8話:パーティ名を決めよう!
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2020/05/17
シースの装備の描写についてミスがありましたので修正しました
翌朝。
「おふぁようございます……」
「さっさと顔洗って着替えてこい」
「ふぁい……あ、師匠覗いちゃ駄目ですよ!」
シースがそう言って川へと向かった。
「覗くわけないだろうが……」
レドがぼやくのを聞きながら、リーデは毛布を昨日一緒に購入した背嚢へと仕舞っていた。レドより先に起きていた彼女は既に着替えも済ませていたようだ。レドが見ても、昨日の全く同じシスター服に見えるが、何着か同じ物を持っているのだろう。
「眠れなかったか?」
レドが煙草を吸いながらさりげなくリーデへと聞いた。
「少し、興奮していたみたいです。誰かと野宿なんて子供の時以来でしたから」
リーデは自然とそう答えた。
「そうか……ならいい」
「はい」
レドもそれ以上詮索するつもりはなかった。
川べりで水が冷たい! と騒いでるシースを見て、二人が目を合わせて笑う。
「師匠! こんな朝早く起きて何するんですか?」
シースが橋げたの裏で着替えを済ませたあと、レド達の元へと戻ってきた。昨日と同じ上半身は麻の服、下半身には長ズボンでその上から脚甲を装備している。
依頼をこなして金が入ったら上半身の防具も早めに揃えないとな……と考えるレドだった。
「十の時までにアイテム調達の訓練と、その後朝食を食べながら一番大事な事を決める」
「大事な事ですか?」
「師匠それは何ですか!?」
レドが勿体ぶるように一度煙草を吸って吐いた。
「そう……それは——パーティ名だ!!」
☆☆☆
レドの指示を受けたシースとリーデが買い物に行っている間、レドはギルド酒場で一人待っていた。
一時間ほど経ったあとシースとリーデが戻ってきて、それぞれ結果を報告した。
「えっと、ポーションに、解毒薬に聖水と……一通り買えました! 全部で3200ディムでした」
「ふむ、リーデはどうだ?」
「はい、同じく購入しました。計2950ディムにオマケで魔ポーションもいただきました」
「ふむ。これはリーデの勝ちだな」
「うーずるいや」
レドはあえて、二人バラバラに同じ物を買ってくるように指示して、いかに安く買えるかで勝負させたのだ。
「シース、金は何よりも大事だ。同じ物をより安く買うって技術は軽視されがちだがパーティ運営にはとても重要なんだ。ただ闇雲に安くしてくれって言っても商人もプロだからな。見るからに駆け出しの冒険者に安く売る奴はほとんどいない」
「私は大通りから外れた小さな商店で、男性がやっているところを狙いました。出来れば店先に何かしらの宗教的象徴があるところを、と思ったのですが時間がありませんでした」
「流石だな。自分の強みをよく分かっている」
「……普通の商店とそれの何が違うんですか……」
ちょっと拗ねているシースにレドは笑みを浮かべ、エミーを呼んだ。
「師匠……じゃなかった、レドさん。珍しく早いですね。あら? またうら若い乙女を拐かしたんですか」
エミーが、またという言葉を強調しながらテーブルへとやって来て、リーデへと笑顔を向けた。
「うるさいぞエミー。とりあえず朝飯を適当に三人分。俺にはビールだ」
「はーい」
エミーが笑顔で去って行く。リーデが知り合いですか? とレドに聞いたので、まあなとだけレドは答えた。
そうか、そういえば昨日リーデとここに来た時エミーはいなかったなと思い出した。
「さて、リーデがなぜ安く買えたか。まず、これは昨日も言ったが大通りの店は基本的に客が多い。だからサービスなんてしなくても客は勝手に来る。そんなところではまず安く買えない。よほどのお得意様になるか、冒険者としてのランクが上がれば別だが……。なので大通りから外れた個人商店なら値切り交渉に乗ってくれる目がある。店側としては、常連になってくれるかもしれないという期待込みで、先行投資をする形だな」
「……そういえばそうでした……失敗したなあ」
「まあ3200ディムならこの街なら適正価格だ。ぼったくられてないからギリギリ合格。そう気を落とすな」
うなだれるシースをフォローするレド。その眼差しには優しさが込められている。
「でも、男性がやっているところとかイコン? ってのは何ですか?」
「リーデは若い女性だ。見た目も良い」
「うん、リーデは綺麗です」
シースが力強く頷いた。
「男性なら可愛い少女にはつい甘くなってしまう……かもしれない」
「……そうかなあ」
シースは首を傾げながらジッとレドを見つめた。
「人にもよりますが……まあそういう事です。使える武器は全部使います」
リーデが強い意志を秘めた瞳をレドへと向けた。
レドは、それを見てやはりこの子は油断ならないなと感じていた。
この歳で、自らの武器をここまで分かっている子は少ないしそれを実際に使える子はもっといない。そういう事がこの若さで出来るのは……何かしら暗い道を歩いた事のある人間だけだ。まあ人の事を言えないので気にしないが。
レドはシースへと説明を続けた。
「イコンってのは例えば、ヨルハ十字教なら十字架、黄金教会なら麦と鎌、といったようにその宗教を象徴する物だ。つまり何かしらそういう物が、店先に置いてあるって事は信心深い店主である事が多い。そうなるとリーデのような宗教に所属する者には特別待遇をする場合がある」
「あー確かに父さんも神父さんには安く薪を売っていたなあ」
「そういう事だ。結果、リーデは安く買ってこれたという事だ。よくやったリーデ。俺の教えなんて要らなかったかもな」
レドは素直にリーデを褒めた。それを受けて、一瞬目を丸くしたリーデだったがすぐにいつもの静かな微笑みを浮かべた。
「いえ……そう言った術は過去に教わった事があっただけです。冒険者については無知なので引き続きご教授お願いします」
そう言って改めて頭を下げたリーデだった。
同時に、エミーが器用に三枚の皿と三つのジョッキを両手に持ってやってきた。
「メルヴィン酒場特製の朝プレートとビールだよ! おっと若い二人にはビールじゃなくて牛乳を入れてあるから! どんどん成長させろ! かく言う私もこの牛乳で育んだのさ!」
エミーは笑いながら胸を腕で寄せた。
「ほんとですか!? ありがとうございます! いっぱい飲みます!」
「そうですね……確かに私達には必要かも知れません」
「あんまりアホな事を吹き込むなよエミー……」
三者三様の反応と共に、エミーが去っていった。
「さて、食べながらでいい。【弓張の月】と会う前にパーティ名をとりあえず決めておけ」
「……! パーティ名!」
「それって必要なのでしょうか?」
首を傾げるリーデにシースが食ってかかる。
「リーデ! 必要に決まってるよ! 格好いいパーティ名は冒険者の誉れ!」
「まあそれは言い過ぎだが、間違ってはいない。冒険者としての知名度は大事だ。変な名前を付けると後々後悔するぞ」
「なるほど……」
「んーこういうのってどうやって決めれば良いんですか師匠」
「まあ、何でも良いんだけどな。竜信仰の名残で、験担ぎに竜を入れるパーティは多いな」
「竜が入った名前で最も有名なパーティといえば、【聖狼竜】ですね! 最近勇者に認定されたって聞きました! 凄いなあ……勇者……パーティメンバーも凄いんだろうなあ……会ってみたいなあ」
憧れを隠さず、どこか遠くを見つめるシースをレドは苦い顔で見つめていた。
それを気付かない振りをしてリーデが話を続けた。
「聖狼竜と言えば、聖狼教会の主神ですね。勇者はそちらの信奉者なのでしょうか? とても古い宗教で、今は廃れてしまったと聞きましたが」
「さてな。まあ冒険者の走りは聖狼教会の【戦教師】だって説もある。彼らは、世界を旅して教えを広め、その一環で困っている人の依頼を受けていたとか。そこから取ったのかもしれない」
「ふむふむ……レドさんは物知りですね」
「まあこれは、とある人からの受け売りだ」
そんなレドの話を聞いているのかいないのか、シースが腕を組んでウンウン唸っている。
「とりあえず飯を食えシース」
「あ、はい……、んー名前かあ」
「とりあえず仮の名前を付けて、気に入らなければ変えたらいい。駆け出しの今は知名度なんて無いに等しいから変えたところで誰も気にしない」
「確かに……んー竜か……竜といえば僕は【白竜】だなあ。村に伝わる伝説の竜なんですけどね」
「私としては竜と言われるとやはり息吹を連想しますね。ブレスは、祝福とも読めますから、我々聖職者にも関係の深い言葉です」
「リーデの意見を取り入れると、なんとか竜の息吹みたいな名前かなあ……」
ゆっくりと朝食を食べながら、シースとリーデのやり取りを黙って見ていたレドは懐かしい気持ちに浸っていた。
【聖狼竜】という名前を考案したのは確かエレーナだったなと思い出した。
今頃、彼女はどうしているだろうか。セインとディルはもはやどうでもいいが、彼女の事だけは少し心配だった。
パーティ名は大事ですが、後から変更可能なので割と頻繁に変えるパーティもあるとか。
変えるメリットはさほどないですが、一応悪い方向に有名になった際に少しは有効です。とはいえ、全記録がギルドには残っているので完全に消せるわけではありません。冒険者ギルドは過去にあれこれやらかしてからは、冒険者の管理をかなり厳しくしているようです。その弊害も出てくるのですが……それはまた作中にでも出てくるかと。