31話:置き手紙
2020/06/09
シースがソースになっている不具合を修正しました(投稿前に気付けて良かった……)
書籍化決定しました!!!
これもひとえに皆様の応援のおかげです!!
書籍化作業しつつも当面は毎日更新を継続しますので4649よろしく!
「二人とも起きて!! リーデが!!」
真夜中に血相を変えて部屋の扉を叩くシースに起こされたエリオスと、それにブツブツと文句を言うイレネがシースに渡された手紙を読む。
「待って、どういうこと? 何があったの?」
「思い当たる節はないが……」
「……」
二人が読んだ手紙には短くこう書かれていた。
『みんなへ。大変な勝手ではありますが、二、三日ほど暇をいただきます。心配しなくても大丈夫です。全ては帰ったら話します。ごめんなさい。リーデ』
読んだ二人が首を傾げた。あまりに突然過ぎるし、内容もよく分からない。
「もしかしたら今日のあの殺人事件のせいかも……リーデは最近様子がおかしかったけど、今日あの死体見た時が一番変だった」
シースが今日のリーデの様子を思い出しながら、それを口にした。
「んーでもあれ、オークションハウスの従業員だったんでしょ? リーデとは縁もゆかりもなさそうだけど」
「そうだな。死体を見たのがショックだったのか?」
「仮にそうだとしても、それでこうやって手紙を残して夜中にいなくなる事なんてあるかな」
「……考えにくいわね」
三人が推測を重ねていくが、どれもしっくり来ない。
「……探しに行こう。何かの事件に巻き込まれているのかもしれない」
「俺も賛成だ。最近は変な輩も周りに増えてきた。今のリーデに何か出来る連中がそういるとは思えないが……なんせリーデ一人だ」
「……あたしは放っておけばいいと思うわ」
イレネが今にも飛び出そうとする二人に、そう冷静に投げかけた。
「手紙を残したって事は、自らの意志で出て行ったのでしょ? きっと何か事情があるのよ。私達に相談がなかった以上は、リーデの個人的な事だとあたしは思う。だったら下手に邪魔しない方がいいんじゃない?」
イレネとしては、こんな夜逃げみたい事をせず適当な理由を付けて休みを貰ってからやればいいのに、と思う。だが、リーデがいつもパーティメンバー全員に気を遣っており、あの微笑みの裏に何かを潜ませている事をイレネは何となく察していた。
「そう相手に指示されたのかもしれない。探されないようにと」
「仮にそうだったらもっと上手い手があるわよ。わざわざこんな中途半端な手紙を残してっていうのがあたしにはどうにもしっくりこない」
「……確かにイレネの言う事も一理ある。シース、明日朝まで待ってみないか? それでレドさんに相談してみよう」
エリオスが現実的な案をシースに投げた。自分達だけで解決出来ないのは情けないが、年長者の意見を聞くことも大事である事をエリオスは知っている。
「……うん。最近ずっとリーデの様子がおかしかったから、何か気掛かりがあったのかも。それを解消しに一人で行ったのかな。でも……せめて相談して欲しかった……」
シースは悔しかった。なぜ、自分に相談してくれなかったのか。
いや、分かっていた。自分がそれに足る人物になれていない事を。
つい数ヶ月前までは、田舎から出てきたただの子供なんだ。
いくら良い師匠や仲間がいたところで、そんなにすぐに人は変われない。
ただ、たまたま居合わせただけで勝手に英雄へと押し上げられた、子供に過ぎない。
「とりあえず今日は寝よっか。明日からの依頼については……少し考える」
「さして重要な依頼はなかったはずだ。問題ないだろう。シース、あまり気負いすぎるなよ。最近頑張っているのは分かるが、それでお前までいなくなったら大変だ」
エリオスが真剣な表情でまっすぐにシースを見つめた。
「あはは……大丈夫。逃げたくなったら真っ先にみんなに相談するから」
「別に、違う国に行って名前変えて一から始めたっていいのよ? 放浪ならあたし達は慣れてるし」
イレネがそう優しく微笑んだ。
「うん、でも大丈夫。じゃあまた明日の朝」
「ええ。おやすみシース」
その後、シースは一人っきりの部屋に戻ったが、結局眠ることは出来なかった。
☆☆☆
「君、可愛いね。どう俺らと一緒に遊ばない? こう見えても俺ら結構有名な冒険者でさ。知ってる?【白竜の息吹】、あれ俺達の弟子なのよ」
修道服を纏った、銀髪の背の高い少女が夜の繁華街を歩いていた。
ここは中央区にある通称【白鯨通り】で、通りの左右とそこから伸びる細い裏路地に何軒も酒場やいかがわしい店が並んでいた。
冒険者、船乗り、商人と様々な者がごちゃまぜになり、酒と女に酔っていた。伝説の魔物、白鯨ですら飲み干せないほどの酒があると言われているのがこの通りの名前の由来だ。
もう夜中だというのにこの通りは人であふれかえっている。
ガラの悪そうな数人の男がその少女に声を掛けるが、少女は無視して進む。
「へいへーい、無視? 聞こえてないの? その杖、【白竜の息吹】のレプリカでしょ? 本物に会いたくない? 俺らなら会わせてやれるけど」
少女が持つ刃の折りたたまれた杖を見た男の一人がそれに触れようとするが、スルリと少女に躱されてしまう。
「結構です。急いでいますので……」
「俺らは急いでいないんだよねえ。この通りに来てからずっとなんかキョロキョロして誰かを探しているよね? 俺そういうのすぐ分かっちゃうの。誰を探しているんだい?」
「貴方達には関係ありません」
「その男なら、俺はどこにいるか知っているけど?」
「……嘘ですね」
少女の反応を見て、男達は獰猛な笑みを浮かべた。
こんな夜中にこんな街で女が誰かを探していれば十中八九、男絡みだ。だから適当にはったりをかましたのが、言葉とは裏腹に少しだけ反応があった。案の定、どうやらそうらしい。
若い女でしかも見たところ【白竜の息吹】に憧れてやってきた冒険者志望か何かだろう。ならば良い値段であの御方なら買ってくれる。そう男は頭の中で計算しながらにやついていた。
最近、この街にはきな臭い連中が増えたが、あの人だけは違う。
丁寧で自分達みたいな底辺にも優しく、何より美人だ。
冒険者を拉致して連れていくと高額の値段で買い取ってくれるから、冒険者崩れの自分達にとってはありがたい存在だった。
そうして買い取られた冒険者達がどうなるかなんて知ったこっちゃない。
「当たりだろ? いいから付いてこいよ。会わせてやる。なんせその男があんたを連れて来いって言っていたからな」
「……信じられません」
「信じる信じないはお前の自由だが、その顔を見る限り、そいつを全然見付けられていないんだろ? いいのか? これが最後かもしれないぞ?」
男の目にはその少女の心が揺らいでいるのが分かった。
「……分かりました。それでは連れて行ってください」
「話が分かるじゃねえか。じゃあこっちだ」
にやつく男達がさりげなく少女を囲みながら、裏路地へと入っていく。だが、男達は気付いていない。その少女の金色の目が怪しく光っている事を。
「こっちだ」
まるで迷宮のように入り組んだ裏路地の先には、地下へと続く階段があった。前後を男達に挟まれたまま、少女もその階段を降りていく。
その先にある扉を開けると、そこから漂うのは、濃厚な血の香りだった。
「ああ、気にするな。まあ、そういう趣向だよ。別に誰かが死んでいるわけじゃねえ」
扉の先はちょっとした広い空間になっていた。奥には祭壇があり、唯一の光源である一対のかがり火が煌々と部屋の中を照らしている。
一番後ろの男が後ろ手で扉を閉めた。
「おい、レザーリアさん呼んでこい」
男の一人がそう言うと、扉を閉めた男が頷いて祭壇の方へと向かった。その奥には更に扉があるのが見える。
「さてさて。すまんが、その男? ってのはまあ嘘だ。すまんな」
男がにやつきながらその少女に声を掛けた。
もはやここまで来れば、少女が抵抗しようが泣き喚こうがどうなろうが問題ない。
「でしょうね。貴方達からは……血と火の臭いがしましたから」
「ん?」
「おい、もぬけのからだぞ! レザーリアさんがいねえ!」
祭壇の奥から戻ってきた男が焦った顔でそう叫んだ。
「は? なんでいねえんだよ!!」
それを聞いた少女が一歩前へと出た。
「……どうも予定外のようですね。仕方ありません、抵抗しない事をお勧めします」
少女の纏う雰囲気が少し変わった事に気付いて男達が、ゆっくりと腰に差していた短剣を抜いた。
「抵抗? おいおい何の冗談だ? この人数相手にお前一人でどうする気だ? そんなレプリカで何――」
少女は何も答えず、代わりに金属音と共に持っていた杖に折りたたまれていた巨大な刃を展開する。
それは大鎌だった。
それはそれだけで見る者を畏怖させる形状だった。
ただの農具のはずなのに――その少女がそれをゆっくりと構えると、途端に死神が持つと言われる命を刈り取る武器に男達には見えた。
「お、お前まさか……」
「命までは取りません……ですが、私達の師匠はただ一人……貴方達のような者にそれを騙られるのは――大変不快です」
静かな怒りを放つ少女――リーデの正体にようやく気付いた男達だったが……既に手遅れだった。
男達が見たのは……自分達を断罪する銀閃だった。
繁華街の怪しい人達には絶対に付いていってはいけません!!
作中でも言っていたように、シース達個々の力はかなり高くなっており、その辺りチンピラ程度では勝てません。
ふんわりとした強さの序列で言うと、こんな感じデス。
作者のご都合主義>統率された軍>高ランク冒険者パーティ>高ランク冒険者・エリート軍人>シース達中位冒険者>有象無象
もちろん相性やら状況やらで変動しますが概ねこんな感じかと。
魔族とか竜とか、一部のぶっ飛んだ人類などはここには含まれません……。
いやあしかし書籍化決定しましたねえ……やっぴーーーー!!
もはやあとがきが活動報告代わりになってますが仕方ないね
これも皆様の応援あってこそです。本当にありがとうございます!!
引き続きよろしくお願いしますね!




