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9話:弓張の月

総合日間ランキング1位になりました!

皆様の応援感謝です!


「というわけで! パーティ名は【白竜(はくりゅう)息吹(いぶき)】に決定しました!」


 ああでもないこうでもないと悩んでいたシースとリーデが、ようやく出した結論にレドは頷いた。


「良い名だ。オリジナリティが有りながら、逸脱していない」

「はい。リーデさんの息吹と、僕の村に伝わる伝説の竜である白竜から取りました」

「良いと思うぞ。よし、決まったのなら、そろそろ時間だ、行ってこい」

「あれ、師匠は来ないんですか?」


 動く気配のないレドに、てっきり付いてくるものと思っていたシースがキョトンとした表情を浮かべた。


「パーティメンバーでない者がいたらややこしいだろ? 注意事項はさっき伝えた通りだ」

「分かりました。では、レドさん、行って参ります」


 リーデが立ち上がり、シースも牛乳を飲み干すと気合いを入れ直し、それに続く。


「見事成功させて見せますよ師匠!」

「私は相手パーティの観察をしておきますね」

「よし、常に冷静さを保つ事だ。肩の力は抜いておけよ」

「はい!」


 シースとリーデがギルド受付へと向かう姿を見て、レドは少しの不安を抱くがそれもビールと共に飲み干した。


「エミー、ビールのおかわりだ」

「はいはーい。あれ、一緒に行かないんですか?」


 空いた皿を片付けながらエミーがそう聞いてきた。その顔には好奇心が浮かんでいる。


「行かん。俺は教えるだけだ」

「なるほどーアドバイザーって奴ですね。先生? 講師? 師匠?」

「まあそんなところだ。あいつらは今から共同依頼だ」

「お相手は?」

「【弓張(ゆみはり)の月】とかいうEランクパーティだ。知っているか?」


 この酒場で働くエミーは大概のパーティの事を知っていた。それを見越してそれとなく聞いたレドだが、


「さーてね。タダでは教えませーん」


 そう断られてしまった。まあそれが店側としては正しいスタンスなのだろう。


「ちゃっかりしてるなほんと」

「最近来たばかりのパーティだから正直あまり分からないってのが本音なんですけどねえ。若い子達でしたよ確か」

「若者同士ならまあ良いだろうさ」

「あ、ほら、顔合わせ」


 エミーに言われ、レドが視線を受付へと向けると、シースとレドの前に男女二人組が立っていた。


 一人は遠目に見ても分かるほどの美しい少女だ。


 大陸中央に広がるベイル砂漠の民のような露出の多い衣装を着ている。少女とは思えない大人顔負けの豊満な身体で褐色の肌が眩しい。

 腰には砂漠の民がよく使う小振りの曲剣をぶら下げており、背には黒塗りの弓を背負っている。肩辺りまで伸びた黒髪が活発な印象を与えていた。大きな瞳も黒曜石のように黒い。


 その横に立つ青年も同じように褐色の肌に黒髪、黒い瞳に彫りの深い顔付きで、隣の少女と良く似た顔付きをしていた。革で出来た軽鎧に槍と長方形型の大きな盾を装備しており、注意深くシースとリーデを見つめている。


「ほお……砂漠の民か? 珍しいなこの街に」

「ですねえ。あーあ、早速言い争ってますね。助太刀しないんですか?」


 見れば、褐色少女が何かしら喚いている。


「子供同士の喧嘩だ。大人の出る幕じゃないさ。それよりいつまでサボってる。さっさと俺のビールを用意してくれ」

「ちぇっバレたか。はいはい今すぐ」


 エミーが去っていき、レドは煙草に火を付けながらその二人を観察する。


 あの少女はそれなりに出来そうだ。胸部以外は無駄のない肉の付き方をしている。重心や体幹を見るにおそらく舞踏か武術辺りを嗜んでいるのだろう。隣の青年は……可もなく不可もない感じだ。ただ、あの落ち着いた様子から見るに前衛には悪くない。


 さて、シースもリーデもどう対応するか……。

 見守るのもまた、師匠の仕事だ。


「やれやれたった一日で俺もすっかり師匠気取りか」


 ぽつりと呟いたその言葉にしかし、レドはまんざらでもない表情を浮かべていたのだった。



☆☆☆

 


 シースは困っていた。


 想定と違うよ師匠! と泣きつきたくなったが、ぐっと我慢する。


 目の前で、二人の少女がバチバチと火花を散らしているのを見て、人生経験の浅いシースにはどう対処したらいいか見当も付かなかった。


「……こんな色気ないガキと辛気くさい修道女と組むぐらいなら、あたし達二人でやった方がマシよ」


 褐色肌の美少女がシースとリーデを見て、そう呟いた。


「見た目通り、頭の中まで下品ね貴女」


 それを受けてリーデが吐き捨てるように言葉を返す。

 

 いつもの丁寧口調じゃないリーデに、シースは軽く恐怖を感じた。とりあえずリーデは怒らせないようにしようと心に誓う。


「はあ? あたしのどこが下品なのよ地味子。その小さな胸みたいに慎ましくしていれば? あたしの国の言葉で言えばそうね、“魅力ない女の首は刎ねよ” かしら」


 イレネのよく分からない言葉にシースは首を傾げた。首を……なに?


「胸の大小なんてくだらない事で優位を得ようとする貴女に、品位の欠片もないと思うけど」

「くだらなくないわよ! ねえエリオスお兄様!」

「……もうその辺にしておけイレネ」


 その大きな胸を揺らしながら褐色少女――イレネが隣に立つ兄、エリオスに話題を振った。

 どうやら、この二人は兄妹のようだ。


「いいですか、シースさん。こういう女は私達の敵です。すぐに刈り取るべきです」

「え? あーうん」


 突然声を掛けられておざなりに返事するシース。もうなんでもいいから仲良くして欲しいと願うシースだった。


「ふん、やれるもんならやってみなさいよ。あんたらみたいな田舎もんに負けないわ」

「田舎田舎と、そっちこそ砂まみれのど田舎から来たんでしょ」

「あたしの国は田舎じゃない! 言っとくけどあたしは――」

「イレネ、やめろ。失礼だぞ」

「リーデ、話を進めよう」


 見かねたシースとエリオスがそれぞれのパートナーをなだめた。


「お兄様がそう言うなら……ごめんなさい」

「私としたことが……少々取り乱してしまいました……リーデ反省。謝罪します」


 イレネが小さく頭を下げ、リーデが胸の前で指を組む祈りのポーズをして謝罪した。


 シースがエリオスを見ると、彼も小さく頭を下げたのでシースも慌てて頭を下げた。どうやら兄の方は話が通じるようだ。


「とにかく、依頼をこなそう。俺はエリオス、んで、こっちは妹のイレネ。見ての通りベイルの出身だ。俺は槍使いだけど、正直さほど実戦経験はない。その代わりにイレネは強い」

「僕はシース、こっちはリーデ。僕もあまり経験ないけど、リーデは聖職者で光魔術が使える」

「ふん! 光魔術ぐらい何よ」

「ほんと子供ね」

「なんですってぇ!」


 隙あらばすぐに喧嘩しはじめる二人をもう放っておいて、シースとエリオスが段取りを決め始めた。


「今回の依頼は街を南に出てすぐの森の中にある廃墓地に湧くアンデッドの討伐だ。スケルトン、ゾンビが主な対象だけど、レイスも出るという話も聞いた。それ専用の武器を用意するより聖職者のいるパーティを募集した方が早いと思ってな」

「なるほど。リーデ、レイスの対処は出来る?」


 睨み合うリーデとイレネにシースがそう声を掛けた。


「詠唱する時間をいただけるなら問題ありません。浄化の魔術は初歩ですが、詠唱が長いのが特徴なので。その時間さえ確保していただけるならさほど難しくありません」

「あたしの魔弓術で十分なのに……お兄様は慎重過ぎる。“臆病者と老人の首は刎ねよ” だわ……」


 イレネの独り言を聞きながら、シースは魔弓術という言葉を頭の片隅に刻んでおいた。

 レドから、知らない単語が出てきたら覚えておけと言われたせいだ。

 あと、この二人の出身国は、とりあえずよく首を刎ねる国だという事は理解したシースだった。


「そう言うなイレネ。万が一を考えて、ポーション以外の回復手段がない俺達だけでは危険だ」

「一応、聖水と解毒薬は用意しているけど、そっちは?」


 シースはレドに言われた事を早速実践した。


 相手の力量を測るには、その依頼に対しどれだけ準備をし、情報を集めているかで分かるそうなのだ。なのでさりげなく持ち物を確認したのだった。


「ああ。ポーション含め、どちらも用意している。ゾンビは毒を付与してくる場合があり厄介だからな」


 エリオスの淀みない言葉に、レイスが出るかもしれないという情報を既に得ている点からして、問題なさそうだとシースは判断した。


「ならすぐ出発しても大丈夫だね。連携や戦い方については歩きながらでいいかな?」


 目的地に向かう道中すら無駄には出来ない。これから色んなパーティと共同依頼をこなす場面が出てくる。出来る限り色んな戦い方や連携は学べとシースはレドに言われたのだ。


「ああ、話が早くて助かる。ほら行くぞイレネ」

「行こう、リーデ」


 シースはギルドを出る前に、レドの方へと振り向いた。相変わらずレドは煙草をふかし、ビールを飲んでいる。

 そしてこちらの視線に気付いて、ただ、親指を上げるだけだった。


 だけどそれだけでシースには、“頑張ってこいよ”という声が聞こえた気がしたのだった。


「よし、頑張るぞ!」

「はい、頑張りましょう」


 リーデもそれに気付いて、微笑みをシースに返した。


 こうして【白竜の息吹】と【弓張の月】の共同依頼が始まった。しかしそれがただの依頼で終わらない事に気付いている者はこの時点では誰一人としていなかった。


というわけで新キャラ登場。

ベイルの民は流浪の民で、今は亡き王国の復興を目指しているとか。独特の文化や技術が多く、エリオスさんはあまり表に出しませんが、イレネはちょくちょく変な言動をします。

エリオスさんはリーデさんと同い歳で、イレネはシースとリーデの間ぐらいの歳ですかね。若いのでお互い衝突することもありますが、仲良くなるのも早いとか。

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― 新着の感想 ―
[一言] I my me mine 英語だと僕っ娘が成立しない、日本語の尊さ 物資の少ない荒れ地にナイスバディの美女がいる憧れ 実際は栄養偏重のガリガリしかいない事実 知るは絶望の始まりなり
[一言] 新キャラ登場だ!豊満な勝気な褐色娘……いいなぁ。 あと後書きに誤字あったので、ここにで報告ー。 独特の文化や技術が多く、エリオスさんはあまり(に)表に出しませんが、イレネはちょくちょく変…
[一言] 白竜の息吹……シース……ダークソウルか……
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