-絶望と光明 1-
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聖女
それは異世界より召喚された女性であり、神へ言葉を届け、結界を護る唯一の存在。
神官や司祭数百人単位の結界維持能力を1人で賄い、神へ祈りを届けて天災を減らし、豊穣を賜る。
何故異世界からの召喚者でなければならないかは未だに不明だが一説によると異世界を越えてくるというイレギュラーが発生した際に聖女の力を賜っているらしい。
聖女の力は魔力等を伴わず、祈りの真摯さと祈る聖女の幸福度の高さで決まるという。
これは聖女が自らが聖女であることを傲らず清らかな心を保ち、ただの祈りの道具として虐げられないように幸福であれと神のご慈悲とも言われている。
そうして1日1回祭壇にて祈りを捧げ、国を護るのである。
パタン
「何が幸福度よ……」
杏菜は自室で聖女に関する本を読んでいた。
アカデミーで学ぶことを阻まれているが教科書は配布されている。杏菜はそれを自室で読んで自学していた。
パラパラと歴史の教科書を開くと聖女についてのページがあったので読んでみたら幸福度なるフレーズが出てきてある意味ビックリした。
幸福ってなんだろう。
衣食住が保障されていること?
後ろ楯があって身分が保障されていること?
でもそれって必要最低限な気がする。
(王家の後ろ楯は最低限ではないが正直そこまでの保障はいらなかった。)
私がカーリス達から受けている仕打ちは幸福度に関係無いのだろうか…
ここ1週間、いや、10日はカーリス達からの仕打ちは酷くなるばかりだった。
******
バシッ
「きゃっ……」
「アンナ嬢、一体どういう事だい?何故私の許可なしにアカデミー長と会ったりした?」
「それは、王様よりお呼び頂いた席にアカデミー長が居られたたけです。許可なんて…」
バシッ
「何口答えをしてるんだい?そんな言葉が聞きたいわけでは無いんだけど。どうしてその場に私を呼ばなかったのか、という話だよ。しかもアカデミーの教会で週に3回も祈りを捧げるってどういう事かな?どうして了承した?それを決めるのは私であってアンナ嬢ではないよ?勝手なことをする子には罰が必要だね。ガリオン。」
「はっ!」
ガッ!
ガリオンは杏菜の首をつかみ床に押さえつけ、背中に模造刀の鞘を押し付けて圧迫してきた。
「グッ……(息が、出来ない)」
「聖女よ、苦しいだろう。騎士団で捕り物をする時の捕縛姿勢だ。普通の女性にはキツいだろうな。嫌なら早くカーリス様に謝罪するのだ。」
「ヒュー、ヒュー、カー、リ……ス様、申し、訳、ヒュー…」
「ちょっとー、聞こえないよー?ガリオンやり過ぎなんじゃないー?殺しちゃダメだよー?」
「そうですよ。これでも聖女なのですから死んだら不味いですからね。そこら辺にしておきなさい。」
「ちっ」
ゴホッ、ゴホゴホッ……
「ほら、謝罪はまだ終わってないよ?アンナ嬢。しょうがないからアカデミーでの祈りの件は許してあげよう。許すのも王の役目だからね。ほら、ちゃんと跪いて謝るんだよ。」
「はぁ、はぁはぁ、カーリス、様、ゴホゴホッ、申し訳、ありません…でした。」
「今度からは勝手なことをしないようにするんだよ。ああ、可哀想に、そんなに咳き込んで…首に痣も出来てるじゃないか。コニック、回復してあげるんだ。私も本当はこのような乱暴はしたくないのだよ。アンナ嬢分かってくれるかい?君が余計なことをするからいけないのだよ。」
「カーリス様優しいー。……よし、回復完了ー。後はこの回復薬飲んでねー。ガリオンもさー、痣は消えにくいんだから見えにくい所にしてよね!」
「ふん、聖女が謝罪しないのが悪い。それより聖女、何を泣いている。今から移動するのに貴様が泣いていたら問題になるだろう。さっさと泣き止め。」
「これだから女性は嫌なのです。すぐに泣いて解決すると思っている。」
悔しい。
なんでこんな目に会わなきゃいけないの?
このモラハラ野郎とDV野郎達どうにかならないの?
だけど勇気が出ない私はこの人達の言うことを聞くしかない。
現実から逃げられるのは祭壇で祈っている時だけ。
前は王宮の自室にいる時も心から休めていたけれど、あれだけ信頼していた侍女さん達も護衛さん達も今は怖い。
カーリス達の手下で逐一報告されていたらどうしようと思ったら今まで通り接することが出来なくなった。
こんな事になるならアカデミーなんて通いたくなかった。
「ほら、アンナ嬢移動するよ。そろそろ王宮に戻らないと祈りの時間に間に合わなくなる。」
「はい。」
コンコン、ガチャ
「カーリス様、馬車が到着致しました。」
「ああ、有り難う。それではアンナ嬢、参りましょう。お手をどうぞ。」
「……ありがとうございます」
執事が報告に来た途端この外面の良さだ。
本当に頭は悪いはずなのにこういうところは完璧である。
ボイスレコーダーみたいなアイテムがあったら良いのに。
現実逃避をしながらカーリス達に囲まれて進む。
私はいつまで真摯な心を保って神に祈れるだろうか…
そんな考えが頭をちらつく。
絶望しか見えない未来に今日も私は俯いて歩くのだった。