47話:剣士と魔術師
「へー。前見た時はまさかと思ったけどやっぱりそうだ、あの子が使ってるのはベイルのお家芸、魔弓術だね」
「知っているのかグリム」
「まあね~。でも、あのヴェールみたいなのは初めて見た。あれ凄いよ、魔力の塊だもん。あの少女の魔力ではなさそうだから多分武器になんかカラクリがあるんだろうねえ。面白いなあ。自分の魔力ではないから遠慮無く使えるし、魔術師ならみんな欲しがる奴だよ」
中央塔二階。そこは複数のモニターとコンソールが置かれている監視室。グリムとガルデがとある部屋で行われていた戦闘をモニター越しに観察していた。
「ふむ、しかし良いのかグリム。昇降機に向かわなくて」
「見取り図を見たところ、昇降機は二機あるから大丈夫。今行くのは……流石に止めた方が良いかなあ」
グリムが昇降機前の広い空間で行われている戦闘を見て、呆れたような表情を浮かべた。
見れば、その空間はまるで嵐が過ぎ去った跡のように荒れていた。
破壊の中心には二つの影があった。片方は赤髪の美女で、もう片方は金髪の少女だった。
「流石にこの序盤で古竜を相手するのは悪手だな」
「それにあの子……レド君の弟子か何かだと思ってたのに……ふーん、ドラグーンになったんだね。前と動きが全然違う」
「……手強いな」
「こんなとこまで来るぐらいだもん、みんな手強いよ――君達もね」
グリムが笑いながら、監視室の入口へと振り向いた。
「……バレた」
「だから、無駄だと言っただろヨルネ」
そこに突然現れたのはロアとヨルネだった。ヨルネの【透明化】の魔術で二人はこっそりとグリムとガルデを観察していたのだが、グリムにそれをあっさりと見抜かれてしまった。
「その魔術は前に一回見たからね」
「人間か……こんな場所で」
ガルデが大剣を構え、ロアも黒い剣を抜いた。
「魔族……」
「ヨルネ、援護しろ」
「あ、ちょっと待――」
ヨルネが言葉を発した時には既にロアは駆けだしていた。
「遊ぶ暇はないんだけどなあ」
「気にするな。すぐに終わらせる」
ガルデがそう宣言しつつ向かってくるロアへと大剣を横薙ぎに放った。それをロアは剣で受け、そのまま器用にその一撃を上へと逸らす。
「ほお」
「見た目の割に随分と――軽いな!!」
ロアが吼えながらガルデの大剣を弾き、懐へと飛び込んだ。既に突きの構えへと移行していたロアが剣をガルデの【炎核】へと突き出す。
「やるぅ」
笑いながらグリムが手を振ると炎剣が出現し、ロアの突きを防いだ。まるでそうなる事が分かっていたかのようにガルデはロアの突きを避ける動作すらせず弾かれた大剣の軌道を力技で変える。
今度は隙だらけになったロアの頭上からガルデの大剣が襲う。
「……もう! 【金剛障壁】」
ヨルネが短杖を向けて魔術を発動。ロアの頭上に半透明の盾が現れるとガルデの大剣を止めた。火花が散り、衝撃音が響く。
「はああ!!【愚者の閃き】」
ロアの咆吼と共に手に持つ黒い剣に紫電が走り、ロアが身体を捻りながら雷光の尾を引く斬撃をガルデの横っ腹へと叩き込んだ。
大剣を床へと立て、雷纏うロアの一撃を防ぐガルデに、ロアの連撃が続く。
「【貪欲の主】――【棘陽の花】っ!!」
雷の如き速度と、巨体のガルデですら気を抜くと握っている大剣を吹き飛ばされそうなほどの威力を誇るロアの剣撃をガルデは大剣で防いでいく。
そのやり取りの中でロアは妙な違和感を覚えた。……何かを庇っている? そんな動きのようにロアは感じたのだ。
一方、グリムは余裕そうにヨルネを見つめ、ヨルネは隙あらば無詠唱で魔術を放とうと様子を伺っていた。
両組とも偶然、剣士と魔術師という組み合わせで、自然と勝負は拮抗した。
しかしヨルネは、それが目の前の魔族の少女が全く本気を出していないせいだと言う事をよく理解していた。
ヨルネは目の前で起きている剣と剣のやり取りを観察しながら思考する。ロアとこの魔族は剣技という部分だけを見れば良い勝負をしている。自分がロアを魔術で援護すればおそらく押し勝てるだろうが、その隙を見せた瞬間にグリムが魔術を叩き込んでくるのは目に見えていた。
よって、自然とヨルネはグリムの魔術への対抗魔術を常に考えておかないとならず、更にロアとガルデの攻防が速過ぎて、ヨルネでも最適な魔術を選択しきれなかった。
グリムが積極的に動けば、おそらく勝負はすぐに付く。勿論ヨルネも負ける気は一切しないが、そう予想し、だからこそ動かないグリムの余裕ぶりに苛立った。
しかし先に動いたのはグリムだった。
グリムは両手をパンパンと叩きながら口を開けた。
「ガルデ、終わりにしましょ。残念ながら今日は時間がない」
その言葉と共に、ロアの剣を防いだガルデが大剣を振りながらバックステップ。グリムの横へと戻る。
「ロア! 待て! ステイ!」
ガルデを追おうとするロアへとヨルネが叫ぶ。
「俺は犬か」
足を止めたロアが呆れたような声を出した。ロアの持つ剣に纏う雷光が鎮まっていく。
「あはは。いいね、緑髪の君。ちゃんと状況が見えてる。そっちの黒髪君もやるねえ。いやあやっぱり人間恐るべしだよガルデ」
「……コンソールを壊さずに戦うのは苦労する」
ガルデが不満そうにそう言って、大剣を肩に担いだ。
「おかしな動きをしていると思った。本気で掛かってこい」
ロアが挑発するが、次の瞬間には後頭部を短杖で殴られていた。
「ばか! 挑発するな!」
「魔族が目の前にいてなぜ止めるのだヨルネ」
不思議そうにするロアに、グリムがヨルネの代わりに答えた。
「こんなところで争うのは互いに不利益だと分かったから――だよね?」
思考を先回りされたことに少し苛立つもヨルネは首肯した。
「貴方達がなぜこんな遺跡にいるのか知らないけど……何か目的はあるはず……。そしてそれは少なくとも私達を殺すという物ではないのは……態度で分かる」
「相手は魔族だぞヨルネ。目的がなんだろうが、相手がどう思っていようが、倒すべき存在だ」
「それは……少なくとも……今、私達のすべき事ではないはずよ……」
「まあいい。ヨルネがそう言うなら俺は従う」
ロアが剣を構えたままだが、そう言うと殺気を消した。
「うんうん、ね、ガルデ言ったでしょ? 賢い人間とはちゃんとお話も交渉もできるって」
「……認めよう」
ガルデが大剣を背に戻すと、太い腕を組み、深く頷いた。
「私達は、とある冒険者達と停戦、不干渉の契約を結んでいるんだけど……君達もそうする? 見たところ君達の狙いは古竜ではなさそうだけど?」
「……そうでもないけど……でもありがたくその申し出は受ける。私は……旧世界の資料を見付けたいだけ」
「俺は古竜を討……いやなんでもない」
ロアが口を開いた瞬間にヨルネの短杖が背中へと刺さったので、慌ててロアは口をつぐんだ。
「資料ね……なるほどなるほど。でも君達が想像するような紙の資料はもうないと思うな~」
「まさか……媒体が違う……?」
「そう! 君がそれを再生させられる機器を持っていれば話は別だけど」
再生……媒体……機器。ヨルネはそれらの言葉に聞き覚えがあった。ヨルネが卒業した【王立竜学院】の地下にある研究施設に確かそういう遺物を保管している場所があった記憶がある。
「それは……どこに行けば手に入る?」
「媒体自体は私も持ってるけどね~。流石にデータバンクにアクセスしようとするなら……メインコンソールがある中央制御室に行くしかないね~」
「……中央制御室」
「私達もそこに向かうけど、一緒に行く?」
まるでピクニックに誘うかのようにグリムがそうヨルネに言葉をかけたが、ヨルネは首を振った。
「お断りよ……魔族は敵……その気持ちは私も彼も変わらない」
「残念。じゃあお近づきの印にこれ、あげる。メインコンソールに差せば勝手にデータを抜いてくれるから、簡単だよ。予備を持ってきといて良かったよ」
そう言ってグリムが何かを投げた。
ロアがそれを手で掴み、手のひらを広げて見てみると、それは銀色の細長い金属だった。
「……予備ということは……そちらも資料が目的?」
「まあそっちはサブターゲットってとこかな? まあ心配しなくてもコピーするだけでデータは消えないから大丈夫。じゃあ、お先にどうぞ。私達はもう少しここで作業してから向かうから」
「そう……じゃあ……契約……忘れないでね」
「もちろん」
「……【透明化】」
ヨルネが魔術を発動させると、ロアとヨルネの姿が消えた。
部屋から気配消えたのを確認してグリムが笑う。
「ふふふ……いいなあ面白い……これで友達二人目だね」
「向こうはそうは思っていないようだが?」
「そういう野暮な事は言わないの。ほら、噂をすれば……」
グリムが一つのモニターを注視する。それは昇降機前の荒れたスペースの映像だった。
☆☆☆
「何が起きたんだ?」
レド達が飛び込んだ空間はものの見事に荒れていた。爆弾が投げ込まれたのかと思うほど、床も壁も破壊しつくされている。昇降機へと続くだろう扉がある付近だけが無傷なのが余計にそれを引き立たせていた。
「既に一機、昇降機が動いておるの。しかし……中々の破壊だの」
まだ火が燻っている部分もあれば、床には水溜りがあったりと、レドにも何が起きたかが想像できなかった。
そしてレドに、それを推測する暇もなかった。
「っ!! リーデ!!」
イレネの悲痛な叫びに全員が反応し、反対側の通路へと視線を向けた。
その暗がりから出てきたのは、つばの広い帽子を被った猫背の男と――フードを被ったリーデだった。
グリムの友達百人できるかな?の二人目はヨルネさんでした!
ちなみにロアさんの技?名?は全部ドイツ語です。意味は調べたらあかんぞ!!!
超必はクーゲルシュライバーです。嘘です。
感想お気軽に!君達のツッコミ待ってるぜ!




