4話:アドバイスその二【出来れば同じレベル同士でパーティを組め】
「パーティ! そうでした! 死線を乗り越える仲間! 信頼友情……そして愛」
「……そういう幻想を抱くのはやめとけ……」
盛り上がるシースにレドは力なく言葉を返した。
そしてふとあの三人が脳裏をよぎった。そういえばあいつらは無事にやっているんだろうか。
自分を追い出した馬鹿な奴等と最初は笑った。どこかで死んでしまえばいいとも思った。
それでも彼らが心配になってしまう自分の人の好さに呆れる。
セインは独善的だし、ディルは自分の事しか考えていない。エレーナは対人関係が苦手で、あの二人に意見をするなど出来ない。もはやあのグスタフとかいう奴に期待するしかない。
「いやいや今はそれよりも……」
「どうしたんですか師匠?」
隣をちょこちょこと歩くこの弟子とやらをどうにかしないと。
おちおち飲んでいられなくなるぞ……とレドは今更思うのだった。
「それで、パーティというのはどうすれば組めるのですか? 募集するのですか? それとも入れて貰うのですか?」
「場合によるが……今回の場合はこちらからめぼしい人材を見付けて誘うのがベストだ。入る場合にしても運良くこちらの要望通りのパーティ構成があったとしても…そいつらの人間性までは分からんし、出来上がった人間関係の中に入るのは難しい」
「それはでも誘う場合でも一緒では? あ、師匠のよく知る人であれば別ですが」
シースの言葉は中々鋭いな、とレドは驚いた。
そう、こちらからパーティに参加しようが、こちらのパーティに誘おうが人間性なんて物はすぐに分からない。
それが分かるのはいざという事態の時だ。そしていざという時に、失敗でしたでは済まされないのだ。
だからこそ、レドは注意してシースに説明する。
「まず基本として、一パーティは四人だ。これは一応ギルドでも決まっている。とはいえ、別に二人でも五人でも六人でもいい。ギルドとしては、四人が一番揉めない人数だと言っているだけだ。まあ俺もわりとこれに賛成派なんだが。とにかく組むなら偶数にしろ。というわけで残り三人を探すぞ」
「えっと、二人じゃないんですか? 僕と師匠と……あと二人でしょ?」
シースが当然とばかりにそう言ったので、レドはぽかりとその頭を叩いた。
「はい、復唱。アドバイスその二【出来れば同じレベル同士でパーティを組め】」
「出来ればパーティは同じレベル同士で……ああだから師匠は駄目なんですね」
「そうだ。パーティ内に実力差があると……トラブルの元になる。それもあって今回は、残り三人を出来ればお前と同じ駆け出し冒険者、もしくは冒険者志望の奴にしたい」
「確かにそっちの方が僕は安心するかもです。でも一人ぐらい経験者がいた方が……」
シースが不安そうな顔をするが、レドは首を横に振る。
「下手な経験がある奴より、何も知らない真っ白な奴の方が信用できる。薬だと思っていたら毒だったって事になるぐらいなら、何も知らない奴を入れた方がいい。自称中級者が一番危ういんだ。もしくはベテランを入れるかだが……ベテランはベテランでプライドもあってめんどくさい」
少し思案したシースがレドを見て、うんうんと頷いた。
「凄く納得は出来ました。では早速仲間探しですね!」
「……まあいい。とりあえずギルドに戻って、良さそうな奴がいないか探そう」
二人が来た道を戻る。すると、路地の奥で何やら人だかりが出来ていた。
「なんか騒ぎになっていますね」
「ほっとけ。こんだけでかい街だとよくあ――」
「ちょっと見てきます!」
「っておい! 話を最後まで聞――行っちゃったよ……」
駆けだしたシースの背中を見てレドはため息をついた。シースと会ってからため息が増えた気がする……。
そういえばセインの奴も昔はこうやって一々騒ぎに首を突っ込んでたっけ。しかし、シースは最初は大人しかったのにどんどん本性を出してきているな……。
レドが近付くと、その人だかりはざわざわと会話していた。
「大丈夫かよさっきの子、一人で飛び込んでいったぜ……」
「下水道は魔物が住んでいるって噂だから冒険者じゃないと危ないんじゃ」
「誰か冒険者ギルドで依頼出してこいよ!」
「いやでも金かかるし……」
見れば、路地の奥の地面にぽっかりと穴があいていた。
「どうしたんですか?」
シースが近くの男性に事情を聞く。
「ん? いやいきなり地面が陥没してな。多分下を通る下水道の老朽化だと思うんだが」
「それでフェルちゃんが中に落ちてしまったの!」
泣き崩れる女性がそう言いながら穴を指差した。微かに臭うのは確かに下水の臭いだ。
「大変じゃないですか!」
「通りがかったシスターが助けに行くって言って飛び降りてしまったんです……。それから返事もなくて……ああフェルちゃん!」
追い付いたレドが地面に膝をつき、泣き崩れる女性に優しく声を掛けた。
「ふむ……ご婦人、私達は冒険者です。その飛び込んだシスターは知りませんが、貴方の子供は私達が救いましょう。ただし依頼を今から出していては間に合わないかもしれません。なんせ下水には魔物が住んでいる事が多いですから。ですので仮依頼制度を使いますがよろしいですか?」
「フェルちゃんが……でも私依頼するほどお金は……」
「なあに大丈夫ですよ、私達は駆け出しのEランクなので、この程度の依頼なら2000ディムもかかりません」
「本当ですか? ではどうすれば?」
「シース、ギルドカードを出してくれ」
シースが慌ててギルドカードを取り出した。
「このカードに指を押し当ててください。それだけで仮依頼は受領されます。依頼料については解決後ギルドの方で計算して、お支払いという形になります。まあ後払い制ですね。万が一支払いを忘れた場合はギルドから担当官が送られる場合があるのでご注意を」
「わ、分かりました!」
女性が親指をシースのカードに押し当てた。すると、カードが微かに発光した。
「よし、これで仮依頼登録完了だ。行くぞシース。初仕事だ。特別に今回は俺も手伝う」
「は、はい! 頑張ります!」
「では、皆さん、万が一があるので、この場所から離れてください。他の場所が陥没しないとも限らないので。水道局に誰か行って、事情を説明してくださると助かります」
レドはそう言うと穴の中へと消えた。シースが穴の縁から下を覗く。幸いさほど高さはない。
「さっさと降りてこいシース」
「は、はい!」
レドが下からそう呼びかけると、シースが飛び降りた。パシャリ、と床の水が跳ねる音と共にシースが着地。
そこは周りを石壁に囲まれたジメジメとした水路で、下水の臭いが充満しておりシースは顔をしかめた。
「臭いはじきに慣れる。もう斧剣を抜いておけ。下水ネズミやらゴブリンがいる可能性もある」
「はい!」
腰の後ろに装着していた斧剣を外して構えるシース。流石に手斧は扱い慣れている為か、その構えは自然だ。
「いいか、頭を狙え、躊躇はするな。木だと思え。とりあえず変形機能は使うな。そいつはもっと慣れてからだ」
「は、はい」
「あとは実戦で慣れてもらうしかないな」
レドがそうアドバイスしながら、抜刀。
「“漂い照らせ”【光浮球】」
詠唱したレドの青い短剣の剣先から光る球体が現れる。それはレドの頭上でふわふわと漂い、放つ光で辺りを照らしている。
「いくぞ」
レドが先行し、その後をシースが付いていく。しばらく進むと、水路が二手に分かれていた。
「シース、聞こえるか」
レドが立ち止まり、振り返ってそうシースに聞いた。
「……はい。遠くで金属音、それと……水が跳ねる音が近付いています」
「合格だ、ほら、来るぞ。さあお前の実力を見せてみろ」
この世界では、魔術師も聖職者も都会であればさほど珍しくありませんがやはり人気なのでどこのパーティにも引っ張りだこです。
魔術が使えるかどうかは魔術師ギルド(そのうち作中にも出てくる)で検査キット()を購入すれば分かります。というわけで次話でようやく戦闘です。お相手はもちろんファンタジー作品に必ずと言っていいほど登場するあのお方達です!