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37.朦朧とした意識の中

前回更新から時間が開いてしまい申し訳ありません。

ようやく本業も落ち着きましたので、更新再開いたします。引き続きよろしくお願いします。



 翌朝の決闘場。


「……アルト遅いな」


 8時50分。

 試験は9時からスタートすることになっていたが、まだ会場にアルトの姿が見えていなかった。

 ミアは相方が姿を見せないことに不安を覚える。アルトが時間に余裕を持って行動するタイプだと知っていたからだ。


「(何かあったのかな)」


 試験開始時刻が近づくにつれて、ミアは焦りを感じる。


 ――だが、9時になる直前に、アルトは会場に現れた。

 

「……アルト!」


 ミアは姿を見せたアルトの方に駆け寄っていく。

 ――だがすぐに事態に気が付いた。


「アルト、大丈夫!?」

  

 現れたアルトは青ざめて、額に汗を浮かべていたのだ。


「……ああ。なんとか」


 アルトはそう言うが、どう考えてもまともに戦える状態には見えなかった。


「……ちょっと風邪を引いたみたいだ」


 アルトはそう言うが、明らかに「ちょっと」というレベルを超えているからだ。


「それでは、最終試験を始める」


 無情にも試験官のアーサーがそう宣言する。


「……大丈夫だ。なんとか戦えるから」


 アルトは自分に言い聞かせるようにそう言った。


「でも……」


 ミアはそうつぶやくように言ったが、アルトの固い意志を感じてそれ以上の言葉を発することはなかった。


 ミアにはこの状況をどうすることもできなかった。


 試験は体調不良だろうがなんだろうが行われる。

 他ならいざしらず、これは騎士になる試験だ。

 騎士が王族を守っているときに「ちょっと風邪を引いたので休みます」なんて言えるわけがない。

 参加できなければそれまでだ。


 「試験はあきらめて陰で休んでいて」なんて言えるわけがなかった。



「――それでは、第一試合。アルト、ミア・ナイトレイ。対決する相手は、ボン・ボーン。そして、グレゴリー・パーンズ」


 アーサーはアルトたちに視線を送った。


「はい」


 アルトはそのまま前に出た。


 アルトと対峙すると、ボン・ボーンたちは下賤な笑みを浮かべた。

 昨日アルトに「今までの態度を詫びたい」と言ったときとは180度違う。

 その表情が、昨日のすべてが演技であったことを物語っていた。


「おっと、アルト君。具合が悪そうだが、大丈夫か?」


 笑うのをこらえながら、ボンはそう言った。

 アルトはそれを見てもなんとも思わなかった。立っているのがやっとで、感情が動くほどの余裕がなかったのだ。


「――――それでは、試合開始!!」


 無慈悲にも騎士になるための最終試験は幕を上げた。


「「“ファイヤーランス”!」」


 先制したのはボンたちだった。

 ボンと相方のグレゴリーが同時に火炎スキルを放つ。


「“アイスウォール”!」


 ミアが咄嗟に水氷スキルで自分とアルトの身を守った。

 アルトの反応は完全に遅れていた。


「ご、ごめん」


 アルトはつぶやくように言う。


「はは! こりゃ楽勝そうだな!」


 ボンは高らかにそう言うと、そのまま追撃する。


「“ファイヤーボール・レイン”」


 空中から炎弾の嵐が降り注ぐ。


「起動、“ファイヤーボール”」


 アルトは基本スキルを16個重ね掛けした巨大な炎弾でボンの攻撃をしのぐ。


 ――明らかにアルトの力は弱まっていた。

 オートマジックは健在だったが、その“処理速度”は明らかに鈍っていて、敵の攻撃に反応するのがやっとだった。



 と、次の瞬間、ボンとグレゴリーはアルトたちを挟撃しようと左右に分かれた。

 アルトとミアそれぞれが狙われたことで、二人は別個に戦わなくてはならなかった。


「くらえ、“サンドプレッシャー”!」


 グレゴリーがアルトに向かって中級魔法を放った。


 アルトはそれを少し遅れて発動したスキルによって弾く。

 しかし、グレゴリーは続けざまに攻撃してくる。


「“サンド・プレス”!」


 グレゴリーは上級スキルを放つ。

 地面が盛り上がり、巨大なドラゴンの足のような形状を作りあげ、アルトに襲い掛かった。


「起動“ファイヤーランス”!!」


 アルトは中級魔法を8連打することでそれを辛くも迎撃する。


「(だめだ……魔力がうまく練り上げられない!!)」


 自動魔法の力があるので魔法を使えないということはない。

 だがいつもに比べてその力は半減していた。自動魔法は所詮魔力回路の代替に過ぎない。大本となる魔力はアルトに依存していた。

 自動魔法を使って常に修業したことによって手に入れた無尽蔵とも言える魔力も、今日に限っては効率的に使えない。


「おらおら、どうした! “サンド・プレッシャー”!」


 グレゴリーはアルトの鈍い動きを見て、ここぞとばかりに技を連打してくる。


「クソッ……!!」


 アルトは気をふり絞って攻撃を何とか迎撃する。

 だが一つ躱しても、グレゴリーは立て続けに攻撃してくる。

 それも、たたみかけるのではなく、あえて間隔を開けて攻撃しているように見えた。


「(だめだ、持久戦になったら負ける……)」


 アルトは自分の意識が少しずつ遠のいていくのを感じた。

 指の爪を皮膚に食い込ませて、ようやく意識を保つことができた。


「(後のことまで考えてる余裕はないか……)」


 もはやミアのことを心配している余裕はなかった。

 せめてなんとか、目の前の敵と刺し違えるのが今できる最善だった。

 アルトは魔力を練り上げるのを放棄して、溜め込んだそれを全て使い切る決断をした。


「起動、“ファイヤーランス”!」


 今もてる最大火力の魔法を惜しみなく16連打する。


「な、何!? “サンド・ブレス”!」


 予想外に大きな攻撃にグレゴリーは思わずうめき声をあげる。

 とっさに上級スキルで迎撃しようとするも、アルトの攻撃を受け止めきるのが精一杯だった。

 だが、アルトは練り上げた魔力の全てを投入してさらに追撃する。


「起動、“ファイヤーランス”!」


 二度目の攻撃で、グレゴリーが作り上げた砂の竜は粉砕され、そのまま身を守る結界ライフごと吹き飛ばされた。


「くッ!!」


「グレゴリー、戦闘不能!」


 結界が破られたのを見て試験官のアーサーがそう宣言した。


「な、何!?」 


 ミアと戦っていたボンが驚きの表情を浮かべる。

 まさかアルトが毒に犯された中、グレゴリーを倒してしまうとは思わなかったのだ。

 

 だが。


「…………ッ!」


 グレゴリーを倒したところで、アルトの意識は限界だった。

 膝をつき、そのまま倒れこむ。


「はは! なんだ、驚かせやがって!」


 ボンは倒れこんだアルトを見て一転、高笑いする。


「起動……――」


 最後の力を振り絞るようにアルトはつぶやいた。

 そして、そのままアルトは気を失った。


 †


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― 新着の感想 ―
[一言] オートマジックが寝てる状態の 無意識化でも普通に発動できるのなら、 魔力が練れなくなるとかよほど特殊で 限定的な毒を使われないと問題ないのでは?
[一言] オートマジックはアルトが寝てる間も起動するからなぁ…… むしろ意識を失った後のがリミッター解除されてヤバいまである。
[一言] おやおや、最後に何か起動したな?
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