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父は英雄、母は精霊、娘の私は転生者。~短編集~  作者: 松浦


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クリスマス2022

担当さんから頂いたSSのお題で、様々な理由で採用できなかったものがあったので、特別に掲載許可を頂きました。


こちらは特典SS用に収録されたものではありません。新たに書き下ろしたものになります。

 クリスマス・イブから一夜明けたクリスマス当日。

 ヴァンクライフト家の屋敷で行われるクリスマスパーティーにエレン達は参加する。


 エレンがクリスマスという行事を説明した際、神様の誕生をお祝いする日と説明を端折って適当な事を言ってしまったために、エレンの誕生をお祝いする日として決められそうになった。

 これに慌てたエレンは、オリジンに矛先を向けた。


「かーさまが納得したら、ケーキ食べ放題!!」


「きゃ~~~! いいわよ~~~~!」


 大喜びしたオリジンによって、この世界のクリスマスは「精霊の女王にお菓子を捧げる日」として決まった。

 さらに年越しが近いだけあって、このクリスマスにお菓子を捧げれば、来年は良い年になるのではという人々の期待から噂までされていた。


          *


「こんにち……」


「ケーキはどこかしら~~!?」


 エレン達がヴァンクライフト家に来て、挨拶をしようとした途端、空中からオリジンが現れた。


「かーさま……」


「オーリ、落ち着いて」


 くすくす笑いながらロヴェルがオリジンに手招きをする。ロヴェルの腕にぴたりとくっついて腕を絡ませたオリジンは、その体勢のままきょろきょろと周囲を見回していた。


「かーさま、これからパーティーに参加する方々が到着しますので、ケーキはもうちょっと先です」


「ええ~」


 しゅんと肩を落とすオリジンに、出迎えたローレンが「ケーキの試食は如何でしょうか?」と提案した。

 オリジンが気に入るかどうか、ぜひ味見して欲しいとの事だ。

 なんでも昨日、大役に張り切りすぎた料理長がこれでもかとケーキを作ったものの、女王の舌に合うかどうか分からなくて急に不安になってしまっているらしい。


「そういえば、いつも味見しながら作っていましたね」


 料理長がお菓子を作るときは、最初の頃こそレシピを提案したエレンが横にいた。それは精霊の舌に合うかどうかという確認もあったのだろう。

 今回の料理のほとんどを精霊が食べるとなれば、人と違うゆえに途中で不安に駆られても仕方がない。

 元々、料理長はディナー専門だ。お菓子作りを快く引き受けてくれていたが、精霊の女王に大量に献上する料理となれば、そのプレッシャーは計り知れない。


「まあ、素敵! お安い御用よ!」


 そんな人間側の思惑など余所に、一気に気分が良くなったオリジンはロヴェルを急かした。


「あなた! 早く行きましょう!」


 目を輝かせているオリジンが可愛くてたまらないとばかりに、ロヴェルは微笑ましそうに見つめている。


「分かった。一緒に行こうか」


「じゃあ私はお知り合いを連れてきますね~!」


 ロヴェルとオリジンが試食に行こうとする後ろで、エレンはハーイと片手を上げながら宣言する。


「えっ!? ちょっと待って、エレンどこいくの!?」


 てっきりエレンも付いてくると思っていたロヴェルが凄い勢いで振り向いた。


「すぐ戻ってきまーす!」


 エレンはそう言うなり転移で消えた。その瞬間、ロヴェルが慌てた。


「あー! 待ってエレンどこ行くのーッ!」


 ローレンは事情を知っているので、にこやかな顔で「行ってらっしゃいませ」と頭を下げている。

 置いて行かれたロヴェルは呆然として固まっていた。


「すぐ帰ってくるはずよ?」


「知り合いって誰を連れてくるつもりなんだ?」


 ラフィリアやサウヴェルはこの屋敷に住んでいる。精霊なら念話で済むことだ。誰か連れてくるような奴がいたかと首を捻るロヴェルに、オリジンは苦笑した。


「今日のロヴェルはわたくしに付き合ってちょうだいな」


「いや、それは構わないけれど……」


「エレンちゃんなら大丈夫よ。ふふふ」


「う……オーリがそう言うなら……」


「あなたの心配性も困ったものね」


 エレンがガディエルと婚約してからというもの、ロヴェルは寂しくなってしまったのかより一層エレンから離れなくなってしまった。

 時折こうやってオリジンが「あなた、構い過ぎよ~」と引き離してくれるようになったのだが、なかなか子離れが進んでいない。

 エレンの結婚式まで五年あるが、その期間でどれだけロヴェルが子離れできるかが今後の課題になるだろう。

 しかし、新たに子供が生まれたばかりだというのにロヴェルの過保護は双子へとスライドするかと思いきや、まったくそんなことはなかった。

 子供の数だけ過保護さが増している。


 そんなエレンの双子の弟妹であるサティア達は、生まれたばかりでまだまだ一日のほとんど寝て過ごしている。

 人間界では空気中の魔素が薄いので、生まれたばかりの赤子は呼吸すら難しくなるため連れて来られない。そのため双子はお留守番だ。


「さあ、あなた! ケーキが待っているわ!!」


 オリジンにとっては久しぶりの息抜きに近い今回の催しは、とても楽しみで仕方がないのだった。


          *


 エレンが転移して向かった先はテンバール王城だった。そこで待機していたガディエルに、お出迎えされたエレンは、空中に浮いた状態でふわりとガディエルに近寄った。


「こんにちは!」


「ようこそエレン」


 空中でお互いの両手を取って少しふわりと回ってみせる姿は、どこか優雅に踊っているようにも見える。


「お誘い嬉しいよ」


「えへへ。このパーティーは身内だけで毎年やることになったの。他の精霊達も来る予定だから他の人達は呼べないんだけど……ごめんね」


「大丈夫だよ。呼んでもらえるだけで嬉しくてたまらないから気にしないで」


 テンバールの王族は精霊の呪いを受けているので、精霊が絡んだパーティーというだけで呼べなない。元より仕方ないと諦めてもらっている。


「精霊にお菓子を捧げると聞いてね。城に代々伝わるお菓子があるから俺も捧げてもいいかな?」


「うん。ありがとう! かーさまが喜ぶわ」


 それでは向かおうとすると、ガディエルの護衛であるラーベがガディエルの肩に手を置く。そしてラーベの両肩にフォーゲルとトルークが摑まった。

 こうするとエレンの力で全員が一カ所に転移できるのだ。


「いつも思うが……俺の後ろはむさ苦しいな」


 ガディエルがそんなことをもらす。大人の男性三人が一人にくっついているようなこの状況にガディエルはいつも苦笑する。

 まるで大の大人が電車ごっこをしている風にも見えて、エレンは微笑ましくて笑ってしまった。

 エレン達が結婚するまではガディエルは王族のままのため、王家の護衛が常にいる状態なので仕方ない。

 とはいえ、我慢しているのは何もガディエルだけではなかった。


「それは私どもも思いますね~」


 ラーベも苦笑しながら同意した。


「では行きますね!」


 ヴァンクライフト家の屋敷へと転移したエレン達は、メイド達のお迎えを経て庭園へと移動する。

 そこには白いテーブルクロスが敷かれていた丸テーブルが等間隔に置かれ、その上には所狭しと料理やお菓子で埋め尽くされていた。


「これは……凄いな」


 見たこともない色とりどりのケーキが並べられている姿は圧巻の一言だ。これを目にしたラーベも驚いた。


「城のお茶会でもこんなに豪華なものは見たことがありませんね」


「あ、ああ……」


「皆さん頑張ってくれました!」


 ヴァンクライフト家のメイド達や料理長なども庭に出てきた。そしてロヴェルと一緒に来たオリジンが、テーブルの上に鎮座した数多くのケーキを見て大喜びした。


「きゃああああ~~! お菓子が沢山よ~!!」


「良かったですね、かーさま」


「ああん、素敵! どれから食べようかしら!?」


「オーリ、さっき結構試食していなかったかい……?」


 ロヴェルの心配をよそに、オリジンはまだまだ食べる気でいる。そんなオリジンを止めたのはエレンだった。


「かーさま待って下さい。他の精霊達も喚びましょうね」


「ハッ! ……喚んじゃうの?」


「独り占めはダメですよ、かーさま」


「しゅん……」


「みなさーん! いらっしゃいませー!」


 エレンのかけ声と共に現れたのは、ヴァンクライフト領の改革でいつもお世話になっている精霊達。

 光の大精霊リヒトを筆頭に、生命のレーベンと治療のクリーレン、雨のニーゼルとレーゲン、土のボーゼンに植物のフランとオープスト。


「遊びに来たぜ!」


「お菓子が食べられるって本当!?」


 そんな賑やかな大精霊達の声が庭に木霊する。


「おお! 酒もあるぞー!」


 土のボーゼンが大喜びで先に飛びついた。


「ああーん! わたしくのケーキよ! 大事に食べてぇ~!」


 叫ぶオリジンの声にかき消されそうになるが、エレンは声を張り上げた。


「はーい、ちゅーもーく!」


 エレンがそう言うと、騒がしかった大精霊達がピタリと静まった。


「今日は皆様お集まり下さりありがとうございますっ! この度、本日はクリスマスとして正式に精霊の女王様ありがとうの日になりました!」


「いや~ん、エレンちゃん、もっと言ってぇ!」


 精霊界で女王に感謝する日なんてものなど存在しないせいか、オリジンは大喜びしている。


「豊作をお祝いする秋祭りもありますが、今日は一年の締めくくりとして大精霊に感謝を捧げ、そして来年を良い年にしたいという人間界の皆様からのお願いとして、お料理にお菓子、お酒をたくさんご用意して頂きました~!」


「わ~い!」


「さあ、料理長さんどうぞ!」


 エレンのかけ声と共に、料理長がカートを押して庭にやってきた。

 そのカートに乗せられていたケーキは五段重ねのデコレーションケーキで、リンゴで作られた薔薇や苺、ベリーなどが飾られていた。

 天辺には飴細工で作られた女神を象った人形まで飾られている。その凄さに周囲ではどよめきが走った。


「かーさまへプレゼントですっ!」


「きゃあああああああああん!!」


 オリジンが黄色い悲鳴を上げた途端、オリジンの身体が黄金に包まれた。

 オリジンの足元からぶわりと草や花が咲き乱れ始めている。まるでそこだけ春がやってきたような暖かさに包まれた。


「オーリ!!」


「わ~~~~! かーさま落ち着いて!! 力がもれています!!」


「はあ、はあ、どうしましょう! わたくし興奮してしまって暴走気味だわっ!」


 エレンは何かオリジンの力を発散させるものはないかと慌てた。そして慌てすぎて言ってしまった。

 なぜかクリスマスといえばイコールでモミの木が頭を過ってしまったのだ。


「そうだ、かーさま! 裏山に一本大きな木を造って下さい!」


「え?」


「クリスマスは神の象徴として大きなモミの木に飾りを付ける風習があるので、おっきな木を一本お願いしますっ!」


「いいわよ~~!」


 カッ! と、オリジンの身体がまた一層光り輝いたと思ったら、裏山から地響きが木霊した。

 ゴゴゴゴゴ……と、どんどんと音が大きくなるにつれて地面が揺れていく。

 テーブルの上の食器類がカタカタと震え、危うくテーブルから料理やお菓子、そして大きなケーキが地面に落ちるかと思いきや、それらはふわりと空中に浮き上がった。

 ちゃっかりオリジンが死守したのだろう。


「わ、ちょ、え、えええええ!」


「オーリ!」


 人々の悲鳴が木霊する中、突如現れたのは山と見間違うばかりの一本のモミの巨木。

 直系が五十メートルほどありそうな巨木が一本、突然生えてしまったのだ。


「ふう。これでどうかしら! あまり大きいと大変だからこの位にしておいたわ!」


 呆然とするヴァンクライフト家の人々。そして、距離があるはずの市井の者達まで、突如空が光ったと同時に生えた巨木に呆然となっていた。


「か、かーさま……!」


「エレンちゃん、この木を飾り付けるのかしら?」


 いい仕事したでしょ! と言わんばかりの笑顔に、エレンの笑顔も引きつってしまう。

 高さはおおよそ五百メートルはありそうな巨木だ。これにどうやって飾り付けをしろというのだろうか。


「クリスマスツリーのつもりが世界樹できちゃった……」


 エレンも焦っていたとはいえ、言ってしまった事も、生えてしまったものも仕方がない。


「おじさま、ごめんなさい……」


「あ、ああ…………」


 ロヴェルも驚きつつも、このツリーは一体何かとエレンに聞いた。


「クリスマスツリーとは、永遠の象徴として神の永遠の愛や生命を意味していまして……」


 クリスマスツリーの意味を教えていくと、なぜか大精霊達が盛り上がった。


「この木は母さんを象徴しているんだね!」


「あら、飾り付けならわたくし達が行いましてよ! 幹に種を植え付けてしまえば、花を咲かせることも可能だわ!」


「じゃあ、天辺のおーなめんととやらの光りは僕がやろう」


 フランとオープストがツリーに手を加え、リヒトがモミの木のてっぺんに光源を一つ光り輝かせる。


「え~~! 私達も何かしたーい!」


「じゃあ、水を雪に変えて降らせたらどうかしら? 周囲も少し雪が降っているのだし、一つだけ青々とした木も違和感あるじゃない?」


「はーい!」


「あ、ちょっと! せっかく花を咲かせたのに雪が降ったら枯れるじゃない!」


「ええ~」


「じゃあ水の玉を浮かせて丸い飾りとして所々に置いたらどうだい? 僕の光が反射して綺麗かもしれないよ」


「いいねー!」


 大盛り上がりの大精霊達は、女王が造り出した木に飾り付けを行っていく。

 遠くから見ても様変わりしていく巨木に、周囲の者達は呆気にとられたままだ。


「何度もごめんなさいおじさま……もう謝る事しかできません……」


「いや、もう何が起きても驚かない気がしてきたよ……ははは……」


 そして大精霊の気の済むまで任せっきりにしてみれば、とんでもない巨大なクリスマスツリーが出来上がってしまったのだった。


(スカイツリーレベルのクリスマスツリーができちゃった……)


 まさかこんな事になるなんて、エレンも思いもしなかったのだ。


          *


 人間達の中でも一番立ち直りが早かったのはガディエルだった。


「素晴らしい瞬間に立ち会えた事に感謝いたします。こちら我が王家に伝わるお菓子でして……お口に合うと良いのですが」


 そう言ってガディエルが箱から取り出したのは、真っ白な粉砂糖がまぶされたシュトレンだった。


「シュトレンだ!」


「知っているのかい? お酒に漬けこむ菓子で、年を越す時に王家の親族だけで食べるお菓子なんだよ。お酒が入っているから、成人した者しか食べられないんだけど……」


「そうなのね。じゃあガディエルと食べられるのを楽しみにしてる!」


「ああ。俺も楽しみだよ」


 二人でにっこりと笑い合えば、微笑ましいとオリジンも笑った。


「じゃあこのお菓子は持ち帰ってロヴェルと楽しむわ」


「ええ、ぜひ」


 一通り挨拶を済ませ、皆の手に飲み物が渡れば、またエレンが声を上げた。


「このクリスマスのかけ声はメリー・クリスマス! です! それでは皆さんご一緒に!」


『メリー・クリスマス!』


 うっかり世界樹のクリスマスツリーが出来上がってしまったけれど、大精霊達も満足のクリスマスパーティーだった。




 その後、この巨木は精霊の女王が生やしたと伝えられるやいなや、世界各地の研究者や精霊魔法使い達が巡礼に訪れ、祈りを捧げる樹として有名になっていく。


 神話の瞬間に立ち会ったと人々は口にし、ヴァンクラフト領はまた一つ有名になるのだった。


【お題:クリスマスツリーはないけれど、大きな木に飾り付ける話】

※世界樹になってしまった…。

遅れてしまいましたがメリー・クリスマス!

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