65話:冒険者ギルド支所を作ろう!
「は? なんで冒険者のあんたが俺らに依頼するんだよ」
レドの言葉にレダスが即座に反応する。他の者も口にはしないものの、同じような表情を浮かべていた。
「冒険者だって依頼をするさ。いいか、依頼内容はこれだ」
そう言ってレドが背後の黒板――魔力に反応し文字や図形などを自在に浮かび上がらせる事が出来る――に魔力を放ち、文字を表示させた。そこにはこう書かれてあった。
「冒険者ギルド……竜学院支所、を設立せよ……?」
一字一句書かれている通りに読んだイザベルが首を捻った。
冒険者についてはさほど詳しくないイザベルだが、冒険者オタクの生徒から昨晩聞いた話によると、冒険者ギルド本部はここディザルにあり、各国各都市に支部があってそれぞれが密接に連携しているそうだ。だが冒険者ギルド支所という言葉は初耳だった。
「待ってください。冒険者ギルド支所なんて物は聞いた事がありません。更にそれをここに設立する? 竜学院の中に? しかも僕らが? ありえない。あまりに馬鹿馬鹿しい依頼ですね」
ニルンが目を細めてそう切り捨てた。彼の広く浅い知識の中でも冒険者ギルド支所なんて言葉はなかった。ましてやそれを教育機関――しかも世界最高峰と言われる竜学院内に設立するなど、前例すら聞いた事がない。
「そもそも校則で生徒の冒険者登録は禁止されてるぜ? それとも俺らに校則違反させる気か?」
校則なんてクソ食らえだ、とレダスは常々考えているが、それはそれとして目の前の何も分かっていないであろう新人教師に教えてやろうと、得意げにそう言ったのだ。
勿論、レドだって思い付きでこんな事を言っているわけではないし、当たり前だが、竜学院内の校則やルールについては全て把握済みだった。
「焦るなよ、少年。話は最後まで聞け。冒険者登録が禁じられているのは知っているさ。簡単な話だ。支所設立に関しては、お前らが冒険者である必要はない」
「あの……でも……依頼って先生……言ってた……依頼を受けられるのは冒険者だけ……だよね?」
ヒナが控えめにそう発言した。
「その通りだヒナ。基本的に、依頼ってのは冒険者ギルドを通して、登録された冒険者が受ける物だ。だが、例外もある。例えば、ギルドの職員。あまり知られてはいないが、ギルド職員が依頼をこなす事はある。ほとんど場合は冒険者には不向きな事務作業だけの依頼とかだな。この場合、冒険者には回さずギルド内で処理する事が多い。つまり……ギルド職員であれば、依頼は受けられる」
「えっと、それは校則違反ではないの? 私校則とかぜんぜん知らないけど!」
胸を張ってそう言ったイザベルにニルンがレドに代わって答えた。
「……労働は禁止されてないね。例えば商人の子で修行と称して学業と家業の両方をこなしている奴もいる。だから確かにギルド職員であれば……校則違反ではない」
「そういうこった。つまり支所を設立し、お前らをギルド職員として扱えば、依頼は受けられるし、報酬も得られる」
レドの言葉にレダスの耳と尻尾が分かりやすく反応した。
「ほ、報酬? 金貰えるのか!?」
「依頼を達成出来れば……当然貰えるな」
「ふ、ふーん」
表情が緩まないようにしているレダスだが、尻尾と耳がせわしなく動いているところをレドは見逃さなかった。
「……竜学院がその支所? の設立を許可するとは思えませんが。学院外ならともかく敷地内でそんなもん作られたら竜学院も面白くないでしょう、なんせ手間暇かけて育てた人材が冒険者なんていういつ死ぬか分からない危険な物になって無駄に命を散らすんですから。そもそも冒険者ギルド本部はその支所設立とやらを認めているんですか?」
冷静にニルンがそう指摘する。確かに彼の言う通り竜学院としては、冒険者について存在自体は必要な物であるとは認めているものの、わざわざ高等教育を受けてなる物ではないというスタンスを取っていた。
なので在学中の冒険者登録は認めていないし、卒業前の進路指導の際も冒険者を目指す生徒がいれば苦言を呈する教師がほとんど。
レドがニルンの疑問に答えていく。
「冒険者ギルドの支部を設立する場合は当然、冒険者ギルド本部やら設立地の自治体やら国やらの許可がいる。だが、冒険者ギルドとしての最低限の機能……つまり依頼の受諾、掲示、委託、報酬、処理のみが可能な冒険者ギルド支所は別だ。支所は、Sランク冒険者の承認とその冒険者が常駐でき、かつ依頼のやり取りが出来る場所を確保している場合に限り、臨時で設立する事が可能なんだ。これはギルド支部もない村に、依頼をこなすために長期派遣される冒険者に本来付与される権限なのだが……Sランク冒険者も同じ事が出来る。おそらく過去にそういった実例があったんだろうな。つまり、Sランク冒険者である俺が常にいて、自由に使える場所があれば……そこに支所を作れる」
レドの説明を聞いていたイザベルが手を挙げた。
「レド先生! その支所設立に学院側の許可はいらないんですか!?」
「……先生の言い方だと……学院の許可はいらないように聞こえる……」
イザベルの言葉に、ヒナがそう続けた。
「……基本的に冒険者ギルドの権限は国や街から独立しているんだ。つまりそれを拡大解釈すれば……俺の冒険者ギルド支所設立に、この建物の所有者は関与出来ない……という事になる。そして、支所の為ではないにせよ、俺は講義の為にこの部屋を自由に使っていいとの許可をイエリ教頭より得ている。自由に使っていいのなら――別に支所ぐらい作ったっていいだろ?」
悪そうな笑みを浮かべるレドに、ニルンが珍しく短い言葉で返した。
「屁理屈ですね」
レダスも同意とばかりに腕を組んで、頷いている。
「その通りだ。実際にはそうはいかない。だが……理論上は可能だ。そして理論上可能であれば、それで十分だろ? 流れはこうだ」
レドが黒板に図を書いていく。
「俺の名の下、冒険者ギルド竜学院支所を設立する。お前らは俺の部下……つまりギルド職員という形にする」
レドの名前の下に、冒険者ギルド竜学院支所という文字が長方形の枠の中に書かれた。そしてその下にイザベル達の名前が書かれていく。それを丸い枠で囲み、上にギルド職員という文字。
「そしてお前達はこの学院内で依頼を募集し、同時にこれを解決する。ただし依頼料については全て俺が設定しかつ管理する。勿論入った収入は支所運営費を除いて全てお前らに還元する」
学院内生徒と書かれた丸い枠が書かれ、“依頼”、“報酬”という文字と共に上向き矢印がギルド職員の枠に引っ張られ、逆に下向き矢印に“依頼解決”と書かれた。
「依頼は学院内で募集するのか?」
「そうだ。これだけでかい学校でかつ色んな生徒がいれば依頼の一つや二つはあるだろう」
「そりゃあそうだけどよ……俺達に依頼する奴なんざいねえよ」
レダスがため息と共に吐いたその言葉がイザベル達に重くのしかかった。
「それはお前ら次第だな……まあ心配するなそれ含め、俺が指導するさ」
「おお! 流石Sランク冒険者! レド先生の冒険者っぷりを見るの楽しみです!」
「ランクは関係ないし俺は一切手伝わないぞ」
「ええ……せっかくその武器が振るわれるところ見れると思ったのにぃ」
膨れるイザベルを無視して、ニルンが眼鏡を指で押し上げながら、口を開く。
「僕らに冒険者ごっこをさせたいって事ですよね? くだらない。僕はやりませんしそんな暇はありません。僕は遺術の勉強に忙しいんです。遺術研究者には冒険者なんてやってる暇はないんです」
遺術という言葉を強調するニルン。
遺術とはディランザル王国で最近人気の分野であり、端的に言えば旧世界の遺物や遺構についての学問である。遺された技術、魔術を研究するという意味で、遺術という言葉が使われているがその内容は考古学や歴史も含め多岐に渡る。
その遺術研究の第一線がここ竜学院にあった。それをニルンが志しているのはなんら不思議ではない。
何より学院内にあるその遺術研究機関こそ、レドにとってこの竜学院に来た最大の目的と言ってもいい。
「分かってないなニルン。冒険者しか立ち入りを許可されない遺跡。冒険者にならないと触れる事すら出来ない遺物。冒険者だから閲覧が許可される資料……。遺術研究者を目指しておきながらそれらをくだらないと称するのはちと短絡的過ぎる」
「それは……」
「もちろんこの学院内での依頼で、そういう物に触れる機会はほとんどないと思うが……その代わりに【地下宮殿】に行く事はあるかもしれんなあ……今でもあそこは冒険者と一部許可を得た者しか潜れないはずだからなあ……それだけの為に冒険者登録する遺術研究者もいるのになあ……」
「【地下宮殿】! 行けるんですか!?」
声が急に大きくなったニルンの顔が上気している。その分かりやすい反応にレドは笑う。
「何なら俺が深部に連れてってやるよ。それに……面白い遺物を俺は持っているぞ。Sランクにもなれば色んな遺跡に潜るしな。現にこないだも旧世界の遺跡に潜った。もう海に沈んでしまったがな」
「……! 古竜が関わっていたんですよね! その話詳しく聞かせてください! あと遺物についても是非後で見せてください!」
「でもなあ……ニルン君は勉強に忙しくて支所設立には反対みたいだからなあ……」
ちらちらと視線をニルンへと送るレドを見て、ニルンが立ち上がった。
「……みんな、レド先生の言う事をよく聞いて速やかに支所を設立しよう」
「んだよ、お前がやりたくねえって言いだしたんだろうが……」
呆れたレダスの言葉にニルンが首を横に振った。
「やりたくないなんて一言も言ってないし、そもそも条件開示が遅いから判断を少し保留していただけです」
「私は最初から賛成だよ!! ギルド楽しそう! あとレド先生、ヒナちゃんだけじゃなくて私達も武器携帯オッケーですか!?」
「いいぞイザベル。ただしみだりな抜刀やひけらかしは絶対に許さん」
「はーい! うおおお! 武器どれを使おうかなああ!!」
興奮するイザベルの言葉に一抹の不安を感じたレドだったが、控えめに手を挙げているヒナを見てそちらへと視線を送った。
「どうしたヒナ」
「あの……あたしも……ギルド……やりたい……。あと【地下宮殿】って何……?」
「勿論ヒナにも協力してもらうさ。ん? ああそうか【地下宮殿】の事を知らないのも無理はないな」
「説明しよう! 【地下宮殿】とは! このディザルが誇る最大の地下遺――」
熱く語ろうとするニルンをレドが止めた。
「はいニルン、落ち着け。ヒナ、その話は後日ゆっくりやるから、心配しなくていい。簡単に言えばこのディザルに最も近い場所にある巨大遺跡の事だ。先ほども説明した通り一般人は立ち入り出来ないが、このディザルの先進的な魔術や技術――つまり遺術が他の国と比べ物にならないぐらいに発展しているのは、それの恩恵なんだよ」
「分かった……ありがとう」
ぺこりとお辞儀するヒナ。
さて……あとは……。レドは視線をレダスへと送った。
「お前はどうする?」
「……単位はそれやんないとくれないんだろ?」
「まあな」
「報酬はくれるんだよな?」
「もちろん」
「……しゃあなしで手伝ってやるよ。単位も金も欲しいしな」
顔を逸らしながらそう言うレダスを見て、レドは大きく頷いた。
「よし。じゃあお前ら四人を職員としてここに冒険者ギルド竜学院支所を設立する。まずは……この部屋を片付けてそれらしくするぞ。まずは邪魔な備品を使える物、使えない物に分けていく。レダスはいらん椅子や机を俺と一緒に運ぶ作業だ」
レドが手を叩きながら指示を出していく。自分だけしんどい作業で文句を言うレダスをたしなめながらレドは作業をはじめて。
こうして、レドによる冒険者学講義の初日が終わった。
みんなちょろちょろである。というわけで今後は学院内の依頼を解決していくとか。レドさんも色々と思惑あるようで……。
レドさんは、ルールの抜け穴とかグレーゾーンとかが好きがちな35歳です。そういう部分ではあまり褒められたものではないですが、方法を選ばないという典型的な冒険者らしい一面ですね。反対に今後出てくる騎士という存在はまさに正反対の存在ですが、彼らは彼らで問題あります……その辺りはまた作中で出てきますのでお楽しみください。
次話更新は7/29(水)です! お楽しみに~
感想もお気軽にどうぞ!




