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間話5:魔族は笑い、司書はため息をつく


 日が沈み、夜と共に二つの影がガディスの街に現れた。


 暗い裏路地にはその二つの影以外は何もいない。


「グリム、起動まであとどれほどある」


 魔族の大男――ガルデが隣の少女へと話しかける。


「そうねえ……あと一週間ぐらいかしら。まあ多少前後しても良いのだけどね。さてさてどうしよっかなあ」


 それに同じく魔族である少女――グリムが愉快そうに返した。


「それまでに()()か?」


 ガルデが唇を歪める。その表情は、指示を待つ猟犬に良く似ていた。


「だーめ。目立って人間達を刺激したくないもの。大人しくしていましょ。まあ何人か()()()()()()()()()()()()

「グリム、それこそ目立つ行為ではないのか?」

「せっかく地上に出てきたんだしそれぐらいはセーフ」

「……俺はグリムに従うだけだ」

「ガルデも手合わせしたい癖に~」


 楽しそうに会話する二人の前後に、赤いローブを着た男がそれぞれ一人ずつ現れた。


「なぜここにいる【核砕き】」

「それは【炎約】に反している」


 その二人が虚ろな目でグリムとガルデを見つめた。


「【緋蜘蛛(アラクネー)】まで来ちゃってるのね。あーあめんどくさ」

「どうするグリム」

「別に、今回は父上の許可も貰ってるし……()()()()()()()()()()ガルデ」


 グリムのその言葉と共に、赤ローブの男がダガーを構えて疾走。


「――()()()


 ガルデが言葉と共に、まるで呼吸しているかのように燻る黒い大剣を振り抜いた。

 狭い裏路地では縦振りしか出来ないと判断した赤ローブ男が横へと回避するが、大剣が地面に叩き付けられた瞬間に炎が爆ぜ、赤ローブ男が焼失。人の形をした黒い跡だけが壁に残った。


 同時に、グリムが目の前に迫るもう一人の赤ローブ男へとまるでゴミを払うように手を振った。


「っ!」


 グリムの手に合わせて現れた青い炎剣が壁を無視するように横薙ぎを放ち、目の前の赤ローブ男を切断する。同時に切断された赤ローブ男が青い炎に包まれ、灰すらも残さずに消えた。


「しばらくはこいつらと遊ぶ事になりそうね」

「【八本足】の誰かが出て来たら少しはやりがいもあるが……しかしこう明確に敵対してくるとは……【種火(キンドル)】も血迷ったか」

「父上も最近、【炎卓(えんたく)】に顔出さずに引き籠もってずっとなんかやってるしね」

「考えあっての事だろう……」


 ガルデの声には尊敬と憧れといった感情が含まれていたが、グリムはため息を付いた。


「まあ父上の事はいいとして……何としてもアルドベック覚醒だけは防ぐわよ」

「ああ。しかし……面白くなってきたな」

「冒険者……魔族……竜……それに色々それ以外の面白い奴らも集まってきているわ……良い闘争が出来るといいわねガルデ」

「相手は、あのレザーリアにデュレスだ。それにあの冒険者もいる。愉快な事になるだろうさ、グリム」


 火の臭いが漂う裏路地に二人の笑いが響いた。



☆☆☆



「……なんで……ガディスの入口からたかが十数分の距離にあるここに辿り着くのに三日も掛かってるの……」

「道に迷っていた。それに古竜に遭遇した。配下のドラグーンではなく、本人だ」


 東区、大図書館近くの酒場。


 その奥の席に二人の男女が座っていた。

 緑髪で大図書館の司書であるヨルネが眠そうな目を更に細めた。

 その視線の先には、黒髪短髪の戦士然とした青年――【竜狩り】のロアが堂々と座っている。


 ロアが果汁を搾った飲み物を飲みながら、ヨルネへと頭を下げた。


「いずれにせよ、感謝する。何せ初めての街でな。勝手が分からん。相手は古竜だ。出来ればそれだけに集中したいので、それ以外の事についても任せたい」

「……あの爺から……弟子が来るから世話しろって一方的に言われたから……やってるだけ」


 ヨルネが両手で持ったグラスを口へと運び、中に入っている琥珀色の酒を飲んだ。

 学生時代の師であるアイゼンから転移魔術によって送られてきた手紙を見て、驚きつつため息をついたヨルネだったが、まさかよりにもよってこんな問題児がやってくるとは思わなかった。


 ヨルネも風の噂で、自分の母校である王立竜学院に天才が現れたという話は聞いていた。


 曰く、入学試験はギリギリ合格だったにも関わらず、()()()()()で現れた飛竜を一人で討伐。以降、【竜狩り】という二つ名で呼ばれるようになり、本人も竜に興味を持っている。

 曰く、卒業間近の首席に喧嘩を売られた結果、その配下共々叩きのめし、学院内では誰も逆らわなくなった。

 曰く、同級生であるディザル王家第三王女が貴族に誘拐されたところを救出、以降、周りに女ばかりが集まるようになった。

 曰く、どう見てもハーレムを形成しているのに、本人はそれに一切気付いていないという。


「……タイプじゃない……」

「ん? 何か言ったかヨルネ?」

「なんでもない……」


 まあ、男前と言われれば男前だけど……好みではないな、とヨルネは勝手に思っていた。


「部屋は……この酒場兼宿屋の二階に用意してる……お金はもう払ってあるから……好きに使って」

「助かる。そういえばヨルネは腕の立つ魔術師だとアイゼン公から聞いている。出来れば古竜討伐を手伝ってほしい」


 ロアが、断られる事なんて微塵も考えていない表情でヨルネを見つめた。


「……絶対嫌」

「そうか。だが、いざという時は力を借りるぞ、【万象のヨルネ】よ」

「……私はもうただの司書。()()()()は卒業した」

「一度、本気で戦ってみたいな。あのアイゼン公が褒めるのは、いつだってあんただけだ」

「私の話……聞いてる?」

「もちろんだ。俺らで組めば、古竜も倒せる。それにヨルネよ、古竜には収集癖がある。あんたの欲しがっている物もあるかもしれないぞ?」


 ため息を付くヨルネは微妙に会話が通じない目の前の青年をどう扱うべきか悩んでいたが、最後の言葉で目を見開いた。


「その話……詳しく聞かせなさい」

「ふ、ようやくらしくなったじゃないか」


 結局その夜二人は夜通し、その事について話し込んだという。



 こうして一週間後に巻き起こる事件に、新たな人物達が加えられたのだった。


役者は揃ったぜ! って奴ですね。

魔族の内情についてはまた作中で触れたいと思いますが、割と協調性はないです()

【種火】は人間絶滅させて、俺らで地上乗っ取ろうぜ! と息巻く分かりやすい敵キャラ。

【緋蜘蛛】は暗部みたいな物ですが、これも内部は強硬派、穏健派、中立派と分かれているとか。

グリム達は少し特殊なポジションにいるのですが、これはまた作中で語られます。


そして竜狩りさんの口癖は「また俺何かやってしまったか?」です!

次話から少し修行編に入り、その後いよいよ起動塔地下突入となります。

2章最後までお楽しみいただければ幸いです!


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「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[良い点] 怒涛の運命でどんどん主人公などが強くなる漫画向き(漫画から知って小説読み始めました) [気になる点] 急に謎単語や新キャラ登場で場面が変わって混乱する。
[気になる点] なぜ竜に拘るのか、顔が気に入らないとかかな。 [一言] 成程、方向音痴か。あの時は迷子になってたんだな。
[気になる点] あっ、ダメだわこれ勇者じゃないわw アイゼン公もよくこういうのを推すね、齢かな?w [一言] ディアスさん頑張って、この二人を抑えるかどうかはキミの交渉術に掛かってる!w
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