-仲間外れではありません-
更新が遅れて申し訳ありません。
ぼちぼち頑張ります!
※シリウス殿下の年齢を間違えていたので訂正しました。
大変失礼いたしました。
(2020/8/13)
「……とゆうことから、このユザリア領は鉱石が沢山採れるようになったんですよ。次の王宮舞踏会では体調が優れない領主の変わりに息子夫婦が来るから挨拶するといいですね。2人ともとても良い方々ですよ。」
今日もアカデミーから戻り、マナー教育を受けている。
講師はマーガレット・ハンズ様。
何でもカーリス様、シリウス様兄弟の乳母をされた方で現在エリーシア様のお妃様教育もされているらしい。
一切妥協は無くてスパルタ気味だがとても愛情を感じるし、休憩のティータイム時等はとても優しく我が子のように接して下さる。
………が、何故か今私に授業を開いているのはマーガレット様ではなく、長く束ねた黒髪が素敵な美少年である。
「はい。………あの、毎回教えて下さるのは有り難いんですがこんなに頻繁に来られても大丈夫なのですか?シリウス殿下。」
「僕の心配は大丈夫ですよ。気遣い感謝します、聖女殿。」
そう言ってはにかむシリウス殿下の笑顔に今日も私は不覚にも誤魔化されてしまうのである。
事の発端はエリーシア様達がシリウス殿下に報告をする集まりだったそうだ。
アカデミーの教会でのお茶会(被害者の会)が余りに盛り上がり楽しく過ごしているとリリー様がシリウス殿下に自慢したらしい。
(正確に言うと自慢したように聞こえたらしい。)
「私は12才でまだアカデミーの高等学部には入れないのにリリー嬢達だけ楽しんでずるい。」
と拗ねてしまわれたらしい。
(カーリスだったらドン引きする話だがシリウス殿下だと可愛いと思う。これが人徳か…としみじみしてしまった。)
そして拗ねるだけでないのがシリウス殿下だ。有能なシリウス殿下はその日の内にマーガレット様に根回しをしてマナー教育のマーガレット様付従者の座を奪い取り、毎回変装してやって来るのである。
初めてマーガレット様の後ろから従者の格好をして現れたシリウス殿下を見つけた時は卒倒するかと思った。
(失礼が無いように王族の方の姿絵でシリウス殿下のお顔は知っていた。)
更には挨拶も漫ろに、片膝をついて
「この度は愚兄が大変不敬に不敬を重ね…………」
と謝罪を始めた時はもう意識が半分飛んでいっていたと思う。
何とか残りの半分の意識が働いて立ち上がって貰ったのはまだ記憶に新しい。
王宮の方は護衛の騎士の方といい皆心臓に悪い。
そんなこんなで謝罪から始まったシリウス殿下の突撃であったが、情報交換の為大体2日に1回のペースで会いに来てくださる。
カーリスとは違い、公務も真面目にこなして日々忙しくお過ごしだと聞いていたのでこの訪問は大分な負担になっているのではないかと気になって仕方ない。
それで冒頭の様にシリウス殿下に聞いてみてもはぐらかされてしまうのである。
「さて、アンナさん。お茶に致しましょう。シリウス殿下もお越しくださいませ。」
マーガレット様の声ではっと我にかえり、お茶が準備してあるテーブルへと移動する。
お茶の時間と言えどマナー教育中、座り方、カップの取り方や飲み方など頭の中で整理し、ドキドキしながら席に座る。
「そう言えばうちの愚兄が盛大な勘違いをしているるらしいですね。」
ニコニコしながら話しかけるシリウス殿下に私は首を傾げた。
「勘違い、ですか?」
「あれ?伝わっていない…?なにそれ、とっても面白いね。エリーシア嬢達の冗談かと思ったら本当なんだ。」
クスクス笑うシリウス殿下に更に首を傾げた。
「えと?カーリス様がどうにかされましたか?」
「いや?こっちの気のせいなのかもね、それより最近の様子はどうですか?怪我等はされてないようだと報告は受けていますが…」
「あ、はい。最近は機嫌が良い日が多くて何とかなっております。ですが、仲良しアピールを強化したいのか最近は私のことは呼び捨てですしカーリス様の事も『カーリスと呼べ』だとか言うし、腰に手を回してこようとするし、『婚約者の居られる身で誤解を生む真似はお控え下さい』とお願いしても『女の嫉妬は見苦しいものだよ』とかニヤニヤ言って聞いてくださらないし、不敬を承知で申し上げますと迷惑だし少し気持ち悪いです。」
ブファッ…ゴホゴホ………
「……大変失礼致しました。」
……側に控えていた護衛さんが盛大に噎せて謝罪した。
侍女さん達はプルプル震えて明後日の方を向いているし、マーガレット様は珍しく口をポカーンと開けて固まっている。
「は、ははっ。そうなんですね。ここまで来るとあの人も憐れだなぁ。聖女殿、迷惑をおかけします。」
一人朗らかに笑うシリウス殿下が頭を下げる。
「あ、頭をお上げ下さい!!本当に最近は本当に口だけですし、カーリス様と言うよりはサイラス様達の方が多い位で…」
「ほう、サイラス達は聖女殿に何と?」
「『捨てられないように精々媚びておくんですね、まあ捨てられたら優しいこの私が妾にでもしてやりますよ』とか『将来飽きられたら拾ってやる』とか『聖女って教会のモノでしょー?何王妃になろうと頑張ってるわけー?本当にありえないー』とか、何かオモチャを取られた子どもみたいに牽制してきて……あの人達のカーリス様狂いも見事なものですよね。私がカーリス様を取ったと思ってるんですね。まるで姑、小姑の嫁いびりみたいで…。そんなに大好きになる要素が何処にあるんでしょう。」
ゴフゥォ………ガッ、
「……はぁ、はぁ、再び大変失礼いたしました。」
さっき吹き出した護衛さんがまた盛大に噎せて謝罪している。
侍女さん達は皆後ろを向いてプルプルしている。
マーガレット様は扇子を落とした。
マナー教育の先生が扇子を落としたなんてよっぽどの事だ。
何か今の会話にまずいことでもあっただろうか?
いや、私がいびられている話なので良い話で無いのは確かなのだけれども。
あまりの反応に不安になった私は口を開いた。
「あの、私何か変なこと言いましたか?マーガレット様が扇子を落とされるなんて、よっぽどの粗相がありましたでしょうか?」
「い、いえ。アンナさんは何も悪くありませんわよ。寧ろ私がはしたなかったわね。扇子を落とすなんて何十年ぶりかしら。これでは講師失格ね、申し訳ありませんわ、アンナさん」
「そうだよ。聖女殿はありのままを話して下さっただけですからね。……それにしても面白い展開ですね。まさかあの3人までとは。このまま内部分裂で自滅もありがたいですがそれより先に王宮舞踏会が来そうですね。聖女殿はこのままの調子でどんどん宜しくお願いします。」
「そのまま、と言いますと…?」
「そのまま、です。聖女殿は何も考えずにそのままで日々をお過ごし下さい。そうすれば大丈夫です。」
周りで侍女さん達も護衛さんもウンウンと頷いている。
「それにしても聖女様はとても面白いですね。やっぱりエリーシア嬢達はずるかった。こんなに面白いのに私を仲間外れにするんですから。明日の集まりでは私が自慢する番です。今から明日が楽しみです!」
シリウス殿下がわざと拗ねたようにして此方を見ている。
自分の可愛さを分かっている顔だ。
なのに嫌みったらしくないとは本当に玄人である。
「いえ、シリウス殿下を仲間外れなんて…それに私は別に面白味も何も無いと思います。そんな私にこんなに良くして下さって本当に感謝しております。」
シリウス殿下の玄人加減に尊敬しながらお礼を言う。
「聖女殿が快適に過ごせる為に動くのは王家の責務なので当然です。それに聖女殿はとても謙虚でアホ兄とは大違いですし、これ位は当然です。なのでこれからも宜しくお願いしますね。」
暗に『もっと私を楽しませてね』と聞こえた気がしたが、何処にシリウス殿下が喜ぶ要素があったのかもわからない私はただ『はい』と応えるしかなかった。
まあ、良くして下さってるのは本当だから良いんだけどね。