81話:大会議
「さてと……じゃあまずは情報を共有する為に現状を説明しようか」
冒険者ギルド本部、大会議室。
名だたる冒険者や各部署の代表者が列席する中、中心にいるのはギルドマスターであるアルマス、レド、アリア、カリスだった。【血卓騎士団】の代表として呼ばれていたリュザンは欠席しており代わりにコリーヴが代理で座っている。
そしてレドの隣には笑顔のグリムが座っていた。
「昨日、起きた【塔】襲撃事件および【天輪壁】の誤作動、そして魔術障害。これらは全て繋がっている。まずは、【塔】襲撃事件については、当事者であり【塔】の所長であるカリス・アノマ・バージェスから説明してもらおうか」
アルマスの言葉でカリスが立ち上がった。
「……まずは、今回の件、重要なデータが奪われたのは私の管理不行き届きが原因だ。責任は取るつもりだが、まずは謝罪させて欲しい」
そう言って、カリスは頭を下げた。
「さて、大体の状況は諸兄らも把握していると思うので、簡潔に。【塔】は位置的に【地下宮殿】の真上だ。ゆえに、万が一を想定して防壁を何重にも築いていたのだが……全て突破された。これについては、竜族と内通者の仕業だと推測できる」
「竜族ね……コリーヴ、騎士団は【地下宮殿】で大規模作戦を行い、竜族とも接敵したそうだね」
アルマスが騎士団の代表であるコリーヴに話を振った。
「ええ。元々は王都に侵入した魔族の捜索だったんですが……そこで騎士団は竜族とその眷属に遭遇しました。まさかその時に奴らが【塔】を襲撃しているとは思いませんでした。結果、一部の竜族は逃しましたが、ほとんどのものは竜学院内のも含め討伐しました」
「ではなぜ、竜族は今になって活動を開始し、【塔】を襲撃したのか。レド、君から説明を」
アルマスの言葉でレドが立ち上がった。
「まず、俺が旧世界の遺跡から手に入れたデータの解析を【塔】のカリス所長に依頼した。これについては、ギルドマスターも承知のはずだ」
「うん。あのレベルのデータ解析となると【塔】でないと無理だしね」
「結果、【塔】内にいた竜族の協力者……つまり黄昏派にそれがバレて、襲撃に至った」
レドの言葉の途中で、手が上がる。情報部のミラゼルだ。
「そのデータの内容とやらが重要なんだが。情報部にも上がってきていない事自体が異常だぞ」
「それには私から答えるわ。その前に、王より依頼されていた【天輪壁】の解析について話させて頂戴。そっちのが結果早いから」
カリスが答える。
「構わないとも。話の腰を折って済まなかった。私はせっかちでね」
ミラゼルが手を下げた。
「さて長らく謎とされていた【天輪壁】の存在理由や構造についてだが、最近ようやく調査が始まってね。ある一定の周波数を発している事が分かり、これを解析してみたんだが……これがまた色々と厄介でな。まず内部については、空洞があり……何かしらの遺構である事が確認されている」
「内部調査が進んだんだね」
「ああ。王直属の部隊と【塔】の研究員で内部を調査した結果、あれは何かしらの管制塔もしくは発射台……と我々は仮定した」
「発射台?」
アルマスのその言葉にレドも同様に疑問を抱いた。発射台、管制塔。どうにもあの輪状の物体と結びつかない。
「リングウォールについて話すわ。あれはあらゆる物を遮断する。そして我々はそれが外に対する防壁と長らく考えてきたが、違った。【天輪壁】は、とある物体を発射する際の制御誘導を行う為に築き上げられた物だ。そして、その物体の発射の際に放たれる衝撃波、魔力震などを内側に留めておく為に、リングウォールは存在していた」
なるほどとレドは納得した。発射するのだから、当然真上は開けないといけない。そうすると結果的にあの形になるのだろう。
「さて……ここで疑問が出てくる。こんな大規模な機構を使って何を発射したのか。その答えが例のデータに詰まっていた」
「なるほど、見えてきたよ。それで、それは何だったんだい?」
アルマスの問いに、カリスは一瞬ためらいを見せた。まるで、自分でもまだ信じられないといった様子だ。
「……星だ」
会議室がざわつく。星を発射する? ここまでの話はまだ想定内だったが、いきなり話が飛躍している。
「その星の名称がデータ内にあった。それは――【欲災の竜星】……その特徴は、我々が良く知るとある星と一致した」
「当ててあげよう。それは――【災厄の星】だね」
「その通り。月や星や太陽と同じぐらいに我々にとっては常識的な存在だ。それが人工物であり、更に人為的に発射された物だと分かった」
【災厄の星】
レドがガディスにいた時の古竜襲撃事件の際に嫌というほど聞いた単語だ。
それは小さな星だが赤く瞬いており、月や太陽と同じように動いている。一定周期で動き、他の星と比べその動きが速い事から、最も距離が近い星と言われている。古より災いの象徴とされてきたが、今ではただの赤い星としか認識されていない。
「例のデータ内には、【欲災の竜星】の設計図と詳細なスペックだけでなく、アクセスコードや制御コードもあった。スペックについては、正直分からない部分が多過ぎて今は割愛する。設計図についても、素材も作成方法も解明出来ない物ばかりだ。この二つについては今すぐどうこうなる物ではないのだが……危険なのは二つのコード」
レドは既に嫌な予感しかしていなかった。アクセスコードと制御コード。文字通り、【欲災の竜星】にアクセスし、制御する為のコードだろう。
「話を戻すが、【天輪壁】内を調査した際に、我々は内部の機構がまだ生きている事に気付いた。まあこれも当たり前だな、未だにリングウォールを毎晩発動させているんだから。その機構内のネットワークもまだ生きていて、試しに接続してみたらアクセスコードの入力を求められた。となれば当然、その後に制御コードを使えば――【欲災の竜星】を制御できる……のかもしれない」
アルマスがカリスにお礼を言って、座らせた。
「カリス所長、ありがとう。さてこれで、例のデータの中身、そして【天輪壁】について概ね情報は共有出来たと思う。次に【塔】襲撃後に起きた事についてだが、まずそのデータを竜族に奪われてしまった。同時に【天輪壁】が誤作動し起きたと推測される魔術障害だ。今はもう何事も無かったかのように【天輪壁】も回っているが、あの時だけ動きがおかしかった。更に、翼の生えた竜族が【天輪壁】に飛んでいったのも観測されている」
「我々騎士団も、【天輪壁】内に竜族が侵入者したのを確認した。奴らはデータを手にして、【天輪壁】にいる」
コリーヴの言葉が重く響く。
「そうだね。だから導き出される答えは一つだ。竜族は、【欲災の竜星】を【天輪壁】から制御するつもりだ。制御して何をするかはまだ分から――」
「分かるわよ?」
アルマスの言葉を遮るように立ち上がったのはグリムだ。全員の視線がその一見幼い姿の少女に集まった。
そしてグリムが自信満々にこう言い放った。
「【欲災の竜星】は、古に宇宙へと追放された古竜だもの。竜族が求める事ははただ一つ……主の帰還よ」
2章依頼の久々の出番ですよ、竜星さん!
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書籍化作業が再び忙しくなった為、来週より更新を週1~2に変更いたします
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