43話:冥海神殿ウーガダール
地下へと続く緩やかな下り坂をレド達が駆ける。
それは螺旋状の通路で、地下深くまで続いていた。
「こうぐるぐる回ってると飽きる上になんか目まで回りそう」
「かなり地下まで降りてるが、まだ辿り着かないのか?」
イレネが横にいるエリオスへと愚痴る。
大灯台の入口から走って既に十分は経っているが、いっこうに底が見えない。
「地下深くにあると聞くが……ふむ……儂にも分からん」
「まあいいさ。ゲルトハルトの出番はまだ先だ」
予め、レドはゲルトハルトから自分は非戦闘要員であり、道案内も何も出来ないと聞いていた。
だがレドはそれでも構わなかった。未知の遺跡にある機構や遺物。それらについてレドも多少の知識はあるがそれはあくまで他の遺跡を潜って経験したからだけで、正しい知識は持ち合わせていない。
だが、ゲルトハルトはそれらに対する知識がレドよりも多く、正しい対処法を知っている。それだけでもレドにとってはありがたかった。
そうこうしているうちに、レド達は通路の終着点へと辿り着いた。
「これは……凄いな」
目の前にあったのは巨大な扉だった。その扉は大きさの違う円状の薄いプレートが何重にも重なって出来ており、一見すると扉に見えないが――
「開いた!」
イレネの声と共にそれらのプレート一枚一枚が回転しながらスライドしていき、壁の方へと収納されていく。
気付けばその扉は消え、奥への道が開けていた。
「ほほ、機構が動き始めた証拠だの」
「行くぞ。他の扉も開いているだろうさ。ここからはスピード勝負だ」
レドを先頭に駆ける。その横にイレネ、後ろにゲルトハルト、そして殿にはエリオス。
扉の先はあまりに広大な空間で、レドは一瞬ここが地下である事を忘れてしまうほどだった。壁や天井や床が淡く発光しているせいで空間は全体的に明るい。
そして気持ち悪いぐらいに空気が綺麗で、無臭だった。
それにレドは強烈な違和感を覚えた。こんな地下で密閉されていた空間のはずなのに臭いも何もないのはおかしい。
無臭で清潔な遺跡ほど――厄介だという事をレドは経験上知っていた。
その広大な空間には、この上にある大灯台と同じぐらいの太さの柱が乱立しており、床と天井を繋げていた。
更に空間の中心には巨大な湖があり、その上にはリング状の建造物が浮かんでいた。その輪の内側に更に一回り小さな輪となった建造物があり、それが何重にも続き、中央には塔が立っていた。
「おそらくだが……あの塔に中央制御室があると思うが、レドや、どう思うかの?」
「中央制御室と言うぐらいだ。多分そうだろうさ。いずれにせよ、あの湖に浮かんでいるのが神殿だろう」
「じゃあ、行きましょう!」
イレネの言葉に全員が頷き、湖へと走る。
床は滑らかで傷一つない。ところどころに溝が掘られており、その溝を淡い光が規則正しく行き交っていた。
この空間を上から見下ろせば、その溝はまるで回路のように空間全体に走っていた。そしてその回路は中央塔へと集約している。
光は空間の外側から中央へと向かって複雑で入り組んだ回路を走り、中央塔へと吸いこまれていった。それを幻想的だと思うか、不気味だと思うかは、見る者次第だろう。
だが、そんな事を感じている暇はレド達には無かった。
「レドさん! 右方向から何か来る!」
エリオスが蠢く何かを見て鋭く警告を発した。
レド達の右前方にある巨大な柱を良く見れば、人が一人通れるほどの穴が下部に開いており、そこからぞろぞろと何かが現れた。
「……なにあれ」
嫌そうな顔をするイレネの視線の先に現れたのは、端的に言えばトカゲだった。青い鱗に細長い爬虫類のような顔付き。四肢には鋭い爪が生えており、背後には細く長い尻尾が続いている。
それは人ほどの大きさで、形はしかし普通のトカゲというよりも、人型に近い。それが無理やり四つん這いで動いているような姿で、生物としての不自然さをレドは感じた。魔物とも違う……どちらかと言えば魔族に近いような印象だ。
「あれは【なり損ない】だの。おぞましい姿だ……気色が悪いの」
ゲルトハルトが珍しく、吐き捨てるようにそう言った。
「ちっ、どう見てもこっちに向かって来ているな。エリオス、イレネ、出し惜しみは無しだ。俺が前衛をやる。お前らはサポートだ、付いてこい!」
そう指示を出し、レドはトカゲの群れへと疾走する。ここで回避して回り道する余裕なんてない。
「行くわよエリオス! ゲルトハルトは茶でも飲んでなさい!」
「ほほ、言うようになったの」
イレネが自信ありげな表情を浮かべると共にレドの後を追う。
「まずは一発ぶちかます」
エリオスが左手に装着していたクロスボウの矢を青い鏃のついた短矢へと変え、少し斜め上へと狙いを付けた。クロスボウの引き金と弾倉の機構は指に繋がっており、左手だけで弾の切り替えが出来て、引き金を引けるようにしてあった。エリオスは右手に槍【交差するハウラ】を構え、クロスボウを発射。
弦の震える音と共に短矢が射出された。それはレドの真上を通り、トカゲの群れの真ん中へと着弾。同時に床が凍り付き、小規模な氷風が吹き荒れ周囲にいたトカゲ達が悲鳴を上げた。
エリオスが放ったのは、事前にイレネに冷気魔術を込めてもらった魔石を鏃にした、アイスボルトと名付けた短矢だ。着弾と共に込められた冷気魔術が発動し、元の魔術よりも威力と範囲は劣るものの、魔力の無いエリオスでも擬似的に冷気魔術を使えるようになったのだ。
元より、イレネの魔弓術を幼い頃から見ていたエリオスにとっては、矢を放ち魔術を発動させるというプロセスは馴染みやすかった。
エリオスのアイスボルトによって、足が止まったトカゲの群れへとレドが斬り込んでいく。
一番先頭にいるトカゲの首を赤い曲剣で斬り飛ばし、下半身が凍り付いて身動きが取れないトカゲの頭へと青い短剣を突き刺した。
イレネがその横で足を止めずステップを踏みながら右手に持つ小振りの曲剣【アマルダの欠け月】でトカゲ達の頭を切り裂いていく。
一部傷の浅く生きているトカゲもいるが問題ない。後詰めのエリオスが十字槍で、イレネの斬り残しへと的確にトドメを刺していき、届かない距離のトカゲには、ただの鉄で出来た短矢――アイアンボルトを放つ。
レドを背後から襲おうとしたトカゲの目にアイアンボルトが刺さり、動きが止まる。レドが振り向きながら曲剣による横薙ぎをそのトカゲの首へと叩き込んだ。
エリオスは弾倉を切り替え、先端に火薬が詰まって膨らんだ短矢――ブラストボルトをトカゲ達が現れた柱の穴へと狙いを定めて放つ。
吸いこまれるように穴の中へと飛び込んだブラストボルトが爆発し、炎が穴から噴き出した。破砕音と共に柱の一部が崩れ、穴が塞がる。
「良し!」
「良いぞ、エリオス! 完璧な動きだ。イレネもな」
外へと既に出てきていたトカゲを全て斬り伏せたレドがエリオスへと賞賛の言葉を送った。
「さあ、行きましょう! ボサッとしてる暇はないわ! ほら、あそこからも!」
イレネの言うように、遠くにある柱からも続々とトカゲ達が出現していた。こちらに向かってくる様子はないが、気付かれたら確実にこちらへと殺到するだろう。
「ほほ、上等上等。ただし、こいつらは見たところまだまだ初期段階の実験体だの。もっと強い個体もいるかもしれん」
「注意しておこう。いくぞ!」
レド達がまっすぐに湖へと走る。
途中で、左右の柱からトカゲたちが現れるが、無視して突き進む。道を阻む者はエリオスのボルトとレド達の斬り込みで無理やり突破する。
とにかく時間がない。それにレドは、この空間がにわかに騒がしくなってきたのは決して自分達のせいだけではない事に気付いていた。
空間のあちこちで、自分達以外の戦闘音が聞こえ始めていた。
「急げ! おそらく他の奴らも、もうここへ辿り着いているぞ!」
最後のトカゲの群れを突破したレド達が、湖岸へと辿り着いた。少し先にある桟橋のような通路が一番外側の輪状になっている建造物へと繋がっているが、近くで見るとその巨大さに圧巻された。
それはまるで巨大な壁のようにレド達の目の前に立ちはだかっている。
だがゲルトハルトだけは、その壁のような神殿ではなく、限りなく透明に近い色の湖の中を覗いていた。
「ほほ……これはまた……」
ゲルトハルトの声に気付き、レドも湖面を覗き込んだ。
「……嘘だろ」
湖の中。透き通るその液体の先には――巨大な城が沈んでいた。
正確に言えば城ではないのかもしれないが、レドには城にしか見えなかった。
湖面の上に見えている、あの巨大な建造物は、全体のほんのごく一部でしかなかったのだ。
「これが……【冥海神殿ウーガダール】」
「ほほ、これはまた難儀しそうだの」
「……時間はあと三時間半。間に合うのかしら」
「間に合わすしかない。急ごう」
レド達は桟橋へと走った。
遺跡突入!!
エリオスさんのクロスボウが魔改造されて謎機能になっていますが、まあ鍛冶屋の腕が良かったのと魔族の知識が云々かんぬんで適当に誤魔化されてください。なんか上手い感じに使えるんや!!ええな!?
ここからしっちゃめっちゃかな感じになりますが、基本的はレドさん視点で話は進みますのでご安心を。ところどころ他の視点も少しだけ挟みます。問題児ばっかりで作者は不安です……
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