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41話:緩い協力


「んーやっぱり凄いね~。良い動きをする。人間のままにしておくのは勿体ないなあ」


 赤ローブ男達が全滅したのを見て、警戒を解くグリムとガルデだが、レドは武器を構えたままだ。


「それで? お前らは何の為にこの街に来た? さっきの奴らと敵対しているようだが」


 レドが油断なくいつでも魔術を放てるように魔力を青い短剣に込める。


「だから言っているじゃん。ゲルトハルトのジジイと同じだって。魔族にとっても、アルドベッグの覚醒は望むところではないの。なんせあれは……()()()()()だから」


 グリムの言葉に嘘はないようにレドは感じた。だが、そう欺いている可能性を否定しきれなかった。

 それほどまでに、この少女はこれまで会ったどの魔族よりも異質で、読めない。


 グリムの言葉にガルデが続いた。


「俺達は……魔王に従わない魔族を狩っている。だからベギムレインの襲撃も今回の件についても魔王は関与していない。人間の街が壊滅する程度なら俺達にとっては些事だが、古竜が覚醒するとなると話は別だ」

「つまり、ベギムレインもデュレスもレザーリアも魔族にとっても敵というわけか」

「そういうこと~。んで、【緋蜘蛛】の一部がどうもそっちに協力しているみたいで、お邪魔虫してくるわけ。弱いくせに数だけはいっぱいいるから鬱陶しいったらありゃしない」


 グリムが笑いながら、ぺらぺらと聞いてもいないのに喋りはじめた事にレドは警戒する。タダで情報をくれる奴を信用してはいけない。


「起動塔……だったか? その下のウーガダール神殿を完全起動させる条件があって……それを満たすのが()()()()らしいな」

「ふふふ、そんなわざとらしい嘘を付かなくても全部教えてあげるって」

「ちっ……やりづらいな」


 相手が周知であろう事柄についてわざと間違える事で、相手しか知らない情報を引き出そうとしたレドだが、それもあっさりグリムに読まれてしまった。


「ウーガダールを完全起動させるにはいくつか条件があってね。一つは起動塔内のあるコンソールを操作して入口を開ける事。これはベギムレインがやったみたい。次に、開いた入口から中に入って神殿内部にある【中央制御室】で起動準備を行う事。ここまで出来たらあと少し。最後に同じ場所でウーガダール神殿を完全起動させる。ただしこれを実行するには特殊権限が必要で、今この世界でその権限を持っている存在は古竜だけ……」


 グリムの説明を途中から理解するのを止めたレドは、その言葉を一字一句間違えずに覚える事にした。知らない単語があまりに多すぎるので理解が追い付かないのだ。


 グリムの説明が続く。


「つまり、古竜が動かない限りウーガダール神殿が完全起動する事はないのだけど……明後日の夜、丁度満月になる日だね、この日に運悪く……というよりその日をあいつらは狙ってやって来たんだと思うけど、神殿の真上を()()()()()のよ」

「待て待て……上を通るってどういう事だ?」

「君達が、【災厄の星】と呼んでるアレだよ」

「……? あれはただの星だろ?」


 【災厄の星】とは、この時代にこの星に住む者にとって、月や星や太陽と同じぐらいに常識的な物だった。


 それは、小さな星だが赤く瞬いており、月や太陽と同じように動いている。一定周期で動き、他の星と比べその動きが速い事から、最も距離が近い星と言われている。古より災いの象徴とされてきたが、今ではただの赤い星としか認識されていない。


 ただ、冒険者の中には今でも、“災厄の星が見える日に遺跡には潜らない”、という迷信を信じている者達が一定数いた。あの星の光には生物や遺跡を狂わす力があると言われているが、レドはあまり信じていない。


 ただ、潜り慣れた遺跡の様子がおかしい日には、いつもあの星があった気がする。


「あれの正式名称は【欲災の竜星(ディザイアスター)】。あれはね、星ではなく古竜なの。詳しい話は省くけど、あれは常に強力な電波を放っていて、旧世界の遺構を誤作動させる力があるの。だから、あれがウーガダール神殿の真上に通ると放たれる電波によって特殊権限が承認され、解除されてしまう。だからその時に限って言えば誰にでも完全起動させる事が出来る」

「要するに、魔族共をその中央制御室へと辿り着く前に倒せばいい。そう言う事だろ?」

「イグザクトリィ! 正解!」


 グリムが嬉しそうにパチパチと手を叩いた。


「んで、お前らも当然そう動くわけだ」

「そう。君達と一緒だね」

「なら……協力しろとは言わない。だがお互いに敵対せず不干渉を貫く、で手を打たないか?」


 レドとしては、その辺りが落とし所だろうと思っていた。ゲルトハルトのように炎核を渡してくれる訳もないだろうし、味方として置いとくにしては不確定要素が多過ぎる。


 ならば、緩い協力関係、不干渉辺りの約束を取り付けられたら、御の字だ。


「別に君の()()として私達が協力してもいいんだよ、冒険者さん?」


 少女らしからぬ妖艶な笑みと声でそう提案してくるグリムにレドは首を振った。


「結構だ。信頼できない奴は味方にしておくぐらいなら敵である方がよっぽどマシだ」

「はは、流石だね! じゃあ、そっちの条件を全部飲むよ。お互いに敵対しない、遭遇しても不干渉。これでいい?」

「あと、大規模魔術でこちらを巻き込むのも止めてくれ。魔族の魔術は危険な物が多過ぎる」

「はいはい、不干渉にそれも含まれるのね。そちらには被害が出ないように立ち回ればいいだけでしょ? 出来るよねガルデ?」


 話を振られたガルデは腕を組んだまま大きく頷いた。


「余裕だ。というか俺よりグリムの魔術の方が危険だと思うぞ」

「契約書……なんて物は意味がないな。口約束でしかないが、構わないか?」

「勿論。私は、貴方を信用する。そうね……()()()()()()教えてくれる? 冒険者さん」


 レドは一瞬、迷ったが、結局正直に名乗る事にした。


「レド・マクラフィン、だ」

「レド……ね。うん、良い名前。じゃあついでにサービスでもう一個教えてあげる。本当に厄介なのはレザーリアでもデュレスでもない。【冥海神殿ウーガダール】内部には厄介な者が住み着いているという噂よ。魔族以外への対策もしっかりと行っておくことね。貴方達風に言えば、Aランク依頼? に相当する難易度と思っておいていいわ」

「Aランクね……そんな事良く知っているな」


 冒険者風の例えに思わず笑ってしまうレドだった。


「私はね、人類に興味があるの。面白いのよねー冒険者ギルドとその制度。私も冒険者になってみたいもんだわ」

「グリム、流石にそれは許されないと思うぞ」

「言うだけならタダだもん。それに父上はどうせまたろくでもない事しかしてないし、私が何しようと気にしないわ」

「……ふっ、魔族が冒険者か……」


 だが、レドはその言葉を真に受けない。


 レドは、グリム達が新人冒険者狩りをしていた事を忘れない。


 人類に興味があるという言葉に含まれる意味を、慎重に考えないといけない。


「じゃあ、ここもハズレだったみたいだし、私達は行くね。ふふふ、また会いましょうねレド」

「いつか、また手合わせしたい物だな、レドよ。さらばだ」


 そう言い残して、二人が去って行った。


「……やれやれ。またディアスが頭抱えそうな事案が増えたな……」


 レドは二日後の作戦について、また不確定要素が増えた事にため息を付いたのだった。



☆☆☆



 一方その頃。


 ガディスよりも遙か西方にあるバスティス山脈。

 そこに【竜住まう山二ギルヘイム】と呼ばれる土地があった。


 その山頂で、シースが戦闘を行っていた。


 相手は、黒髪短髪の男だ。


 男は黒い布製のゆったりとした服を着ており、見る者が見ればそれはこのエウーロ大陸の南方にある、独特の文化と文明を持った島国特有の衣装だという事に気付くだろう。


 男の手には細く長い曲剣が握られており、武器というよりも芸術品と呼ぶに相応しい逸品だった、

 

 男の流れるような剣捌きに、シースも負けじと剣を振るう。


 それを見つめるエギュベルが、隣で怠そうに立つ金髪の男へと話しかけた。


「今日中に終わりそうだな。五日でここまで伸びるとはね」

「あいつらが悪いんっすよ。散々ガキの相手なんてしてられるかって息巻いてた癖に、気付けば手取り足取り教えてるし」

「それもシースの実力だろ。さて後、二日ぐらいか? 竜印を使いこなせるかねえ」

「……それ、俺にやらせる気っすか?」


 金髪男が心底嫌そうな顔をしていた。


「お前が一番上手だろ? シースは面白い()()()()を持っているがあの魔力量じゃ真価を発揮できねえ。だから上手く竜印を使えるようになれば……化けるぞ」

「死んでも知らないっすよ……俺、手加減苦手なの知ってるっすよね?」

「あたしよりはマシだから心配すんな。死んだらそれまでよ」


 笑うエギュベルを見てため息を付いた金髪の男。同時に二人の目の前に細く長い何かが回転しながら飛来。


 微動だにしない二人の間の地面へと刺さったとのはシースが戦っていた相手の剣だった。


「勝ちましたよエギュベルさん!」

「……まさか見切られるとはな。天晴れだ、シース」


 嬉しそうに跳ねるシースにそれを讃える黒髪の男を見て、エギュベルが拍手を送った。


「さてリカール、お前の出番だぞ。シース、まだ行けるな?」

「大丈夫です! リカール先輩よろしくお願いします!」

「へいへい。めんどくせーなー」


 金髪の男――リカールが軽く肩を回しながら、シースへと歩いていく。


「さて、間に合うかどうか」


 エギュベルの楽しそうな声が響いた。

 

シースちゃん間に合うのかな?


レドさんはもはや理解するのを諦めて、覚えてあとから調べるスタイルになっていましたが、仕方ありません。

古竜、そして魔族は【旧世界】と呼ばれる古代の文明の技術や文化を引き継いでいますが、人類は旧世界についての知識や言い伝えは全て闇に消えたそうです。なので、中央制御室? 電波? なにそれうまい棒? 状態のレドさんでした。


いよいよ、神殿突入が迫ってきます。ここから二章ラストまで突っ走るのでよろしくです!

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「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[一言] 胡散臭いは鼻だけじゃわからない
[気になる点] 「あれは常に強力な電波を放っていて~」 古龍は電波説に笑ったw 基地局かよってなりましたw [一言] 魔素とかのほうがしっくりくると思います。
[一言] うまい棒はダントツでコンポタですよね(訳:そろそろ本格的に戦闘が始まりそうですね
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