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67.エラソー・ボンボーンの襲撃


 アルトとリリィの二人は、グラムやカーターのいる街を出てさらに北に向かって馬を走らせていた。


 カーターの持って来た運搬記録によれば、武具屋が申告していなかった売上分の武器は、全てとある屋敷に届けられていたのだ。


 そこは隠居した豪商が住む屋敷だとカーターは話した。


 各業界に顔が効く豪商に様々な商品が届けられること自体は。これまでも普通に行われていたことであり、武具が届けられることも不自然ではないという。


 だが、地理的には街と鉱山の中間にあたり、盗賊団や罪人にとっては都合が良い位置にあるのも事実であるため、アルトとリリィは確認に向かうことにしたのだ。


「あれ、何かしら?」


 前を走っていたリリィが馬の速度を緩めたため、アルトはすぐに追いつき並走する形になった。彼女の視線のかなり先にあるものに、アルトも気づく。


「看板じゃないか?」


「そう見えるけど、分かれ道ってわけでもないのに?」


 それから少しして、二人は馬を止めた。

 アルトの予想どおりそこにあったのは看板だった。

 だが、その内容は決して見過ごせないものであった。


「命惜しくば、この先、何人(なんぴと)たりとも決して踏み入るべからず。荷は道の脇に置くように――か。来て正解だったみたいだな」


「そうみたいね」


「探知魔法によればモンスターの気配や罠の類は無さそうだな」


「でもこの看板の脅し文句も気になるわよね……」


「そうだな、念の為に確かめておくか――<ファイヤー・ボール>起動!」


 アルトは目の前に十六個の火球を出現させて看板の向こう側に向けて放った。


「…………」


 どんどんと道の奥に進んでゆく〝ファイヤー・ボール〟を二人は無言で見守ったが、ついには何も起こらないまま見えなくなった。


「大丈夫……ということかしら?」


「問題なさそうに見えるが、一応いくつかのスキルを試しておいた方がいいかもしれないな」


「なら私の神聖魔法を――」


 リリィがスキルを発動しようとしたその時、不意に大きな地鳴りが響いた。

 同時に感じた熱気に上空を見上げると、そこには巨大な火球が発生していた。

 〝ドラゴン・ブレス〟を二回りも大きくしたような見た目をしている。

 その火球が二人のいる場所目がけて落ちてくる。


「まかせて! 〝神聖結界〟!」


 リリィが叫ぶと、二人を囲むように光のドームが出現する。

 あらゆる防御系スキルの中でも特に硬いことで有名な神聖魔法による結界。それが、彼女の魔法回路の多さによって何層にも重なっている。

 火球は〝神聖結界〟と衝突すると、途端に破裂して爆発を起こした。

 赤みを帯びた光があたりを包むが、二人には熱気すらも届くことはなかった。


「大丈夫そうか?」


「うん、なんとか」


 通常の魔法であれば〝神聖結界〟を一枚張るだけで十分に防ぐことが可能だ。


 しかし、今の一撃でリリィの〝神聖結界〟は外側の二枚が破られていた。二人を襲ったスキルがそれだけ高火力だったということになる。

 高い性能を誇る〝神聖結界〟を多重に長時間保持するのは魔力消費が激しいため、リリィは結界を解除する。

 するとその時、まだ一部で燃え続けている炎の向こう、アルトは陽炎のように揺らめく人影を目にした。


「誰かいるぞ」


 アルトの言葉にリリィは静かに頷いて、腰の剣に手を掛ける。

 人影は二つ。

 こちらに向かって歩いてきているようだ。

 かろうじて顔が判別できる程の距離になったところで、向こうから興奮気味の声が響いた。

「なんてラッキーなんだ!! おい、エラソー! アルトの野郎がいるぞ!!」


「騎士が来ることは想定どおりだが、まさかこんなに早く無能と再会できるとは。風が向いてきているのかもしれんな」


 アルトは現れた二人の姿を見て眉をひそめた。


 そこにいたのは、騎士選抜試験で不正な手口を使ってアルトの妨害行為を行なっていたボン・ボーンと、かつて所属していたギルドでアルトを無能と罵りながらこき使っていたエラソーであった。


「ボンとエラソー隊長……?」


 思わず漏れたただの呟きであったが、エラソーはそれを聞き逃さなかった。


「おい、誰が隊長だって? このエラソーがSランクパーティ隊長の座を剥奪されることになったのが誰のせいなのか、忘れたわけでもあるまいな?! 女まで連れて、いいご身分になったじゃないか」


 エラソーが大声で怒鳴っている時、アルトは二人の首に焼印があるのを見た。


「街を襲った奴らの中にいた脱獄犯はおまえたちで間違いないな?」


 アルトは騎士として、問いただす。


「さあて、どうかな」


「……盗賊団の制圧が俺たちに与えられた任務だ。もう一度鉱山に戻ってもらう」


 その言葉を聞いたボンとエラソーは顔を見合わせると、笑い出した。


「バカか、お前! ボクたちが何の作戦も無しで脱獄したと思ってるのか?! 脱獄して街を襲ったりすれば騎士が来ることなんて分かりきったことだろうが! たとえ相手がお前であったとしても余裕で勝てる、そういう確信があるからこうやって出てきたんだろうが!」


「そのとおり。本来貴様なんかとは比べ物にならないほど有能である我々は、見る目のあるお方によって革命の一端の担い手に選ばれたのだよ」


「革命だと? 裏にいるのは誰なんだ!」


「ボクたちがお前にそんなこと教えるわけがないだろ! それに、お前は今ここで死ぬんだから、知ったところで意味ないだろうが!」


 ボンとエラソーが一瞬視線を合わせる。

 すると、エラソーはポケットから立方体の何かを取り出した。


「冥土の土産にいいものを見せてやる」


 彼はそう呟くと手に持っていたものを宙に放り投げる。

 立方体は空中で静止し、ボンとエラソーはそこに向かって何かを念じた。

 それとほぼ同時、アルトとリリィの周囲に三十以上の〝ファイヤー・ボール〟が出現する。

 詠唱無しで現れた大量の火球は、間を置かずに次々と射出された。

 リリィが〝神聖結界〟を詠唱する暇もない速度。

 エラソーは勝ちを確信してニヤリと口角を上げた。

 しかし、彼の思い描いたものとは全く異なる光景がそこにはあった。

 無数に存在する火の玉を、ひとつひとつ的確に〝ファイヤー・ウォール〟が相殺していたのだ。

 オート・マジックが〝ファイヤー・ボール〟の接近を感知して自動で起動しているのだが、そんなことを知る由もないボンは驚きで口を大きく開いていた。

 エラソーは舌打ちをした。


「おい、聞いていた話と違うではないか。攻撃ばかりで防御に弱みがあるのではなかったのか」


「ボクと戦った時にはこんな能力を持っていなかったんだ! また何かイカサマをしてるに違いない!!」


「ふん、まぁいい。まだ策はある」


 エラソーは再び、宙に浮く立方体に向かって手をかざした。


 それと同時、アルトも負けじとオート・マジックを起動する。


「<ファイヤー・ランス>起動!」


 アルトの前に現れた炎の槍は数を増やしていく。

 それを見たボンは嘲笑うような声を上げた。


「ははは!! バカの一つ覚えだな! お前の〝ファイヤーランス・レイン〟もどきはもう見て知ってるんだぞ! ボクたちが対策していないとでも思ったか!」


「このキューブは魔力を吸収する植物系モンスターの種子と、お前の見たこともない恐ろしい暗黒魔法を掛け合わせて作られた道具だ。貴様の攻撃は一切通用しないと思え」


「そうだぞ、お前ご自慢の〝ファイヤー・ランス〟程度、ボクたちの前では何の意味もないんだ!」


「暗黒魔法……?」

 アルトはウェルズリー公爵が使用していた暗黒魔法を思い起こしていた。決闘で使われていた〝ドレイン・ホール〟も、スキルを吸収して跳ね返す力を持っていた。


「嘘だと思うなら撃ってみればいいさ!!」

 ボンの自信満々の表情を見て、二人の言っていることが嘘ではないとアルトは理解した。

 だがアルトとて、ウェルズリー公爵との戦いに負けてから何も考えていなかったわけではなく、〝ドレイン・ホール〟の解決策は既に考えていた。

 図書館で暗黒魔法について記述がある書物を片っ端から知らべてわかったことだが、いかに強力な暗黒魔法とは言えど万能ではない。〝ドレイン・ホール〟は吸収できる魔力量に上限があり、許容量を超えるとスキルが消滅する特徴がある。

 アルトは、全力を込めた超高威力のスキルを放つことで、〝ドレイン・ホール〟を突破できると考えていたのだ。

 〝ファイヤー・ランス〟の発動が中止されるのを見て、ボンは歓喜の声を上げた。


「ようやくボクたちの強さを理解できたか!! 諦めた方が身のためだぞ!」


 しかし、当然アルトが諦めるはずもなかった。


「そのキューブというのは本当に暗黒魔法で吸収するんだな?」


「なんだ? こいつ、まだ疑っているのか?」


「いや、吸収するならいいんだ。――全力で行くぞ」


 アルトは十六重に設定していた〝ファイヤー・ランス〟をその場で三十二重に書き換える。

 完了すると、アルトはすぐに詠唱を開始する。


「<マジックバフ>起動、<ファイヤー・ランス>起動!」


「全力で行く、なんて言うから何かと思えば、ただの〝マジックバフ〟かよ! 〝マジックバフ〟程度じゃちっとも変わらねーんだよ!」


「いや、ボン・ボーン、よく見ろ……何かがおかしい……」


 エラソーが覚えた違和感は幻ではく、現実のものであった。

 アルトは一度の詠唱で三十二回分の〝マジックバフ〟を発動していた。

 そのため、ひとつひとつの槍が異様なまでの熱を帯び、赤かったはずの炎がいつの間にか白く輝いていたのだ。

 さらに、アルトの周囲に現れた炎槍は徐々に数を増していく。

 ボンは慌てて炎の数を数えていく。


「さ……さ……さんじゅうにだって……?!」


 熱量も数も、彼らの想定を遥かに上回っている。


「ま、待つんだ、そんな量の魔力を一度に与えたら――」


 エラソーが言い終える前に、〝ファイヤー・ランス〟は発射された。

 放たれた炎は、宙に浮いたままの立方体へと次々に吸い込まれていく。

 だが、それも長くは続かなかった。

 やがて何かが割れるような甲高い耳障りな音が辺りに響いた。

 容量を超えて形を保てなくなった立方体が破裂して粉々になる。

 吸収されずに残っていたいくつかの〝ファイヤー・ランス〟が、既に逃げ出していたボンとエラソーに向かって直進する。


「やめてくれぇぇぇぇぇええええ!」


 背後に迫る危機を察したボンの叫びが森の中に響き渡る。

 その直後、〝ファイヤー・ランス〟は二人の背中を捉えた。

 彼らの結界はいとも容易く粉砕され、その体は恐ろしいほどの速度で道の奥へと吹き飛ばされていった。

 元いた位置から遠く離れた場所に肩から着地した二人は、倒れ込んだままで起き上がる気配がない。

 アルトは後ろにいるリリィを振り返る。

 勝利の余韻に浸る間もなく、既に次の行動を考えていた。


「グラムさんたちの手に負えないような敵は今の二人だけだと思うけど、盗賊団を制圧するのが今回の任務だ。先に進もう」


「そ、そうね……」


「ここから先は小回りが効くように、念のため徒歩で行こうと思う」

 馬に括り付けてあった荷物を背負って歩き始めたアルトの後ろ姿を、リリィはどこか遠くを眺めるような気持ちで見つめていた。


「私、出番なかったな……」

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― 新着の感想 ―
[気になる点] イキったクズ親父を早めにブチのめしてもらわないとフラストレーションがたまるのですが、更新期間は空く感じでしょうか?
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