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24話:焦り


「レドさん!」

「見えてる! クソ!」


 屋根の上にいたレドとエミーは真っ先にその異変に気付いた。


 大灯台から立ち上る火柱、そしてそれに連鎖するように街の各地から炎が上がった。


「間に合わなかったか!」


 レドが素早く見渡すと、少し行った先の広場からも炎が上がっている。


「何が起きているか見に行くぞ!」

「はい!」


 レドとエミーは屋根の上を跳躍し、近くの建物の上から広場を見下ろした。

 広場にいた人々は悲鳴を上げ、逃げ回っている。


 見れば、炎は一人の男の身体から上がっていた。屋根の上からでも見えるほど高く上がった炎がただの火とは思えない。


 男は燃えながらもがき、そして倒れた。


「あれはまさか……例の焼身自殺か?」

「にしたって派手過ぎますよ。これまでの焼身自殺と様子が違い過ぎます」


 地面へと倒れた男の身体が変化していく。身体が肥大化し、手足が太く分厚くなっていき、背後に太い竜のような尻尾が生えてきていた。


 そうして異形と化した男が炎を纏ったまま再び立ち上がった。黒焦げになった身体は赤く(くすぶ)り、火の粉を散らしている。その胸の中心には皮膚と一体化した玉のような物体があった。頭部には角が歪な形に生えている。


「グ&$%‘$’ギャ‘(%’&アアア!!」


 耳障りな咆吼を上げたその異形が、遠巻きにそれを見つめていた街の住人へと敵意を向けた。


「まずい! エミーは住人達の避難を! あいつは俺がやる」

「はい!」


 言うと同時にレドが屋根を飛び降りながら青い短剣を突き出す。


「“空を裂き轟く主よ、光無き水面に枝葉を刻め”【雷火閃(ケルヴノス)】」


 詠唱と共に短剣の先から細い雷が異形へと走る。その線が異形へと触れた瞬間に短剣の先から極太の雷撃が発生。


「グギ%$#ュウ&%&!!」


 線の上をなぞるように走った雷撃が異形に命中し、辺りに火花を撒き散らした。


 異形の動きが止まると同時にレドとエミーが着地。レドは落下の衝撃を吸収する為にたわめた膝を伸ばし地面を蹴った。


「“白き柱よ牙を逆立て”【霜咬(フロストバイト)】」


 疾走するレドを先行するように放った霜の牙が地面を走って行く。


「グ’#ゴオ$#$オオ&%&%オオ!!」


 異形はようやく目の前の相手が敵だと認識し、レドの冷気魔術によって足下から凍り付いていくのを無視して腕を振り上げた。

  

 しかしその腕は、レドがカウンター気味に払った赤い曲剣によってあっけなく切断される。


 レドは振った勢いで身体を捻り、更にもう一撃胴体へと叩き込もうとするが、異形の醜く歪んだ口が開くのを見て咄嗟にバックステップ。


 響く爆音と共に、異形の口腔から炎が吐かれた。


「ちっ、めんどくさい上に……再生持ちか!」


 異形の切断された腕から炎が吹き、それが元の腕の形へと変化していく。レドは素早く辺りを見渡す。エミーが避難誘導を行っており、人も少なくなりつつある。


 異形が吼えると同時に身体から再び炎が吹き荒れる。凍り付いた足は元に戻っており、そのままレドへと突進。


「ち、人間がこんな化け物になるなんて聞いた事ないぞ」


 レドが愚痴りながら短剣を構え直し思考する。

  

 角に炎。胸には歪ながらも【炎核(えんかく)】らしき物がある。魔族に近い特徴からして、理屈は分からないがおそらくは人間から魔族へと変化しているのだろう。


 ならば、弱点も同じはずだ。


「接近戦はあんまりしたくないんだがな!」

「ウ%$&%$ボオオ%&%&オオ!!」


 異形の突進をレドは紙一重で躱す。異形の発する熱で皮膚が焼けるが気にせず、青い短剣をすれ違い様に異形の脇腹へと突き刺す。


「【石礫(ストーンファイン)】――【無慈悲な岩槍(クライ・ゲラヒ)】」


 突き刺した短剣の先からこぶし大の石を異形の体内で生成。更に魔術を重ねて、その生成した石から微細な針がまるで剣山のように無数に生え、異形の身体を突き破る。


「ウ%$%$#%$#!」


 レドが異形の後ろへと回った時点で、異形の右半身が内側から食い破られたようにずたずたに引き裂かれ、胸の歪な核が串刺しになって割れる。


「ウ%$%……ゴ……」


 異形が地面に倒れると同時、灰となって消失。


「エミー! すぐに情報をギルド防衛隊問わずに回せ! 異形は胸の核が弱点で再生能力持ちだ! 俺は大灯台に向かう!」

「分かりました! レドさん、すぐに追い付きますので、それまで死なないでくださいよ!」

「滅多な事言うんじゃねえよ! さっさと行け!」


 エミーの気配が一瞬で消えた。それを確認して、レドが再び跳躍して屋根の上を駆けていく。

 街の至る所で黒煙が上がっており、サイレンが大音声を響かせている。


「クソ……魔族め……やりやがったな!」


 大灯台から始まった炎の連鎖。間違いなく元凶は大灯台にある。つまりそこに今回のガディス襲撃の首謀者である魔族がいるはずだ。


 途中で、同じような異形を何体か見掛けたが、既に防衛隊もしくは冒険者らしき姿の者達が戦っていた。


 レドは彼らの動きを見て、問題ないと判断し通り過ぎる。一体一体に構っていたら奴等の思うツボだ。


 人を魔族へと、異形へと変貌させる力。それはあまりに危険な力だ。

 焼身自殺はおそらくこの力を試していたのだろう。


 今のところ、拝炎教の教徒共が異形になって暴れているが……。


「もしあれが拝炎教に関係なく誰にでも使える力なら……まずい」


 レドは自分の推測に苦い表情をうかべた。


 先ほどの異形は、確かに厄介な力を持っているが、単体として見れば、さほど強くない。動きも分かりやすく知性もさほど感じなかった。


 弱点さえ分かればさして苦労しないだろう。


 だが仮にだ……もし仮にあの異形の力が――()()()()()()()()()()()()()


 個の力としては軍を上回る力を持つ冒険者。

 その冒険者が辺境で一番多く、かつ厄介な高ランク冒険者が多い王都より離れた場所。


「だから……だからガディスか!!」


 怒りの表情を浮かべるレドが走る速度を上げた。


 一刻も早くこの事件を起こしている魔族を討伐しないと――この街が終わる。


 レドは初めて、焦りを覚えたのだった。



☆☆☆



 奇しくも勇者であるセインも、大灯台の火柱を見てそちらへと向かっていた。


「あれは魔族の炎だ!」


 それはセインの勘でしかなかったのだが、間違ってはいなかった。


 セインは道中で襲いかかってくる異形を疾走を止めずに一閃で斬り伏せる。

 トドメを刺す気もなかったが、たまたま核に当たり、異形は灰となった。


 何体かは核に当たらず再生するが、無視していく。防衛隊や他の冒険者がいるのを見ての判断だった。


 セインもレドも同じ考えだった。大元を叩かなければ意味がないと。


 そうしてセインは、一足先に大灯台へと辿り着いた。


「この上か?」


 セインは大灯台を見上げ、入り口を探す。だが、その必要はなかった。


「いたぞベギム……()()()


 上から声と共に降ってくる斬撃をセインは超反応で回避する。


 斬撃によって海へと突き出ている堤防が深く削れた。


「お前らか!!」


 セインの前に、まるで重力を感じさせないような着地をしたのは一人の白衣を着た美女――レインだった。


「何がだ? まあいい。お前は目玉となるが良い」

「魔族と話す気はない!!」


 セインが踏み込むと同時に間合いを詰める。

 その余りの速さにレインは反応出来ずにいた。


「これは良い素材だねレイン、【炎幕颪(ブレイズカーテン)】」


 棒立ちのレインとセインの頭上へと業火が降り注ぐ。


「ちっ!」


 セインはレインへと薙ぎ払うつもりだった剣の軌道を上向きに変えて業火へと振り払う。


「へえ……凄いや」


 セインの剣から有り得ないほどの風が巻き起こり、業火が掻き消された。


 炎風吹き荒れる中、レインの横に降り立ったのは一人の少年――ベギムだった。


「まさかまさか……これほどの個体といきなり出くわせるとは。いやあ計算通りとはいえ気持ちが良いね」


 ペラペラと喋るベギムにセインは何も答えず剣を構えて突撃する。


「速いね。びっくりだよ。でも直線的過ぎるなあ」


 今度はレインもその動きに反応し、手を振るった。その右腕の裾から伸びたのは赤黒い火を纏う鎖だった。


 セインの横薙ぎへと蛇のように襲いかかる鎖に対し、セインはまともに打ち合っては不利と判断しすぐに剣を手元に戻し、鎖を回避。


「ちっ!」


 セインは攻撃を横薙ぎから突きへと変え、鎖の元であるレインへと走る。更にレインの左腕の裾から伸びる鎖を回避、一直線にレインの胸の中心へと突きを放つ。レインの胸に突き刺さった瞬間――


亡風(ぼうふう)開放」


 セインの言葉と共に剣から渦巻き状の風が吹き荒れた。


「魔族の弱点は把握済みなんだね。風の力を纏う剣にその動き……なるほどこれが噂の()()


 まともに突きと風を喰らったレインが後方へと吹っ飛ぶ。それをベギムは横で冷静に見つめていた。


「お前も死ね」


 セインが風を纏った剣を突いた姿勢からベギムへと横薙ぎに払う。


「僕達魔族には()()()()()()()()()――勉強した方がいい、【不可侵領域(インヴァイオス)】」


 冷笑を浮かべるベギムがひょいと手を上げた。


「くっ!」


 ただそれだけで、セインの剣が不可視の壁にでも阻まれるように動きを止めた。


「ああ、それといつまでも馬鹿正直に弱点を胸の中心に置いておくほど僕達は愚かではない」


 その言葉と共に、地面に落ちていた鎖がまるで意志を持ったかのように動き、セインの足へと巻き付いていく。


「しまっ」


 急所を突かれ吹っ飛んだはずのレインが立ち上がっており、鎖を力任せに己へと引っ張った。


 その強大な力に逆らえずにセインが足ごとレインへと引き寄せられ――


「さっきのはまあまあ痛かったぞ、目玉よ」


 そう邪悪な笑みを浮かべるレインの服は破れており、さらけ出た胸の中心にはあるはずの【炎核】がなく、綺麗な白肌と胸の谷間だけが覗いていた。


 セインは足を縛られていながらも宙で剣を構え、地面へと突き刺した。


「無駄だ」


 しかしレインの見た目に反する膂力により、剣は地面を削るだけに留まった。


「君がどれほどの【炎】になれるか――楽しみだ」


 ベギムはもはやセインに視線すらも送らず、ガディスの街を見つめていた。


 レインの元へとたぐり寄せられたセインは剣を振るうが、あっけなく避けられ、レインの振り上げた拳をまともに胸へと受けた。


「がはっ!!」


 セインは地面へと叩き付けられたが、勢いが強すぎた為かそのままもう一度宙へとバウンドした。アダマンタイトで作った鎧の胸甲があっけなく砕ける。


「さあ【火覚め】の時間だ」


 いつの間にかレインのもう片方の手には、歪な楕円の形をした玉のような物が握られていた。

 

 そして――胸甲が割れ無防備に晒されたセインの胸へと、それは突き立てられた。


セインさああああああん!!


冒険者ギルド、防衛隊共にある程度魔族襲撃に対する準備はしていました。その為、初動についてはかなり速く、街の各地で同時に発生した今回の襲撃にも対応は出来ています。次話辺りでふんわり触れますが、基本的に街を守る役割は防衛隊にある為、防衛隊がいれば基本的冒険者は援護もしくは住民の避難誘導などが主な役割になっていきます。勿論、誰も居なければ戦うしかないのですが。


次話もお楽しみください!





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新作! 隠居したい元Sランク冒険者のおっさんとドラゴン娘が繰り広げる規格外なスローライフ!

「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[気になる点] セインがレインのレインはセインに ややこしい 減点
[良い点] セイン、エライコッチャや!
[一言] セ こ、コイツ!俺をふみだいにしやが シ なんか凄く強いかませ犬的な経験値が居るうまそう
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