99話、あるいは間章:それは不死鳥の如く
今日は記念すべき書籍第一巻発売日です!!!
WEB版から更にパワーアップしておりますので、是非、お買い求めいただければ幸いです!
王都郊外、ディザルとガディスを結ぶ【大十字街道】近辺。
【星降り】と呼ばれるあの事件によって、少なからず被害のあった場所だが、今はすっかり元の活気を取り戻しており、露店や簡易の宿、酒場が街道沿いに軒を連ねている。
そんな中の一つである、【移動武具屋ロールカ】の店主ロールカは、いつものように店舗兼倉庫でも大きな荷馬車を、露店になるように展開させていた。まだ早朝だが、気の早い旅人や冒険者が既に街道を行き交っている。
「さて……最近王都がにわかに騒がしくなってきやがったな。今が稼ぎ時か、それとも引き時か……」
長年、移動商店をやっていたロールカの勘が、これから何かが大きく変わりそうだと囁いていた。移動商店の良いところは、やばくなったら店ごと、とんずら出来ることである。ロールカはそうして、きな臭い土地で武器を売りさばいては、危険になったら去るを繰り返していた。
この王都近辺の大十字街道沿いは、安定して武具が売れる為、珍しく二年近くもここで商売してきたロールカだが、先日の【星降り】で、危うさを感じていた。治安を維持する騎士団も、この事件については口が重く、結局何が原因なのかは一般市民には伝わっていなかった。
何より、【星降り】と同時に、空から死体が降ってきた時は、流石のロールカも驚いたし、異常事態が起きている事を実感できた。それは、カラカラに乾いたまるでミイラのような死体だった。纏っていた服は上等そうだったので、どこかの貴族かもしれないと思い、騎士団に報告するかどうか迷ったが、どう考えても厄介事になると思い、地面に埋め、墓を立てた。
服を剥いでも良かったが、ロールカの良心がそれを許さなかった。なぜ死んだか知らないが、せめてそのまま眠らせてやろうと思ったのだ。
「やはり、場所を変えるか……」
真剣に今後の商売について考えていたロールカを、息子であるルイスが慌てた様子で呼んだ。
「父さん! 来てください!」
「なんだルイス。朝飯が出来たか?」
「違うよ! 父さん! とにかく来て!!」
ルイスに引っ張られて、ロールカは少し離れた場所に立てた、二人が暮らすテントへと引っ張られていく。
「なんだなんだ。お前も商人の息子なら、慌てずどっしりと構え――ん?」
ロールカが息子にそう言いながらテントを見ると、見知らぬ青髪の少女がそこから出てきていた。
身体はなぜか土まみれで、爪に土がこびり付いていた。
歳は十五歳ぐらいだろうか? 肩まで伸びた、青空を映したような青髪に、金色の瞳。顔は整っており、場所が場所であれば、どこかの貴族の令嬢と勘違いしてしまいそうなほどだ。
その少女は、首に金属製の輪を付けており、やや古ぼけた、サイズが少し大きめの服を着て、細く白い肩が見えていた。
「サイズが合わないな……しかし……記憶も曖昧な上に髪色まで変わっちまった。血が減った証拠か……。俺もいよいよガタが来たか」
その少女は可愛らしい声で、しかし見た目とは裏腹の口調で、何度直しても肩からズレる袖に愚痴っていた。
「父さん、朝飯を買いに行って戻っきたら、いたんだよ!」
「お前……俺のテントで何をしている? その服は……俺の亡くなった娘の奴だぞ!」
そこで少女はようやく、ロールカ達の存在に気付いた。
「ん? ああ、このテントあんたのか。悪ぃな、流石に前の服はサイズが違い過ぎてな。この身体で真っ裸で歩き回るわけにはいかねえから、服借りたわ」
少女は当然の権利とばかりにそう言うと、ロールカへと歩み寄った。
「礼はするからさ、ちと貸してくれねえか? どうにも時間がなさそうでな」
「それは、娘の形見だ」
「だから、礼はするって。時間が惜しいんだよ。ほれ、これやるからさ」
そう言って少女は、首に付けていた輪を外すと、ぽいっとロールカへと投げた。
「これは?」
「商人だろ? 自分で調べろ。売っ払えば、十年は遊んで暮らせるやつだよ、じゃ、俺は行くわ。あ、ついでに剣を一本適当に貰っていくぞ。またこの身体も鍛え直さないとな……めんどくせえ」
そう言って、少女が露店の剣を物色しはじめた。しかしロールカはその手にある首輪を見つめていた。だが、良く見ればそれは首輪ではなく、大人用の腕輪だった。サイズが大きすぎる為、少女は首に付けていたのだろう。
その腕輪は青く発光しており、さらに裏を見ると燃えさかる大きな鳥のモチーフが刻まれていた。それは、とある大貴族の家紋である事をロールカは知っていた。
「ま、待て! お前は何者だ! これはミスリル製だぞ! その辺りの子供が持っていて良い代物じゃない! それに……ランドベリ家の家紋が刻まれている」
ランドベリ家。それはディランザルにおける大貴族であり、一般市民であるロールカですら知っているほどに有名な家柄だ。何より、そこの当主は騎士団のトップだ。王都に住む者なら誰でも知っている人物。
「うるせーなー。どっかの商店に持っていってもいいし、騎士団に渡せばいくらでも融通を利かせてくれる。好きに使えよ」
少女が目敏く、店の中でも一番高い剣――大人でも振る事が難しい大剣を手に取ると、その鞘をベルトで固定して腰にぶら下げた。
少女が大剣を腰にぶら下げている姿は、何とも不釣り合いで滑稽だったが、本人は満足げな表情を浮かべている。
「お、おい! 君にその剣を振るの無理だ!」
「ほっとけ。これじゃねえと落ち着かねえんだ」
「君は……」
その場から動けないロールカは、その超然とした少女にの背中にそう声を掛けるしか出来なかった。粗野な冒険者相手にも一歩も引かないロールカだが、勘で分かっていた。この少女は、只者ではない事を。
「俺は……そうだな、今回は〝リュカ〟、とでも名乗ろうか。貴族も騎士もめんどくせえから、ただのリュカだ。じゃ、達者でな」
そう言って少女――リュカが去っていく。
後にロールカは、あのミイラのような死体を埋めた墓が暴かれており、中には服しか残っていなかった事に気付いた。しかしロールカは結局それを誰にも話す事はなかった。
結局、ロールカはどんなに金に困っても、あの腕輪を手放すことはなかった。その結果、息子のルイスの代で、王都の一等地に商店を開くほどの成功を収めたのは……また別の物語だ。
3章完結!! そして書籍発売されました! めでたい!
4章開始時期についてはまた活動報告等でお知らせしたいと思っていますが、既に数話執筆済みなのでご安心を。ただし、書籍との進行を考慮して不定期更新になるかと思います。ご理解いただければ幸いです!
その間の暇潰しに新作は如何でしょうか?
私の性癖がつまったファンタジー風味の学園ラブコメです!
〝異世界帰りの【S級テイマー】、学校で噂の美少女達が全員【人外】だと気付く〟
↓のURLからどぞー




