-婚約者達の誤解-
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『た す け て』
確かに聖女様はその様に言った。
「もしかしたら私達はとんでもない勘違いをしていたのかもしれませんわ」
普段ならあり得ない速度で廊下を歩くエリーシア・コールマン伯爵令嬢はびっくりしている周りの目も気にせず先を急いだ。
*****
召還された聖女様がアカデミーに通われる。
その噂は直ぐにアカデミー内に広がり、カーリス様の婚約者である私エリーシア・コールマンにも届いた。
また、その案内役がカーリス様であることも……
まずい。
エリーシアは反射的にそう感じた。
カーリスははっきり言うと皇太子には不適合者である。
見た目と外面は良いのでロイヤルファミリーの一員としては広告塔の役割を存分に発揮していたが中身はやる気の無いポンコツである。
婚約者のエリーシアがいくら良い治世を目指すために諭しても無駄だった為、今ではお父様と如何にして婚約破棄をするか、カーリスを皇太子にさせないようにするか画策中である。
まぁ、王家にはまだ12才と若いが切れ者の第二王子が居るし、カーリス様の能力の低さは有能な貴族には知れ渡っているので仲間は沢山いるのだが……
しかしここに来て聖女の案内役という大役を任され、カーリスや第一王子派の貴族が勢いを取り戻しつつある。
(王様も王妃様もカーリス様に甘いのだけは尊敬できませんわね)
本来ならば聖女様は女性なので案内役はカーリスの婚約者である私に来るものだと思っていた。
しかし私を気に入らないカーリスに先手を打たれてしまうという失態。
これは私のミスだ。
まあ聖女様は私と同じ16才とのことなので2学年、カーリスは3学年で学年が異なる為接触は出来るだろうと考えていたらまたも予想外の展開が待ち構えていた。
「今日も聖女様はカーリス様達とご一緒にサロンに居られるそうですわよ」
「ええ!私も聞きましたわ。何でもこの世界にまだ慣れてないから王宮で親しくなったカーリス様から離れたくないと我が儘を言っていらっしゃるとか。」
「カーリス様だけでなくサイラス様やコニック様、ガリオン様までお側においているらしいですわよ。」
「本当にはしたない事ですわ。皆様婚約者が居るというのに非常識にも程がありますわね!」
そう、聖女様が授業にお越しにならないのである。
聖女様が王様より与えられた学びの場を無駄にし、男性を周りに侍らせる愚かな方だと分かった時には愕然とした。
このままではカーリスが聖女様を取り込み、そのまま皇太子に立太子してしまう。
それだけの影響力を聖女様はお持ちなのだ。
慌ててお父様や第二王子であるシリウス様、サイラス様(取り巻きその1)、コニック様(取り巻きその2)、ガリオン様(取り巻きその3)のそれぞれの婚約者であるシャーリー様、リリー様、メイルーシェ様達と秘密裏に会合を開き、今後の対策を練った。
(シャーリー様方は私と同じく婚約破棄したいお仲間である。)
「どうにかして聖女様を授業に引っ張ってこれないのかな?」
「シリウス様、それがカーリス様のガードが固くてお声を掛けることも儘ならないのです。特に私達は目の敵にされておりますわ。」
「私もサイラス様にお手紙をしたためまして、是非とも聖女様とご挨拶をしたいとお願いしてみたのですが返事すら頂けておりません。」
「コニック様も同じですわ。」
「ガリオン様からは『婚約者を気取って聖女に近づくな』等と書かれた返事が……。気取ってと言うよりは婚約者なのは残念ながら事実ですのに。」
「カーリス様は何故その執念深さと慎重さを治世に活かそうとされないのか…。そしてサイラス達は相変わらずだな。聖女様は毎日祈祷があるから王宮より通われているのだよな?そこを接触出来ないか?」
「お父様、私達も接触を試みたのですが毎日カーリス様が馬車にて同行されております。城内は手が届きませんし手紙を直接出すのもカーリス様の検閲が入っていそうで不安ですわ。」
「うん、手紙は止めた方が良いと思う。私も聖女との面会を父上に言っても『まだアカデミーの貴族にも慣れていないから王族はストレスになるだろうとカーリスに言われてな。もう少しアンナ嬢が落ち着くまで待ってやれ』と言われてしまったし。どこからアプローチするべきか……」
「どうにかして教会の人間と繋がれませんかしら?祈祷の時間は聖女様が唯一1人になる時間ですわ。カーリス様達を出し抜けるのはもう教会しか残されておりませんわ。」
「シャーリー嬢、そうだな。…メイルーシェ嬢の父君はメイアー司祭と親しかったな。メイルーシェ嬢、父君にお願いできるかな?」
「はい。私の父も今回の事に大変胸を痛めておりますのできっと力になって下さりますわ。」
「では次回はメイルーシェ嬢の結果を聞いて具体的に策を練っていこう。」
「「「「「はい。」」」」」
*****
そう言いつつ解散したのが2週間前のこと……
私達はてっきり聖女様が我が儘を言われたのをカーリス様達が上手いこと利用していると考えていた。
だからどうにかしてカーリス達と聖女様を引き離して聖女様に考えを改めて貰わねば………と思っていたのだが
私達の考えが根本的に間違えていたとしたら?
聖女様は本当は授業を受けたくても受けられないとしたら?
聖女様がカーリス達を囲っているのではなく逃げ出せないように囲われているとしたら?
聖女様が助けを求めにくいように脅されているとしたら?
本当の愚か者がカーリス達だったら…………
「政権争い処ではありませんわ。早急に調べさせないと…」
この国が滅びる前に。