69.隊長逮捕
ボンとエラソーを拘束した後、アルトとリリィは北の子爵領を襲っていた盗賊団を早々に壊滅に追い込むことに成功していた。
捕らえた賊の身柄をグラム率いる冒険者ギルドに引き渡すと、グラムは祝賀パーティを提案してくれた。
しかし、二人は彼の提案を丁重に断って王都にとんぼ返りした。
王都で何か問題が起きていないか一刻も早く確認しかったためだ。
騎士団本部に到着し事務方に任務の報告を行なった後、ちょうどアルトたちと入れ替わりで事務所へ入っていくフランキーの姿を見つけた。
今起きている一連の盗賊団事件に関する事情を確認しようとしたが、フランキーは急いでいる様子でアルトたちに広間で待つよう指示を出した。
広間に足を運ぶと、そこには革張りのソファーにちょこんと座るミアの姿があった。疲れているのか、両手で抱えた足の膝に顔を埋めるようにしていた。
「ミア!」
アルトの声に、ミアはパッと顔を上げて明るい表情を見せた。
「アルトさん、リリィさん……!」
「そっちも盗賊団絡みの任務に向かったって聞いていたけど、違ったっけ?」
「違いませんよ、わたしもさっき戻ってきたところなんです。……変なスキルを持った敵がいたんですけれど……〝ディスペル・ショット〟が上手くいってすぐに倒せたんです」
「すごいじゃない! お手柄ね!」
「ん、待て、変なスキルってどんなスキルだったんだ?」
「……えっと、スキル……だと思うんですけど……小さな箱みたいなものがあって……」
ミアの言葉にリリィは顔をしかめた。
「それってもしかして」
「ああ、多分同じ道具だろうな」
「え、……同じってどういうことですか?」
「こっちはこっちで盗賊団の制圧をしてきたところなんだけど、その中に紛れ込んでいた脱獄囚が同じような道具を持っていたんだ。確かあいつらはキューブと呼んでいたはずだ」
「植物系モンスターの種子と暗黒魔法を使って作ったと言ってたわね」
「……ということは――」
ミアが言いかけたところで、広間の扉が大きな音を立てて開かれる。
見ると、そこにはフランキーの姿があった。
大股で三人に近づいてくる彼の表情はいつもよりも強張っていた。
「思ったより待たせちまったな。アルト、リリィ、ミア、任務の報告は聞いた。よくやった。他のチームよりも早く片付けてきたことは、素直にすごいことだ」
褒め言葉を口にするフランキーであったが、声のトーンは低い。
「本当なら飯でも食いながら任務の話を聞きたいところなんだが、そう言うわけにもいかない事情があるんだ。三人とも帰ってきたばっかりでお疲れのところ悪いんだが、良くないニュースを伝えなくちゃならねぇ」
「良くないニュース、ですか」
普段はかなり楽天的な態度であるフランキーの口からそんな言葉が飛び出れば、自然と一同の背筋は伸びる。
フランキーは深く息を吐き出した。
「昨日、アーサー隊長が逮捕された」
「逮捕――ッ!? そんな、何かの間違いでは?」
「事実だ。実際に俺が見ている前で、罪人無力化のための魔法制御の道具を首に括られて連行されていった」
「そんな…………」
あまりの出来事に続く言葉を見つけられないでいる三人を見て、フランキーは事情を語り始めた。
「実はな、今回お前らに行ってもらった任務で気づいたかも知れねぇが、北の鉱山に服役していた囚人が脱獄した。しかも、一人や二人じゃなく、三十を超える人数だ」
三人とも任務の中で実感していたため、フランキーの言葉に口を挟む者はいない。
「そんな人数の脱獄を許したなんてことになっちまえば、宮廷の威信に関わる。だから、俺やアーサー隊長、他にも隊長格や歴の長いベテラン騎士が駆り出されて秘密裏に掃討作戦を遂行していた。俺と隊長がここのところいなかった理由がこれだ」
「ですが、それとアーサー隊長の逮捕と、一体どういう関係が」
「その脱獄した囚人どもの手引きをしたのがウチの隊長だっていうんだ」
「え……」
「そんなこと、信じられません!」
リリィの真っ直ぐな眼差しを受け止めたフランキーは首肯する。
「もちろん俺だって信じちゃいねぇ。だが、一度疑いが掛かっちまったら、無実が立証されるまでは拘留される決まりだ」
「シャーロット王女はこのことを知っているのですか?」
「当然だ。王女様も色々動いてくれているらしいが、王様が王子様と一緒に外交で留守にしちまってるから、強権の発動も難しいらしい。逮捕騒動の直後に、至急で王様を呼び戻すための使者を送ったそうだが、すぐに戻ってこれるかどうかは分からねぇ」
「……第七近衛隊は……どうなるのですか?」
「俺が隊長代理を拝命した。ちょうどさっきその手続きをしてきたところだ」
フランキーはキザな身振りで胸元についた隊長章を示して見せた。
「今は脱獄囚や盗賊団の対応で王都にいる騎士が少ない。これから事態が落ち着くまでの間、王女様には部屋に籠ってもらい、俺たちは城兵と共に王宮もとい王女様の護衛任務にあたることになる」
「…………」
囚人の一斉脱獄、暗黒魔法を用いた怪しい道具、アーサーの冤罪、王の不在。
取り巻く状況が三人の心を不安にさせていた。
そんな三人の様子を察したフランキーは声を上げる。
「さあ、準備が済んだらすぐに向かうぞ! なに、王女様は王宮の中だ。案ずることはないさ」
無理して普段以上に陽気な調子で発したフランキーの声は、広い部屋に虚しく反響した。
†
王宮の一室。
第七近衛隊はシャーロットに任務開始の報告をしていた。
「皆さん盗賊団関連で忙しい上、私はアーサー隊長の件でもあまり力になれていないのに、ありがとうございます」
「おれ――私たちの使命ですから気にしないでください。王女様はこの部屋で書類仕事をしていてくれれば大丈夫ですから」
「ええ、王様が不在の間、政務は私が責任を持って行います。皆さんも十分に気をつけて」
「はい。では失礼します」
隊長としてフロントに立って振る舞うことに不慣れなフランキーは深く話すこともせず部屋を出る。
隊員も後に続いて出ていくが、最後にアルトが出ようとしたところで、彼の手がグッと引かれた。
「アルトさん、もう体調は大丈夫なのですか?」
「ええ、お陰様で今はもうなんともありません。心配していただきありがとうございます」
シャーロットは少し安心したように息を吐いたが、すぐに緊迫した表情に戻る。
「これは何の根拠もありませんが、何だかとても嫌な予感がします」
「嫌な予感、ですか?」
「あまりに立て続けに色々なことが起きすぎているからでしょうか、今すぐにでも危険なことが起きるような、そんな予感がするのです」
「シャーロット様のことは必ず守ります。フランキー隊長、それにリリィとミアもいるので、協力して――」
アルトの発言をシャーロットの言葉が遮った。
「確かに皆さん心強い頼もしい方々です。ですが、私は、アルトさんのことが心配なんです。貴方の父親であるウェルズリー公爵と王子であるリチャードが繋がっているのはほとんど確定的です。護衛をしてくれている最中に、また先日の決闘のようなことが起きてしまうのではないか……、そう思わずにはいられません」
「先日の決闘では後れを取りました。しかし、父上――ウェルズリー公爵と再び相見えることになったときのために策は練っています」
「……わかりました」
シャーロットは心の奥ではまだ不安を感じていた。だが、凛とした表情を作ってアルトの瞳を見つめた。
握っている手に思わず力が入る。
「では、もしものことが起きても必ず無事でいてください」
「王女様の命には必ず応えて見せます」
「今のは王女としての命令ではありません。私、シャーロットとの約束です」
「はい、必ず約束を果たします」




