32.ミアの才能
アルトとミアは学園の敷地で、一緒に修行をすることになった。
「ちなみに教えたくなかったら答えなくてもいいんだけどさ、ミアはどんなスキルが得意なの?」
アルトはミアのことを何も知らなかった。
なので、一緒に修行するといっても、何をするのが彼女にとっていいのかわからなかった。
それを知るためには、彼女に強みを聞くしかない。
「えっと、その……得意っていうか、一番レベルが高いのは……ユニークスキルなんです」
「え、ユニークスキル?」
使用者が極端に少ないスキル系統、ユニークスキル。
アルトのオートマジックもまさにユニークスキルだった。
「あの、もし可能でしたら、掌の上に炎を浮かべてもらえますか?」
ミアの指示に従い、アルトは自分のたった一つの魔法回路を使ってスキルを発動する。
「“ファイヤーボール”」
アルトの掌の上に炎が浮かぶ。
それを投げないでそのままにしておく。
――と、ミアは炎を指さして言う。
「“ディスペル・ショット”」
ミアが言うと、その指先から光の弾が現れ、アルトの掌の炎に向かって放たれた。
そして、弾が炎に当たった次の瞬間――炎は一瞬で消滅した。
「お!? 消えた!?」
アルトは自分の意志で炎を消したわけではなかった。ミアのスキルによって消えたのである。
「一体どうなってんだ!? これがミアのスキルなのか!?」
「はい。わたしのユニークスキル“マジック・リゾルバー”です」
ユニークスキルにもいろいろあり、世界中を探せばそれなりに使用者がいるものが多い。
しかし“マジック・リゾルバー”という名前をアルトはまったく聞いたことがなかった。おそらくはミアしかもっていないものだろう。
「この小さな弾丸がスキルの魔力核を打ちぬいて無効化するんです」
ミアがスキルの力を説明する。
「す、すごい力じゃん!」
アルトが言うと、しかしミアは浮かない表情をしていた。
「でも、制御できないんですよ」
「制御?」
「もう一度ファイヤーボールをお願いできますか?」
アルトは指示通りもう一度手のひらに炎を浮かべた。
すると、ミアは少し離れたところにいき、そこから再びスキルを放った。
「“ディスペル・ショット”!」
ミアの指先から再び光弾が放たれる。
けれど、
「――ん?」
弾はアルトの炎ではなく、少しずれたところに向かって行った。
「お?」
「この技、制御が難しくて、相手の発動したスペルに当てるのが難しいんです。魔力の見えない波があって、お互いに干渉しあうみたいなんです。だから狙ったところに飛ばすのが難しいんです。すごく練習したんですが、同じようにやってもなかなかうまくいかなくて」
「なるほど……」
レベルは技を使いまくれば上がっていく。
だが、それを使いこなせるかどうかはまた別問題だ。
「なので今はほかのスキルを練習してて。今は火炎系統スキルを練習してます」
アルトはそれを聞いて、もったいないと思った。
生まれ持った天性の才能を持っているのに、それを発揮できないままでは浮かばれない。
と、アルトは少し考えこむ。
そして、
「……そうだ、それならさ。俺を練習台にしない?」
「え? 練習台?」
「うん。なにか教えてあげるってのはできないけど、練習に付き合ってあげることはできると思うんだよね」
アルトは“オートマジック”のステータス画面を開き、ファイヤーボールを空中に打ち出し続けるテキストを書く。
「それじゃぁ、<ファイヤーボール・連打>起動」
アルトがそう言うと、テキストに書いた通り、ファイヤーボールが一定の間隔を置いて発動していく。
「え、詠唱なしで!? す、すごいです」
ミアがアルトのオートマジックを見て驚嘆した。
「これも俺のユニークスキルなんだけどさ、俺は無意識で発動し続けられるんだ。しかも、これ毎回同じように打ち続けられるからさ。練習台としてはちょうどいいと思うんだよね。動いてるけど、同じようにしか動かない的の方が練習しやすいでしょ?」
「あ、ありがとうございます!!」
と、ミアはさっそくアルトのファイヤーボールに“ディスペル・ショット”を放っていく。
アルトは、横で他のスキルも自動発動して経験値を稼ぎながら、ミアの練習姿を眺めた。
その丸い目で標的を見据えるミア。
最初は全く見当違いなところに向かっていたが、回数を重ねるごとに少しずつ精度が高くなっていく。
†
練習を始めて30分ほどやり続けたところで、ミアの魔力が底を尽きた。
「長い間付き合わせすみません。あ、ありがとうございました……!」
「いやいや。俺も訓練しながらだから、全然大丈夫」
「それにしてもアルトさん、すごいです! 30分間スキルをいくつも使い続けても魔力が残ってるなんて」
「ああ、確かに。魔力量には自信があるんだ」
アルトは魔力回路が一つしかなく、成長適性も低い。
けれど、魔力量、つまり魔法を使う体力は、それらとは無関係に、普通の人と同様、練習すればするだけ伸びていく。なので24時間練習し続けたアルトの魔力量は膨大になっていた。
それはアルトのちょっとした自慢だった。
「それに、技が本当に正確に、同じように発動するので、わたしの方の変化がダイレクトに結果につながって、微調整がしやすくて!」
「それはよかった。また魔力が回復したら一緒に練習しよう」
「あ、ありがとうございます!!」




