53話:そして赤き禍ツ星は頂点で輝く
「っ! 速すぎる……追わないと!」
「待て、エリオス」
エリオスがデュレスを追おうと扉から出ようとするが、それをレドが静止した。
「だけど、それだと見失ってしまう!」
「……俺達の目的を見失っては元も子もないだろう」
「それは……」
床へと着地したロアと、その後ろにいたヨルネがデュレスが操作していたコンソールへと近付く。レドもそちらに向かいつつ、帰れと言ったはずのヨルネ達へと問いかけた。
「お前ら……どうしてここに?」
「えっと……」
「ヨルネがそう選択したからだ」
「……危険だから帰れと言ったはずだが」
「……色々あって……」
ヨルネが気まずそうにレドに答えたが、レドはため息を付くとコンソールを覗いた。
記号の書かれたボタンのような物がびっしりと付いている板に、塔の構造図と見慣れない文字列と記号の羅列が表示されている板があった。表示されている方の板と中央にあるホログラフィックディスプレイはどうやら連動しているようだ。
レドは何度かこういう遺物を遺跡内で見掛けた事があったが、ここまで状態が良くかつ完全に起動している物を見るのは初めてだった。当然レドには使い方なんて分からない。だが、デュレスのあの言い方であれば……既に何かが操作された可能性は十分にあるとレドは考えていた。
まだ神殿自体が完全起動した様子はないが……デュレスがここを去った以上は、ここですべき事を終えたのだろう。奴が何をここで行って、何を待っているのか。それを早急に突き止める必要があった。
「時間は……あと五分ほどか……ヨルネ、これの使い方は分かるか?」
「流石に……分からないわ。竜学院にいた時は……ちょっとだけ触った事があるけど……そもそもこの言語が何か分からない」
「ん? これは竜言語だぞヨルネ。と言っても魔術であんたらが使う奴ではなく、もっと古い、人に弄られる前の言語だ」
そう言ってコンソールを操作し始めたのは、ロアだった。
「お、おい! 勝手に触――馬鹿な、操作できているだと?」
「……あんた……なんで使えるのよ……」
驚愕するレドとヨルネをよそに、ロアが若干ぎこちないながらもコンソールを操作し、画面に流れる文字と記号の羅列を読んでいく。
「……全部が分かるわけではないが、どうやら、何かを起動させる為の作業をあいつは行っていたようだ。あとは、承認を待つのみの状態になっているな」
「特殊権限か! つまり、それが解除されてしまえば」
「おそらくだが自動的に起動されるな。そういう風に設定してある」
「されると……どうなるの?」
ヨルネの疑問にレドは険しい表情のまま答えた。
「少なくとも、ガディス周辺が砂漠と化す……らしい」
「……ロア、止められる?」
「やってみるが、期待しないでくれ。これはあまりに……古い。だから機能が洗練され過ぎている」
その後ロアが真剣に操作を開始するが、そのたびに、赤い警告音と文字が流れた。
「駄目か?」
「完全に操作がロックされているな。それをまず解除しないとならないが……流石に俺にはそこまでは無理だ」
「どうするの……?」
ゲルトハルトがいれば……そう一瞬思ったレドだったがすぐにその考えを捨てた。今はそんな事を考えている暇はない。
「ヨルネ、あの魔族が寄こしたデバイスを貸してくれ。ダメ元でその中身も調べてみよう。俺の勘が当たっていれば……」
「ええ……でも、大丈夫?」
ヨルネは心配そうに銀色の細長い棒――携帯デバイスと魔族が呼んでいる物――をコンソールへと差した。
「……! やはり、竜魔術が込められていたか!」
ロアの声と共にコンソールの画面に先ほどとは違う文字の羅列が流れ始めた。
「どういうことだ? 竜魔術とは確か竜だけが使える魔術のはずだが」
レドの疑問に、ロアは答えずに操作をしていく。
「それとはちょっと意味合いが違うんだ。……ちっ駄目か」
「どうしたの……?」
「ロックは解除できたが、勝手に中のデータをコピーしはじめた」
「ロア……お前にかかっているんだ。何とか……頼む」
レドがロアへと頭を下げた。こうなってくるともはや自分ではどうにも出来ない。
「やってみよう……だが……もう……時間が」
部屋の中央にあるホログラフィックディスプレイで表示された塔の構造図の上に赤い点が表示された。それはゆっくりと塔の上へと移動している。
「くそ……何とかできないのかレドさん!」
焦るエリオスがそう言ってレドの肩を掴むが、もはや事はレドの手を離れている。
今は、ロアに任せるしかない。
「駄目か……?」
赤い点がゆっくりと点滅しながら動き――塔の真上へと表示された。それと同時に無機質な声が部屋の中に響いた。
「――特殊権限を確認。ウーガダール起動準備完了――エラー発生。完全起動シークエンスが現在凍結中。――繰り返します、ウーガダール起動準備完了――エラー発生――」
まるでうわごとのようなその音声と共に塔全体が、微かに揺れた。まるで息を吹き返したかのように、辺りのコンソールや壁のモニターに光がつき始めた。
「間に合わないか……!」
微細な振動を床から感じるレドが諦め掛けたが、ロアはまだ操作を行っていた。
「いや……まだだ。完全起動はしていない」
「どういうことだ? 【災いの星】が真上に来たら自動的に起動されるのではないのか?」
「おそらくこのデバイスに入っていた竜魔術で仕様が変わった。今は――完全起動シークエンスが凍結されている」
「つまり……止まったって事でいいのか?」
「いや……中断と言った方が正確だ。すでに特殊権限が解除された以上、いつでも起動出来る状態になったと言ってもいい。俺に出来るのはその情報を読み取る事だけだ。完全に止める事は俺にも出来ない。それが出来るとすれば……おそらく古竜だけだろう」
そう言って、ロアがコンソールから手を離した。
「あんたらに分かりやすいように言えば、この神殿は魔力も込められていて詠唱も済ませてある魔術だ。それが放たれるタイミングを待っている状態で、それを完全に消すには……その術者が違う魔術で上書きするしかない」
「つまり……古竜に頼んで中断されている完全起動状態を解除してもらう必要があるという事か」
「そういう事だ。そして古竜はここにはいない」
ロアがコンソールから携帯デバイスを引き抜くと、ヨルネへと投げた。それをヨルネが何とかキャッチして、まじまじとロアの顔を見つめた。
「ヨルネ。これでもういいな? あんたが欲しがっていたデータが入っているかは分からないがいずれにしろ稀少なデータだ。あとはそいつらと行動して、帰るなりなんなりすればいい」
「……うん、ありがとう。でも……」
「俺は、これから古竜を狩りにいく」
「待て、ロア。古竜はここにいないと言ったな? ではどこにいる?」
ロアはレドの質問に答える代わりに、塔の構造図の下部を指差した。
「地下に……二体揃っている。一体はまだ封印状態だが……。じゃあヨルネを頼む」
そう言ってロアは一人扉へと向かっていく。
「……どうするの……?」
ヨルネの問いにレドはどうすべきか判断が付かなかった。
神殿の完全起動は不完全ながら阻止出来た。だがレドには、その全てが不確定な物による結果でしかなく、解決にはほど遠い事だと思えた。
今すべき事は何か。古竜がいるのなら彼らに止めてくれと懇願すべきなのか?
全てが中途半端で、嫌な感じだ。レドは舌打ちしながらロアの後を追った。
「レドさん……?」
「……行きましょう……ここにもう用はないわ……」
エリオスとヨルネがその後に続いた。
「ロア!」
先を行くロアの背へと、レドがそう声を掛けた。
「なんだ……あんたに用はもうない」
「……俺達も古竜に会いにいく。この神殿を完全に停止させないといけない」
「……勝手にしろ。……だが邪魔するようであれば……」
「ロア、協力を要請する。神殿さえ停止出来れば、古竜に挑もうが何をしようが自由にしたらいい。だが街一つの生存がかかっているんだ」
レドの言葉に、ロアが振り向いた。レドとしては、少しでも戦力を増やしておきたい。痛感したのだが、事態の重大さの割に今回の事件はあまりに使える人数、戦力が限られていた。もう少し戦力を投入出来ていれば、話の展開も変わっていたかもしれない。
だがこうなってくると、最悪古竜と戦闘になる自体も考慮しなければならない。
「……条件がある。あんた、見たところ魔術師だろ?」
「……魔法剣士だ。まあ似たようなもんだが」
「なら――古竜討伐に手を貸せ」
ロアの条件を聞いてレドが思考する。
古竜との戦闘。それは正直一番避けたい事態だ。話を聞く限り、魔族よりも遙かに強い存在と想定しても間違いないだろう。
だが、ここでロアを野放しにして古竜と神殿を完全停止させる交渉前に戦闘に入られると厄介だ。であれば、全てを解決してからロアに協力し、戦略的敗北を演出する方が賢いかもしれない。
そもそも交渉が決裂しどっちみち戦闘になる可能性がある。ロアが強者である事は分かっているし、今レド達が必要としている前衛としての力は十分にある事も理解している。
レドには既に熟考する時間は無かった。
ゆえにレドはすぐに決断した。
「良いだろう。だが、こちらの目的を最優先にしてもらう。まずは神殿の完全停止。古竜討伐とやらはその後だ」
「……それで構わない。俺も少しだがこの上の街には世話になった。砂漠になるのは……少し嫌だな」
そのロアの言葉に、レドは少しだけ表情を緩めた。この青年が何者かはまだ読めないが、少なくとも味方には出来ると思えたからだ。
「よし、では交渉成立だ。地下に向かおう。ヨルネも付き合ってもらうがいいか? 今は……上に戻る方が危険だ」
「……もちろん」
「エリオス、即席パーティだ。しっかりと動きを見ておけ」
「了解だ!」
こうして、ロアとヨルネをパーティに加えたレドは、地下へと向かった。
☆☆☆☆
「……まさか……人間共が止めた……?」
昇降機よりも早く降りられるデュレスは重力のまま塔の吹き抜けの壁を疾走していたのだが、地下へと向かう途中でデュレスが吹き抜け内にあるテラスのように突き出た部分に着地し、立ち止まった。塔全体が起動したものの、完全起動にはほど遠い動きだという事にデュレスが気付いたのだ。
「ありえない……人間に止められるはずがない」
「あはは~ごめんね。ちょっとだけ手を貸しちゃった」
デュレスの独り言に、テラスから続く通路から現れた二つの影が答えた。
「……貴様らは……!」
「久し振りだねえ灰雷」
現れたのはグリムとガルデだった。
「……そうか……お前達が……」
「アルドベッグに復活されると困るのよねえ。街が一つ消えれば流石に人間達も本気になっちゃう。今はまだその時ではない……って父上が言っていたよね? あんたらの行動は父上……つまり魔族という種族、社会、全てへの反逆だよ? それと、完全起動シークエンスへと移行させる竜魔術。誰に与えられたのか吐いてもらおうか」
「……お前らには分かるまい……出来損ない……成りそこないと呼ばれる事の苦痛に……絶望に……」
「アルドベッグが復活したところで……あんたの願いは叶わないし、叶えさせない」
「それは……貴様が決める事ではない!!」
咆吼と共にデュレスがグリム達を襲う。
吹き抜けに、雷と炎が吹き荒れた。
起動は中断できたものの、根本的解決はまだ出来ていません。
というわけでここからが本番です。ここでロアやグリムがいう【竜魔術】とは通常の魔術のことではなくIT用語でいうプログラム的なサムシングという認識でおkです
現在この世界で旧世界の遺物で動くプログラムを組める者はほぼいません。その辺りについてはまたどこかで語りたいと思います
次話は紅白でめでたい感じの戦闘です。お楽しみに!
感想もお気軽にどうぞ!




