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11話:レドの懸念


 時を少し遡る。場所は辺境の街ガディス、冒険者ギルド内酒場。


 シース達を見送った後、ゆっくりと酒でも愉しもうかと思ったレドの横にジョッキを二杯持ったエミーが座った。


「行っちゃいましたねえ。寂しくないですか?」

「子供じゃあるまいし。仕事はどうしたエミー」

「休憩でーす」


 エプロンは外しているところを見ると本当に休憩のようだ。


「そうかい。しかしエミーにはまんまと嵌められたな」


 エミーからジョッキを受け取り、ビールに口を付けたレドがそう冗談ぽっく愚痴る。


「何にですか?」

「こうなる事にだよ」

「私は何もしてませんよー。レドさんが勝手に助けて勝手に弟子を作っただけです」


 そう言いながらも、エミーの顔には小悪魔のような笑みが浮かんでいた。


「全く……まあいい。それより最近、新人冒険者の死亡率が高くなっているんだってな」

「おや、どこでそれを」


 エミーはギルド酒場で働いているだけに、その辺りの事情に詳しい事をレドは知っていた。そしてエミーが()()()()()()()事も、気付いていた。なので少しかまをかけて見たのだが……。


「昨晩ちょいと探りを入れたついでにな」

「そうなんですよねえ……元気に飲んでいたと思ったら行方不明。私に告白してきた次の日に消息を絶つ、とかそんなの結構多いです」

「ギルドが何を焦っているかは知らんが最近冒険者の管理も杜撰になっている気がするな。まあ俺にはどうでもいいが」


 取って付けたような物言いにエミーがからかうようにレドの脇腹を突いた。


「気になる癖に〜。でもシースちゃん達は大丈夫かな」

「さてな。こればっかりは本人達の実力次第だ。()()()()()()()パーティ間のトラブルもないさ。女だらけに一人男だったり、その逆だとやりづらい部分はあるだろうが」


 そう言って、レドは煙草に火を付けた。細い紫煙が立ちのぼる。


「男女比?……ああ……なるほど……だめだこりゃ」


 レドの言葉でわざとらしくため息をついたエミー。


「ん、何かおかしいか? まあそれは置いといて、()()()()()()()のアンデッド狩りなら今の実力とパーティ構成なら問題ない」


 確か廃墓地はこの街の北側にあったはずだとレドは過去の記憶を引っ張り出す。この酒場からもさほど離れていないはずだ。万が一があっても死にさえしなければ、助かる手段は豊富だ。


 そう思ったレドは心配しながらも気楽に構えていた。早ければ午後になってすぐに帰ってくるかもしれない。


「……あれ? そんな依頼なんですか?」

「いや俺も詳細は見ていない。募集には廃墓地のアンデッド狩りとあったから、北区にある新人冒険者御用達のあの墓地かと思っていたんだが」


 レドは若い頃にこの街に住んでいた時期があった。

 あの廃墓地のアンデッド相手に剣術と魔術の訓練をよくしたものだとレドは感慨深げに当時の事を思い出していた。


「……レドさん。それってもう十年以上の前の話ですよね? 前市長の政策で、二年前に街中にある墓地は全て浄化済みです。だから北区のあの墓地も今はアンデッドなんて湧きません」


 その言葉にレドが眉をひそめた。


「待て。じゃああいつら……()()()()()()に行ったんだ?」

「……分かりません。依頼のランクは?」

「Eランクだ。だから街から出たとしてもそう離れた場所ではないはずだが」


 依頼のランク設定は冒険者ギルドが独自に行っているのだが、一番下のランクかつ最も種類が多いのがEランクで、街中やその周辺で済む依頼が多い。


 なのでその他の要素で変動する事は勿論あるが、基本的に依頼内容の場所が街から離れるほどランクは上がる。


「そういえば、南の森に古い墓地があったって聞いた事ありますよ」

「……聞いた事あるな。その周辺に住民は?」

「いないはずですよ。昔は墓守が住んでいたそうですが、廃棄され封鎖されてからは無人になったと聞いています」

「では……()()そんな破棄された墓地のアンデッド狩りを依頼した? そんなところでアンデッドが湧いたところで困る者もいないだろう」

「分かりません。何か目的があるのかもしれませんが……」


 レドは煙草を吸いながら思考する。


 廃墓地でのアンデッド狩り。自分が思っていた場所から少し離れたとはいえ、依頼内容的にさほど難しい依頼ではない。そもそも依頼内容、依頼者についてはギルド側で調査をしてランクを出している。内容に表面上は間違いがない、はずだ。

 

 もちろんアンデッドは決して油断してはならない相手ではあるが、聖職者さえいれば難易度は下がる。だから、シース達を心配する必要はさほどない。


 だが、レドは嫌な予感がしていた。


 昨晩、深夜にリーデがこっそり寝床を抜け出して夜の街へと向かったので、尾行をしたのだ。


 どうやらリーデが人探しをしているのは本当らしかった。誰を探しているかまでは分からなかったが、誰かを、もしくは何かを探している様子だった。だが、あまりに危なっかしいので陰ながら気付かれないようにフォローをしていたのだが、その途中で古い知り合いに出会った。


 光あるところには必ず闇があるように、その男はこの街の暗い部分に住んでいる奴だ。

 そいつから聞いた話で気になる事が二つあった。


 最近、裏で新人冒険者の需要が高まっている事。

 最近、この街で魔族の目撃情報が増えている事。


 どちらも良くない情報だ。

 裏で需要が高まるという事は、それだけ新人冒険者が()()()()()()という事だ。高値で売れるという事は……高値で買う者がいる。巻き込まれた新人冒険者は酷い目に合い、良くて廃人、悪ければ死より悲惨な結末が待っているだろう。


 何より最悪なのは魔族の目撃情報だ。


 魔族とは、人類と敵対している種族である。


 ゴブリンやその他の魔物はどちらかと言えば野生動物に近い認識で、彼ら自体は人類に敵対しようとは思っていない。ただ、縄張りに入れば攻撃するし、人間を食料として見ているだけの場合もある。


 しかし魔族は違う。

 見た目に細かい差異はあるものの、ほぼ人間と同じ見た目だが、彼らは悪意と殺意と、そして並外れた知能を持って人類を滅ぼそうとしている。


 人より魔術に長け、身体能力も人より高いかわりに繁殖能力が低く個体数が少ない。

 何よりも火を崇め、またそれらを操る術を先天的に身に付けている。一部の魔物を使役しており、数の少なさをそれで補っている面もある。


 そんな彼らの王である魔王を倒すのが全人類の悲願……らしい。そういった使命感は残念ながらレドにはなかった。


「どうしたんですかレドさん。むっつり黙って」

「いや、()()()()の可能性を考えていた」

「……可能性は、ありますね」


 レドはその可能性を吟味する。偽装依頼とは、簡単に言えばギルド側を出し抜いて本来の依頼目的ではない事を冒険者にさせようとする事である。


 これは裏の世界の住人が時々使う手口なのだが、例えば、敵対組織がAという場所で裏取引を行うという情報を事前に入手した際に、適当な依頼内容をでっち上げてAという場所でたまたまその裏取引に冒険者が出くわすように仕向けるのである。Aという場所で大事な物を落としたので探して欲しい、といった具合にだ。


 偶然鉢合わせた敵対組織が口封じにその冒険者を殺そうとしたら、しめたものだ。敵対組織が冒険者の反撃で損害を食って取引が中止になれば目標達成。冒険者が死んだり怪我したりすればギルドが調査に入り、そこに情報を流せばこれまた敵対組織にダメージを与えられる。


 勿論ギルド側もそうならないように依頼者や依頼内容について事前調査をするのだが、日々増える膨大な依頼量にそこまで精査が出来ているとレドは思わない。


 だから冒険者側で、本当にその依頼は偽装依頼でないのか見極めないといけないのだが……。


「くそ、内容を確認すべきだった……俺としたことが思い込みで依頼内容の精査を怠ってしまった」


 レドが悔しそうにそう呟いた。痛恨のミスだ。Eランクのアンデッド退治。偽装依頼しにくい類いの依頼だったせいで、怠ってしまった。


「でも、それを毎回レドさんがやるわけにはいかないですよ」

「それは、そうだが」


 今回の依頼が偽装依頼だと仮定すると、目的はなんだ?

 裏での新人冒険者の需要の高まり、魔族の目撃情報。


「……新人狩り。芽が出る前に殺しておく……そういうことか」


 レドが閃いた事を口にした。情報を整理すればすぐに分かる事だ。


「考え過ぎ……でもなさそうですね」


 エミーも思考しつつ答えた。


「奴等にとって、一番怖いのは軍隊ではない。怖いのは魔物を屠る術に長けた……冒険者だ」

「新人達の死亡率が高まっているのは()()()()()って事ですか?」


 エミーの言葉にレドが反応した。それを見て、エミーが一瞬だけ目を見開く。それは、しまった、という表情にレドには見えた。


()()()()。魔王を信奉する人間はこれだけデカい都市だと少数ながらいる。そいつらに偽装依頼をされたら、俺らには見抜けない。森の中の廃墓地……襲撃するには恰好の場所じゃないか」

「……レドさん、どうされるんですか?」

「過保護と言われようが知ったことか。あいつらの後を追う。何も問題なければ密かに見守るだけだが……何かあれば救出する」

「はい、では私も気になる事があるので少し調べておきます」

「ああ、頼む」


 そう言ってレドが立ち上がった。


「気を付けてくださいレドさん。何が出てくるか……分かりませんよ」

「分かっているさ」


 レドがそう言って、駆け足で酒場から出て行った。


 その背中を見ながらエミーは息を大きく吐いた。

 その目には、給仕らしからぬ剣呑な光が宿っている。


「あーあ……()()()()()()()()()()()()……Sランクの冒険者の前で気を抜くなんて……私らしくない」


レドさん尾行開始。

新しい設定が色々と出てきてますが、さらりと流してもらっても大丈夫です。また後々出てきますゆえに。

簡単に言えば、魔族が暗躍して冒険者を嵌めようとしている! だから万が一そうだったらやばいので後を追うわ!です。冒険者ギルド無能やんけとお叱りを受けそうですが、彼らは彼らで色々あるんです。その辺りも触れる予定です。


そして次話でまた廃墓地に戻ります。

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「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[一言] そういえば評価をいれてなかったので★2いれときました。 まだ始まりの段階なので世界観と勢力図も見えない状況ですし、面白くなるのはまだまだこれからだと思うので期待8割と出だしの面白さ2割で★入…
[一言]  なかなか面白い。だが、☆は3つだ。応援はするせ。止まんじゃねぇぞ?
[一言] しゃーねーなー感想かいてやるか…(後書きに折れました) クソおもろい!  作者が物語に出てきても受け入れられるくらい後書き好き。 以上
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