6話:リーデ
2020/05/15
リーデのセリフを一部修正しました
「初依頼成功! 乾杯しましょう!」
「おう!」
「はい!」
冒険者ギルドに戻って手続きを終えたレド達は、貰った報酬でちょっとした宴を開いていた。ゴブリンを三人合わせて27体も狩ったおかげで、ちょっとした収入になっていた。
「ゴブリン一体で550ディムだから14850ディムですね!」
「それに依頼達成報酬が付くが、諸経費が引かれるからまあそれでも15000ディムぐらいは貰えたな。一人5000ずつでいいだろう」
そう言って報酬をレドは均等に分けた。そして細かい端数は飲食代に使おうと提案した。
「さてじゃあ食うか」
「飯と酒はケチるな、ですね!」
「ほどほどにだぞ」
「分かってますよ!」
テーブルには、食べ物が数品並び、レド、シース、リーデの順に座っている。
「でも、よろしいんですか、私も報酬頂いて。しかも宴に同席までして。あれでしたら席外しますけど」
リーデがそう控えめに申し出た。
レドが見るにまだ10代半ばか後半ぐらいに見えるが、歳の割に落ち着いている。顔にどことなく陰があるものの、身体は全体的に細く、美人と言って問題ないだろう。銀色の髪がキラキラと光を反射しており、その金色の瞳に、どこか老成した雰囲気を感じていた。
声も穏やかだが、意志の強さを感じる点も良い。
「リーデも一緒に依頼を達成したからいいんだって! ねえ師匠」
「そうだな。だがなリーデ、正義感で仕事をするのはいいが、仮依頼制度ぐらいは使っとくべきだ。報酬を踏み倒されたらどうする」
「……すみません、そんな便利な制度あるの知りませんでした……無報酬で働くのはいけないことでした……リーデ反省」
そう言ってリーデが胸の前で手を組み、祈るようなポーズをした。
「師匠! 良いじゃないですか! 人助けが冒険者の基本です――って痛っ!」
レドがぽかりとシースの頭を叩いた。
「あほ、冒険者派遣依頼制度を冒険者であるお前が真っ向から否定するな」
「ううう……」
「シースさん、レドさんの言う通りです。仕事には責任が伴います。それに対する報酬は金銭以外では難しいんです」
「そういうこった。流石、【黄金教会】の修道女は違うな」
レドが、リーデのシスター服に施されている金色の刺繍を見ながらそう返した。
「……なぜ黄金教会の者と分かったのですか? この辺りはヨルハ十字教が主流だと聞いていましたが」
「その服の刺繍。麦に鎌のシンボルは黄金教会の宗教的象徴だ。確か、西のシリス祭国の国教だったな」
このエウーロ大陸の北部を支配し、世界の中心と呼ばれるディランザル王国。
その正反対、この大陸の南の端にカイラ自由都市同盟と呼ばれる複数の都市によって作られた国があった。
この街ガディスはカイラ自由都市同盟の首都であり、南のトゥーツ洋に面している。そこから西に行くとバスティス山脈がありそれを越えればシリス祭国だ。
「仰る通りで、私はシリスの出身です。まあその中でも山よりの田舎ですが」
「シリスかー。行った事ないなあ」
食べるのに夢中になっていたシースが会話に加わる。
「良い所ですよ。平和で、穏やかで……明るいです」
「ふむ。しかしなぜまたこの国で冒険者を? あーただの興味で詮索をするつもりはない。いや、忘れてくれ」
レドがそう聞いたが、思い直して頭を下げた。
冒険者になる者には色々と理由があるが、少なくとも目の前の少女はただお金が稼げるとか格好いいからとかそう言う理由ではなさそうだからだ。
「いえ、大丈夫ですよ。ただ単に人を探しているだけです。この国にいるはずなので。残念ながら資金に余裕はないので、稼ぎながら旅が出来て情報も入手しやすい冒険者が一番良いかと思い登録しました。幸い、光魔術は黄金式ではありますが嗜んでいますし、収穫の為に大鎌は日常的に使っておりましたので、戦闘も問題ないかと……思っていました」
そこまで言ってリーデが一息ついた。
レドはそれを注意深く観察しながら聞いていた。嘘は……付いていない。だけど……。
「思っていた、か。あの下水道での戦闘が初めてか」
「ゴブリンは初めてでした。麦を刈り取る要領で足を斬ればいけると分かってからは楽でしたが……それでも危なかったと思います」
リーデが横に立て掛けている鎌をレドはさりげなく見た。良く使い込んであり、かなり上等な物に違いない。麦や草を刈り取るだけなんて勿体ないぐらいだ。
「光魔術はどの程度使える? 黄金式は普通の物と違うのか?」
魔術についてはそれなりに知識があるレドだが、黄金式というのは初耳だった。
「基本的にほぼ一緒と思ってもらって結構です。黄金式でしか使えない魔術もありますが、こちらは遊びのような物が多いです」
そう言ってリーデがくすりと笑った。
「ふむ、では支援と回復辺りは問題なく出来ると見ていいか?」
「はい。おそらく大丈夫かと」
「魔術か……いいなあ。師匠、僕も使えるようになりますか!」
その話を聞いてシースが羨ましそうにリーデを見つめた。自分とさほど歳が変わらないリーデは魔術が使えて、自分は魔術も何も使えずゴブリンに苦労している。
それが少しだけ悔しかった。
「お前が使えるかどうかは適性を見ないと分からんが……今はとりあえず近接戦闘を磨け。仮に魔術師になったとしても腐らん」
「確かに……」
「なあリーデ。その、人を探す旅とやらは急ぎか?」
その言葉を受けて、リーデが真っ直ぐにレドを見つめ返した。
「いえ。私が死ぬまでに会えればそれで。それよりも先に私が死ぬ方が怖いです。あの下水道では少し恐怖を感じました」
「だろうな。あの群れに対してよく耐えた。下手な奴なら恐怖で冷静さを失って……死ぬ」
「はい……魔術もあの状況では使えませんでした。だからレドさん、あのように剣を振りながら魔術を行使した貴方の姿を見て、私は驚きました」
「まあ、それなりに経験は積んできたからな。魔術も、剣術も……冒険者も」
「なるほど……それでお二人はいつからパーティを?」
「今日!」
そう笑顔で答えるシースにリーデが目を丸くした。その顔は何となく猫っぽいなとレドは思った。
「ついでに言うとパーティは組んでない。仮だ仮。俺は教育係みたいなもんだ」
「ふむふむ……」
「で、僕のパーティメンバーを探していて……師匠、どういった人が良いんですか?」
「……駆け出しなら細かい条件はさほどない。魔術師か聖職者がいれば、受けられる依頼の幅が広がるし、取れる戦術が増える。が、別に前衛四人でもそれはそれで長所がある。まあ一人ぐらいは遠距離攻撃が出来る手段を持っていて欲しいが」
「僕が今のところ近接なので……魔術師か聖職者か遠距離攻撃が出来る人……」
「まあ俺なら魔術師だろうが聖職者だろうがまず最初は近接戦闘の仕方を叩き込むけどな。それだけで生存率が変わる」
「理にかなってますね……流石です」
感心したようにリーデが頷いた。
「ある程度近接戦闘も出来て魔術も使える、しかも回復や支援が出来るならベストな人材だ。縛ってでもパーティに入れろ」
「そんな人どうやって見付けるんですか師匠」
「ふうむ……どこかにいないものか……光魔術が使える聖職者で近接武器も扱えて、しかも駆け出しの冒険者が……」
「んー地道に探すしかないですね……師匠の知り合いでだれかいません?」
本気で悩むシースと、チラチラとリーデへと視線を投げるレド。
それを見て、リーデが言わんとすることを察した。
「私もパーティを組むことは視野に入れていましたが、どうすればいいか分かりませんでした」
「同じ悩みだ……痛っ! あ、師匠今蹴りましたね!」
「蹴ってない。お前が鈍感すぎるからちゃんと神経通っているか確かめただけだ」
「ええ、なんでですか……」
「人の話をちゃんと聞け。お前にとって最高のメンバー候補がすぐ目の前にいるだろうが」
「へ? だって師匠はパーティに入らないって言って、リーデは…………そうかリーデだ!」
「ふふふ……はい、私ですね。確かに仰るように魔術も使えて近接戦闘もまあ素人に毛が生えた程度ですが可能です。更に駆け出し冒険者です」
その言葉を受けて、シースがなぜか緊張しながら姿勢を正して、リーデへと手を伸ばした。
「リーデさん! ぜ、ぜひ僕のパーティに入ってください! 今なら師匠の教えが付いてきます!」
「プロポーズかよ。あと人をオマケみたいに言うな」
レドが呆れたようにそう言って、そのやり取りを笑いながら見ていたリーデがシースの手を握った。
「はい。ふつつか者ですが、よろしくお願いしますねシースさん、レドさん」
その柔らかい感触にドギマギしてシースの顔が真っ赤に染まる。
こうしてシースのパーティにリーデが加わったのだった。
後に彼女がシースの相棒となり、“死神リーデ”と呼ばれ魔族達に恐れられるようになるのはまだ先の話だ。
新しい仲間! 黒い炎を纏った大鎌と冷気を纏った鎌の二刀流とかはしません。多分。そのうちリーデの狩りをみせてあげますとか言い出すかもしれませんが……。
リーデちゃんさんはシースちゃんより4歳ほど年上のお姉さんです。
ちらりと本文の中に出てきましたが、魔術は色んな方式があります。同じ光魔術でも、教えが違えば、詠唱ややり方が変わるんだとか。ただ、結果(魔術の効果)は大体同じなので冒険者はバフかけられて回復できればまあなんでもいいやぐらいの気持ちで思っています。それぞれの方式にはそれぞれオリジナルの魔術が有り、黄金式専用の光魔術はくすりと笑える変な魔術が多いとかなんとか。それどこの宵闇。
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