42話:赤き禍ツ星の下に
「いよいよね」
「ああ……だがシースがまだ来ていない。どうするレドさん」
満月の下。大灯台を見上げるイレネとエリオス。
イレネはいつも通り曲剣を腰に、背には弓を背負っている。エリオスは盾を背負い、動きの邪魔にならない程度の大きさのポーチを腰に付けており、右手には槍を持ち、左手には腕甲と一体化させた携帯型クロスボウを装着していた。
レドもいつも通り短剣と曲剣をぶら下げており、エリオスと同じく腰にポーチを付けていた。
「……待つ時間はない。神殿への入口が起動塔地下だけとは限らないしな。そうだろゲルトハルト」
「うむ。おそらくだが、この街の下水道から繋がる道がある可能性は高いの」
「なら、ここでちんたらしている暇はない。防衛隊の観測部隊によると、【災厄の星】がこの街の上を通るのは約四時間後だ。それまでに魔族を討伐、もしくは中央制御室に辿り着いて、そこを死守出来れば俺らの勝ちだ」
「……そういえば疑問なんだけど、もう入口は開いているのでしょ? であればさっさとその中央制御室に陣取っていればいいんじゃないの? というか先に壊せば話が早いんじゃない?」
イレネの疑問に対しゲルトハルトが答えた。
「入口は開いておるが、中の機構がまだ動いておらんので、結局中には入れんのだ。でなければとっくにレザーリア達が突入しておるの。神殿が【災厄の星】の発する電波の範囲内に入れば先に進めるようになって、真上に来る四時間後に特殊権限によるロックが解除されるんだの。【災厄の星】の効果範囲内に入った瞬間がスタートで……あとは早い者勝ちだの」
「そもそも【災厄の星】の電波?……って何なのよ」
「まあ魔力の波とでも考えてくれていいの。あの星は常に強力な魔力波を放っている、と理解できればオッケーだの」
「なるほどね……。なんにせよそれが真上に来るまでが勝負って事ね。遅れれば遅れるほど不利」
「そういうことだ。ついでに神殿内については未知だ。そもそも中央制御室に辿り着けるかも分からない。時間は……無駄には出来ないんだ」
レドは、シースを待ちたい気持ちを押し殺してそう言い切った。
レドとしては、やはり分の悪い賭けだと思っている。
希望があるとすれば、神殿内部の構造についてこの時代の魔族で知っている者はいないというゲルハルトの言葉だ。ならば条件は一緒だが……。
相手は協調していないとはいえ上位の魔族二人に、謎の男とそいつに操られていると思われるリーデ。
それに対しこちらが投入できる戦力は、自分達三人とゲルトハルトだけだ。防衛隊や他の冒険者は万が一があった際の人員として地上に待機している。
更に未確認情報だが、王都から【竜狩り】という人物がやって来て、竜や魔族について探っているという話もレドは耳にした。この【竜狩り】が何者か知らないが、何かしら関与してくるかもしれない。
レドとしてはシースとエギュベルと呼ばれる古竜に期待していた分、痛手だったが来ない者を待っても仕方ない。
「しかし……リーデとその男は来るのだろうか?」
エリオスが心配そうにそう呟いたので、レドが説明した。
「防衛隊と【黒の刃】によって、この一週間街を出入りした者は全て確認済みだ。それによると、そいつとリーデはこの街から出ていない。勿論、常軌を逸した方法があった場合は……何とも言えないが、まだ街に居ると考えて大丈夫だろう。現れたタイミング、シースの情報から判断して魔族に協力しているのは間違いない。であれば今夜動く可能性が高い」
「そうだな……俺は信じるよ。シースもきっと何か事情があるはずだ」
「……古竜と一緒にいるんだ。違う入口から突入するのかもしれない」
「ま、考えても仕方ないわね。ほら、来たわよ」
イレネが指差す先。東の空に見えるのは赤い小さく点滅する光だ。
「【災厄の星】……いつ見ても不気味だ。あれはベイルでも凶兆として伝わっている」
エリオスが険しい表情でその赤い星を睨んだ。
「時間だの。覚悟はええか? 今から行くのは魔族ですら未知の領域、旧世界の遺物だの」
「はん、今更ね!」
「いつでもいける」
ゲルトハルトの言葉にイレネとエリオスが答えた。そしてその三人がレドへと視線を向けた。
「うっし、行くか。気を引き締めていけ。ゲルトハルト含め即席四人パーティとして行動するぞ。基本的には俺の指示に従ってもらうが、各々、状況に合わせて動いてくれ」
「ほほ、人に使われるなぞ何十年振りかのお……」
「特に、ゲルトハルト、怪しい行為をしたら即、【炎核】を割るからそのつもりでいろ」
「心配せんでも儂はお前達の味方だの。全く……一週間行動を共にしてまだ信用していなかったとは」
「魔族を信用するほど俺も焼きは回っていないさ。さあ――行くぞ!」
予め開けてあった大灯台内部へ続く扉にレド達が突入する。
東の空では赤い星が怪しく光っていた。
☆☆☆
地下水路のどこか。
「行くぞリーデ。誰よりも先に中央制御室に到着して、全てを壊そう。人の時代は終わりそして……再び竜の時代を」
「はい……神父様」
「お前も俺も……もうすっかり壊れてしまったな」
「はい……神父様」
二つの影が走る。
先頭を走るのは、つばの広い帽子を被った猫背の男――ゾッドだ。その後ろにリーデがぴったりと付いて来ていた。
そんな二人の背後から、青い雷光が迫る。縦横無尽に壁や天井を走るその雷光はゾッドの前へと出ると、獣の姿へと変わっていく。
「……邪魔すれば殺すぞ……人間……」
「邪魔? 目的は同じだろうが。その上で――目の前にいれば刈るだけだ」
獣姿の雷光――デュレスに対しゾッドがそう言いながら大鎌を振った。
「……まあいい……せいぜい足掻け……」
しかしその斬撃をデュレスはするりと躱すと疾走。ゾッド達を置き去りに水路の先へと姿を消した。
「犬が……」
ゾッドの苦い呟きが水路に響いた。
☆☆☆
「あー臭い……臭い臭い臭い!!」
「そりゃ下水道ですから……勘弁してくださいよレザーリアさん。言われてた場所ようやく見付けたんすよ? 臭いのぐらいは我慢してくださいよ」
黒い鎧を纏った青髪の女――レザーリアがブツブツと文句言いながら、下水道の中を歩いている。先導しているのは若い男性だった。
「見付けたのは褒めてあげるけど、下水道ってのが最低。臭くて仕方ない」
「布かなんかで顔を覆えば良いんすよ。もしくは香水かなんか持ってないんすか?」
「……ねえ、ここをまっすぐ行ったとこだっけ。例の扉」
「そうっすよ。もうすぐ着きそうですね」
「そっか。じゃあ香水付けよっかな。なんか後ろからやな奴らが近付いている気がするし……まさか【核砕き】……? 仕方ない、急ぐか」
レザーリアがそう言ったと同時に手を振った。
「――へ?」
その若者が間抜けな声を上げた瞬間に、その身体が軽い破裂音と共に爆発した。
血と臓物を周囲に巻き散らし、当然後ろに立っていたレザーリアも血だらけになっていた。
血でまだらに染まるレザーリアの顔が歪む。
「ハハハッ!! 良い匂いだわ!! 六十七点あげる!! 」
一人で笑い続けるレザーリアの声が反響し、狂気が下水道を満していった。
☆☆☆
「そっちじゃない……って何回言わせるの。せっかく古地図持ってきたのに……」
「……? そうか。だが、あっちから竜の匂いがするぞ? 行ってみよう」
「……もう」
ガディス地下。地下水路から更に降りた所にあるこの場所は遺跡の一部と言われているが詳細は不明である。そこは大きな円筒状の通路が入り組んでおり、まるで迷宮のようになっていた。
その通路を進んでいるのは松明を持つ黒髪の男――ロアと地図を広げる緑髪の女性――ヨルネだった。
ロアは黒い剣を抜いており、ヨルネは短杖を右手に持っていた。
「……ねえ本当に古竜がいるの? ガディスの地下に……竜が眠るって……ただの伝説じゃないの?」
「いる。それに別の古竜が既に動いているのが何よりの証拠だ。古竜は古竜が絡む事件にしか姿を現さない」
「どこから……その知識を得たのかしら」
「ふっ……秘密だ」
「……うざ」
「ッ! ヨルネ!! 近いぞ!!」
会話の途中で突如何かに反応したロアを見てヨルネも短杖を構えた。
それは微かにだが反響してこちらにまで聞こえてくる、二人の人物が言い争う声だった。
「めちゃくちゃ迷ってるじゃないですかエギュベルさん!!!」
「あーうるせえ!! こんなとこのマップをあたしが一々覚えてるわけないだろ!!」
「だから素直に大灯台から行きましょって言ったんですよ!!」
「転移がちと雑だっただけだ!」
「絶対師匠、怒ってますよ……」
「ぎゃあぎゃあ言うな! たぶんこっちだ! たぶん……」
「今たぶんって二回言った!」
その聞き覚えある声に、ロアがそちらの方へと疾走を開始した。
「あ……ちょっと……待って!!」
置いて行かれたヨルネが慌ててその後を追った。
――こうして、赤い星に導かれるように人と魔族と竜が集う。
【冥海神殿ウーガダール】の真上に【欲災の竜星】が到達するまで――後、四時間。
次話からウーガダール神殿突入!!
作中にもあったように、神殿への入口は複数あります。だから、デュレスやゾッドは地下に潜み、レザーリアは適当にその辺りの若者を捕まえて、その入口を探させていたのです。
それぞれの思惑が絡み合っていますが、基本的に、古竜を叩き起こすやで派VSそんなんあかんで派に分かれています。なおそれぞれの派閥同士でも敵対していたりとケェイオゥス(ネイティブ発音)
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