少し前の王宮では
王宮に怪我をした護衛騎士により一報がもたらされる。
「申し上げます。シエナ様を乗せた馬車は襲撃に遭いました。シエナ様を含め、全ての者は怪我をしております。
シエナ様を領地に送り届ける事は出来ましたが、引き続き襲撃者に備える必要もあります。至急応援を要請します。」
そう報告した騎士も背中には斬られた痕があり、血だらけであった。物々しい雰囲気の中、報告を聞いた陛下は直様騎士を領地へ向かわせるよう手配をする。
「モリス公爵大臣にシエナが乗った馬車が襲撃され、シエナは怪我を負ったと連絡するように。」
「父上、私もシエナの所へモリス公爵と共に向かいます。」
「ライリー、お前は駄目だ。離婚するのだろう?行った所で迷惑だ。」
第一王子のライリーは怯む事なく陛下に向かって答える。
「シエナは私の妻です。私にはシエナしかおりません。誰にどう思われようと私はすぐ向かいます。」
「ライリー、我儘を言うんじゃ無い。お前は2年だ。2年も婚姻をしていて何をしていたんだ。今更だ。それと怪我をした騎士からの聞き取りもまだだ。無闇に向かう事は許さぬ。」
陛下の言葉に苛立ちながらも痛い所を突かれ、動けずにいるライリー。横に居た第二王子のコナーが口を開く。
「ライリー兄さん。怪我をした騎士から聞き取り、報告を。後は僕がやっておくよ。義姉様の容態も気になるよね。」
いつもは口うるさい小舅のような弟にも今は感謝しかない。逸る気持ちを抑え、後の事はお願いします。と頭を下げて治療室へと向かう。
怪我をした騎士は治療師に治癒魔法を掛けて貰っていたが、ライリーの姿を見ると治療師は一旦手を止め頭を下げる。
「治癒を続けてくれ。襲撃にあった時の状況を詳しく知りたい。そのままでいいから話してくれるか。」
うつ伏せで治療を受けていた騎士はベッドに座り、ライリーに話をする。
「シエナ様を乗せた馬車が王都の外れに差し掛かった時、少し離れて一台の幌馬車が道の脇に停車していました。私達は距離を取りながら通り過ぎた所で幌馬車から火弾が飛んで来ました。
直様魔法使いが応戦に出たのですが、それを待ち受けていたように魔法使いは矢で射られ負傷しました。矢と同時に火弾で車輪を壊され馬車を止められました。幌馬車から出てきた襲撃者は6名。
いずれも手練れの暗殺者だと思われます。馬車が止められると、中に居たシエナ様はすぐに私達に向けて防御幕を展開。
負傷した魔法使いをすぐに馬車に引き入れて治癒を行い、負傷した騎士を可能なら馬車内に連れてくるように指示。私は攻撃魔法は得意では無いからと。
騎士達はシエナ様の指示に従い、襲撃者を倒す事に専念し、負傷した者はシエナ様の治癒魔法で回復。回復した者は戦闘に戻り、襲撃者と対峙。
最後の1名の捕縛を終えた時、シエナ様は馬車から降りて重症の騎士を優先して治癒魔法を掛けていました。シエナ様は魔力が枯渇寸前まで私達の治療に当たっていました。
そしてシエナ様が魔法を使えなくなるまで待っていたのか幌馬車に隠れていた1人の襲撃者が私達の隙を突いて抵抗出来ないシエナ様に斬りかかり、シエナ様は腕を負傷しました。
傷口は浅かったのですが、シエナ様はすぐに意識を無くされました。魔法使いの話では弱毒と呪いがシエナ様にかけられていてすぐに解呪と解毒魔法を唱え、襲撃者の馬車を使いなんとか領地内の邸に辿り着きました。
私は王宮に知らせるため急ぎ出立した次第であります。」
ライリーは聞き取りを終えると焦りを感じながらも急ぎ報告書を纏めて陛下の執務室へ向かう。
執務室では苦渋に満ちた顔をしているローガン・モリス公爵と陛下が待っていた。
王宮治癒師は怪我をした騎士についての報告を一足先に上げていた。シエナ様がすぐに治療魔法を掛けていたおかげで後遺症も無く、治療が完了出来たと。
「陛下、報告書を提出します。護衛と共にシエナの所へ向かいます。」
「分かった。シエナを襲った者の背後関係をこちらで調べておく。シエナには無理をさせないようにな。ローガンもライリーと一緒に領地へ。報告を頼む。」
ライリーとローガン・モリス公爵は公爵家の馬車へ乗り込み護衛達も別の馬車へ乗り出発する。馬車の中では重い空気が漂ってライリーもローガンも言葉を発する事は無く、沈黙だけがその場を包む。
俺は襲撃に遭いシエナが怪我をしたという王宮にもたらされた一報で酷く動揺した。
まだ眠り続けているのだろうか、呪いは無事解呪されているのだろうか。
腕に怪我をしていると言っていた。不安ばかりが襲ってくる。唯一の救いはモリス公爵領は王都から隣接地のため数時間で着く事が出来る。
早くシエナに逢いたい。