クリスマス・イブ2022
クリスマスの説明は諸説がありすぎて色々端折りました。ごめんなさい。流し目程度で読んでいただけると嬉しいです。
ヴァンクライフト領はすっかり冬景色へと変わり、時折雪も降るようになっていた。
それでも街での活気は衰えることもなく、人々の賑わいをみせている。
雪が積もることは少ないが、寒波が起きる可能性はゼロではないため、備蓄のために薪や塩漬けを売る者が多かった。
本来であれば、寒さが際立つにつれて作物も育たなくなるのだが、精霊の加護を受けているヴァンクライフト領では、いつも何かしらが豊作となっている。
豊作になった分は不作の領土へと安く出荷され、ヴァンクライフト領だけでなく、テンバール国内の食糧不足も改善しつつあった。
そんな精霊の加護を受けているヴァンクライフト領では、最近新たなお祭りが習慣化され始めていた。
年明けが近いこの時期、お菓子が大好きな精霊にお菓子を捧げると、次の年には良いことが起きるーーそんな噂が流れていたのだ。
*
ここ最近、オリジンの様子がおかしいとロヴェルから相談を受けたエレンは、首を傾げた。
「……かーさまがですか?」
「なんかずっとわくわくしているんだ。何かあったか知らないかい?」
「本人に聞けばいいじゃないですか」
「聞いたんだが教えてくれないんだよ……」
どうやらオリジンに聞いても、「うふふ。何のことかしら!」と言われて誤魔化されるらしい。
(う~ん……? ここ最近何かあったかなぁ?)
エレンとロヴェルは一緒に首を捻って考え込むが、思いつくことなどない。
「こうなったらブレインストーミング法で考えましょう!」
「ぶれいん……?」
「考えられる可能性をどんどん出していくんです。まず一個目! かーさまがわくわくする事といえばぁ~~お菓子!」
「あー……肉か?」
「とーさまから甘やかされる!」
「う~ん、エレンが新しいお菓子のレシピを出す」
「何か面白いものを見つけた!」
「祝い事は好きだな」
「祝い事……」
ロヴェルの言葉にエレンはピタッと止まった。
「あーー!」
エレンは何か思い出したのか、大きな声を上げた。
*
しまった……とエレンは頭を抱えた。それもそのはずで、明日はクリスマスだったのだ。
「以前どこかの神様の誕生日をお祝いする日があって、その日に鳥の丸焼きとかケーキとか沢山作ってお祝いするっていうのをやったと思うんですけど……」
「ああ! エレンがかーさまの日とか言ってたやつだね。オーリがケーキ食べ放題に釣られて承諾していた……」
「それです! 恐らく明日はケーキ食べ放題だと思ってる気がします」
なるほどな……と納得したロヴェルだったが、すぐに問題に気が付いた。
「今から屋敷の者に言って間に合うか?」
「それなんです! とにかく急いでお願いしなきゃいけません!!」
エレンとロヴェルはこそこそと話し合う。
転移で飛び、急いでヴァンクライフトの屋敷にお邪魔して料理長達にお願いしようと調理場へ飛び込んだ。
「料理長さーん!」
突然飛び込んできたエレンとロヴェルの姿に驚いた強面の料理長は目を丸くしていた。
しかし、調理場の様子にロヴェルとエレンも驚く。どうやら何かのパーティーの準備をしているようだった。
「あ……もしかして、今とってもお忙しい……?」
「え、ええ、まあ。一体どうなさったんで?」
「……とーさま、どうしましょう」
困った顔でエレンがロヴェルを見上げると、ロヴェルも少し考え込んでいたがすぐに料理長へ事情を聞いた。
「今から何かあるのか?」
「これは明日のパーティーの準備をしております」
「明日? パーティー?」
エレンとロヴェルは顔を見合わせた。そんな予定がヴァンクライフト家であったのかとお互い顔を見合わせるが二人とも何も知らなかった。
貴族関係のパーティーでもあるのかとも思ったが、基本的にヴァンクライフト家で何かやろうものなら、テンバール国中が我先にと乗り出してくるので、基本的にはやらないことになっている。
テンバールの貴族達がロヴェルやエレンに接触してきたりするのを防ぐためにも、もしそういう催しがある場合は事前にサウヴェルから連絡をもらっていた。
「エレン、何か聞いているかい?」
「いえ、何も……」
「料理長、明日のパーティの主旨を聞きたいんだが」
「おや? ローレン様からお聞きになられていないんですか?」
「……ん?」
話を聞くと、なんと以前エレンが教えたクリスマスという行事が話題を呼び、精霊の女王に感謝をする日として巷に広まりつつあるのだそう。
「我々も盛大にお祝いをしなくてはと旦那様のご指示がありまして。屋敷の者が総出で準備をしておりました。申し訳ありません。てっきりご存じだとばかり……」
丁度その時、慌ててやってきたサウヴェルとローレンが到着した。
「兄上! ああもう、急に来るとか何事ですか」
「すまん」
「これはこれは。バレてしまいましたねぇ」
ほっほっほっとローレンは微笑ましそうに笑っている。
ようやく事態が飲み込めたロヴェルとエレンは、ホッと胸をなで下ろした。
「兄上とエレンに伝えたら、義姉上にバレてしまうと思ったんですよ」
「それなんですが、前にやったのがとても嬉しかったみたいで、かーさまが常にのぞき見していたみたいです。そして明日はケーキ食べ放題だと思って楽しみにしています」
「ははははっ! それは作り甲斐がありますな!」
話を聞いた料理長がとても嬉しそうにしていた。
旬ではない苺などはどうしたのだろうかと聞けば、なんとカイ経由でヴァンが精霊達から調達していたらしい。
本当に内緒で計画していたのだと聞いて、ロヴェルとエレンは苦笑した。
料理長は仕事に戻っていったが、珍しくサウヴェルからニヤリと笑われた。
「エレンが義姉上の日だと決めたのに忘れていたのかい?」
「そうなんです……。これは何かお詫びをしないといけないなと今悩んでいます」
「しかし危なかったな。覚えていてくれて助かったよ、サウヴェル」
「いえ、これほどまでに領地に恩恵を頂いているのですから当然ですよ」
今回ばかりは助かったとエレンはサウヴェルにお礼を言う。しかし、今この時も水鏡で見ているだろうオリジンが喜ぶことはなんだろうかと考える。
(クリスマスか~。そういえば前日はイブとかって……あっ)
「そうだー! 前夜祭だ!」
「どうしたの? エレン」
「クリスマスの前夜祭です!」
「え?」
「クリスマスは神様に感謝して家族でお祝いする日なんですが、その前夜祭をイブと言いまして、恋人達のクリスマスっていうのがあるんです」
「恋人達のクリスマス……?」
「今日が! その日!」
「えええっ」
エレンの言葉にサウヴェルとロヴェルが驚いている。
「夫婦はどうなるんだ?」
「基本的に夫婦は家族なので明日ですけど、別にいいじゃないですか!」
「ふむ……確かに。で、恋人と何をする日なんだい?」
「……なんでしょう? 一緒に過ごすということは、イチャイチャする?」
「エレンからイチャイチャなんて言葉が出ただと……!? 一体どこで覚えてきたんだ!? くそ、まさかアイツか!?」
ロヴェルがエレンの両肩を摑んで軽く揺さぶってくる。エレンは面倒くさそうな顔をしながら言った。
「ヴィントですかね?」
「予想外の名前だった! というかいつの間にエレンの教育に悪いことを……あとで氷漬けにしてやるッ!!」
「氷漬けにしたら冬眠しませんか……?」
ヴィントはヴァンの父親だ。妻であるアウストルをとにかく愛している。
この間、アウストルがいる時にヴィントが飛んできて、「アウストル-! 寒いので私とイチャイチャしましょう!」と叫んでいたのを思い出したので、丁度良いとばかりに言ってみた。
ヴィントは変化の大精霊で、獣化すると龍になる。そのせいか寒さに弱いようなのだ。イチャイチャもアウストルの冬毛に埋もれたかったんだろうなと分かっていたが、いつものようにアウストルの拳で阻まれていた。
「まあ、そんな感じで恋人達と一緒に過ごす日……みたいな感じなので、人間界でも自分達のお祭りにしてしまえばいいと思いまして」
「前夜祭で人間を祝い、次の日に精霊を祝うか……なるほど。そういう考えもあるのか」
「で、とーさま! こしょこしょこしょ……」
エレンはロヴェルに何やら耳打ちしながら相談している。その姿を見て、サウヴェルとローレンはハテナマークを頭上に飛ばしていた。
エレンの相談事が終わると、ロヴェルがエレンに頷いた。
「ではおじさま、明日はどうぞよろしくお願いします!」
「あ、ああ。任せてくれ」
慌ただしくやってきたエレン達は、別れを言うと転移して消えた。
まるで嵐が去ったかのような静けさの中、サウヴェルはローレンと顔を見合わせて苦笑する。
「黙っていて申し訳なかったな」
「さようでございますね」
「しかし今日は前夜祭か……」
「ほっほっほっ。本日の奥様はヒューム様と治療院にいらっしゃいますぞ」
「なっ、ローレン!」
「ほーっほっほっ」
真っ赤になったサウヴェルに追い打ちをかけるようにローレンの笑い声が廊下に響いていた。
*
「じゃあ、とーさま。お願いしますね!」
「分かった」
精霊界に戻ってきたエレンとロヴェルは、鼻歌を歌いながら水鏡を覗き込んでいるオリジンの下へと向かった。
「あら、お帰りなさい!」
「……かーさま、見てましたね?」
「えっ? な、なんのことかしらっ!?」
ぷいっとそっぽを向くオリジンに、見ていたな……とジト目を向けるエレン。
チラッ、チラッとこちらをのぞき見るオリジンに、エレンは目を光らせた。
「かーさま、前夜祭の話を聞いていましたね?」
「えっ、あっ……で、でも、ちゃんとは聞いてないわ!」
それでごまかしているつもりなのかとエレンは苦笑する。
「ごめんね、オーリ。俺達が忘れていて」
「いいのよ。わたくしもたまたまのぞき見して思い出したくらいだもの」
精霊界では人間界の一年があっという間に過ぎ去ってしまうほどに時間の感覚が人間界とは違う。実はあれからもう一年が経つのかと驚きが隠せないほどだ。
ケーキ食べ放題は覚えていたものの、それが明日というのは本当にたまたま見て知ったようだ。
「ああ、それでねオーリ。今日はクリスマスの前夜祭と言って俺達の日らしいよ」
「え? どういうことかしら」
本当にちらっとしか見ていなかったらしい。これに気をよくしたエレンとロヴェルは顔を見合わせてお互いがニヤリと笑った。
「ではでは、ご説明しますのでちょっとこっちに来て下さい!」
「……?」
エレンはロヴェルとオリジンを自分の部屋へと案内した。
「以前クリスマスは神様が生まれた日だというのをご説明をしたと思うんですが、実はこのイベントには神様の御使いがおりまして、サンタさんと言いまーす!」
エレンは自分のクローゼットからお気に入りの赤いポンチョを取り出した。白いふわふわのファーが付けられていて、クリスマスにはぴったりだ。
サイズは違うがストールのように羽織るだけなので、エレンはオリジンにそのポンチョを羽織らせた。
オリジンはとても華奢で、エレンのポンチョだとしても少し小さいくらいで収まっている。
「サンタさんはこういった赤い服装と端が白のふわふわで覆われた服を着ていまして、一年いい子にしていた子供の所へ贈り物を届けてくれるそうです」
「へえ~」
「贈り物がもらえるのは子供だけなのかしら?」
「基本的には子供だけですね。というのも、各ご家庭のご両親がサンタさんなので」
「ああ、なるほど。そういう感じなんだね」
「神様の誕生日に、自分の家族が幸せなのは神様のおかげですとお礼と共にお祝いするんです。そして子供が一年いい子だったらサンタさんからご褒美が届くよと教えるんです」
「そうやって子供に信仰を教育をしていくのか」
「はい。以前はこの神様の誕生日をかーさまに感謝する日にしましたけど、さらにまだありまして……このクリスマスの前日が前夜祭と言って、恋人達のクリスマスと言っている国もあります」
「あら、それじゃさっきロヴェルが言っていたのは……」
「ね? 俺達の日だろう?」
「素敵ね!」
「あ~でも実は、これは色々と誤解が重なりまして……」
「えっ?」
「クリスマスというのは前夜祭の日の日没から、次の日の日没までで、時間的には一日なんです。でも日をまたいでいるでしょう?」
クリスマス・イブとはイブニングの略である。夜とか晩という意味なので、「この日の晩からクリスマスですよ」という意味でしかないのだが、他の国になればイブという言葉の意味など分からない。
そのせいで前日、または前夜祭という意味で誤解されたまま一般化してしまったといわれている。
「ああ、なるほど。国が変われば常識も変わる。他国ではなかなか理解されないんだろう」
「はい」
「あらまあ」
「法改正で旧暦と新暦でごっちゃになってしまったのも原因と言われてますが……でも楽しく神様の誕生日を祝えればいいよね? って感じで、他の国ではクリスマスの前日が丸っと前夜祭としてお祝いされています」
「ああ、まあそういうことはどこにでもあるな」
「さらにその前夜祭の前の日はイブイブと呼んで友達と遊ぶ日、なんて勝手に作った国もあったそうです」
「かこつけて遊びすぎだろう」
さすがにやりすぎじゃないのかとロヴェルも笑う。
クリスマスとサンタクロースも別の事柄が重なっただけだと言われているし、恋人達のクリスマス・イブも、映画から派生したなどの説がある。
中にはイブの前の日を和製英語でイブイブと呼んで、たまたま祝日と重なっていたことから、友達と遊ぶ日なんていう時期もあったそうだ。
「まあ、楽しめれば良いってことで!」
そんなクリスマスの説明をしながら、エレンは悩んだ末にとんがり帽子の先に白い綿毛のような丸い装飾が付いたナイトキャップを取り出した。
「あら、それはエレンちゃんのパジャマじゃなくって?」
「色は違いますが、イメージ的にはこんな感じの服装がサンタさんです」
そう言ってオリジンの頭にナイトキャップを被せる。こんな感じ! と、じゃーんとお披露目すれば、ちぐはぐだがオリジンサンタが出来上がった。
「う~ん、ナイトキャップはやっぱり色が違うから外しましょうか……」
なんか違うと外したが、ロヴェルとオリジンには充分イメージとして伝わったようだ。
「恋人達のクリスマスは、お互いがサンタさんになって互いに祝うんです」
「なるほど」
「じゃあ、わたくしもロヴェルを祝うのね!」
ロヴェルとオリジンは互いに顔を寄せながら抱きしめ合った。オリジンの嬉しそうな顔に、エレンはホッと胸をなで下ろす。
「しかしなんというか……」
エレンはオリジンの赤いポンチョを羽織ったままの姿を見て、どこかで見たな……と首を捻る。
(あ、思い出した!)
コンビニに置いてある青いテープで綴じられた青年漫画雑誌の表紙だと一人で納得した。
「これが俗に言う卑猥というやつですね……!?」
「エレン!?」
エレンの突然の言葉に驚くロヴェル。オリジンは自分のことだと思わず首を傾げたままだ。
オリジンの格好はまるで水着のような薄着。そこに赤いポンチョを羽織っただけの姿は、水着を着たグラビアアイドルがサンタの格好をしているみたいに見えていた。
「俺的には最高だけど!?」
「とーさまって本当にムッツリですよね~」
「くっ……見栄を張って否定したい気持ちと事実とが俺の中で戦っている!」
エレンが冷めた目でロヴェルを見る。
オリジンを喜ばせるためにクリスマスの前夜祭を恋人の日として一緒に過ごしてもらおうと思ったのだが、予想外にロヴェルまで喜ばせてしまったようだ。
「素晴らしい女神様が今日だけ俺だけのサンタさんか。たまらないな」
「あら、ふふふ。急にロヴェルが甘えんぼさんになっちゃったわ」
あっという間に二人の世界に入ってしまったので、エレンは作戦成功だとばかりにロヴェルにグッジョブサインを送った。
ロヴェルはエレンにウインクをすると、オリジンと共にどこかに転移して消えてしまった。
きっとこれから、恋人達のクリスマスを過ごすのだろう。
「…………」
自分の部屋で一人っきりになったエレンは、なんだか寂しくなった。
うんうん唸って葛藤していたが、やはり寂しい。そして自分も両親に触発されたようで、彼に会いたくなった。
急きょメイドにお願いしてお菓子を可愛く包んでもらい、念話でとある人物に連絡をして転移した。
転移をした先はテンバール王城。執務室で書き物をしていたガディエルが笑顔で迎え入れてくれた。
「忙しいのにごめんね」
「大丈夫だよ。エレンの顔が見れてとても嬉しいから気にしないで」
少し照れながらも護衛のラーベに手土産のクッキーを渡すと、お茶にしようと提案してくれた。
「それで、急にどうしたんだい?」
「あの……明日ね。実はヴァンクライフトでパーティーがあるの……」
そんな会話から始まる恋人達の会話。
クリスマス・イブならば、自分だって楽しんでもいいんじゃないかと思ったエレンだった。
クリスマスを調べていたらイブイブって出てきて何それ…ってなりました。
年上の人に聞いたら年号が変わる前は祝日だったので、友達と遊ぶ日だと思っていたと言っていたのでネタにしました。
調べたらイブイブというのは出てきても、友達と遊ぶ日なんて出てこなかったのでこの人だけなんだなと思った記念。笑




