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23.ドラゴンゾンビ



 ――Aランクダンジョンの最奥部まで到達し、見事にクエストを無事成功させたアルト。


 早々にダンジョンから撤収し、鉱山の下にある街に戻ってくる。

 そのころには既に日が暮れかけていたので、アルトはそのまま街の宿に泊まることにした。


「ようやくここまで来たんだな」


 アルトはしみじみと思う。


 ――魔法適性なし。ノースキルの烙印を押されてから、早二年。


 文字通り寝てる間も含めて二年間ずっとコツコツ経験値をためてきた結果、騎士学校での選抜に挑戦する権利を得ることができるようになったのだ。

 

「本当に良かった……」


 ――二年前のあのことを思い出す。

 幼馴染のリリィと交わした約束。

 彼女は先に王立騎士学校に通っている。

 レベルの高い仲間たちと切磋琢磨して、実力をつけているに違いない。


 ――だが、アルトもそこになんとか追いつくことができた。

 選抜試験に合格すれば、騎士になれる。


「魔法適性ほぼゼロのノースキルとさげすまれた俺でも……騎士になれる」


 そう思ったら、だんだん心臓が高鳴ってきた。

 ついに、自分が騎士に挑戦できるのだ。


「――よし、試験に向けて頑張るぞ」


 アルトはいつも通り修行のためにオートマジックを使い、経験値を稼ぐために自分に強化魔法をかけ続けるテキストを発動する。


 それから、宿を出てご飯を食べに行こうと、街へと繰り出した。


 ――だが、街へ出た瞬間。


 突然鳴り響く鐘の音。

 何度も、何度も、金属の大きな音が繰り返し街にとどろいた。


「な、なんだ?」


 驚いて辺りをきょろきょろしていると、街の外側から馬に乗った男が走ってきた。


「大変だ! 鉱山からボスが降りてきた!! みんな逃げろ!!!」


 その言葉に、街の人々は大混乱に陥った。


「ぼ、ボスってあの封印されてた!?」


「A級の冒険者が束になっても敵わなかったってあれだろ?!」


「まじでやべぇって!!」


 それを聞いたアルトは鉱山でのことを思い出す。


「……もしかして、あの強いモンスター!」


 アルトがダンジョンで探索して見つけたSランクのモンスター。


「もしかして俺がダンジョンを“荒らした”から外にでてきたのか?」


 だとしたら最悪だ。


 アルトは急いで鉱山がある方へと向かった。


 ――そして、街から少しでたところ。


 そこで既に戦いが始まっていた。


「ドラゴンゾンビ!?」


 穴が空いた翼に、腐りかけた肉体。

 しかし、その朽ち果てた巨体は、強大な魔力をまとって、圧倒的存在感を示していた。


 かつて冒険者たちが倒しきれなかった理由がよくわかる。


 ――朽ち果てているがゆえに、死なないのだ。


 そして、現代の冒険者たちも、それを今まさに実感していた。


「“ドラゴンブレスト”!」


「“アイスランス・レイン”!」


 街の冒険者たちが次々と、上級魔法を打ち込む。

 ――ドラゴンゾンビの肉をえぐる。

 けれど、破損した肉体は、少しすると徐々に形を取り戻してしまう。


 まさしく不死身であった。


「くそ、どうした!?」


「全然歯が立たないぞ!?」


 冒険者たちが口をそろえて言う。


 その場に集まっていたのは、街では有力な冒険者たちばかりだった。自分たちはそれなりに優秀な冒険者だという自負があり、実際にそれにふさわしい力を持つものばかりである。


 けれど、ドラゴンゾンビを相手にすると、まったく歯が立たない。


 ――ドラゴンゾンビは腐りかけた足で、ゆっくりと進んでいく。

 このままでは、街に着くまで15分といったところか。


「――<ファイヤー・ボール>!!」


 アルトは冒険者たちの戦列に加わると、自身が持っている最高レベルの技を叩き出した。


 16倍に膨れ上がった火球がまっすぐドラゴンゾンビへと向かっていく。


「グァァァッ!!!!」


 悲鳴を上げるドラゴンゾンビ。けれど一度はダメージを与えても、そのあとすぐに回復してしまう。


「全然効かねぇ!?」


 周りの冒険者たちも次々魔法を放っていくが、ドラゴンゾンビの足を止めることはできなかった。



 ――と、戦場に一人の騎士が現れた。

 この街の護衛を総括する男である。


「騎士様!! 我々ではまったく敵いません!! どうすれば!?」


 冒険者たちの言葉に、騎士が答える。


「……アイツの胴体には、7つのコアがある。それを同時に全て砕かないとダメだ」


そう、騎士は既にこのSランクモンスターを倒すすべを心得ていた。

だが、それは極めて困難なことだった。


「な、七つ同時に?! そんな、無理ですよ!!」


 あれだけの巨体の中に散らばったコアを、七つ同時に消し去るというのは至難の技であった。

 人間が同時に発動できる魔法の数は魔法回路で決まっている。


 2つの魔法回路を持つ者は2つ。

 3つの魔法回路を持つ者は3つ。

 といった具合である。


 しかし、騎士になるような優秀な人材でも、多くても魔法回路は6つだろう。

 

 7つ同時に魔法を放つには、誰かと協力しなければならない。

 しかし、人によって詠唱や技自体のスピードは異なる。それを合わせるのは至難の業だ。


「でもやるしかない! お前たち、協力してくれ!!」


 騎士が先頭に立ち、高位の鑑定でコアの位置をあぶりだす。

 そして数名の冒険者たちの一人に、指示を出す。


「俺は魔法回路を5つ持っている。だから君は右肩、あと翼の付け根に攻撃を打ち込んでくれ!」


「わ、わかりました!」


 騎士に指示により、七つのコアを破壊するため、同時攻撃を敢行する。


「“ファイヤーランス”!」 


「“ファイヤーランス”!」 


 騎士と冒険者が同時に詠唱する。


 意外にも息はあっており、滑り出しは順調に思えた。

 そしてそのままほぼ同時にドラゴンゾンビの巨体に炎槍が打ち込まれる。


 だが――


「ダメだ、コアは破壊できていない」


 鑑定結果でコアの存在を確認する騎士。


 さらにもう一度同時攻撃を実行するが、結果は同じだった。


「肉や皮の厚さが違うから、同時に着弾してもダメなんだ」


 ――つまり。


「……外面を破ってコアを露出させてからでないとダメなのか!?」


 ドラゴンゾンビの不死身の巨体は、すぐに回復してしまう。

 つまり、七発の攻撃を的中させた後、立て続けに七発の攻撃を食らわせなければならない。


「……他の冒険者たちも力を貸してくれ!!」


 騎士たちは人数を増やし、再度挑戦する。

 けれど、人数が増えると今度は攻撃が揃わない。


「くそッ――どうすれば!」


 戦闘のエリートである騎士でさえ、もはや万事休すに思えた。


 だが。


「あの! 俺にやらせてください!!」


 そこで名乗り出たのは――他でもないアルトだった。

 ――他の者たちが悪戦苦闘している間に、テキストを書き上げていたのだ。


「魔法回路をたくさんもっているのか?」


 騎士の問いかけにアルトは首を横に振る。

 

「魔法回路は1個しか持ってません」


「1個!? それじゃぁ話にならないじゃないか!」


「でも、俺は七発同時に魔法を打てます! 一度試させてください!!」


 騎士からすれば、魔力回路を1個しかもたない“ノースキル”がこの任務の役に立つとは到底思えなかった。

 けれど、アルトが根拠もなくそう言っているようには見えなかったのだ。


「いいだろう。やってみよう」


 騎士と並ぶアルト。


「(――頼む、俺のオートマジック!)」




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― 新着の感想 ―
[気になる点] 騎士と主人公の物理的距離感が謎すぎる。 戦端が開かれてる場所に後から来た主人公と後から来たけど最前列にいる騎士。 にも拘らず声はすべて聞こえるし会話もできる。謎だ
[一言] (*ゝω・*)つ★★★★★
[一言] 主人公が封印解いちゃったことになるのかな? ダンジョンに入った時には既に、S級魔物が徘徊していたんだけど、それを証明するのは難しそうだなぁ
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