17話:失態とお詫び
2020/05/21
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「すー……すー……」
「ムにゃ……もう飲めない……」
「息巻いていた割には大した事無いな」
酒場で盛大に飲んだあと、今日は宿屋に泊まろうとレドが言ったので五人は宿屋へと移動する。冒険者ギルドがお詫びに宿を用意してくれたそうだ。
街は相変わらず夜でも賑やかで明るい。でも、リーデもエリオスもその闇に人ならざる者が潜んでいる事を知った。
魔族……これまで関わりのなかった事だけにその事実が重く二人にのしかかっていた。
シースとイレネは酔い潰れて、シースはレドの背中、イレネはエリオスの背中でスヤスヤと寝息を立てていた。
「んじゃあ、二部屋取って、イレネの世話はリーデに頼んだ。シースはこっちで面倒みよう」
レドがそう言ったので、リーデとエリオスが声を上げた。
「な、なぜ!」
「駄目ですよ!」
その反応に首を傾げるレド。
「ん? ああ、イレネとまだ仲が悪いのか? 飲んでる時はそうでもなかったが」
「そうじゃありません! まさか……まだ気付いていないんですか?」
「あん? 何にだよ?」
リーデが呆れたような顔でレドを見つめてくる
「シースさんについてです」
「あん? こいつがどうした?」
「リーデ、この人本当に大丈夫なのか……いや実力は確かなのは間違いないが……」
エリオスの訝しむ声にレドは何が何やらさっぱり分からなかった。背中に意識すると、シースの体重と温もりを感じる。そして僅かな膨らみ。
膨らみ……?
「……待て。まてまてまて……シースは……」
「はあ……やはり気付いていなかったのですか……シースは女の子ですよ……」
「……」
言われてみれば、思い当たる事は山ほどあった。そして、レドは改めて思い知ったのだった。自分が思い込みの激しい人間であることを。
そう、最初にシースを見た時に服と体型で少年だと判断した。筋肉も付いていたしそう思い込んでしまっていたのだ。偽装依頼についてもそうだが、レドはなまじ自分の知識や判断に自信を持っているせいで、そういった初歩的なミスを起こしてしまったのだ。【聖狼竜】時代なら考えられないミスだが……それだけ鈍っているという事だろう。
考えてみれば、少女でも父親の仕事を手伝っていればあの程度の筋力は付くだろう。体型については、年齢から考えてまだ成長期なのだ。
肩幅も指もそういえば男子にしては細い。
「いや、しかし、エミーやリーデに初めて会った時はやけに緊張していたぞ!」
「シースさんの村には若い女性がほとんどいなかったそうですよ。エミーさんや私やイレネと話すようになってマシにはなったそうですが、それでも若い女性には少し緊張するそうです」
「……やってしまった」
レドは片手でシースを支え、もう片方の手で顔を押さえた。
「俺が見るにだが、シースは多分あまり気にしていないというか、そもそも気付いていないと思う。自分が女子扱いされていない事に不満は抱いていないはずだ。弟子に女も男もないです! とか言っていた」
「はい。シースさんにはこれまで通り接してあげる方がいいかと。男子と勘違いしていたと言う必要はないと私は考えます。ですが、ちゃんと然るべきところでは女性として扱ってあげてください」
エリオスとリーデの言葉に肩を落とすレド。ぐうの音も出ないほどの正論だった。
「俺は……師匠……いや教育者として失格だ……そんな事も見抜けないなんて」
「……レドさん、いいじゃないですか。私達だってきっとこれからたくさんの失敗をするでしょう。だからレドさんだってしたっていいんです。私はそう思います」
「ああ。レドさん、貴方に俺はようやく親しみが持てた。Sランク冒険者も人間なのだと」
「化物扱いすんじゃねえよ……だがありがとう。致命的なミスをする前に気付けた」
「はい。取り返しの付くミスはミスではありません」
そう微笑むリーデに、レドはこくりと頷いた。
到着した宿屋は中級の宿屋だが、調度品が質素なだけで、ランクとしては十分高い宿屋だった。
「じゃあ、リーデ、すまないが、この二人を頼む」
「はい。いざとなったら光魔術で治しておきます」
「じゃあ、また明日」
「はい。おやすみなさい」
こうして、シース達の長い一日が終わった。
☆☆☆
「師匠!! 昨日は飲み潰れてすみませんでした!! 何か変な事は言ってませんでした?」
「魔王は僕が倒します!! って宣言していたぞ」
「っ!! そんな……大それた事を……」
翌朝。宿で全員揃って朝食を取っていた。レドはなぜか寝不足気味の顔をしている。
「結局パーティ名は【白竜の息吹】で良いのか?」
四人を見て、念の為そう聞くレド。
「ええ。私達も特に名前にこだわりがあるわけじゃないし」
「ああ。俺もイレネも納得した」
「そうか。ならいい」
イレネとエリオスの顔に迷いがない事を確認してレドが頷いた。名前は案外あとで揉める要因になるが……まあこいつらなら問題ないだろうと判断する。
「それで、今日はどうすればいい」
エリオスがベーコンを噛みちぎりながらそうレドへと聞いた。
「とりあえずお前らはひたすら訓練と依頼だ。午前はそれぞれに合わせた戦闘訓練を行う。午後は依頼をこなせるだけこなしていけ。依頼もえり好みせず、色々経験しといた方が良い。俺が知識として教えるよりも経験した方が飲み込みが早い」
「確かにそうかもしれないです。依頼は魔物を討伐する系ですか?」
シースがパンを食べながら、レドに質問する。
「いや、それも勿論受けて構わないが、出来ればまんべんなく色んな物を受けた方がいいな。特に他ギルドの依頼は積極的に受けた方が良い」
「他ギルド……ですか?」
既に食べ終えていたリーデが食後のお茶を飲みながら首を傾げた。
「商人ギルド、魔術師ギルド、鍛冶ギルド……その辺りの大手ギルド経由の依頼だ。ランクを上げていけば、そう言ったギルドとの共同依頼も増えてくる。今のうちに顔を覚えてもらっとけ。商人も魔術師も鍛冶職人もどれも冒険者には無くてはならない存在だ」
「なるほど。分かりました!」
「よし、とりあえず今からお前ら全員に前衛としての動きを叩き込む。その後昼食を挟んで依頼だ。先に依頼だけ受けに行くぞ。冒険者の朝はギルドから始まる」
「あんたら食べるの早いわね……」
まだ朝食を半分も食べ終えてないイレネが、拗ねたような声を出した。レドが観察したところによると、イレネは言動とは裏腹にとても丁寧な食事作法を身に付けている。裕福な家に生まれ、教育を受けたのだろう。
「今日はゆっくりでいいが、早く食べる事にも慣れておけ。――じゃあこれを渡しておく」
レドが恥ずかしそうに頭を掻きながら革袋から、三本のペンダントと一個の腕輪を取り出した。
「あら、それ、【海の瞳】じゃない」
「綺麗……」
「素敵ですね」
レドがシース、リーデ、イレネの三人に、深い海の蒼を閉じ込めたような小さな宝石の嵌まったシンプルなペンダントを手渡した。
「……まあお守り兼俺の弟子の証だ。魔族が嫌う光を閉じ込めている宝石だ。いざとなったら何かの役に立つかもしれない」
「師匠ありがとうございます――死ぬまで外しません!!」
「ありがとうございますレドさん。私、このような贈り物をいただくのは初めてです」
「ふーん、上等品じゃない」
嬉しさのあまり、泣きそうになるシースがギュッとそのペンダントを握った。リーデとイレネも嬉しそうにそれを首にかけた。
「いや、死にそうになったら使えよシース。で、エリオス、お前にはこれだ」
レドは、赤い宝石の嵌まった腕輪をエリオスへと渡した。
「これは……?」
「へー、見せて。ああ、なるほど、これに嵌まっているのは【赤竜核】ね。古い時代、ベイルの男子が成人した際に親から貰う腕輪があって、それには赤竜の体内で精製された核を嵌めて渡すのが慣わしなの。もう今では廃れた風習なのに……良く知ってたわね」
イレネがすらすらと解説する。どうやら宝石類には詳しいようだ。
「イレネも良く知っているな。知識は宝だ。お前らもたかが石と侮らず覚えておくと良い」
「レドさん、感謝する。俺は今まで……」
「あーそういう話は今はいい、また今度ゆっくり聞いてやるさ。なに、ただの餞別だ、気にするな」
「分かった。だが、大事にさせてもらう」
エリオスは丁寧な手つきでそれを右手に嵌めた。イレネが朝食を食べ終わるのを待って、五人が席を立つ。
「さて、じゃあ行くか」
「あーそういえばこの宝石……まいっか」
何か言いかけたイレネだったが――【海の瞳】には、特に女性を守る力があると言われ、娘や妻や恋人に送る男性が多いという事をシース達に伝えようとしたが、わざわざ言う必要もないかと思い直した。
昨晩のやり取りを、途中で目を覚ましたイレネはエリオスの背中の上で聞いており、言わぬが花という言葉を良く心得ていた。また時期を見計らってシースにでも教えてあげようと思う。
寝不足気味なのは、昨日の夜にこれらを揃える為に徹夜か何かしたのだろう。朴念仁かと思ったけど……まあまあそこそこね、とレドの評価を少し上げたイレネだった。
「師匠! 訓練って何やるんですか!」
「とりあえず、それぞれの実力を見ないとな」
レドを先頭に街を進み、会話をしながら冒険者ギルドへと入っていく。
「あ、レドさん! 待ってました!!」
酒場の入口で、満面の笑みを浮かべるエミーがレドの姿を見ると、そう声を張り上げた。その笑顔にレドは嫌な予感を覚える。
「なんだよ」
「なんだよ、じゃないですよー、水臭いなあ……こんな事始めるなら最初から言ってくださいよ!」
エミーがそう言って指差した先。そこはレド達がいつも使っている酒場の端にあるテーブルだったが、昨日とは様子が大きく変わっていた。そこそこ広い酒場だがそこだけなぜか、まるで学校の教室のようになっているのだ。一つだけ置かれた椅子とテーブル、それに向き合うように置かれた複数の椅子。
「……」
酒場の一角が一晩で、講習室のようになっていればレドでなくても驚く。しかしレドはその程度では動じない。
「昨日徹夜でやらされ……じゃなかったやらせたみたいですよ!!」
「まさか俺は関係ないよな」
「師匠……これ……」
シースがツンツンと突いてくるので、そちらに向いたレドは、依頼掲示板の上にでかでかと掲示されている内容に目を通した。
『来たれ新人冒険者!! 本日よりSランク冒険者レド・マクラフィンによる、【初心者の館】を開催!! 君の知らないあれこれや、パーティ運営の秘密が聞けるぞ! 参加費は一パーティでたったの1000ディム!! もちろん新人でない冒険者も歓迎だ!! 詳しくは受付まで 〜冒険者ギルド新人教育課〜』
それを読んだレドは今度こそ、大声を上げた。
「なんじゃこりゃあああああ!!」
知ってた速報でしたね。レドさんったらうっかりさんねえ。私も思い込みが激しいタイプなので、わりと理解出来るのですが……。まあレドさんにもミスはあるという感じで納得して頂けたらと思います。
そして、いよいよレドさんが講師デビューしますが、基本的にストーリーとしてはシース達がメインになります。
物語も勇者パーティをはじめ、ここから少しずつ動いていく予定です
今後もよろしくお願いしますね!




