30.ボン・ボーンの実力
「――試験を始める」
闘技場に現れたアーサー隊長は、生徒たちに向かってそう宣言した。
「最初に戦うのは――アルト。そしてボンだ」
いきなり指名されるアルト。
「(よし……)」
アルトは気合を入れて、闘技場の中央へと向かう。
二十メートルほど離れたところでボン・ボーンと対峙する。
「ちょっとファイヤーボールを多めに使えるって器用なことができるくらいで調子に乗りやがって」
ボンは吐き捨てるようにそう言った。
「(俺は何も言っていないのに、自ら持ち出してくるあたり、こないだの“僕は魔力回路5個使える”事件が相当悔しいらしいな……)」
「だが実践ではこの僕が最強だと証明してやる! 秒殺してやる!!」
そう言うとボンはチラッと観客席の方を見た。そこには彼を“信頼している”という大臣が座っていた。
「ルールは単純。先に相手に一撃を食らわせた方が勝ちだ」
アーサー隊長が試験について改めて説明する。
そしてアルトとボンは身構える。
「では――試合はじめ!」
アーサーの掛け声で試合が始まった。
「死ねぇ!! “ドラゴン・ブレス”!」
ボンはいきなり上級魔法を唱える。
平凡な冒険者は一生修行しても使えないような技である。
それに対して、アルトは、
「起動、“ファイヤーランス”!」
二年間修行し続けた火炎魔法。
先日のレベルアップでアルトはようやく中級魔法を使えるようになっていた。
「ふッ、バカめ! 中級魔法で僕の上級魔法に勝てるわけないだろうが!」
ボンはアルトの発音したスキル名を聞いて、ニンマリと笑った。
――だが、アルトの掌の前に現れた“それ”を見て、目を見開く。
「ば、バカな!!! ファイヤーランス・レイン!?」
――アルトの前方には16本のファイヤーランスが出現していた。
オートマジックの“同時発動”によって通常一本しか出せないファイヤーランスが16本同時に生み出されたのだ。
それはさながら火炎魔法の最上級スキルの一つである“ファイヤーランス・レイン”のようであった。
――アルトはボンの戯言には耳を貸さず、粛々と“ファイヤーランス”を放つ。
ボンのドラゴンブレスがそれを迎撃しようとするが、しかし威力の差は段違いだった。
次の瞬間、ボンのスキルはあっという間に吹き飛ばされ、爆発によってその体は後方へと飛んでいった。
放物線を描いて、そのまま草原に突き刺さるボン。
本当にボンの言った通り、瞬殺だった。
ただし、瞬殺されたのはボンのほうだったが。
観客たちは、騎士学校に入れるくらい優秀な人間が瞬殺された事実にただただ驚愕していた。
「――勝者、アルト」
アーサー隊長が冷静にそう告げた。
「ま、まじか……」
「ボーン家の跡取りが瞬殺されたぞ」
「てか、あのファイヤーランスなんだよ。最上級スキルみたいじゃねぇか」
観客席がざわざわする。
「(あれ、さすがに本気だったらこんな瞬殺はないはず……ボンのやつ、油断してたのか?)」
アルトは、騎士学校の生徒に圧勝した事実をそう受け止めていた。
「おおお、おのれッ!!」
と後ろに吹き飛ばされたボンは立ち上がり、歯をむき出しにして悔しがった。
だが、いくら睨みつけても結果は変わらない。
「アルト、合格だ」
アーサー隊長がアルトにエンブレムを差し出す。
「たった一撃だったが、圧倒的な努力がわかった。何十万回の試行の果てに今にたどり着いたのだという説得力があった。素直に素晴らしい」
冷静で厳しそうに見えるアーサー隊長からいきなり絶賛の言葉が出て、アルトは一瞬驚く。 だが、今まで毎日積み重ねてきた“努力”が認められたことに気が付き、たまらなくうれしくなる。
「あ、ありがとうございます……!!」
アルトが観客席のほうを見ると、リリィと目が合う。彼女は両手でガッツポーズをしてみせた。
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