ様に少しずつ弱っていくように毒を盛っていました。モリス公爵に恨みがあったようです。令嬢達を刺激してシエナ様に嫌がらせも行っており、そちらの方も確認が取れました。


今回のグリフィス公爵令嬢を王宮に引き入れた件については利害の一致です。グリフィス公爵令嬢については王宮内の無断立ち入り、殿下へ媚薬を飲ませて事に及ぼうとしておりました。


秘匿されているシエナ様の馬車が襲撃された件ですが、グリフィス公爵令嬢が指示した疑いがあります。」


従者の報告に怒りが込み上げる。シエナに毒を盛っていた事や襲撃の事。大切なシエナを害する者を今すぐにでも殺してやりたい。


「陛下へ報告に向かう。お前は騎士達と共に直ぐグリフィス公爵の捕縛に向かえ。逃亡の可能性がある。」


 俺は陛下の執務室へと向かう。陛下はまだ執務室に居るだろう。足早に執務室へと向かうと部屋で陛下は待っていた。俺は一連の出来事を報告する。


「陛下、厳しい沙汰をお願いします。」


「うむ。証拠が出揃い次第だ。一番幅を利かせている公爵家だから心して掛からねばならぬ。グリフィス公爵が失脚すれば煩い貴族達は少し静かになるだろう。」


グリフィス公爵の身柄の確保を確認した後、ようやく俺の長い1日は終わった。

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