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32話:断銀と竜狩り


「朝からすまないなレド」


 朝早くからディアスに呼ばれたレドがいつものように支部長室のソファに座った。


「どうした? シース達からも珍しく呼ばれているから短めに頼む」

「ほお? ふむ。それと関係があるかもしれんな」


 目を細めるディアスを見て、レドは嫌な予感がした。


 レドはそれを悟られないように煙草を取り出し火を付けて咥えた。

 

 紫煙が二人の間で揺らめく。


 レドは煙草それ自体も好んでいるが、それとは別にこういった交渉の場でも有用な小道具だと認識していた。

 会話の間を取り、煙に巻く……相手に主導を握らせない為にも余裕さを演出するにはもってこいだ。


「それで? 何の話だ」

「昨晩、【白鯨通り】で通り魔事件があった」

「あそこは物騒だからな。珍しくもないだろう」


 あの繁華街は物取り、強盗、殺人、なんでもござれだ。無法地帯とまでは言わないが、都市警吏も積極的にあそこを取り締まろうとしない。まあどうせ色々と政治が絡んでいるのだろうとレドは邪推していた。


「共通点のない男女が数人路上で殺された。それとは別に、魔族のアジトでも手下らしき男達が()()()()()()()

「待て待て、魔族のアジトだと!?」


 先月のガディス襲撃事件以降、都市警吏、防衛隊、冒険者ギルドが珍しく一致団結し魔族や【拝炎教】の信者の洗い出しを始めた。


 逮捕者が続々と出て、街から魔族またはその関係者や信者は一掃出来たかに見えた。


「レド、まさか、あの程度で綺麗さっぱり火の臭いが取れたと思っているのか?」

「いや、だがアジトという事……もう既に魔族の情報を掴んでいるのか?」


 レドも情報屋であるネズミ達を使って情報を探ってはいたが、怪しい影があるものの確証は得られなかった。当然ディアスと【黒刃(クローネ)】も動いているだろうとも思っていた。


「いや……残念ながら、アジトだと分かったのは後からだ。異臭騒ぎがあって現場に行けば……死屍累々でしかも【拝炎教】の祭壇らしき物があったというわけだ。しかも、魔族の痕跡もあった」

「なるほど。ではその大量殺人は魔族の仕業か?」

「いや……そうとも言い切れない。殺し方が少し……()()でな。魔族については今全力で探させているが……」


 珍しく言い淀むディアスを見て、レドの頭の中で警鐘が鳴った。


「殺し方が特殊?」

「ほぼ全員が、()()されていた。一部の者は足首も斬られている。かなりの手練れの仕業だろうと検死官が証言していた。更に昨日の日中に別の場所で同じ手口で殺された男もいて、それの第一発見者は……【白竜の息吹】だ」

「……きな臭いな。偶然だろ?」

「彼女らが第一発見者になったのは偶然だろうが、被害者は全て同一人物による殺人だと断定できる」

「それとシース達に何の関係が?」


 ディアスが、小さな金属片を袋から取り出して、レドの前へと置いた。

 黒い血がこびり付いており、更に何かの文字が刻まれているように見えた。


「これが何か分かるか? 魔族のアジトで発見された物だ。おそらく犯人の残留物だと推測されている」

「何かしらの武器の欠片……に見えるな」

「調べた結果、特殊な金属で出来ている事が分かった」

「もったいぶらずに言え」


 レドをまっすぐに見つめるディアス。その視線には如何なる反応も逃さないという意志がレドには透けて見えた。


「【断銀(だんぎん)】と呼ばれる金属でな。とある国でしか採掘、精製出来ないとされていて、更に刻まれているこの特殊な文字を解析した結果――【黄金(こがね)教会】の教典に使われている物だと分かった。間違いなく、この金属はシリス祭国の物だ」

「シリス祭国か……」


 レドはとある少女の顔が浮かんだ。そういえば彼女の大鎌にも、文字が刻まれていた事を思い出した。


「シリス祭国は、決して閉鎖的な国ではないが……【断銀】に関しては一切の輸出を行っていない。黄金教会の教典でのみ使われる文字が刻まれている点も含めて、間違いなく神官クラスの持つ武器だろうさ」

「裏取引で売られた物かもしれないし、奪われた物かもしれないぞ。それで犯人をシリス祭国の関係者と断定するのは危険だ」

「分かっているさ勿論。だが、殺し方とその尋常でない手口が、シリス祭国の()()の特徴と合致している」


 ディアスが表情を変えずに言葉を続けた。


「彼らは自らを【収穫者】と呼んでいるそうだ。教義に背いた者の命を刈り取り、神に捧げるが故に、収穫者。彼らは幼い頃から殺人術、暗殺術を英才教育され、死ぬまで教会の為に奉仕する。彼らの使う武器は様々だが、大鎌を使う者が多いとか……収穫者という名にふさわしい武器だろうさ」


 それらはレドですら知らない情報だった。シリス祭国はディアスの言うように決して閉鎖的な国ではないが、黄金教会自体は、異国人の信徒を認めない厳格な宗教だ。さして過激な教えもないので、暗部など存在しないとまで思っていた。そう思わせるほどに、情報が出回らないのだ。


「結論から言え、ディアス。話がとっちらかっている」

「すまないな。こちらも情報を精査しきれていない上に、不可解な部分が多すぎるんだ。結論から言うと、犯人はおそらく【収穫者】か……元【収穫者】。更に我らですら掴めなかった魔族のアジトでの犯行を考慮し、間違いなく魔族と絡みのある人物だ」

「なるほど……つまり、()()()()()()()()()()()()()


 レドは煙草の煙を吐き出し、にやりと笑った。


「察しが良くて助かるが、邪推しすぎだ。私だって彼女がやったとは思えない。だが間違いなく、何かしらの形で関与しているのは確かだ。【白竜の息吹】のメンバー全員の過去については一通り調べたが、彼女だけは、この街に着く以前の事は何も……何も出て来なかった。分かるだろ、その異常さを」


 ディアスがため息を付いた。

 過去のない人間。その異常さは勿論レドも分かっていた。


「リーデが何かを秘めているのは知っていたし、別に詮索するつもりもなかったが……こうなると聞いておけば良かったと思っているさ」

「彼女は昨晩、誰にも告げず失踪したそうだ。おそらくシース達がお前を呼んだのはそれについてだろう」

「そうか……くそ、過度な干渉は控えていたが、裏目に出たか?」

「いや、どっちみちこうなっていたのかもしれないな。さて、ここから本題だったが……もはや聞くまでもなさそうだが、何か心当たりはないか? 彼女の過去について」


 レドはさっきから必死にリーデについて思い出そうとするが、浮かぶのは彼女の少し陰のある笑顔だけだ。

 あまり自己主張の多くない子だったが……今思えば、彼女の事を自分は何一つ知らない事にレドは気付いた。


 だが、唯一。一点だけ、気になる事、いや彼女が気にしていた事があった。


「あいつは……誰かを探す為にこの街に来たと言っていた。死ぬまでに会えればいいと言っていたが、その割に、夜中になると時々夜の街に出て、何かを、誰かを一生懸命探しているようだった。最近はあまり関わっていないので分からないが……」

「探し人か……それが過去と、この事件に関係があるのだろう」

「おそらくな。とにかくリーデ本人を捕まえる方が早そうだ」

「手伝ってくれるか? 勿論報酬は出す」


 ディアスが半ば答えを確信しながらそうレドに問うた。


「当たり前だ。なんせあいつは――俺の弟子だからな」


 レドがそれだけを言うと、立ち上がって、話は済んだとばかりに部屋から出ようとした。


「レド、お前も知っていると思うが、一度火の付いた場所は、完全に鎮火してもまた――()()()。良からぬ噂が最近多い。また厄介な事が起きるかもしれん」

「分かっているさ。俺も最近考えを改めて、色々と調べている。いずれお前の力も借りるかもしれないな」

「ああ、いつでも言ってくれ。何か分かり次第、エミリアを送る」


 それを聞いて、レドは部屋から出て行った。


 ディアスは、自分へと上がってくる報告書を見て、改めてため息を付いた。


「【竜狩り】、【収穫者】、それに……魔族か」


 全部上司であるミラゼルに押し付けて、バカンスにでも出掛けたいと思わず口にしてしまいそうになるほど、ディアスはまたこの街が厄介な事に巻き込まれつつある事に辟易していたのだった。



☆☆☆



 その日の依頼は比較的簡単な物であった為、それをイレネとエリオスに任せてシースは一人リーデ捜索を開始していた。


 普段あまり足を踏み込んだ事のない繁華街へと足を伸ばす。


 昼間かつ昨日、連続通り魔事件があったせいで、通りは閑散とした。


 リーデがどこにいるか分からない。でもシースはリーデが時々夜中に部屋を抜け出してどこかへ行っている事を知っていた。そして翌日の朝、リーデからは微かに煙草や酒の匂いがするのだ。そこから、もしかしたら繁華街に行っていたのかもしれないと推測したのだ。


「どこにいるんだろ……リーデ……」


 シースの悲壮な呟きはしかし、風に乗って聞こえる金属音に掻き消された。


「……? 戦闘……してる?」


 シースが駆けだす。裏路地の方から、戦闘音らしき物が聞こえたのだ。

 聞こえる方へと全速力で向かうシース。落ちている空き瓶やゴミを器用に避けながら進む。


 裏路地の奥はちょっとした広場になっていた。シースが飛び込んだその広場にはしかしリーデの姿はなかった。


「お、またまた面白そうな奴が来たぞ」


 代わりに嬉しそうにシースを見つめているのは、黒いビスチェドレスを着た赤毛の美女だった。


「余所見とは随分と余裕だな」


 黒髪の軽鎧を着込んだ一人の青年がそう言いながら美女の首へと黒い剣を振るう。

 目の良いシースですらもギリギリ追えるほどの速度で迫る凶刃。


「危ない!」


 シースが斧剣を抜きつつ疾走。しかし美女は獰猛な笑みを浮かべるだけだった。


「事実、余裕があるからな」


 その刃はしかし美女の首の少し手前で止まった。見れば、美女が左人差し指を立ててそれだけで刃を防いでいた。


 どういう力で、どういう皮膚の硬さをしていれば、あの斬撃を指一本で止められるのかシースには全く見当も付かず、刃を振った本人も同様だった。


「指でだと?……ありえん」


 黒い剣を戻した青年が今度は突きの構えに移行するが、美女の前へとシースが飛び込んだ。


「何をしているんですか! 武器もない女性に剣を振るうなんて」

「どけ、ガキ。俺はその女に用がある。邪魔するなら排除する」

「きゃーたすけてーゆうしゃさまー」


 後ろの美女が面白がるように悲鳴を上げたと同時に青年が容赦ない突きをシースへと放った。


「速い!」


 シースはサイドステップしてその突きを避けつつ斧剣を男へと振る。加減を調整して深く当てないように……そこまで考えて、シースはそれが愚かだったと思い知った。


「お前が遅いだけだ」


 突きを放った状態から、青年がすぐに剣を戻すとそのままシースの斧剣へと合わせて弾いた。

 そのあまりの速さと無駄のない動きに、後ろで美女が口笛を吹いた。


「ほお……やるねえ」


 全力でないとはいえ、斧剣の一撃を弾かれたシースは驚愕の表情を浮かべ、そして手加減していい相手じゃないことを理解した。


 斧剣を弾かれ隙だらけのシースへと青年の蹴りが命中。人とは思えないほどの力で蹴られたシースは横っ飛びに吹っ飛ぶ。


「かはっ」


 鎧の上からでも骨が砕ける錯覚に陥るほどの衝撃。


 しかしシースも、空中で器用に体勢を変え、着地。地面を蹴る。


「ふむふむ剣術のみならず体術も人間離れしているな。人間の技も随分と進化したもんだ」


 観客気分の美女の分析に言葉ではなく、黒い剣による斬撃で返す青年の一撃を美女は指で弾く。


「くそ……これほどまでに……差があるのか」


 悔しがる青年の連撃が全て指一本で捌かれていく。


 背後へと回ったシースへと、青年は振り向きながら横薙ぎを放った。

 それを斧剣で受けたシースが、たたらを踏む。


 とにかくこの青年の一撃一撃が重すぎる。なのに、なぜあの美女は指一本であの重く速い斬撃を防げるのか。シースは既にあの美女も警戒すべき人物だと思い始めていた。


「さて、と。遊びはこれぐらいにしておくか。じゃあなお前ら、また遊ぼうぜ」


 美女がそう言うと、その場から逃げだそうとした。


「逃がすと思うか!」

「か弱い美女に乱暴するのは良くないねえ」


 青年が美女へと迫るが、急に動きを止め、大きくバックステップ。すぐ近くにシースがいるも構わず無防備にその背中を晒し、ただ美女を見つめていた。


 美女は、右手に黒い小さな火を浮かべていた。


 シースにはそれが何か分からないが、それを見た途端に全身から汗が噴き出した。

 

「なに、あれ」

「馬鹿な……まさか配下ではなく……()()()?」


 見れば、青年も脂汗を浮かべていた。あれほどまでに強いこの青年から、怯えにも似た感情を感じとったシースだが、それを馬鹿にする事が出来無かった。


 ただの小さな火なのに……これまで見た何より――()()()()


「おいおい、さっきまでの勢いはどうしたよ。こんなちっぽけな火にビビんなよ小僧共」


 美女が嘲笑う。


 シースはそこでようやくまじまじとその美女の顔を見る事が出来た。女であるシースから見てもこれまで見た中で一番美しい顔だと思ったが、何より目を惹くのはその金色の瞳だった。その瞳孔は縦長で、人でない事が嫌でも分かる。

 

「あれは……一体……」

「何も知らないガキが出しゃばるな……あれは……人が手を出していい領域ではない」

「ガキじゃない! 僕はシースだ」


 それを聞いた美女が顔を歪ませた。それは、青年とシースを無意識にバックステップさせ、更にその美女から距離を取ろうとさせるには十分なほどに、凶悪な笑みだった。


「なるほどなるほど……辺境の英雄シースに、竜狩りのロアか。良いねえ面白い。けど、本格的に遊ぶのはまた今度だな。ちと時間がねえんだわ。じゃあな!」


 美女がそれぞれの名前を呼びながら視線を向けると、それだけを言い残して地面を蹴ると飛翔。あっという間に屋根の向こう側へと消えた。


 青年はそれを追おうとはせず、剣を鞘に収めた。


「そうか、お前が辺境の英雄とやらか。期待外れもいいとこだな」

「そういうそっちは誰ですか」


 むっとしたシースが斧剣をまだ仕舞わずに青年を睨み付けた。


「ロアだ。【竜狩り】なんて呼ばれているらしいがな。いいか、シース、さっきのアレは俺の獲物だ。勇者の資格だなんだに俺は興味はない。だが、あの女は別だ。次邪魔立てしたら――今度こそ排除する。覚えておけ」


 青年――ロアがそれだけ言うと、その場から去って行く。

 

 それを見送ることしかシースには出来なかった。


「……駄目だ……全然……歯が立たなかった」


 シースも本気を出していたわけではない。セインから譲られた剣で新調したこの斧剣、【白風(はくふう)】の力だって使っていない。

 だけど本気を出していないのはきっとロアも一緒で、現時点では自分よりも格上だという事をシースは嫌でも理解していた。


「リーデを……探さないと……」


 しかし、ロアとあの謎の美女と――そして夜を燃やしたようなあの黒い火が、シースの頭からずっと離れなかった。


リーデに何が起こったのか? 謎の美女の目的とは?

続きをお楽しみに!!


やべー奴等がどんどん集まってきています。ここから、レド、シース、イレネ達とそれぞれがあれやこれやに巻き込まれていきます。全員が完璧に正しい選択を選べるわけではないですが、その辺りも含めて楽しんでくれると幸いですね。


日常回……ビーチでのバカンス……どこいった……

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新作! 隠居したい元Sランク冒険者のおっさんとドラゴン娘が繰り広げる規格外なスローライフ!

「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[気になる点] パーティ名もそうだけどシースのイメージカラーがどんどん白くなっていく…。 [一言] 露骨なミスリード、と見せかけてストレート? 話が話だからかなり煙たいな。
[良い点] ちょっ!!!極上美女!!! ああぁあああぁぁ〜(((((( ;゜Д゜)))))ガクガクブルブル 美人多くてバリエーションだけでもむずいのに、極天美女!! しかし、口は……おばさんとおっさん…
[良い点] ディアスさん、上司に近付いて来てるな……主に心境の方w [気になる点] あっ、これ竜狩りじゃなく竜狩り(笑)になりそうw まあ、シースが今勇者(笑)状態なんだけどw
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