68.王子たちの陰謀
ウェルズリー公爵はアルトとの決闘の後、リチャード王子のいる部屋に向かった。
公爵の横には、音もなく現れたカミーラの姿もあった。
「ウェルズリー、先の決闘は素晴らしいものであった」
「お褒めに預かり光栄でございます。ご覧いただきましたとおり、カミーラの力を得た我々はアルトを完封することができます」
「それは見ていて十分理解できたが、随分と顔色がすぐれないようだな」
「少々、彼女の幻影魔法の負荷が大きいようでして……」
決闘の際、アルトが感じていた違和感の正体はこれであった。
あの時、ウェルズリー公爵の中には、カミーラの幻影魔法によって生み出されたもう一つの人格が同居していたのだ。
「幻影魔法――あらゆる魔法を使えるようになる代わりに、人を廃人に堕としてしまいかねない禁忌にも等しい魔法であったか」
「おっしゃるとおりです」
「火炎魔法の使い手であったお前が、ああまでも見事な暗黒魔法を発動したとあれば信じざるを得まい。身を滅ぼしかねない魔法を一身に受けてでも我に尽くそうという気概、気に入った。王女暗殺計画は、ウェルズリー、お前のプランを採用するとしよう」
「ありがたき幸せでございます」
ウェルズリー公爵が深々と頭を下げたのを見たリチャードはカミーラに一瞥をくれる。
「さて、プランの詳細を聞きたいところだが、――カミーラとやら。ウェルズリーは既にかなり消耗しているようだが、後どれくらいもつのだ?」
これまで一言も喋らなかったカミーラであったが、リチャードの問いかけに口を開いた。
「この人にこれ以上幻影魔法を使うのは危険」
「なるほど。だとすれば、ウェルズリーよ、お前が力を使えないのなら誰が王女暗殺の主戦力となるのだ?」
「はい、暗殺計画におきまして障害となっていたアルトはカミーラに抑えてもらいます。カミーラ、今日の相手であれば問題なかったであろう?」
「アルトという男の実力は知れた。私がいれば確実に行動不能にできる」
「それは良いとして、残りはどうするのだ。幻影魔法とやらは際限なく何人にでも掛けることができるのか?」
「できない。ワタシの魔法回路が四つ。だから、同時に四人が限界。結界を張ったらもっと少なくなる」
「問題ありません王子様。まず最大の厄介者であるアーサーは、ワイロー大臣が遺していった各所へのパイプを利用した根回しで戦力外にできる目処が立っています。アルトさえ無力化できれば、残りの雑魚は私の元来の実力で十分でございます」
「応援部隊を用意することも可能だが、不要か?」
「お心遣いありがとうございます。ですが、あまり大規模な襲撃にしてしまっては目撃者が多くなってしまいます。逆に、公爵である私とその部下の二人だけであれば、王宮に出入りすることに何らおかしな点はありませんので、暗殺後のことも考えると三人が最善です。戦力的にも全く問題ありません」
そう豪語するウェルズリー公爵の顔には確信めいたものがあった。
「王子様にご協力いただきたいことは別にございます」
「何だ、申せ」
「現状最も状況を覆しうるのは、王様でございます。王様が突然王宮に騎士を集結などさせようものなら、流石に二人では手に余ります」
「そうだろうな」
「つきましては、王様を王都から遠ざけていただきたいのです。王様の目の届かないところで全てを始め、そして全てを終わらせるのです」
「…………」
リチャードは少しの間思案するように沈黙したが、すぐに結論を出した。
「よいだろう。では5日後、王と共に外交のために隣国へ発つこととする」
「王子様と懇意にされているあの国ですか?」
「そうだ。彼の国とは以前より深い関係を築いてきている。当然、次期王として我の即位を強く望んでいる。先方から、こちらの王の同行要請を出させれば良いだろう」
「では私共も早速準備に取り掛かります」




