89話:通信会議
「アリアさん! これ絶対まずい方に行ってません!?」
「仕方ないじゃない!! まともに戦ってたら死ぬわよ!」
竜族に追われて逃げ回っていたアリアとイザベル達は、相当な混乱を竜族側へと与えていた。
「侵入者はどこいった!?」
「ヘネシー様も繋がらない!」
「どこから侵入してきたんだ!?」
「フラパン様がやられているぞ!」
そんな中でアリア達は上へ行ったり、下に行ったりと、とにかくむちゃくちゃに動き回っていた。
結果、追っ手から逃れる為にその部屋に入ったのは、本当に偶然の産物だろう。
「えっと……」
アリア達が辿り着いたのは、モニターとコンソールが沢山並び、竜族達が何やら操作を行っている部屋、つまり……管制室だった。
本来なら、竜族のリーダーであるヘネシーが控えている場所であり、警備も厳重だったはずだが、今はレド達を迎撃する為に、そして騒がしい侵入者を追う為に出払っていた。
つまりその部屋には技術特化の竜族しかいなかった。
「と、とにかくここを制圧するわよ!!」
アリアの号令と共に、イザベル達が武器を構えて疾走。
抵抗は多少あったものの戦闘員がいないせいで、その場はすぐに制圧できた。
「扉を閉めて! それからええっと! どうするのよこれ」
モニターに映るのは、落ちる赤い星。イザベルがおもむろにコンソールを操作しはじめた。
「あんた、それ使えるの?」
「私の祖国であるリオートでも似たような物を大昔から使ってましたからね。とはいえ、形だけ一緒で全く別物みたいですけど」
イザベルがたどたどしい手付きで操作するも、使っている言語も分からない状態だ。
「ただ、数字やらなんやらで分かるのは、あのモニターに映ってるものが、あと数時間以内に落ちてきます。しかも、ここを目指して……」
「それを何とかするために、兄がここに来ているはずだけど……」
「流石に私にあれを止めるとかそういうのはできそうにないです。んー、なんとか出来ないかなあ……えっと……これかな?」
イザベルが適当に起動させたものは地下施設への緊急通信であり、本来なら意味を成さない物なのだが……偶然にもイグレスが逆方向から通信網を辿った結果――通信が繋がったのだ。
「なにこれ? なんかどっかに繋がったっぽいですけど!! アリアさん、これなんでしょう?」
「私が知るわけないでしょ!?」
アリアの声の後に、数秒間の沈黙が続き――スピーカーからは中年男性と思わしき声が流れてきた。
『あー、君達は誰かな? 竜族ではなさそうだけど』
「イザベル、代わって――あー、こちらSランク冒険者のアリア・マクラフィンです。色々あって、今【天輪壁】に潜入しています」
『そこは管制室だろ? まさか制圧できたのかい?』
「え、あ、はい。なんか弱い奴しかいませんでした」
『……くくく……リュザン、運が向いてきたぞ。さて、君達には色々としてもらいたいことがあるのだけど、誰かコンソール操作できる人はいるかい? 通信を開けた時点で誰かいるとは思うが』
「えっと、私がなんとなく操作したら勝手に繋がって」
イザベルが申し訳なさそうにそう答えると、その中年男性――イグレスが笑った。
『最低限の操作ができるならそれでいいさ。今から俺の指示通りに動くんだ。そうすれば、あの落ちてくる星は何とかなるかもしれない』
「それは……本当ですか? というか貴方は?」
アリアが訝しみながらその声に答えた。相手が味方とは限らないと思ったからだ。
『え? ああ……えっと……』『代われ。冒険者、俺の名はリュザンだ。声で分かるだろ』
「……その声はあの時の」
竜学院で見た、あの赤い騎士を忘れるはずがなかった。それほどまでにあの男は強烈な印象をアリアに残していた。
『人類を絶滅させたくなけりゃ黙って協力しろ。少なくとも俺も隣にいるアホもお前の味方だ』
「その言い方がムカつく感じで信憑性が増したわ」
『だったら言われた通りやれ』
それからイグレスによる説明が入りながら、イザベルがコンソールを操作していく。
「えっと、つまりまずはその地下にある、ろけっと? を飛ばして星にぶつけるけど、そのあと王都に落ちると危ないから、【天輪壁】のリングウォールを起動させて更に【天輪壁】の内側に障壁を張ることで完全に王都を外部から遮断させる……ってことですよね?」
『そうだ。俺達はロケットに乗って手動で星にぶつけたのちに転移魔術でそっちに移動する。障壁はロケットが飛び出た後に作動して欲しいから、タイミングが重要だ。良いか、今から言う時間をタイマーにセットしてくれ』
イザベルが言われるがままに入力している途中で、通信がどこからかこちらへと繋がっている事に気付く。
「あれ、別のところから来てる」
『俺のところにも来ているな――開けるぞ』
〝もしもーし!? あ、やっと繋がった!!〟
聞こえてきたのは、グリムの声だった。
『グリムか! 心配したぞ!?』
イグレスの声が響く。
〝全然応答しないんだから!! こっちは無事だよ。そっちはどうなってるの!?〟
そこからお互いの状況確認が一通り終わるとスピーカーから、イザベル達が良く知る声が流れた。
〝なんで、お前らがそこにいるんだ。アリア、それにイザベル。レダス達もいるのか?〟
レドの呆れたような声にイザベル達が顔を見合わせた。今さらいない事に出来ないだろうと諦め、それぞれが無事である事をレドに伝えた。
「ええっと……色々あって」
〝はあ……帰ったら説教だな。とはいえ、結果的に管制室を制圧できたのは僥倖だ。よくやった〟
「今はそんな話より、ここからどう行動するかでしょ」
アリアがイザベルに代わってレドに答えた。
〝お前らはそのまま作業を続けろ。俺達は親玉であるヘネシーがそっちに行かないように引き付けておく。今は下手に合流しないほうがいいだろう〟
レドの言葉にリュザンが同意する。
『その通りだ、レド・マクラフィン。お前らは囮になって精々足掻け。だが、ヘネシーの奴をまともに相手しても無駄だ。古の兵装と魔術を未だに使える数少ない奴だ。勝とうなんて思うな。だが、死んでも足止めしろ』
〝分かってるさ。ところで、そのロケットとやらをぶつけるってのは正気か?〟
『俺だって頭悪いことをやっている自覚はある。だが、他に選択肢はない。あの星は古代に人工的に造られた物だ。だがただの鉄の塊ではなく、あれは生きている。人工衛星に古竜を融合させて造った生体兵器……それが【欲災の竜星】の正体だ。あれは生半可な攻撃じゃ破壊できねえ。それにガワを壊したって何の意味もない。問題は中に封印されている存在だ。それは絶対に俺らで回収しなければならない。分かったか? 星が落ちる落ちないはさして重要じゃないんだ』
リュザンの言葉に全員が息を呑んだ。【欲災の竜星】の正体。星と言われ、竜とも言われたその正体。
『あれの中には……旧人類……その唯一の生き残りが封印されているんだ。もしそれが復活し竜族の手に渡れば……終わりが始まる』
イグレスの声が沈む。それほどまでの脅威が、これまでのうのうと自分達の頭上で輝いていた事にレド達は恐怖を覚えた。
『とにかく、【転移陣】をヘネシーに抑えられている以上は、俺らで止めるしかない。俺達は地下からロケットを、お前らは管制室で操作を。レド、お前達は足止めだ。いつ通信が切れるか分からねえ。何が起きても後悔するなよ!』
〝分かってるって! じゃあ一旦切るからね!〟
そう言って、グリム達の声が途切れた。
「じゃあ、私達は作業を続けましょう。イザベルは操作を。私達は、魔術で扉を更に頑丈に封鎖するわよ」
こうして三者による、星の迎撃作戦が開始された。
竜族にも色々と種類がいて、情報技術特化の竜族についてはちょっと強い人間程度の力しかないので、冒険者であれば簡単に制圧できます。
ここから怒濤の展開が始まる予定です!お楽しみに~
次回更新は11月9日(月)です! 共にキャラデザラフも公開する予定なのでお楽しみに~
恒例の書籍情報
出版社:双葉社
レーベル:Mノベルス
イラストレーター:赤井てら
発売日:11月30日予定
書籍でしか読めない1万字超えの書き下ろしと赤井てら神による素晴らしいイラストが見所です。
内容については概ねWEB版通りですか、一部修正や追記があります。かなりブラッシュアップされているので是非ともどこかが変わっているか確かめていただければと思います!




