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19話:戦闘訓練


「あーいやそいつは――」

「良い、ほっとけハラルド。どうせ同じ事だ」


 ハラルドが止めようと手を出すがそれをレドが首を振って否定した。


「なんだお前ら! 冒険者か! ふん、子犬如きが儂を止められると思うな!!」


 スケルトンがエリオスが突き出した槍を()()()


「馬鹿な」


 スケルトンはそのままぐいっと槍を引っ張ると、エリオスが前へと引き寄せられる


「筋肉が足らんな小僧!!」


 前のめりに倒れそうになりながらもエリオスが盾をスケルトンへ当てようと前へと突き出す。


「まだまだ前が見えとらんぞ!」


 しかしスケルトンは槍を引っ張りながらそれを素早く横に避けた。


「お兄様っ!」


 スケルトンの後ろから迫っていたイレネへと誘導されたエリオスの盾。

 盾がイレネに当たらないようにエリオスは身体を捻るが、それで体勢を崩し、床へと倒れる。


「はああ!!」


 スケルトンが避けた先で隙を伺っていたシースが斧剣を振りぬいていた。横薙ぎの一撃だが、


「遅すぎる!! それに声を上げて今から攻撃しますって宣言する馬鹿がどこにいる!! 愚か者!」


 軌道を見切ったスケルトンが半歩下がるだけでその一撃は空振った。がら空きになったシースの脇にスケルトンの拳が刺さる。


「かはっ!」

「おっと、怖い怖い」


 拳を振りぬいたスケルトンの首にしゃらりとリーデの大鎌がかかるが、ひょいと頭を下げて、刃を避けた。

 

「ペラペラとうっさいスケルトンね!!」


 ステップを踏み、曲剣を振るイレネだが、


「連撃は一撃目を止められると弱い!」


 その一撃目を素手で掴まれてしまった。


「っ!! 離しなさい!!」


 曲剣で引っ張り合いをするイレネとスケルトン。


「“輝け内なる心の灯火と――っ!!」

「きゃっ!」


 詠唱を始めたリーデに素早く反応したスケルトンが曲剣を離し、リーデへと迫る。

 突然引っ張りが無くなったイレネが後ろへとよろけ、リーデは詠唱を中断し、そのまま大鎌を下段に振ってスケルトンの足を狙う。


「見え見えすぎる! そもそも最初から祝福付与をすべきだったぞ! アンデッド見たらすぐに祝福!」


 スケルトンがそんな事を言いながら、地面を蹴って、大鎌の一撃を回避、同時に足蹴りをリーデへと浴びせる。


「そこまでにしておけ――リントン」


 立ち上がったエリオスに突撃しようとするスケルトンを見て、レドが声を上げた。


「その声は!! レド!! この野郎!! いやがったな!!」


 スケルトンの動きがピタリと止まり、頭蓋骨だけを器用に後ろへと回しレドへと視線を向けた。


「久しぶりだなリントン。相変わらずそうで何よりだ」

「馬鹿弟子が。久々に来たと思ったら……なんだこいつらは! 全然なってないじゃないか!」


 状況を飲み込めず、中途半端な姿勢でいるシース達を頭蓋骨だけ回しながら一瞥して、そのスケルトン――リントンがレドへと質問した。


「俺の弟子だ。これから毎日午前中はここで、俺とお前でこいつらを鍛えるぞ」

「なんで儂がそんな事をせにゃならん」

「冒険者の弟子を欲しがっていたじゃないか。こいつらは新人だが筋は良い」


 リントンが、もう一度シース達を見る。


「ふむ……駆け引きはまだまだだが……伸ばす芽は確かにあるな」

「そうだよリントン。レドが珍しく弟子なんか作ってしかもリントンを頼ってきたんだ。孫弟子は可愛いだろ?」


 ハラルドがにこやかにそうリントンへと言うと、むむむ……と悩み始めたリントンだったが、すぐに、


「ふん、孫弟子だがなんだか知らんが儂は厳しいぞ!」


 そう言って、リントンは腰骨に手を当てた。


「存分にしごいてやってくれ」

「言われなくてもな!」


 リントンは身体をレドに向けると、膝や腕についた土埃を払った。そのあまりに人間味溢れる言動にシース達は混乱する一方だった。


「えっと……どういう事ですか?」

「私にはさっぱりわかりません……」

「あいつ絶対倒す!!」

「やめとけイレネ。あれはただのスケルトンじゃないぞ」


 弓を取り出したイレネをエリオスが諫めた。


「こいつはな、まあ俺らの旧友の……置き土産さ」


 笑いながらレドがシース達に答えた。



☆☆☆



「――というわけで儂はハラルドの為にこうやって防衛隊の新人(ニュービー)共をビシバシ鍛えているのだ!!」

「はあ……あの、というかなんでスケルトンなのに喋れるんですか?」

「気合いに決まっておるだろ!! それとここではリントン教官と呼べ!」

「一々声がデカいのよ骨!」

「骨に骨って言ってどうする! 罵倒にならんだろ!」


 ぽかりと叩かれたシースに、怒鳴られたイレネを見て、レドは無意識に笑顔になっていた。

 これじゃあまるで俺達の若い頃みたいだ。


「懐かしいなレド」

「ああ」


 ハラルドとその光景を見ながらレドは思い出す。


 レド、ハラルド、死霊術士のミガジに射手ガウラ。

 そしてミガジの相棒のスケルトンであるリントン。


 彼らはこの四人と一体でパーティを組み、この街で冒険者をしていた。


 リントンが不死身なのを良い事に、墓場のアンデッドでは物足りなくなったレド達はよくリントン相手に腕を磨いたのだ。リントンは古より生きる兵だと自称しており、それに違わず色々な武器の扱いや武術、戦術全般に明るかった。最新の情報をも取り込む貪欲さもあったおかげで、レド達にとっては最高の訓練相手になったという。


 更にもっと効率の良い訓練をしたいが為にレドが考案し、ミガジが理論構築して作ったのがこの【全環境訓練所】の礎となった【再現魔法】だった。これによりリントンによる訓練は効果を増し、全員が前衛としての戦い方を叩き込まれた。

 

 レドは口には決して出さないが、間違いなくリントンは師匠と呼べる人物だろう。


 こうして彼ら四人は、元々の才能もあり、新人冒険者としては異例の速さでランクアップしていった。

 

 だけど誰もがまだ若く、そして駆け出しだった。

 いつまでも、このままでいられると思うほどに幼かった。


「僕は、どこかまだあの延長線上にいるような気がしてね。ミガジもガウラも消息不明だし、レドは全然顔を出さない。それでも、僕はまだあの頃の夢を見ている気がする」


 同じ事を思い出していたのだろうハラルドがそうレドに語りかけた。


「苦い夢だ。だけど、こうやって再会できた」

「うん。さて、僕は行くよ。最近どうにもこの街は騒がしくてね。めんどくさいんだ」

「ああ、すまないな。リントンとここを借りるぞ」

「好きなだけどうぞ。リントンも喜ぶさ。冒険者の育成には僕も興味がある。上は適当に誤魔化しておくよ」

「すまんな。また飲もう。ギルド酒場に来い。今、ギルドから金と情報を引き出すあてが出来てな」

「昔から本当、そういうの好きだよな。昔はなんだっけ? なんか作って売りさばいたよな」


 思い出そうとするハラルドにレドが助け船を出す。


「なんかじゃねえ、指南書だ指南書――そういやあれ、まだ残ってないかな……使えるな……内容は更新しないといけないが」

「まあほどほどにしておかないとまた商人ギルドと冒険者ギルドに目を付けられるぞ」

「そのおかげであの当時資金繰り出来たんだから感謝しろ」


 レドがにやりと口角を上げながら拳を突き出した。


「感謝しているさ。今でもね。なあレド、僕は嫌な予感がしているんだ。だから――十分に気を付けてくれ。()()()()がする」

「……分かっている」


 心配そうにしながら、ハラルドが拳をレドの拳にぶつけた。


「じゃあ、また」

「ああ」


 去って行くハラルドを見て、その言葉の真意を探りながら、レドがリントンとシース達の元へと向かう。


「おい、レド! さっさと訓練のメニューを決めろ!」

「よし、とりあえず、今日はイレネとリーデは俺が見る。エリオスとシースはリントンが見てやってくれ。そいつらが前衛を担う」

「こいつらが前衛か。良いだろう!【竜戦争】を生き延びた儂が前衛のなんたるかを叩き込んでやる!」

「いや、さっきの話だとそこで死んだから骨になったんじゃないのあんた」

「うるさいぞ小娘! 揚げ足を取るな!」


 ギャーギャーと言い争うイレネとリントンを離して、レドが人のいない一角へと進み立ち止まった。


「さて、じゃあ始めるか。お前ら二人は後衛だが、しばらくは接近戦闘を主として訓練する。イレネ、お前はベイル式舞踏武術に頼りすぎているからまずはそこだな。リーデは待ちの姿勢が多い。悪くはないが、さっきみたいな突発戦闘の際に判断が鈍る」

「……それでどうするのよ」

「二人同時にかかってこい。魔術は無しだ。本気で来ていいぞ」

「Sランクならば余裕という事でしょうか?」

「そういう事だ。【夢の再現(フェイク・マジック)】」


 レドが手を振ると足下の地面が隆起し、ゴツゴツとした岩肌の床となった。出っ張っている岩のせいで足場が非常に悪い。


「ルールはシンプル。この再現したエリアから出ない事。俺に一撃でも当てられれば勝ちだ。ああ、もちろんリーデは大鎌を使って構わないぞ」

「いいわよ、やってやろうじゃない」

「大鎌……当たったらただじゃすみませんよレドさん」

「当たったら、だろ?」


 不敵に笑ったレドが手をくいくいと動かし挑発する。


「さあかかってこい」

「行くわよリーデ!」

「ええ!」


 イレネが器用に岩肌の凸部分を蹴ってレドへと向かう。リーデも遅れながらもその後を付いていく。


「平坦でない足場での戦闘、お前が思うよりもずっと難しいぞイレネ」


 レドの近くへと辿り着いたイレネが曲剣を振ろうとするも、踏みこめなかった。

 平坦な地面であれば調整できる間合いが、足場の岩のせいでできないのだ。


 レドが無造作に振るった曲剣が迫る。それをいつものようにステップで避けようとするイレネだったが、


「っ!」


 岩の上では思うように動けず、イレネは仕方なく大きく後ろへと下がった。


「ここはリーチの長い私が!」

 

 リーデが前へと出て、大鎌をレドへと振るう。


「リーチは長いが、大鎌は動作が大き過ぎるから見切られやすい。なんせ、引くという動作を入れないと斬れないからな。実質的なリーチはさほど長くないと思っておけ」


 レドは大鎌を短剣で弾きながら忠告する。


「だから、待ちの姿勢は悪くない。大鎌の範囲内に入ってきた者を攻撃するというのは良い戦法だ。だが、守りに徹していては勝機を失う場面も出てくる。そういうところで、前に出て積極的に()()()()()()を持てリーデ。大鎌だけが全てではないぞ!」

「はい!」


 レドは喋りながらも器用にリーデの大鎌の連撃を捌いていく。


「ここよ!」


 隙をうかがっていたイレネが合間を縫って飛び込んでくる。足場の岩を蹴って、懐へと潜ろうとしている事にレドは気付いた。


「その思い切りの良さがお前の最大の武器だ。だが過信するな。格上には――効かん」


 飛び込んできたイレネが曲剣を自滅覚悟でレドへと突き刺そうとするが、あっけなく横に避けられて、


「っ!!……かはっ」


 レドの曲剣の柄がイレネの背中へと突き刺さった。そのまま、岩の隙間へと落ちそうになるのをレドが足で引っかけて防いだ。


「――っ!」


 その隙にリーデが飛び込んで来る。鎌の刃は仕舞ってあり、杖の状態にして槍のように突いてきた。


「そう、それでいい!」


 レドは片足の状態のままその突きを見極め、避けると曲剣の刃の背を大鎌の柄へと乗せ、持ち手へと滑らせた。


「くっ」


 指が斬られるかもしれないとリーデは迷わず手を離した。


 大鎌が岩と岩の隙間へと落ちる。


「勝負有り、だな。【夢の終わり(バッドエンド)】」

「はい……」


 レドが解除魔術を唱え、床を元に戻す。片足に引っかけていたイレネを優しく地面へと寝かせた。


「何というか……全然勝てる気がしません」

「平坦な床でやればまた変わるさ。だが、戦闘がいつも平坦な床で行われるとは限らないからな。こういう訓練は積んでおいた方が良い」

「はい。納得できます」

「しばらくは、こうして実戦形式で訓練をする。怪我をするかもしれんが、まあ光魔術で治せる範囲だろう。それがある程度形になったら次は魔術の訓練だ」

「はい」

「悔しいし……確かにレドの言う通りだわ」


 イレネが起き上がったが、一撃も当てられない事に意気消沈している。


「気にするなイレネ、それを克服する為に訓練を行うんだから。さて、じゃあ今の戦いの反省を行うぞ」


 こうして、四人の訓練はお昼まで続けられたのだった。



☆☆☆



「ランウッド」

「はっ!」

「レドはどうだった?」


 ディアスの部屋で、彼女の目の前で緊張に固まったランウッドだったが、にやりと狡猾そうな笑顔を浮かべた。


「楽勝です。弟子を巻き込めば余裕でした」

「そうか……まあそうだといいな」


 ディアスはゆっくりと目の前の男について思考する。レドが苦手そうという点だけで教育課課長に採用した男だが……これじゃあ期待できないな。


 課長として最低限の仕事ぐらいは出来るだろう。出来なければ良い言い訳になって左遷する事もできるし、ディアスとしてはどちらでも良かった。有能は多用し、無能は無能なりに活躍できる場を用意する。それでも出来ない者には残念ながら去ってもらうしかない。


「飲食代無料も、弟子達の今後の宿代の負担も必要ないと提言しますが」

「ランウッド、お前はあいつを何も知らないんだな。交渉する相手の情報は持っておくのが基本だ」

「はい?」

「まあいい。新人教育はいずれにせよ引き受けてくれるさ。本人は無自覚だろうが、あいつは昔からそういうのが好きなんだよ。その癖、面と向かって要求しても断る奴だがな。多少強引に事を運んで、テーブルに上げないといけないからめんどくさいんだよ」

「はあ……」

「午後からの交渉は私が行う。レドが来たらここに通せ」

「……はい」


 少し不服そうだったが、そう言ってランウッドが去って行った。


 その後ろ姿を見ながらディアスが思考する。

 問題はどんな条件を吹っかけられるかだな。


 ディアスはレドが多少強気な条件を出しても飲み込む気であった。彼女にとっての急務は、即席でもいいからギルドの戦力を増やす事。

 それが必要となる場面が――残念ながら近付いている事実にディアスはため息を付いた。


「大事にならないといいが……」


 そう呟くも、そう上手くはいかないのが現実である事をディアスは良く知っていた。



こんな感じで訓練していくようです。


レドさん、若い頃はかなりイケイケどんどんな人で、冒険者ギルドに平気で喧嘩を売っていたそうです。それでもランクアップ出来たのは無視出来ないレベルで活躍していたからですね。ただその時の喧嘩と交渉のおかげで良い意味でも悪い意味でも人脈が広がったそうです。大人になりそれらを使ってスマートに解決する方法を学んでからは、地味な方向にシフトして、あれこれ手を回してようやく勇者パーティでSランクに上がったのですが……。結果、追放されてしまいましたね。これには冒険者ギルドも大慌てだったとか。その辺りもいずれ……触れるかも……。


もし、レドとハラルドのパーティが解散していなければ、いずれはSランクになっていたでしょう。そんなIFもあったかもしれないですね。


この辺りから少しずつ、不穏な空気も出しつつもう数話ほど日常?が続きます。勇者パートもあるんやで!


おそらく色々な感想が届いているでしょうが、一週間ほどで戻ってこれると思いますので、その際に目を通し返信しますね。リアルタイムに返信できなくてすまない!! 続きは予約投稿済みなので、そこは心配しないでください!

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新作! 隠居したい元Sランク冒険者のおっさんとドラゴン娘が繰り広げる規格外なスローライフ!

「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[一言] まぁ、前のお話の不満が多かった理由的なものは、レドがギルドの新人教育をやらされる事に対して反対することなく押し通されたっぽく見えたからかな?作者様的には次のお話でレドが交渉してくる事を知って…
[良い点] リントンが軍曹っぽくて好き。 鬼軍曹ならぬ骨軍曹と呼びたいわ。
[気になる点] 荷物って街中・クエスト中・戦闘中は、どうしてるの? 定番のアイテムボックスとかなさげですし 着替え、毛布、食料、ポーション類、魔物素材などなど かなりの荷物ありますよね 実は、全員背…
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