プロローグ
宜しくお願いします。
「シエナ!怪我の具合は大丈夫なのか。馬車が襲撃されたと聞いた。居ても立っても居られなくて。」
私を見つめる眼は真っ赤だ。泣いていたの?男はそっと包帯が巻かれている私の腕を苦悶の表情を浮かべながら撫でる。
「痛かっただろう。ごめん。俺が不甲斐ないせいだ。君が居れば他には何も要らない。もう一度、最初から俺とやり直そう。この手を取って欲しい。」
そう言うと、男はそっと私の手を両手で優しく包み込む。
「シエナ、怖かっただろう。無理しなくていいんだぞ。しばらくゆっくり休むといい。」
もう1人若い男の後ろにいた40代と思わしき男が私に声を掛ける。
「あ、あの。2人とも誰ですか。」
張り詰めた空気の中、私はようやく声を発したが、男達は目を見開き動きを止めてしまった。男の1人はすぐさま治療師を呼ぶように侍女のジュリアに言いつける。
しばらくして治療師が到着し、私は治療師に詳しく診てもらう。初老の治療師は昔から私を診てくれており信頼も厚い。私は治療師に事細かく質問され、言葉を返していく。
そのやりとりを見ていた男達は色を無くしたような表情だったが、言葉を発する事はなかった。
「シエナお嬢様は王宮に関わる事全ての記憶を喪失しているようです。こう言ってはなんですが、シエナお嬢様は日頃から緊張が続く環境に置かれていたのではありませんか?
今回の襲撃が引き金となり、記憶を閉ざしている様子。まずはシエナお嬢様の心が休まる環境で過ごすようにして下さい。また明日来ます。」
治療師はそう言って帰っていった。私の記憶は欠けている。確かに治療師とのやり取りで気づいた。何故か記憶の無い部分の話を聞くと気持ちが酷く沈むような、ジクジクと傷を抉るような感覚になる。
「お嬢様、顔色が優れません。少しお休みしましょう。」
ジュリアが声を掛けると、2人の男達もそうだなと部屋を出て行く。静かになった部屋で私はベッドに寝そべり、目を瞑る。
私はどうしてしまったのかしら。
1話の文字数を多めにしようかと思っていたのですが、読みづらくなると思い細かく区切っています。