7話:アドバイスその三、【色んなパーティと仕事するべし】
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「師匠! これでパーティメンバーはあと二人ですね!」
「まあ今回はたまたま上手くいったが、そうそう良い人材は見付からない」
「ではどうすれば良いのでしょうか?」
「メンバーが二人になったから、共同依頼を受ける。アドバイスその三、【色んなパーティと仕事するべし】」
酒場での宴が終わったあと、三人がギルドの受付の近くにある掲示板に張り出されている依頼を確認していた。
流石辺境一の街なだけに依頼の数は多く、多岐にわたっている。
「共同依頼……ですか? レドさんそれは何でしょうか?」
リーデの質問にレドが答えた。
「共同依頼ってのは、パーティのメンバー不足を補う為の制度で、一つの依頼を複数のパーティで受けられるんだ。依頼を受けたいけど二人パーティでは荷の重いっていう時に、誰か手伝ってくれませんかって募集をかけられるんだよ。勿論その分報酬は減るわけだが。経費はパーティごとにかかるから、その分だけ損する制度ではある。だが、メリットもある」
「難易度の高い依頼を受けられる、ですか?」
「その通りだリーデ。効率で言えば即席で四人揃えて、一パーティで依頼を受ける方が良い。だけどそれでもあえてそうせず、共同依頼を募集または参加するのはなぜだと思う?」
「えっと……単純に仲間がいないか……僕たちみたいにメンバーを吟味しているか……ですか?」
レドの問いにシースが答えた。
「正解だ。二人とも頭は回るようだな。誰だって良いメンバーが欲しい。だけど誰でも良いわけじゃないし、一緒に仕事をすればある程度相手の実力は分かる。そうやって何度も共同依頼を繰り返し、馬の合う相手が居ればそいつらと晴れてパーティを組む。こういう流れだな。勿論単純にパーティメンバーを募集しても良いが……俺はあまりオススメしない。どうせ依頼をこなすなら共同依頼でさくっと一期一会をしまくった方が結果早いし、良い出会いもある」
「なるほど……」
「色んなパーティと仕事をこなせば、自ずと自分達のパーティに足らない部分や弱点が見えてくる。それを補えるメンバーを入れてしまえば、パーティとしての総合力はかなり上がるし、安定性も出てくる」
「流石師匠。じゃあ早速共同依頼の募集を見てみましょう!」
共同依頼募集を探すと通常の依頼よりも数は少ないものの、いくつかあった。
「ふむ……この【流沙の狼】は多分あいつかあいつらの仲間だな。どうせろくな奴等じゃないし却下だ」
「こちらの【弓張の月】はどうでしょうか? あちらさんも二人組で、ランクはEで私達と同じですね。内容も廃墓地のアンデッド退治、聖職者が加入しているのが条件だそうです」
「それは候補の一つだな。リーデがいれば問題ないだろう」
「この【オラクルコンビーズ】はどうですか師匠! 林でジャイアントキノコ狩りです」
「そいつらのランクはCか……下に見られそうだな。まあそれも経験か……」
結局、シース達は【弓張の月】との依頼を受ける事にした。
ギルド受付嬢に参加する旨を伝えると、すぐに手続きをしてくれた。
「かしこまりました。【弓張の月】様は明日午前十の時に確認にいらっしゃるので、その時に来ていただければと」
「分かりました!」
こうして、その日は解散となった。
酒場には、依頼を終えた冒険者達が宴を開き騒いでいる。
喧噪に、酒と油の匂い。
シースはこの雰囲気が嫌いではなかった。
ただ、シースには懸念があった。
「師匠……やっぱりその……野宿ですか……」
悲しそうな目でそう言ってくるシースにレドは首肯した。
「冒険者向けの安宿でも毎日利用すれば金額も馬鹿にならない。長丁場の依頼を受けた際に、野宿を強いられる事もある。ダンジョンで一晩過ごす事もたくさん出てくるから、今から慣れておいた方が良い。どこでもすぐに寝られるように身体を慣らしておく事は冒険者の基本だ」
レドの言葉にシースは頷いた。言っていることはもっともだし納得出来た。
それを聞いていたリーデが、意を決したように口を開いた。
「シースさんが野宿されるならば、私も致します」
「あ、いや、リーデは普通に安全な宿屋に泊まれ……シースはとりあえず俺が野宿に付き合ってやる」
「え? 一緒ですか!?」
「まあ!」
急に顔を赤くしたシースと、思わず声を上げたリーデだったが、レドはそれに気付かず声を尖らせた。
「なんだ嫌か。なら場所だけ教えてやるが」
「あ、いえ、そういう訳じゃなくて……」
「私もご一緒します。であればシースさんも安全です」
有無を言わせぬ口調でリーデがそう言った。
「リーデ……ありがとう……」
うるうるとした瞳でリーデを見上げるシースへリーデは微笑みを浮かべた。
「あ、いや、しかし野宿だぞ? いいのか?」
「構いません。慣れています」
「分かった。じゃあ二人とも付いてこい」
レドを先頭に、騒がしい酒場から外へと出た。
すっかり空は暗くなったが、街にはしかし明かりが溢れている。
「夜でも街はこんなに明るいんですね」
「ああ。辺境とはいえ首都だからな。だがガラの悪い連中も多い。あまり出歩かない事だな」
「はい!」
レドが二人を案内したのは、街外れの川の近くだった。その川にかかっている橋の下へと行くと、そこに道中で買ってきた毛布を敷いた。レドは剣を抱えるように壁に背を預けて座った。
指定範囲内に誰かが侵入してきた際に発動する防衛魔術を張ろうかどうか迷ったが、結局レドはしない事に決めた。なるべくシースやリーデが出来ない事はやらないようにした方が良いと思ったからだ。
自分有りきで楽を覚えてしまうと、いざという時に困るのはシース達だ。
「しかし橋の下ですか?」
「そうだ。少なくとも後ろと上から襲われる事はないし急な雨もしのげる。いざとなったら川に飛び込んで逃げられる。この辺りの川には当然魔物もいないし安全だ」
「なるほど。橋の下ですね、覚えておこ」
シースとリーデがレドの横に毛布を敷いて、同じように座る。
「俺が警戒しておくからお前らは横になっていいぞ」
「いいえ! これも訓練です」
「はい、シースさんの仰る通りです」
「……良い心がけだ」
それから三人はたわいもない話や下水道での戦闘について話した。
しばらくしてレドがもう寝ろって言って、魔法で付けていた明かりを消した。
川のせせらぎと、暗闇が辺りを支配していた。
「なんだか……僕、夢を見ているみたいです」
ぽつりとそうシースが呟いた。
「ん? 明日は朝から動くから寝とけよ」
リーデは既に小さな寝息を立てて寝ていた。どうやら慣れているのは本当のようですぐに眠れたようだ。
「だって昨日まで冒険者になれるか、ちゃんとやれるか不安だったんです。もう村に帰ろうって何度思ったか。でも、今は違う。師匠に助けられて、武器を買って、依頼をこなして、リーデに出会って。色んな事がいっぺんに起こって、僕、まだ夢を見ているのかなって」
少しだけ涙混じりの声になっていたがレドはそれに気付かない振りをした。
「冒険者になるのは……誰でも出来る。だけどな、冒険者で居続ける事は凄く難しいんだ。色んな要素が複雑に絡み合っているが、一番大事なのは、運と縁だ。シース、運と縁を大事にしろ。お前は運が良かった。だけどこの先もそうとは限らない。最後の最後で落ちるかもしれない」
そこでレドは言葉を止めた。落ちたのは誰だ。運も縁も放り投げてこの街に来たのは誰だ。
レドは言葉を続けた。
「だけどな、なにか……なにか、縁を作っておけ。それは人でもいいし場所でも物でもなんでもいい」
「よすが……ですね。分かりました。でもそれはきっと……師匠との出会いですよ」
「……そうか」
「はい」
レドの中に、ずっと失っていた何かをようやく見付けたような、そんな不思議な感覚が生まれていた。
「――さあ、寝るぞ。明日は朝から動くぞ」
「はい……ではおやすみなさい師匠」
「ああ、おやすみシース」
それからしばらくもぞもぞと動いていたシースだったが、そのうち寝息を立てて寝てしまった。
「ふう……俺は何をやっているんだろうな」
レドは目を瞑り、眠りに入る前のうつらうつらとした状態で考えていた。
昨日まで、ただ飲んでやさぐれているだけだった。なのに俺は、シースとリーデをいかに一人前の冒険者にするかを自然と考えていた。
だけど、それが不思議と嫌ではなかった。
苦い思い出は嫌ほどあるしもう冒険者として自分は死んだと思っている。もう自分という土壌に咲いた花は枯れてしまった。
だけど目の前にみずみずしい芽が出ている事から、俺は目を逸らしていただけなのかもしれない。
だからもう目を逸らすのも、見て見ぬ振りもやめた。
そんな事を考えているうちに、レドは眠りに落ちた。
眠りに落ちながら、リーデが実はまだ起きていて、こちらの様子を伺っている事に気付いたが、結局レドはそのまま眠ったのだった。
レドさんは飲食代には緩いんですが、それ以外の出費についてはかなりうるさいです。勇者パーティ時代はよくそれでセインと衝突していましたが、上手くなだめすかしてコントロールしていたようです。
まあそのせいで、セインはストレスを溜めてしまっていたんですけどね……レドも完璧ではなかったという事です。一応反省はしているようですが、やはり浪費癖のある冒険者に成功者はいないという考えのようです。
あとレドさんは女性についてはかなり鈍感で無能です……早婚が多いこの世界において35歳独身の時点でお察しですが。