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97話:四人の弟子達


 冒険者ギルド本部内、調査部用研究室。


 何に使うか良く分からない機器が並ぶ、その部屋の隅にあるちょっとした休憩場所に、シース達四人が座っていた。目の前のテーブルには、マドラの屋敷から持ち帰ったあのメイド人形の腕が置いてあった。


 研究室の扉が開き、入ってきたのはレドだった。


「師匠! 無事そうで良かったです!」


 立ち上がった四人にレドがひょいと手を上げた。


「おう。お前らも元気そうで何よりだ。マドラの件、惜しかったみたいだな」

「はい。逃げられてしまいました」

「変な人形に邪魔されるし、魔術で一瞬で消えたし、何なのよアイツ」


 シースとイレネの言葉聞きながら、レドがシース達とテーブルを挟んだ向かい側に座った。煙草を取り出すも、この部屋が禁煙だと思いだし、渋々煙草を懐にしまう。

 

「大体のいきさつは聞いたと思うが、改めて説明しよう。まず元々のきっかけだが……」


 レドは簡単に事のあらましを説明しつつ、シース達を観察する。思った通り、シースの中には自分と同じように、別の存在――おそらくは古竜の血だろう――が蠢いているのが見えた。なるほど、ドラグーンとはある意味自分と同じ【真血】による覚醒者と似たような存在なのだろうと推測する。


 リーデも体内に流れる魔力量が増えている。しっかりと魔術の訓練をしている証拠だろう。エリオスは魔力量自体は相変わらず少ないが、筋肉量が増えているし、少ない魔力が効率的に体内を巡っているのが分かる。本当にギリギリ見えるか見えるほどの魔力量しか流れておらず、レドは改めてそれに違和感を覚えた。魔術の訓練を一切していない一般市民でも、もう少し魔力は持っている。


 これまでは特に気にしていなかったが何か理由があるかもしれないな、とレドは考え、今後の育成方針として覚えておく事にした。


 反対に、イレネはなぜか体内に三種類の魔力が循環している事が分かった。つまり、一般的な人間の魔力量の倍以上の魔力を生成出来ているのだ。だが単純に倍程度魔力が多いだけなら、無くはないが……明らかに魔力の質の違う物が三種類混在しているのはやはり異常だ。これもまた、覚えておく事にした。


「……とまあ、そんな感じだ。そっちの話を聞かせてくれ」


 説明を終えたレドがシースへと促す。


「はい。僕達はギルドを通してマドラの屋敷へ招待されました。行った結果、勇者になって自分に付いてこないかと誘われましたが……断りました」

「そうか。おそらく、シースを自分の陣営に取り込みたかったのだろうな」

「魔王を倒すには、勇者が必要だと。〝勇者とはただの肩書きにあらず〟そんな事をマドラは言っていました。それがどういう意味か、僕には分かりません」

「勇者ね……」


 レドはシースの話を聞いて、思考する。マーテルに与えられた膨大な知識には相変わらずノイズが掛かっており、勇者が何かと考えても何も分からなかった。


 よって、自分の知ってる事から推測していくしかない。


「まず、倒すべき【魔王】が魔族の王であるイグレスのことではない事は確かだ。真の【魔王】の名は【魔導竜フレイラ】、おそらくは古竜だろう。もし目覚めれば最大の脅威となる、と言われている。旧世界の末期に大暴れして、封印されたと聞いたが……その場所も方法も不明だ。おそらくだが、勇者はそれに関わっているのだろうな。封印した者達の総称なのか、封印に使った魔術やデバイスの名称なのか。これについてはイグレスも調査しているが……どうだろうな」

「今の勇者とは意味合いが違うってことですね」

「そうだな。今は、ディランザル王家がバックにいる勇者決定機関である【血盟(サングレス)】が、将来有望な冒険者や若者に、魔王討伐の依頼を出す相手として相応しいと認めた証としての称号って意味合いしかない。だが、その議長がマドラだった事を考えると……話が変わってくるな」

「勇者に認められると、どういうメリットがあるんです? 何か特別な物が貰えるとか? 儀式とかそういうのあるんですか?」


 シースの質問にレドが答えていく。


「メリットとしては、待遇はもちろん良くなるし、なって損はない。だからこそ、俺はセインを勇者にしようと色々根回しをしたんだけどな。セインは悪い部分ももちろんあるが、良い部分だってたくさんあるんだ」

「はい。僕もそう思います」

「だが、セインが勇者になったと同時に俺はパーティから追放された。だから、セインがどういう手続きを経て勇者になったかは俺も知らんし、探りを入れても何も出て来なかった。マドラがいなくなって【血盟(サングレス)】は事実上崩壊した。残った連中はマドラの息が掛かってない為か、何も知らないそうだ。前議長のアイゼンも死んだ事を考えると、何かありそうだな」


 レドの話を聞いていたリーデが口を開いた。


「セインさんに直接聞いてみるのは? まだ生きていらっらしゃると聞いていますが」

「俺もそう思ったんだが、すでにセインはギルドナイトとして王都を発ったそうだ。こき使われてやがる。ざまあみろだ」


 レドはそう言って悪戯っぽくて笑った。


「では、パーティの方に聞いてみるのは如何でしょう? 何も知らないかもしれませんが、もしかしたらセインさんから何か話を聞いているかも」

「そうだな……」


 レドの声のトーンが下がるのを受けて、イレネが口をへの字に曲げた。


「そんな顔しないの。会いづらいのは分かるけど」

「そうだな……いつまでも避ける訳にはいかないか……」

「僕もついていきましょうか?」


 レドの悲痛そうな顔を見て、おずおずとそう提案するシース。


「子供じゃないんだ、大丈夫だよ。ありがとうシース」

「レドさん、そういえば例の件は?」


 エリオスがそう言って、隣でイレネが頷いた。


「ベイルに行くから案内しろって話。あたし達もギルドから依頼受けて、また帰るつもりだし」

「ああ、その件だが色々と調整中だ。リーデも確かシリス祭国にまた戻るんだったな」

「はい。ギルドによって、高ランクの冒険者は各地へ派遣されているそうで、私にも依頼がありました」

「なのに僕だけ、王都に待機命令です……。まあ僕の村ってただの山村ですし……ちっちゃな遺跡はありますけど……」


 なぜかしょげるシースを見て、レドがニヤリと笑った。


「シースに待機命令を出させたのは俺だ」

「え? 師匠が? なんで?」


 首を傾げるシースにレドが説明していく。


「気になる事があってな。おそらくだが、シース、お前は俺と共にお前の生まれ育った村へ行く事になる。その道中でついでにお互い鍛えよう。俺もお前も、ちと特別になってしまったから当面は一緒に行動した方がいいって結論になってな」

「し、師匠とですか!!」


 シースがその大きな目を更に大きく見開かせた。驚きと歓喜が混ざったような表情だ。


「なんだ、嫌か?」

「嫌じゃないです!! うわーどうしよう。父さんびっくりするだろうなあ……あ、お土産も買わないと!」


 わたわたするシースを見て、レドが苦笑いしつつ言葉を返した。


「落ち着け。まだ決まったわけじゃない。また追ってギルドから依頼があると思う」

「分かりました!! そういえば、師匠もドラグーン? になったんでしたっけ?」

「まあそんな感じだが、厳密には違う。シース、お前はエーテルとか魔力の流れは見えているか?」

「いえ。えーてる? ってなんです?」

「そうか……やっぱりそれは特別なんだな。なるほど。ま、その辺りはまたゆっくりと教えるさ」


 そう言って、レドが立ち上がった。


「さて、俺はそろそろ行く」

「あれ、師匠もこれの解析結果を聞きに来たんじゃないのですか?」


 シースがテーブルの上に置いてあるメイドの腕を指差した。


「それはお前らが聞いてくれたらいい。俺は、ちと昔の仲間に会ってくる。勇者について調べるのが俺にとっては最優先課題だからな」

「分かりました」

「じゃ、またな。お前らも強くなったとはいえ、無茶はするなよ」

「分かってるわよ。ベイルでまた会いましょう」


 イレネの言葉に同意とばかりエリオスが力強く頷いた。


「シリスでレドさんが動きやすいように調整しておきますね」


 リーデが微笑みを浮かべた。


「僕は大人しく待ってます!」


 シースが真面目な顔でそうレドに返す。


「ああ。それじゃあ」


 そう言って手を上げると、レドはその場を去った。


 次に向かう先は、王都内にあるヨルハ十字教の大聖堂。そこで待つのはレドのかつての仲間――聖女エレーナだ。

 

次話は久々に登場するあの人です。


次話更新は11月27日(金)になります!

書籍の発売も近付いて参りましたね!


というわけでいつもの書籍情報:

内容についてはWEB版をベースに、細かい修正やシーンの追加削除、更に一万字超えの読み切りが付いてくるなどかなりパワーアップしております!

担当イラストレーターの赤井てら様の素晴らしいイラストがこれでもかと楽しめる作品になっております(表紙からはじまり口絵、挿絵ともに素晴らしいクオリティです)


少しでもWEB版を気に入っていただけた方には自信を持ってオススメできる物に仕上がったと思っております。是非とも予約、またご購入していただければ幸いです!


というわけで書籍情報おさらい:


タイトル:冒険者ギルドの万能アドバイザー ~勇者パーティを追放されたけど、愛弟子達が代わりに魔王討伐してくれるそうです~~

出版社:双葉社

レーベル:Mノベルス

イラストレーター:赤井てら

発売日:11月30日予定


発売と同時に三章完結させる予定です! WEB版、書籍版共に楽しんでください。

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新作! 隠居したい元Sランク冒険者のおっさんとドラゴン娘が繰り広げる規格外なスローライフ!

「先日救っていただいたドラゴンです」と押しかけ女房してきた美少女と、それに困っている、隠居した元Sランクオッサン冒険者による辺境スローライフ



興味ある方は是非読んでみてください!
― 新着の感想 ―
[一言] エリオスの魔力がイレネに行ってる、と見ていいのかな?
[良い点] 遺跡……なるほど、怪しいですねw そして過去からの因縁が修羅場を生み出すかな?w
[良い点] 師匠と水入らずの帰郷、シース久々だけど良かったね。 あの伏線が回収される時が来たのか? [気になる点] イレネとエリオスの魔力の異常さは今後の展開に関わってきそう。 [一言] お誕生日おめ…
2020/11/25 18:10 退会済み
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