間話:赤き騎士と古竜
【地下宮殿】――最深層。
「馬鹿な……まだそれほどの力を」
「小物くせえセリフいってねえでさっさと扉を開けろ。でないとマジでぶった斬るぞ」
ホログラムは消えて、どこからか響く老人の声に赤き騎士――リュザンが鬱陶しそうに答えた。彼の周囲には、激しい戦闘によって生じた破壊の跡が残っている。機械と生体が混じった兵器の残骸が周囲に転がっているが、リュザンは無傷だ。
「……既に、【天輪壁】は我らが支配した。もうまもなくだ。あの御方が――降臨なされる」
「そういうのは、あんまり言わない方がいいぞ? 大概の奴はそれを言って失敗する」
「もはやすぐそこまで来ておられるのだ。“宙駆け”の夢は潰えたが……こちらから迎えに行けぬのなら……来ていただくだけだ」
老人の言葉が重く響く。
「よくもまあここまで造りあげたもんだよ。技術も材料もカスみたいな物しか残ってねえのにな。これ――飛べるんだろ?」
リュザンが、先端が円錐状になった、この空間に中心にそびえるその金属製の塔を拳で叩いた。彼はそれがただの塔ではなく、空を突き抜け星の海へと至れる有人飛行機械――有人ロケットである事を知っていた。
「無論だ。だが、今となっては無用の長物よ……。あと数時間で降臨がはじまり人の時代が終わる」
「お前らも芸がないよなあ。毎度そういって、失敗してるじゃねえかよ。その人とやらのせいでよ。いい加減気付け。もう俺らの時代は終わったって。千年前は自業自得、800年前は準備不足。挙げていったらキリがねえな」
「黙れ! 今度は入念に準備を行った!」
「俺には、行き当たりばったりに見えるね。お前らは壮大な野望を叶えようとする割に杜撰すぎるんだよ。どうせ、その占拠したとかいう【天輪壁】にも既に、諦めの悪い人間共が乗り込んでいるだろうな」
リュザンは、その塔の周囲をゆっくりと歩く。
「しかし、いい加減お前とのお喋りも飽きてきたな。ふむふむ……大体この辺り――だな!」
リュザンによって大剣が塔へと突き立てられた。堅い外壁のその奥にある柔らかい感触に彼は、自分の勘が正しかった事を確信した。
引き抜いた大剣には、血がべっとりと付いていた。
「……なぜ……私のいる場所が分かった……」
「勘だよ。お前みたいな臆病もんが、一番大事にしているこの有人ロケットの側から離れるわけねえからな。どうせ自分の身体をどっかに組み込んでいるだろうぐらいの推測は立つ。んで、あとはペラペラ適当に喋らせて、反響やらなんやで適当に位置を探っただけだよ」
「もはや……私を殺したところで……遅い……ああ……マーテル様……」
老人の消え入るような言葉はやがて沈黙へと変わった。リュザンはそれに何の感情も抱かず、近くにあったコンソールを操作し始めた。老人の死によって自由に使えるようになり、同時に【天輪壁】の状況もある程度把握出来るようなった。
「ちっ。何をもたもたしているんだあいつら」
状況があまり芳しくない事に苛立ったリュザンが更に情報を集めていく。
「降臨まで、あと……5時間だと? おいおいなんで加速しているんだ?」
何度試算しても、それはリュザンの想定よりも少ない残り時間を示していた。あと20時間はあるだろうと思っていただけに、ここで初めてリュザンの中で焦りが生じた。
「まずいな……間に合わない可能性が出てきたぞ」
未だ【天輪壁】に人類側の戦力が投入された気配ない。先行部隊が苦戦しているのが手に取るように分かる。
「めんどくせえなあ……」
そう言いつつリュザンは、この場所から脱出して【天輪壁】へと直接乗り込むという作戦は時間的に無理だと判断した。保険として考えていた別の方法が本当に実現可能かを精査していく。
「しかしさっきはああ言ったものの……こいつ……本当に動くのか?」
リュザンは目の前にそびえ立つ前時代の遺物を見て、ため息をついた。彼は知っている。この場所の真上に位置する空間は【地下宮殿】の中のどの部屋や通路にも干渉しておらず、地上まで吹き抜きのようになっている事を。一番上にある格納壁を開けば、ここから空までの間に障害物はない。
そこが格納壁とは知らずにその上に立てられた地上の建造物やら何やらは無事では済まないだろうが、致し方ない犠牲だろうとリュザンは勝手に考えていた。
たかが数百人の犠牲で済むならまだマシだ。そう考えるほどに、リュザンは王都へと向かってきている物について危惧していた。
「頼むぞ人間共……かつてのお前らの努力を無駄にするんじゃねえぞ」
リュザンの感情が籠もった独り言とコンソールの鍵盤を叩く音だけがその空間に響いた。
☆☆☆
ガディス西部、バスティス山脈内――【竜住まう山二ギルヘイム】
「おーおー馬鹿共が懲りずにまたなんかやってるらしいぞ」
「いや、姐さん、シャレになってないっすよ」
にやにやとしながら、モニターを見ているのは、赤髪の美女――エギュベルだった。側にいた金髪の男――リカールがそれを見てため息をついた。
「【欲災の竜星】が落ちてくるって事は、アレが戻ってくるんすよ? 姐さんらの努力が水の泡っす」
「もう忘れちまったよそんな事。それならそれで、それがこの星や今の時代の人間共の運命なんだろうさ」
「ぶー。じゃあなんで私の時は邪魔したのよ~」
黒髪の美女がエギュベルの言葉に不満そうに声を上げた。エギュベルと似たようなドレスを着ている彼女の名はアルドベッグ。彼女もまたエギュベルと同じ、古の時代から生きる古竜である。
「気分だよ気分。んで、お前は迎えに行かないのか? 昔はマーテル様マーテル様ってべったりだったじゃねえか」
「んー、もうあの時の面影はなさそうだしねえ。誰よりも美しい人だったのに」
「冷たい奴だな。ま、戻ってきたら戻ってきたらで、丁寧にラッピングして今度こそ帰ってこれないようにもっかい宇宙に返してやるさ」
「エギュベルちゃんは昔からあの人の事、嫌いだったもんねえ。さってどうなるかなあ人類。絶滅すればいいのに~それとも進化するのかなあ? あはは、楽しみ」
楽しそうに笑ってアルドベッグが去っていく。
「――あたしはあんな物を進化だなんて思わないね」
そう呟いたエギュベルがモニターを見つめた。そこには、赤く光りながら落下してきている【欲災の竜星】が映っていた。
しかしエギュベルは知っている。その禍々しい外見にさして意味はなく、本当の意味で脅威なのはその中で蠢いている無数の存在だ。
「……頑張れよ人間。人が人で在り続けたいのなら足掻く事だ」
次話でまたレドさん視点に戻ります。
書籍化作業が佳境に入るつつあるので、来週は更新を休ませてもらいます
次話更新は、10月28日前後を予定しています!
そしていつもの書籍情報です! いっぱい予約してね!!
タイトル:冒険者ギルドの万能アドバイザー ~勇者パーティを追放されたけど、愛弟子達が代わりに魔王討伐してくれるそうです~~
出版社:双葉社
レーベル:Mノベルス
イラストレーター:赤井てら
発売日:11月30日予定
ぼちぼちキャラデザなども公開できるように動いております。かっこいいレドさんや可愛い弟子達を早くお見せしたくうずうずしております!




