96話:四人の生徒達
竜学院、講義室。
「まさか学院内に簡易の【転移陣】があったとはな……」
「そうなんですよ! だから私達は悪くありません!」
会議から数日後。レドはあれこれ慌ただしく過ごしていた。とにかく王都どころか国中が大騒ぎなのだ。一部の貴族達はマドラ同様に姿を消し、各地でクーデターの兆しがあるとの報告が入っている。
また世界各国で、黄昏派が不穏な行動を始めているとの情報もあり、イグレスによると魔族の中でも強硬派で、人類を敵視している派閥【種火】が、正式にイグレス達保守派に宣戦布告をしたそうだ。
グリムとイグレスは本国に戻っており、国内をまとめているのだとか。レドも、魔族の国に招待されているのだが、行くタイミングは慎重に見極めないといけないため、保留にしている。協力関係を築けたとはいえ、全幅の信頼を置くことはまだ、できない。
レドは冒険者ギルドや騎士団の各部署と調整をしながらも、基本的には以前と変わらず学院で過ごしていた。
今日はぽっかりと時間が空いたので講義室に来てみたら、丁度イザベル達が揃っていた。レドは椅子に座り、煙草をふかしながらイザベル達の話を聞いていた。
「アリアから聞いたぞ。来るなって言われたのに行ったんだろ」
「でも、おかげでアリアさんは助けられたし、障壁? も閉じたおかげで王都に被害はありませんでしたよ」
「それがなけりゃお前ら……下手すりゃ退学だったぞ」
ため息をついたレドだったが、結果的にイザベル達によって王都が守られたのは確かだ。
レドとアリア、そしてなぜかセインによる証言によってイザベル達四人は結果的に【天輪壁】侵入の件は不問とされ、処罰はなかった。
「とは言ってもですね。学院全体が無期限の講義停止ってのは何とも。まあ、講師の中に黄昏派が混じっていた上に、学院長が死んだとなれば仕方ないですね」
そう。【天輪壁】占領事件の最中、竜学院の学院長であるアイゼンが学院長室で死亡しているのが発見されたのだ。
検死の結果、アイゼンは死亡してから優に三十年は超えているという結果が出てしまい、事態は更に混迷を極めた。殺害されたのか、自殺なのか、はたまた自然死なのか、全ては闇の中だ。
結局、教頭であるイエリが臨時の学院長となり取り仕切っているが、講師の中に黄昏派がいた上に地下の【塔】を竜族に襲撃された件もあり、全ての講義は中止。生徒はそれぞれの国や家族の下に帰宅しても良いという指示が出された。
しかしイザベル達は事件についての査問があるため、王都にしばらくの間待機するように命じられたのだ。これ幸いとばかりにイザベルは冒険者ギルド竜学院支所を動かそうと張り切っており、実際にまだ学院で残って生活している学生達から依頼を受けているようだ。
「ふふふ、学院から退学になっても冒険者として食っていきますよ! 私達なら余裕です!」
「アホか。せっかく高い金払ってきたんだ。今は無理でも学院ぐらいは卒業しとけ。冒険者はどうしようもなくなって、他に何もする事がなくなってから初めて検討しろ」
「ええー。私もレド先生やアリアさんみたいに強くなりたいです!」
「強くなるのは、結構だがな……」
なぜか事件前よりイザベルの押しが強くなっている気がするレドだった。
「そういえば、レド先生はこれからどうするんです? 何やら冒険者ギルドとか騎士団、さらにディランザル王家から正式に依頼があったとか」
「耳が早いなニルン。俺はしばらくしたら、王都を発つ。その後、各地を転々としてたまに報告の為に王都に戻ってくる感じだな……だから」
「だから、俺達はもう用済みって事か? 焚きつけておいてそれはないんじゃないか」
レダスが吐き捨てるようにそうレドへと言葉を投げた。その表情は怒っているというより、拗ねていると表現した方が正しいだろう。
「それは……レダスの言う通りだな。すまない」
「レド先生にも……事情がある。悪くない」
「ありがとうヒナ。その件については詫びたいと思う。それとこのギルド支所についてだが……」
レドは、言葉と共に講義室の扉から、顔だけを覗かせている少女へと視線を向けた。
「何を今更恥ずかしがっているんだ? 早く入ってこいアリア」
「あ、えっと、うん」
「アリアさん!!」
おずおずと入ってきたアリアにイザベルが飛び付いた。
「うわっ!! あんたら元気そうね」
「はい! あの時ぶりですね!」
「はあ……もう……すごく大変だったんだから」
アリアがため息をつきながら、抱き付いてくるイザベルを押し剥がそうとする。
「ため息の仕方がレドに似てるな」
「レダス、うるさい」
キッとレダスを睨むアリアを見て、レドは苦笑を浮かべた。どうやら、アリアは随分とイザベル達に懐かれたようだ。共に戦ったのが良かったのだろう。
「とりあえず俺がいない間は、アリアがここの責任者になる。同じSランクだから問題はない」
「え、じゃあギルド支所継続しても良いんですか!?」
イザベルの言葉にアリアが代わりに答えた。
「一応……ギルドから正式な依頼があったからね。竜学院の警護も兼ねて、になるけど。私はパーティを組んでいないから、今後の作戦についても要請次第で各地に行くって感じで基本的に王都にいる事になるから」
「王都ももはや安全ではない。しっかりとSランク冒険者には守ってもらわないとな。それにこの学院の生徒は国の宝だ。Sランク冒険者を派遣させて当然の場所だ」
とレドは言うが、実は冒険者ギルドとかなりの交渉を重ねた結果だった。アリアも古竜遺跡の調査に駆り出そうとしていたのをレドが止めたのだ。
「アリア、大体の事はもう伝えてあるが、くれぐれも無茶はするなよ……させるなよ……」
「分かってるってば」
嫌そうな顔をしてアリアが手を払った。すでにギルド支所については予めレドから聞いているのだ。
「あとは……イザベルに、ヒナ。お前らにはどこかで協力を要請することになるかもしれん。その時は頼む」
「はい!! いつでも!! あ、もしかして私の祖国のことですかね!?」
依然としてアリアにくっついたままのイザベルが笑みを浮かべた。
「理解が早いな。まだ未定だが、お前の祖国リオートにも古竜遺跡はある、らしい。まだ未確定だがその際は――」
「勿論お供しますよ!!」
「いや、お前の父……つまり国王に連絡してほしいだけだが……」
「私がいないと無理ですって父は異国人嫌いですし! 私がいなかったら、炉に落とされますよ?」
嘘臭いな、とレドは思いながらも口には出さなかった。
「そうか。まあその時に考えるよ」
「ヒナの国も……多分そういう遺跡ある」
ヒナの言葉にレドが頷いた。
「ああ。嵐桜国もリオートと同じく、ちと閉鎖的だからな。俺と行動を共に出来る、信頼できてかつ戦力にもなる人材となると、中々思い当たらなくてな」
「分かった……いつでも大丈夫」
ヒナの言葉を受けて満足したレドが、立ち上がった。
「さて、そろそろギルド本部に行かないとな。しばらく留守にするが……アリアの言う事はちゃんと聞けよ」
レドの言葉に四人がそれぞれ返していく。
「はーい!」
「分かってますよ」
「へいへい、行ってこい」
「いってらっしゃい」
レドは無言でアリアと視線を交わすと、そのまま講義室から出て行った。
講義室にいる四人の学生もまた、レドによって鍛えられ、後の歴史に名を残す事になる。
しかし、その出番が来るのは――もう少し未来の話だ。
彼女達の出番は四章でもあるのでお楽しみに!
次話更新は11月25日(水)になります!
活動報告にて新たなキャラデザを公開しているので見てね!
いつもの書籍情報:
内容についてはWEB版をベースに、細かい修正やシーンの追加削除、更に一万字超えの読み切りが付いてくるなどかなりパワーアップしております!
担当イラストレーターの赤井てら様の素晴らしいイラストがこれでもかと楽しめる作品になっております(表紙からはじまり口絵、挿絵ともに素晴らしいクオリティです)
少しでもWEB版を気に入っていただけた方には自信を持ってオススメできる物に仕上がったと思っております。是非とも予約、またご購入していただければ幸いです!
というわけで書籍情報おさらい:
タイトル:冒険者ギルドの万能アドバイザー ~勇者パーティを追放されたけど、愛弟子達が代わりに魔王討伐してくれるそうです~~
出版社:双葉社
レーベル:Mノベルス
イラストレーター:赤井てら
発売日:11月30日予定
発売と同時に三章完結させる予定です! WEB版、書籍版共に楽しんでください。




