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40話:初めまして、冒険者さん


「よし、今日はここまでだ。いいぞ、エリオス。やはりこの方向で間違っていなかった」

「ああ、レドさんのおかげだ」

「むうう!! エリオス! もっかいよもっかい!」


 修行を始めて五日目。ついに実戦形式での試合に、エリオスはイレネに数回に一回だが勝てるようになっていた。


「イレネ、明日にしておけ。お前もう魔力ないだろ。休むのも訓練の一環だ」

「……分かったわよ……でも明日は絶対勝つからね!」

「魔術有りルールなら俺も勝てないさイレネ。そう怒るな」

「怒ってない! ゲルトハルト! 例のアレ、明日から使うわよ」


 目を細めてイレネ達を見つめていたゲルトハルトにイレネが許可を求めた。


「ほほ、そうじゃの。後、二日。実戦で使えるか試す頃合いだの」

「見てなさいよエリオス!」

「ふ、楽しみにしている」


 不敵に笑うエリオスを見て、レドは思わず笑みをこぼしてしまった。最初は苦労したが、エリオスもここ数日は自信が付いてきたようだ。随分と飲み込みが早くてレドも助かっていた。


 エリオスは確かに身体能力は凡人の域からは出ていないが、状況判断の早さ、視野の広さはシース達にはない強みだった。特に盾を下ろしていても、視野が広がり、全体を俯瞰できる視点を持てるようになったのは大きい。


 装備の使い方もこなれてきて、レドが考えも付かなかった方法や戦術を提案してきた時は、思わず唸ってしまった。どうやら訓練が終わった後も、色々と研究しているようだ。


 やっぱり、こいつは俺に似ている……益々そう確信したレドは、今の段階でエリオスが理解出来そうな戦術は全て教えていた。いくつかは現段階では難しいが、それでも二日後の地下突入時には良いサポート役になれるだろうし、いざとなればかなりの戦力となれる可能性を秘めていた。


 イレネも急激に成長している。特にゲルトハルトによる特訓でベイル式舞踏武術が格段に良くなっていた。どうやらまだ隠している力はあるようだが……。


「よし、じゃあまた明日集合だ。帰ってさっさと寝ろ」

「レドさんは?」


 エリオスがそう聞いてきたので、レドは当然とばかりに答えた。


「俺は今夜もリーデと魔族を探す」

「……すまない。レドさんも同じぐらい疲れているはずなのに……」

「気にするな。お前らとは鍛え方が違うさ。一流の冒険者は三日三晩戦い続ける事が出来る……まあ俺は絶対にやらんが」


 レドはにやりと笑いながら、エリオスの肩に拳をぶつけた。


「なら、リーデの事は頼む……。俺は自分の事に専念する」

「そうしろ。特にワイヤーを使った動きは少しぎこちない。頭の中でもっかい復習しておけ」

「了解だ。しかしワイヤーか……一度あいつらに聞いてみるか……」


 エリオスがレドにそう返すと、独り言を呟きながら去っていった。どうやら既にこの駐屯地にいる防衛隊の何人かと仲良くなったらしく装備の使用感や使い方について情報を共有しているようだ。


 レドは良い傾向だと認識していた。


 冒険者の強さは自身だけでは完結しないし、してはいけないとレドは常々思っていた。

 ギルド上部や勇者選定の決定機関である【血盟(サングレス)】の最近の傾向を考えるに、どうも個の強さだけを基準にしているような気がしていた。


 セインの時は、自分がフォローすれば良いと喜んで根回ししていたのだが……。


 そんな事を考えながら、レドは第三駐屯地を後にした。


「さて……今日はどこを捜索するか……」


 一通り街は巡ったのだが、魔族の痕跡らしき物は見付かるものの、肝心のリーデは一切見付からなかった。


「一度、下水道を探ってみるか」


 このガディスの地下には古からあったとされる広大な下水道が張り巡らされている。これを整備して使うようなったのは近年になってからだが、未だ手付かずの部分も多い。そういったところでゴブリンが繁殖するので、冒険者にも依頼が頻繁に来るのだ。


 そしてそういった場所は、日の当たらない道を歩む者にとって隠れ潜むには丁度良い場所なのだ。


 【貧者通り】の地下にある【ゴミ溜まり】もその一種だ。だが、レドはそこ以外にも数カ所怪しい場所があるのを知っている。


 西区の外れにある水路が入り口の一つであり、レドがそこへと向かった。


 辺りは既に暗く、街外れという事もあって人の気配もない。しかし、レドは微かに火の臭いが漂っている事に気付いた。


「……まさか」


 レドが腰の左右に差している剣を抜いた。


 水路の左右の端は歩けるようになっており、ぽっかりと口を開けたトンネル内へと続いている。

 レドは慎重にトンネル内へと入っていく。


 あえて、照明魔術は使わず、闇に溶け込むかのように水路を進む。


「臭うな」


 火の臭いが濃厚になっていくのが分かる。


「それに……この臭い……どこかで……」


 そうレドが呟いたと同時に風切り音がレドへと迫る。


「っ!! お前らか!」


 レドが赤い曲剣で弾いたのは一本のダガーだった。


「……ターゲット発見」


 闇の中で蠢く赤いローブにレドはようやく相手の正体に気付いた。


「【緋蜘蛛(アラクネー)】、だったか? どうやらここは当たりのようだな!」


 レドが床を蹴り、疾走。一瞬で加速し赤ローブ男に迫る。


 レドが突き出した青い短剣を警戒し、赤ローブ男がバックステップ。


「俺の事は把握済みってか? だが甘い」


 レドは魔術を放たずそのまま距離を詰めた。


 もし赤ローブ男がレドの事を知らなければ、青い短剣を見ても何の反応もしなかっただろう。だが目の前のこの男はレドが魔術を詠唱していないにも関わらずに明らかに反応して、距離を置こうとした。


 そこから分かる事は二つ。

 一つ、この青い短剣から魔術が放たれる事をこの男は知っていた。

 二つ、しかもそれは無詠唱で放たれるという確信があった。


 故に、レドと初めて相対するというのに赤ローブ男はこの青い短剣から無詠唱で魔術を放たれる前提で動いたのだ。


 正しい動きだとレドは思う。


 ただし、()()()()()()()()()()()()()()()、の話だが。


 バックステップした赤ローブ男は、魔術が放たれていない事に気付くが、もう遅い。


「無詠唱の本当の強みはな、すぐに魔術を放てる事じゃない――()()()()()()()()ってところだ――覚えておけ」


 ニヤリと笑いながらレドが赤い曲剣を赤ローブ男の胸の中心へと突き刺した。


「……ターゲットの脅威度の引き上げを要請――」


 赤ローブ男は感情なくそう言うと、その身体が燃え上がり、灰となった。


「ちっ、生け捕り出来ないのが難点だな」


 念の為、距離を取ったレドが、灰の塊を蹴飛ばした。


 さて、進むべきか、戻るべきか。

 奴らがいた以上、この先に何かある可能性は高い。だが、一人で行ってしまって良いものか。


 しばらく悩んでいたレドだったが、結局その時間は無駄となった。なぜならば、その一連の戦闘の音を聞いて、やって来た者達がいたからだ。


 レドも火の臭いが更に濃厚になった事に気付く。


「……っ!!  そうか……この臭いは……こいつらじゃなくて!」


 レドは一瞬で警戒を最大限まで引き上げた。


 奥からゆっくりと迫るのは赤と黄の点滅。


 呼吸するように光に強弱が付いており、それをレドは何度もこれまでに見ていた。


「あはは――()()()()()()()()()()


 蠱惑的な少女の声が水路に響いた。


「――お前は!!」


 暗闇から現れたのは、一人の少女とその後ろに立つ大男だった。


「私はグリム。こっちはガルデ。いつぞやは――楽しかったね」


 レドは既に、どうここから逃げるかを考えていた。


 魔族がいる可能性はあったし、最悪戦闘を避けて、情報だけでも持ち帰る事が出来ればいいと考えていた。


 仮にいたとしても、灰雷のデュレスもしくは爆血のレザーリア、そのどちらかだろうと思っていたが……まさか違う魔族がいるとは予想だにしていなかった。


 目の前の魔族二人から放たれる圧力にレドは全身に汗が噴き出ているのが分かった。


 こいつらは、ヤバイ。


 レドはそう直感した。あの廃墓地で戦ったのが本体ではない事は知っている。

 だが、今回は違う。

 

 肌で感じる。


 ()()()()()()()()()()()()()


「なぜ……お前達がここにいる」


 精一杯声が震えないようにそう言ったレドだったが、既に頭の中で逃走経路を構築していた。


 魔術による目眩ましからの水路への飛び込み。壁を魔術で生成して、その間に逃走。


()()()()()()()()()()()、ねえガルデ」

「……誰が逃げるなんて言った?」


 思考をグリムに読まれていたレドは負け惜しみを言いながら逃走を早々に諦めた。ベギムレインとは別次元の強さ、そしてやりにくさを既にレドは感じていた。


 特にこの少女――グリムは厄介だ。


「心配しなくても、貴方が想定する最悪の事態ではないよ? むしろ朗報? 吉報? 友軍的な?」


 レドは油断せずにいつでも動ける構えを取っていたが、なぜか目の前の二人からは敵意を感じなかった。


 友軍だと? 


 その言葉にレドは混乱する。


「どういう事だ?」

「ゲルトハルトのジジイがそっちに付いているんでしょ? 私達はまあそっち側とだけ言っておくよ」

「……その話、詳しく聞かせろ」

「良いけど……それは後でゆっくりと――ねっ!」


 グリムが手を振ると同時に青い炎剣が出現。レドの真上の空間を薙いだ。


 レドも同時に上に気配を感じ、曲剣を振るう。


 炎剣とレドの曲剣によって切断された赤ローブ男が燃え上がって灰となった。


 見れば、グリム達の後ろや水路の入口の方にも数人、赤ローブ男が現れていた。


「人間に協力するとは――落ちたな【核砕き】」

「最優先ターゲットを捕捉。排除する」


 赤ローブ男達が気持ち悪いぐらい全く同じ声を発し、疾走。レド達へ殺到する。


「まずは雑魚の排除だ。足を引っ張るなよ――()()

「それはこっちのセリフだ――()()()()


 ガルデの挑発に不敵に笑うレド。


 レドは事態をまだ上手く把握出来ていないが、少なくともこの二人とすぐに事を構える必要がない以上、希望は見えてきた。


 こうしてレドとグリム達との共同戦線が開始された。



初めましてな再会。どうなるレドさん! 


そういえばどうでもいい話なんですが、レドさんの装備である青い短剣と赤い曲剣にはそれぞれ銘が実はちゃんとあります。この駄作者が出しそびれてしまっているだけです……サーセン……書籍には入るかも?

武器の銘については、浅井ラボ先生の作品【されど罪人は竜と踊る】の魔杖剣のネーミングを参考にしています。あれ二つ名っぽくて好きなのよねえ……。一番好きなのは【空渡りスピリペデス】です


評価ブクマ、よろしくっす! 感想もお気軽に!

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新作! 隠居したい元Sランク冒険者のおっさんとドラゴン娘が繰り広げる規格外なスローライフ!

「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[気になる点] イレネってエリオスのことお兄様って呼んでなかったっけ?
[一言] レドでも相手するとヤバイのがわんさか
[一言] ベルドリトの魔杖剣は【空渡りスピリペデス】ではー?
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